インタビュー
ハイエンド~普及機まで4モデルでデザイン一新、シャープAQUOSスマホの戦略を聞く
2024年12月20日 00:01
今夏に発売された「AQUOS 「AQUOS R9」」と「AQUOS wish4」に加え、この秋に「AQUOS 「AQUOS R9」 pro」と「AQUOS sense9」が登場したことで、2024年度のシャープ製のAQUOSスマートフォンシリーズは、4モデルのフルラインアップとなった。今年度のAQUOSはデザインも刷新され、細部のデザインやスペックにもこだわりが追求されるなど、ブランド全体で新しい試みに取り組んでいる。
そうしたブランド全体の刷新の狙いはどこにあるのか、今回はシャープ通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏に話を聞いた。
3倍売れている「AQUOS R9」
――今夏発売の「AQUOS R9」が好調だそうですね。
中江氏
「AQUOS R8」の3倍、売れています。手に取りやすい価格にしたのがポイントですね。それ以上に、デザインを一新したことが大きいと感じています。「買いたい!」と思っていただけるスマートフォンになれたのではないかと捉えています。
ディスプレイ周辺の縁をさらに細く仕上げるなど、ディティールにもこだわり、グローバルに並んだと思っています。
――購入者からはどういった反響がありましたか?
中江氏
スマートフォンは、性能が話題に上りやすいですが、「AQUOS R9」はデザイン面で可愛いといった声をいただくなど、総じて好評です。
とくに外観デザインはSNSを含めて今回ほど反響をいただいたのは珍しいかな、と。
――直近では「AQUOS R9 pro」「AQUOS sense9」もありますが、全体の手応えは?
中江氏
2024年度からブランドを一新しました。そして、グローバルにも製品を提供していきます。そのなかで、今回、ラインアップがそろったところで、ようやくシャープがやりたいところをお見せできるようになりました。2024年度の構想が出揃った形です。
手応えとしては、AQUOS sense9も、AQUOS wish4も好調です。思い描いていた戦略がお客さまに受け入れていただいている実感が得られています。
発売前は、「AQUOS wish4」は画面を大きくしたことがどう影響するのか、そして「AQUOS R9」は価格もさることながら、デザイン変更の影響が気になっていました。
そして、「AQUOS sense9」は性能が向上し、「AQUOS R9」に近づいています。このあたりのラインアップ作りをどうするか。
それでも「AQUOS sense9」と「AQUOS R9」が受け入れられ、それぞれ伸びるというのは嬉しい反応です。
そして、それらを引っ張る上で象徴的なモデルとして「AQUOS R9 pro」が登場することで、2024年度に描いたラインアップが完成します。
お客さまからは、手厳しい指摘を多く頂戴しますが、今回はいずれのラインアップも好意的な受け止めが多いと感じています。
世界を見据えて「AQUOSスマホ」はどう進化したのか
――グローバルへの展開は、2024年度、どう変わったのでしょうか。
中江氏
グローバルではブランド力が必要です。ブランドの認知度が販売台数に表われます。
いままでの延長線上で「AQUOSはこういうブランドです」と言うのではなく、モノを変えなければブランドを訴求できません。デザインから変わっていくのを見せないといけない、という点が2023年度までの気づきです。そこで今年度はデザインを含めてブランドメッセージを変えました。
――製品の箱も変わっていますが、これは象徴的な取り組みでしょうか。
中江氏
販売方法はグローバルならではの事柄があります。たとえば、海外ではスマートフォンは箱で積んで売られているんですよね。つまり“箱にブランドが出る”というわけです。こういった部分を変えて行かないと、買いたいブランドにはなりません。箱を含めてコストをかけています。
――そうした気づきってどうやって得られたのでしょうか。
中江氏
開発メンバーが日本にいるだけだと、想像して開発するしかありません。
今回は、開発メンバーでシンガポールやインドネシアに行きました。それぞれの国でどうスマホが売られているかを見て、社内でレポートして、「なぜ箱を変えなければいけないか」などを言葉にすることで、意識が変わっていきました。
開発中はコストの話はしにくい。総コストをいくらにするという中で箱にコストをかけるというのは、社内に対して矛盾するメッセージと受け止められる可能性があります。
でも、海外の状況を実際に見たあとでは、箱には妥協できない。もちろん端末にも妥協できない――そうなると、安易に「コストダウンできるところをコストダウンする」という選択肢に逃げなくなりました。
開発陣に苦しい戦いを強いているという面もありますが、そうした中で生まれた商品になります。
――日本にもグローバルメーカーが参入し、ある意味で日本市場自体がグローバル化し、日本独自のスペックもだんだんと少なくなっています。スマホで注目される機能としてはカメラが中心になっていますが、競争が激しいと思われるのはどの部分だと思っていますか?
