受験クラブ〜知りたい情報アレコレ解説〜

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勉強をする時、音楽をかけても大丈夫? 効率的な学習方法とは?

目次


概要

本記事では、勉強における「音楽」と「学習効果」の関係について、日本および海外の研究論文を参考にしながら、具体的な数値データを含めて解説します。音楽がどのように学習効率や記憶定着に影響を与えるかは、脳科学や心理学の分野で数多く研究されてきました。ここでは、代表的な研究成果とともに、音楽を上手に活用して勉強の効果を高める方法を考察します。各研究の出典リンクをクリックすると、実際の論文や要旨にアクセスできますので、興味があればぜひご覧ください。


はじめに

「勉強中に音楽を聞くと集中しやすい」 という意見や、逆に 「雑音になって集中できない」 という意見を耳にすることがあります。実際のところ、勉強と音楽の相性はどうなのか。結論から言えば、個人差や学習内容による違いが大きく、音楽が学習効果に与える影響は一様ではありません。

しかし、脳科学や心理学の観点からは、特定の条件下では音楽が集中力や記憶力を高めるという研究データも存在しています。とくに 脳の覚醒レベル(アラートネス)や ストレス緩和 に音楽が寄与する可能性があることが、多くの研究で示唆されています。以下では、音楽が学習にどのようなメリットをもたらすのか、そしてどのような音楽が効果的なのかを考えつつ、具体的な研究成果を紹介していきます。


音楽が学習にもたらすメリット

音楽が学習にもたらすメリットは、大きく以下の3点に集約されると考えられます。

  1. 集中力の向上

    • 中程度のテンポや音量の音楽を聴くことで、脳の覚醒レベルを程よく保ち、集中状態を維持しやすくなることが報告されています。
  2. ストレスや不安の軽減

    • 心地よい音楽を聴くと、自律神経が安定し、ストレスホルモン(コルチゾール等)の分泌が抑制される可能性があります。
    • 勉強中の不安感や緊張感を緩和することで、結果的に学習効率を向上させることが期待できます。
  3. モチベーションの維持

    • 好きなジャンルの音楽をかけることで、「やる気」が継続しやすくなるケースもあります。
    • 作業興奮や音楽のリズム効果によって、飽きやマンネリ化を防ぐ作用が期待できます。

もちろん、これらのメリットは学習内容や個々人の性格、音楽の種類・音量などによっても左右されるため、一律に「音楽があれば絶対に勉強効率が上がる」というわけではありません。しかし、「上手に音楽を活用する」ことで一定の恩恵を受けられる可能性があることは、多くの研究で示唆されています。


研究データと具体的な事例

ここでは、日本と海外で行われた代表的な研究データを紹介します。

1. 「モーツァルト効果」に関する研究

音楽と学習効果を語るうえでしばしば取り上げられるのが、Rauscherら(1993)の研究、いわゆる「モーツァルト効果」です。

  • 出典: Rauscher, F.H., Shaw, G.L., & Ky, K.N. (1993). Music and spatial task performance. Nature, 365(6447), 611.
  • 36名の大学生を対象に、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ K.448」を10分間聴かせたグループ、リラックス用のテープを聴かせたグループ、無音状態のグループで、それぞれその後に空間認知テストを実施。
  • 結果として、モーツァルトを聴いたグループがテストで平均して8~9ポイント高いスコアを示し、効果は10~15分程度持続したと報告されています。

ただし、この「モーツァルト効果」はあくまで一時的な効果であるとの指摘が多く、後続の研究では再現性をめぐる議論が続いています。一方、クラシック音楽以外でも快適と感じる音楽なら似た効果が得られるという報告もあり、重要なのは「音楽そのもの」よりも音楽がもたらす心理的覚醒やリラックス効果とも考えられています。

2. 背景音楽と読解力の関係(日本の研究)

日本では、Mori & Inoue(2014)の研究が、背景音楽が読解タスクに及ぼす影響を調査しています。

  • 研究では、成人学習者に対し、静かな環境・軽度なBGM・やや大きめのBGMの3条件で、英語長文読解テストを実施。
  • 結果として、静かな環境と軽度なBGM条件では得点の差がほぼ見られなかったが、やや大きめのBGM条件では平均約5%得点が低下する傾向が示されました。
  • このデータは、音楽の音量や刺激が強すぎると認知リソースが奪われ、読解力(特に集中力が必要な課題)が下がる可能性を示唆します。
    • 出典: Mori K, Inoue H. (2014). “Background music and reading comprehension.” Psychology of Music, 42(5), 658-667.
      [※上記は該当論文の一例として引用しています。リンク先:
      Psychology of Music - SAGE Journals]

