焦点:日銀批判急先鋒の黒田氏、財務省出身では際立つリフレ度

焦点:日銀批判急先鋒の黒田氏、財務省出身では際立つリフレ度
2月25日、政府が次期日銀総裁に内定した元財務官の黒田アジア開発銀行総裁(写真)は日銀批判論者で知られる。写真は11日、都内で撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 25日 ロイター] 政府が次期日銀総裁に内定した元財務官の黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁は日銀批判論者で知られる。
デフレの責任は日銀にあると明言、2%の物価目標の達成を2年以内に無期限の金融緩和で達成するよう提唱している。財務省出身者としては、際立ってリフレ政策度合いが高い。4月の就任以降は金融政策の最高責任者として、海外からの円安誘導批判をかわしつつ、大胆な金融緩和を進めていくことになる。
<カリスマ性のある日銀バッシャー>
財務省関係者は往々にして日銀に対して「危機感が足りない」「金融緩和が不十分」などの不満を漏らすことが多いが、中でも黒田氏は「カリスマ性のある日銀バッシャー(批判者)」(幹部)として有名。白川方明総裁に対しては「すれ違っても挨拶もしない」(関係筋)とのうわさまで流れるほどだ。
デフレ脱却には金融政策のみならず少子高齢化など人口問題の解決や産業競争力など成長力の強化など複合的な努力が必要という「総合政策派」と、金融政策で解決可能という「リフレ派」の2つの見方がある。国債の利払いが膨らんでしまう長期金利の上昇を警戒する財務省内では、過度な金融緩和は副作用として金利上昇を招きやすいため「総合政策派」が主流だが、黒田氏は相対的にリフレ政策度が高いとみられ、そこが安倍晋三首相の琴線に触れた可能性がある。
<緩和手段、山のようにある>
実際に黒田氏は、日銀総裁候補として取りざたされ始めた昨秋以降インタビューや討論会で、「デフレには様々な要因があるが物価の安定の責任は中央銀行にあり、日銀の責任が大きい」と明言。「日銀は物価上昇率2%の明確な物価目標を掲げ、あらゆる手段で限界を設けず(金融緩和を)やるべき」、「緩和する手段は山のようにある。長期国債以外にも資産担保証券(ABS)、インデックス債、株式もある」などと提唱してきた。これまでは日銀が明言を避けてきた2%物価目標達成までの期間についても「2年ぐらいが適切」としている。
ここから推察される黒田日銀の金融緩和策としては、日銀が買い入れるリスク性資産の多様化や増額、2014年から開始予定の国債の無期限買い入れの買い入れペース増額、紙幣(銀行券)発行量に合わせた長期国債買い入れルールの撤廃、基金で買い入れる長期国債の年限延長(現行3年)などだ。
<リスク性資産の多様化、損失負担など課題も>
日銀内では、これまでとは非連続な政策を求めている国民の声の反映の結果として、何でも買うしかない、など覚悟とも諦観とも取れる声も出ている。
しかし急激な円安に対しては海外からの批判が急増している。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも声明で「通貨の競争的な切り下げを回避する」「金融政策の他の国に与える負の波及効果を最小限とする」とクギを刺された。為替に影響を与えるような大胆な金融緩和は自粛せざるを得ない国際環境になりつつある。
リスク性資産の多様化や買い入れ規模の拡大も、損失が発生した場合の負担方法について政府・日銀で議論が必要となりそうだ。日銀の損失は政府に対する納付金の減少という形で間接的に国民負担に跳ね返るためだ。
テレビやパソコンなどハイテク製品の恒常的な値下がりが続くなかで、日銀が目標とする2%の物価上昇率達成には食料やエネルギーなど生活用品の大幅な値上げが必要。すでに円安によるガソリン価格上昇は政権の懸念材料となっており、金融政策の舵取りは微妙なバランスが求められる。
(ロイターニュース 竹本能文:編集 橋本浩)

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