中江氏
やはりカメラは妥協できません。
ウルトラワイド(超広角)もインカメラも、今回の「AQUOS R9」では50M(5000万画素)のセンサーにしました。
日本の使い方だと、インカメラは重要視されていないところもありましたが、グローバルではインカメラも含めたシステムとしての妥協は許されないと思い、「AQUOS sense9」でも「AQUOS R9」でも、インカメラを含めたカメラに投資しています。
あとは細かいディティールです。
「日本のものづくりは良い」と言われてきましたが、いまではグローバルでも高いレベルにあると判断していますす。
たとえば側面ボタンのレイアウトをセンターに揃えるとか、樹脂のラインの位置とか、狭額縁とか、細かいところです。このあたりはグローバルベンダーと肩を並べるためには欠かせません。コストはかかりますが、今回はしっかり見直しています。
さらに今回はジャケットカバーも提供します。こうしたアクセサリー面もしっかりラインアップを揃えます。
「AQUOS sense9」はカバーも本体の色味に合わせ、バイカラーを楽しめるようにしました。構造的にもしっかりしたもので、内側の素材などディティールにもこだわっています。
細かいところを通じてブランド力が構築されていきます。そうしたところに意識を向けないといけません。
――ユーザーからすると、それら目で見る、手で感じる要素があります。しかし端末の細部まで突き詰めること、あるいはアクセサリーを追求することは、いずれも相応の資金や手間がかかりますよね。
中江氏
かかりますが、販売価格は上げずにやります。
――グローバル展開で部材をたくさん使えば安く効果はどの程度見込めますか。
中江氏
最終的にグローバルで数を伸ばせば、数のメリットが出てきて、コスト力は高まると考えています。しかし卵が先かの議論です。いまはどちらかというと、数が増えるようにするための戦略に向いているところで、数のメリットが得られる段階ではありません。
ただ、モデル間の部品の共通化とか、前モデルの資産を流用するとか、そういったところを上手くやりくりしながら、一方でデザインは変えていく。取捨選択をしながら、やりたいことを緻密にジャッジしていきます。
――スピーカーボックスも導入されましたが、スマートフォンに実装するには大きな体積ですよね。
中江氏
スピーカーボックスを入れるのは、めちゃくちゃ大変なんですよ……入れようとすると、そのためにスペースを確保しないといけない。
レイアウトが変わるので、設計流用なんて夢のまた夢です。しかしボックスにしないと、とくにグローバル市場上では、音響面の品質向上にしっかり取り組まねばいけません。うまくやりくりしながら、その中で流用できるものは流用していく、と。
――将来の開発では、「今回はコストのために前モデルから流用」といった判断もあるのでしょうか。
中江氏
今回のモデルについては、流用できる要素が少ないです。フレキシブルケーブルなどを含めると、形状が変わっていますから。
しかし、各モジュールは、流用できるものは流用しています。また、senseとRでは共通化できる部分は共通化しています。
カメラについては、ソフト面での資産がある程度流用できています。チップセット(SoC)が変わると完全な流用は難しいですが、パラメーターについてはモジュールごとの特性の蓄積があるのです。
――流用は重要なポイントとも思いますが、進化のタイミングで何を変えて何を維持するか、この考え方のようなものは確立されているのでしょうか。
中江氏
その方法論は確立することは難しいでしょう。その時々で模索するものかと。
一番大事なのは、お客さまにどういった価値を提供できるかです。その手段として新規にするか流用するかどうか。
方法を固定してしまうと「流用しなければいけないから」という話が足枷となり、コンセプトを維持できません。
新しい価値を提供したい場面で、どれだけ流用できる部品が残るか、ということです。コスト意識も大事ですが、流用する方法論を確立してしまうと、進化のスピードが落ちてしまう懸念があります。
――今年のラインアップだと、「AQUOS sense9」と「AQUOS R9」の差が縮まって、違いがわかりづらくなっています。そうなると、そもそも違うモデルにする必要があるか、といった点はどうなりますか。
中江氏
「AQUOS R9」はハイエンドモデルなので、お客さまにお渡ししたい価値としては「高級感」などがあります。たとえば、背面にガラスを用いており、質感を向上させる一方で、その分、重量が重たくなっています。SoCも良いものを採用しています。