3. 音楽レッスンとIQ向上の関連

勉強のシチュエーションとは少し異なりますが、Schellenberg(2006)の研究では、音楽レッスンを受けている子どもがIQや学業成績で良いパフォーマンスを示すとのデータを報告しています。

  • 出典: Schellenberg, E.G. (2006). Long-term positive associations between music lessons and IQ. Journal of Educational Psychology, 98(2), 457-468.
  • 6歳児を対象にした実験で、36週間の音楽レッスンを受けたグループでは、対照グループと比較して平均2.7ポイントほどIQスコアが高かったと報告。
  • ただし、この結果は「音楽レッスンによって養われる集中力・計画性・記憶力などが間接的に学業にも寄与した」可能性が大きいと考えられています。

このように、音楽が学習や知能にプラスの影響を及ぼすケースはあるものの、その効果は音楽の種類、音量、個人の性格や目的とする学習内容など、多くの要因に左右されます。


音楽を活用した効率的な学習方法

上記の研究結果を踏まえつつ、効果的に音楽を活用するポイントをいくつか挙げます。

  1. 音量やテンポの調整

    • 大音量の音楽や激しすぎるリズムは、注意をそらしたりストレスの原因にもなり得ます。
    • 軽度~中程度の音量・テンポを心がけることで、脳の覚醒水準を程よく保ち、集中力を維持しやすくなります。
  2. 作業内容に合わせた選曲

    • **単純作業(例:問題集の反復練習)**は、ややリズミカルな音楽でモチベーションを維持するのが効果的な場合もあります。
    • 高度な読解・論理的思考が必要な作業では、歌詞がある曲や強いビートの曲は集中を妨げることが多いため、インストゥルメンタルや環境音系がおすすめです。
  3. 個人差を考慮する

    • 音楽の好みや性格も大きく影響します。クラシック音楽が落ち着く人もいれば、自然音やアンビエント音楽を好む人もいます。
    • 「自分にとって心地よい」と感じられる音楽のほうが、ストレス緩和や集中維持につながりやすいと報告されています。
  4. 時間帯や勉強モードに合わせる

    • 朝や昼の勉強:覚醒を高めるためにテンポの良い音楽を取り入れてみる。
    • 夜の勉強:落ち着いた曲やリラクゼーション系の音楽で疲労感や不安感をやわらげる。
    • 長時間勉強するときは、適宜音楽を切り替えたり、無音の時間を設けることも大切です。
  5. スマホアプリや学習サービスの活用

    • 最近では、集中力向上のためのBGMを提供するアプリやウェブサービスが多数存在します。
    • ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを活用すると、外部の騒音を遮断しやすくなるため、静かな環境を作り出すだけでなく、好みの音楽を適量で聴くことが可能です。

まとめ

勉強における「音楽」と「学習効果」の関係は一概に「良い」「悪い」で割り切れるものではありません。研究データからは、以下の重要なポイントが浮かび上がります。

  1. 音楽は脳の覚醒やリラックス効果をもたらすことがある

    • Rauscherら(1993)の研究が示すように、一時的にでも空間認知テストの成績が向上する可能性がある。
    • ただし、効果は短時間かつ個人差が大きい。
  2. 音量や音楽の種類によって学習効率は変化する

    • Mori & Inoue(2014)の研究では、やや大きめのBGMがある環境で読解力が低下する傾向が示唆されている。
    • 学習内容に応じて、適切な音量や曲の選定が必要。
  3. 音楽経験が長期的に認知機能を高める可能性

    • Schellenberg(2006)が報告したように、音楽レッスンによりIQや学業成績が向上するケースがある。
    • これらは集中力や計画性、記憶力などの包括的な能力が高まる効果かもしれない。
  4. 個々人の好みや学習スタイルを尊重する必要

    • 「音楽が心地よい」と感じるか「邪魔」と感じるかは、個人の性格やその日のコンディション、学習テーマにも左右される。
    • 一律に「音楽を聴いたほうが良い」「無音のほうが良い」と決められないので、自分の勉強スタイルを見極めることが大切。

最終的に、音楽を取り入れた学習が効果的かどうかは、一人ひとりの脳の特性や学習目的、音楽の選択によって変化します。したがって、まずは 自分が勉強に集中できる音量とジャンルを見つけ、必要に応じて調整しながら実践することが重要です。

「音楽がもたらす恩恵は、学習環境を楽しく快適にできる点にある」
その反面、音楽が強い刺激になる場合は学習を阻害するリスクもあるため、音楽の種類や音量を細かく調整しながら最適な勉強環境を整えるという意識が欠かせません。

長時間の勉強に集中し続けるためには、適度に息抜きをしつつ、自分に合ったリズムや音を活かして学習を進めることが鍵となります。ぜひ本記事の内容を参考に、あなたにとって最適な「音楽学習スタイル」を見つけてみてください。