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ドコモのNOCに潜入、5G時代で何が変わる?
“北朝鮮ミサイル”や“グーグル設定ミス”はネットワークに影響なし
2017年8月29日 18:47
東京・品川駅近くにそびえ立つNTTドコモ品川ビル。その中には、同社のネットワークオペレーションセンター(Network Operation Center、NOC)がある。
NOCは、携帯電話の通信ネットワークを24時間365日、監視している拠点だ。品川にあるNOCではドコモのネットワークのうち東日本を、大阪にあるNOCでは西日本を担当している。全国津々浦々に張り巡らされた基地局に異常があればアラートが鳴り、リモートで対応したり、現地に人を派遣したりする。携帯電話がいつでもどこでも使えるようにし続けるための重要拠点であり、今回そんな場所へ潜入する機会を得た。
ドコモのネットワーク状況をリモートで監視
と、やや大げさに書いたが、実はドコモではこれまでにもNOCを公開している。今回は約1年ぶり(筆者自身は2014年の記者説明会が最後)のことだ。
NOCには、60インチのディスプレイが縦に4枚、横に9枚、あわせて36枚並べられ、各地の設備の状況が一目でわかるようになっている。通信状況は、問題がなければ緑など、色で示される。赤色は異常を示す色ではあるが、施設のドアが開けられただけでもアラートが鳴るとのことで、かなり頻繁に表示される。今回訪れた際にも、それなりに赤の表示は見受けられたが、これは特別なことではなく日常的なもの、とNTTドコモネットワーク本部の池田正運営企画担当部長。ただ、災害が起きるとそれも一変する。池田氏によれば、たとえば6年前の東日本大震災では、NOCのディスプレイ全てが真っ赤になったのだという。
LTE-Advanced方式が本格化した今、ドコモのNOCで監視される装置の数は3年間で約2倍、46万を超えた。来たる5G時代には、IoTもあって、監視対象はさらに数倍へ膨らむ見通しで、NOCとしてもどう対応していくか、検討を始めたという。たとえばAIの活用もその一手で、異常検知の予測などへの活用が期待される。既にビッグデータを用いた自動対応は進めているとのことで、1日あたり約300万件もあるアラートのうち、10%は自動対応で処理している。
熊本地震でダウンした基地局数は4%
さまざまな災害に見舞われる日本において、携帯電話サービスの品質を維持していくため、ドコモではさまざまな対策を導入してきたが、どの程度まで知られているだろうか。
たとえば基地局には大型のバッテリーを備え、周囲が停電しても、ある程度の時間、通信できるようにしている。クルマに基地局としての機能を持たせる移動基地局車も全国各地に増配備した。地域と地域を繋ぐ伝送ルートも、1本だけでは弱い。複数のルートを用意して冗長性をもたせた。また、被災して基地局がダウンする場合に備え、ところどころの基地局には、いざというとき普段よりも広いエリアをカバーする「中ゾーン基地局」としての機能を持たせている。中ゾーン基地局は2020年3月までに2000カ所整備される予定で、それより大きなエリアをカバーする「大ゾーン基地局」は既に整備が完了している。
東日本大震災では津波もあって大規模な停電とネットワークの損壊により、東北地方の約45%の基地局がダウン。その教訓を踏まえた対策を採り入れた後に発生した熊本地震では、津波がなかったこともあって、ダウンした基地局は被災地の4%に留めることができた。
ドコモの災害対策は、新たな手法を採り入れる段階というよりも、これまで増やしてきた対策をより緻密に展開していく時期と言える。それでも池田氏は「災害対策に終わりはない」と述べ、引き続き、注力していく姿勢を見せる。
ドローンで偵察、将来は電波中継も
最近では、7月、九州北部で豪雨により福岡県朝倉市や大分県日田市などで土砂災害が発生した。ドコモのサービスエリアも、土砂崩れなどで伝送ルートが破壊されたり、電柱の倒壊で電力がダウンしたりしたため、大きな影響を受けた。
このとき、ドコモでは、災害対策として初めてドローンを活用。被災エリアを飛行して、現地の状況を撮影し、基地局に直接的な被害が発生したかどうか、確認した。
いわば現地への偵察役としてドローンを活用したわけだが、ドコモでは将来的にドローンへ無線中継局の機能を持たせて、被災地で臨時リピーターとして活用するアイデアを検討している。昨年11月の大規模訓練でもデモンストレーションは披露されていたもの。現在はまだ、電波法上、ドローンでのリピーターが運用できなかったり、技術面でもプロペラの耐久性や、有線での給電技術などの課題はあれど、持ち運びやすいことやスピーディな運用ができることなどメリットもあり、今後も研究開発が進められる。
Jアラート、「影響なし」
29日朝、北朝鮮から発射されたミサイルを受けて、政府からJアラートが配信された。対象エリアでは携帯電話にもメッセージが配信され、ドコモの場合は、エリアメールというサービスで配信された。
池田氏は、2014年から運用が開始されたJアラートの携帯電話向け配信は、仕組みとしてはエリアメールが自動的に配信される形であり、ドコモのネットワーク部隊としては特別な体制をとるわけではなく、必要に応じて体制を整える。今回は前夜から宿直で勤務していたスタッフがネットワークへの影響を監視していたが、大きな影響はなかった。
グーグルのネットワーク設定ミスも影響なし
8月25日昼過ぎ、さまざまなインターネットサービスが利用しづらい状況になった。翌26日、米グーグルが、データをやり取りする経路の制御情報(BGP、Border Gateway Protocol)の設定を誤っていたことを明らかにしていた。
この騒ぎに、ドコモのネットワークも影響を受けたのか。池田氏は「携帯電話網には何も影響がなかった。しかし繋がりにくいという話があり、どこが原因なのか、情報収集が大変だった」と説明。自社設備内に問題がなかったからこそ調査に手間取ったとのことだが、インターネットの仕組み上、アプリやサービスのサーバーはドコモのネットワークの先にあり、そこへアクセスしようとしても、グーグル起因の通信障害の影響で利用できなかったケースはあり得たようだ。
横浜のPokémon GOイベントは……
8月中頃、横浜・みなとみらい地区で、スマートフォンゲーム「Pokémon GO」のイベントが開催された。1週間に200万人が訪れたとのことで、携帯電話が繋がりにくい状況になった。
これに池田氏は「あそこまで人が集中するとは思っていなかった。移動基地局車を配備するのが遅れてしまった」と反省のコメント。ただ、クライマックスのイベントとして横浜スタジアムで開催された「Pokémon GO STADIUM」については、主催側から事前の情報提供もあったため、臨時設備を設置でき、「大きな混乱もなく、対策できた」(池田氏)と振り返る。
ただ、ポケモンを求めて人が集まりスマートフォンを操作し続ける、という状況に、池田氏は「コンサートであれば通常、音楽を聴いている間は通信しない。サッカーなどのスポーツでも観戦中は通信が減り、ハーフタイムになるとスマートフォンを使うという形が基本だった。(Pokémon GOのイベントのようなものには)これまで検討してきたものにプラスアルファが必要か検討していく」と説明。臨時基地局を展開するにしても、どこまで予測に含めるべきか、横浜のイベントについてはまだ精査が終わっておらず、今後のフィードバックを得て対策を練っていく。