一方、「AQUOS sense9」については、ちょうど良いところを価値としており、端末も軽い仕上がりです。
この2モデルはスペックが似ていても、提供する体験価値には大きな差があると考えています。しかし、ここは市場の反応を見て、日々進化しないといけないポイントです。お客さまの反応を見て今後の開発に活かしてきます。
2025年はどうなる
――AQUOS wishシリーズがシャープのシェアを支えているというところもある中で、今回、「AQUOS R9」の売れ行きが好調とのことですが、そうなると来年以降の製品作りに影響はあるでしょうか。ラインアップ全体で2025年度はどのようなトレンドを予測していますか。
中江氏
「AQUOS wish4」が売れているのは事実です。その中でもSIMフリーモデルの売れ方が指標になるかな、と。
SIMフリーだとAQUOS wishシリーズより、AQUOS senseシリーズが売れています。やはりお客さまによって、求めている性能・コストの違いがあるんでしょう。
AQUOS senseシリーズとAQUOS Rシリーズは、スマホへの購入意識が高いお客さまが多い。
さまざまな要因を考えると、日本のスマホの平均価格は、ちょっとずつ上がるんじゃないでしょうか。「AQUOS sense」シリーズと「AQUOS R9」などのラインは日本市場の中心的なラインアップになるのではないかと。そういった商品作りをしたいという願望でもありますが。
――販売価格が上げる要因はインフレ、為替などでしょうか。
中江氏
物価や為替の影響もゼロではないと思いますが、シャープとしては、製品と使われ方が変化していると受け止めています。
最近はショート動画で情報を取る人が増えています。AI活用も増えています。そこで端末の性能が再定義される時代になるのかな、と。
2025年度以降、AI搭載は普通になり、露骨にアピールされなくなるかもしれません。そしてそのとき必要なスペックが変わり、より高い性能が欲しくなると思います。スペックを再定義したとき、価格もひとつ上になるのではないかと。
――国内の政策では、ミリ波は割引ガイドラインを緩和する方向です。とはいえ、ユーザーにしてみると、それよりAI対応スマホを手に取りやすくなる方がありがたいと思えます。
中江氏
ミリ波にはいろいろな意図、提供できる価値がありますが、お客さまにもお客さまなりのニーズがあります。
ガイドラインが変わり、ミリ波の有無で端末が選ばれるようになれば、ミリ波にも力を入れなければいけませんが、そこはあくまで手段です。制度がどうだからとか商品戦略だからとかではなく、お客さまが何を求めているか、です。
――今年のモデルではミリ波は対応していませんが、来年以降は?
中江氏
お客さまにお渡しする価値として必要になれば、再搭載する余地があります。そこがどういった戦略になるかは、まだ言える段階ではありません。ミリ波をやらないとも宣言していませんし、お客さまが必要とするならばやります。
――コストがかかりますからね。それに見合うサービスなりがあればニーズもあると思うのですが。
中江氏
端末だけが先行するわけにもいかないですから。お客さまに対価を支払ってもらうからには、それに見合った価値が必要です。先に対価だけ支払ってもらって、あとで価値を作っていくのはおかしいです。そこは戦略的にやる必要があるかと。
――ミリ波以外の最新のトレンドとしては、折りたためるフォルダブルスマホはどうでしょうか。
中江氏
検討はしています。フォルダブルやフリップが価値になりつつあるでしょう。その上で、シャープがやるときなればプラスの価値をどうするか、と。
――そもそも「AQUOS」というと、かつてはテレビのブランドというイメージもありましたが、いまではスマートフォンのブランドとしての認知も広がってきました。スマートフォンでAQUOSブランドが独自の価値を作り出している、という印象もあります。もはやテレビのブランド価値に縛られていないとお考えですか?
中江氏
「最高の映像体験」と表現していますが、そこにはディスプレイだけでなくカメラも含まれます。
映像体験の中で、テレビブランドが培ったイメージは大きいです。しかしいまは検索をかけるとスマートフォンが先に出てきます。テレビとスマホ、両方の映像ブランドの意味を持つようにレベルアップしたと考えています。
最新SoCを搭載するか否か
――話は変わりますが、最新のチップセットと最新のAndroidバージョンへのキャッチアップ、ここのトップランナーで居続ける難しさと価値についてどうお考えですか?
中江氏
まず、最新の「Snapdragon 8 Elite」に関しては、非常に良いチップだと思っています。もともとPC用チップとして発表されたOryon(オライオン)ですが、CPU性能が非常に高い。高性能で高効率で、AIもカメラISPも強いなど、スマートフォンに必要な性能が詰まっていて魅力的です。
我々も今回「AQUOS R9 pro」にどういったSoCを搭載するか、迷いました。Snapdragon 8 Eliteがある中で、フラッグシップのSoCをどうするかは、大きなジャッジでした。迷ったのですが、値段が高くなった分だけ届ける価値も高められるか、と。Snapdragon 8 Eliteが必要なアプリがどれだけあるか、というところを考えると、そこの投資より、カメラISP強化を取り込んだSnapdragon 8s Gen 3の性能で戦える、とジャッジしました。
アプリ側も進化していくので、ハイエンドアプリに特化したものを作っていくのは難しいです。生成AIに限らないAI全体の進化も、その性能がないと不便、と感じられるようにならないといけない。Snapdragon 8 Eliteは検討しないといけない素晴らしいチップセットですが、Snapdragon 8 Eliteを使わないと商品コンセプトが実現できないかどうか、考えた上で、現時点ではSnapdragon 8s Gen 3がベストな選択肢だと。
素晴らしいチップセットですが、すぐに取り込まないといけないものではありません。これから実機を使ったベンチマークで検証されるとは思いますが、実際のユースケースでどれだけの差になるかは見極めていただきたいと。
――クアルコムの発表の際、採用されるベンダーのロゴがスクリーンに映し出されますが、あそこに名前を連ねることの意義はどうお考えでしょうか。
中江氏
シャープにはシャープの戦い方があると考えています。スペック競争とまでは言いませんが、トップランナーとして意義があるでしょう。ただ、、スマホとしての競争は、そうした面だけで左右されない世界になっています。お客さまが欲しいと思う価値にどう応じていくか、です。
シャープとしては、時代に応じてお客さまが求める価値を狙い、問いかけできるような商品にチャレンジしたい、と考えています。
「世の中に出ている最高スペックを載せる」ではない方向で、シャープは価値を提供していきます。最初のベンダーとして名前を連ねることにも意味はありますが、それ以外のところで価値を見せたい、と。
お客さまから選ばれるようにするために、他社のハイエンドスマートフォンと戦います。お客さまの声を真摯に受け止めながら、今後のモデルではどこの価値を上げるか考えていくことになります。単純に「スペック競争で負けるからスペックを向上させる」ではないのでしょう。
Android最新版への意気込み
――ハードウェアではなくソフトウェア、Androidの最新版をキャッチアップしていくことについてはいかがですか?
中江氏
とても重要です。グーグルのプラットフォームとサービスを使っている人は多く、最新の体験を受けられる端末と、そうではない端末の違いは大きいでしょう。
ソフトウェアプラットフォームは、できるだけ早く最新版をご提供するようにしていますし、バージョンアップも3回対応しようとしています。最新版にキャッチアップすることは、メーカーの責務と考えています。
――Androidのメジャーアップデート、いままでは毎年9月ごろでしたが、次のAndroidでは、四半期ほど早くなる予定です。
中江氏
端末メーカーとして、これまでと違って、前倒しされるスケジュールには合わせていく。これはメーカーの責任です。
開発サイクルがどう、という話ではありません。応えていかないといけません。
――ハードウェアとソフトウェアで最新スペックを追うことへの温度感の違いがありますね。
中江氏
ハードウェア側は、「将来的に◯◯という機能やアプリが登場したときに対応できる」という性質です。
一方、ソフトウェア側は、すぐに使える機能として出てきます。そこは距離の違いがあります。
よりユーザーに近いレイヤーのOSやサービスとなると、スピード感が違います。そこが温度感の違いになるかな、と。
――Androidの最新バージョンへのキャッチアップもまた、メーカー間の競争軸のひとつでしょうか。
中江氏
スマートフォン市場は、大きく見るとAndroidとiOSの陣営に分かれています。
我々はAndroid陣営として、Androidの新しいところを見せていきたい。そうした中で、先行する存在として名前を連ねていたいと考えています。
Android陣営の中で勝負するというより、陣営の一員になることに意義があると考えています。
「これからもユーザーの声に向き合う」
――話が変わりますが、個人的に気になっているのは、超音波式指紋センサーです。他社もそうですが、市販のガラスフィルムを貼るとダメだったりします。超音波式センサーには良い点もありますが、これを採用する理由とは? AQUOS sense9の指紋センサーは側面にあり、こちらの方がラクでは、とも思ってしまいますが……
中江氏
画面内の指紋センサーは、端末の表面に出る部品点数を減らしてデザインがスッキリするというメリットがあります。「AQUOS R9 pro」に関しては、今回はシャッターキーを目立たせたかった。つまり、超音波センサーと相性が良かったかと。
ガラスフィルムに関しては、ガラスメーカーと連携して性能を担保していますが、お客さまの選択肢が狭まるのは課題と考えています。現状の技術だと、どんなガラスフィルムでも大丈夫、というのは難しい。しかし、解決策は引き続き検討していきます。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
中江氏
2024年度、ブランドを刷新することをキーメッセージとして再定義し、今回、全4モデルが揃いました。
この4モデルを触っていただき、どうAQUOSが変わったかを感じていただきたいです。我々はお客さまに価値を提供する最高のツールでありたいと考えています。そのために、お客さまの声などをあらゆる媒体に目を通して勉強しています。
その上で今後のAQUOSがどう進化するか。常に進化し続けるブランドでありたい。今回が完成系ではなく、進化途中と言えるよう、お客さまの声を受け止め、次にどういった驚きを提供できるかを考えていきます。
――本日はありがとうございました。