アングル:通貨安競争で遠のくドル100円、かすむ緩和インパクト

アングル:通貨安競争で遠のくドル100円、かすむ緩和インパクト
5月9日、日銀の「異次元緩和」のインパクトがかすみ始めるなかで、ドル/円の100円回復が一段と遠のいている。写真は2010年、都内で撮影(2013年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 9日 ロイター] 日銀の「異次元緩和」のインパクトがかすみ始めるなかで、ドル/円の100円回復が一段と遠のいている。欧州、豪州、韓国が相次いで利下げしたほか、ニュージーランド中銀は異例の通貨売り介入に踏み切るなど、通貨安競争の様相が再び強まっているためだ。
4月米雇用統計は市場予想より良好だったものの、米景気減速懸念は払しょくされなかった。再び市場の度肝を抜くような日銀の追加緩和策も期待しにくいとして、短期的な円高局面も予想され始めている。
<重くなるクロス円>
「黒田緩和」の印象が相対的に薄れている──外為どっとコム総研のジェルベズ久美子研究員はそう指摘する。5月に入り、主要中銀による利下げや自国通貨売り介入が続いているためだ。
欧州中央銀行(ECB)の利下げは市場予想通りだったが、ドラギ総裁は間髪入れず追加緩和の可能性を示唆。オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)と韓国中銀は予想外の利下げを実施した。RBAは声明文で自国通貨が歴史的高水準にあると指摘、緩和策が通貨高を念頭に置いていることを明言している。
さらに、ニュージーランド準備銀行(中央銀行)のウィーラー総裁は8日、ニュージーランド(NZ)ドル売り介入を実施したと言明。中銀が介入を確認したのは1985年の変動相場制移行後で2度目であり、異例の事態を受けてNZドルは急落した。
ジェルベズ氏は「豪中銀の豪ドル高懸念はずっと残っている状態。豪ドル高是正に誘導したいという意向がある限りは、豪ドルの上値はどうしても抑えられる」と指摘。クロス円の上値が重いため、ドル/円を押し上げる要因にはなりえないとみている。
豪ドル/円は9日、オーストラリアの4月雇用統計が市場予想より強い内容になると急騰したものの、騰勢は持続せず、東京時間に付けた高値は101.35円どまり。4月11日に付けた2007年11月以来の高値105.43円には遠く及ばず、上値の重さが意識された。
クロス円に押されるようにドル/円も重くなっている。大手信託銀行の関係者は「通貨安競争の様相が強まっている。一本調子の円安にはなりにくい」と話す。ドル100円乗せへの「熱気」は薄れ、98円台ではドル買いが強まるものの、99円台では売りが優勢となる狭いレンジでの展開が続いている。
<再度の「常識」破りは困難>
4月4日、黒田東彦日銀総裁の「初陣」となる金融政策決定会合で「異次元緩和」が打ち出され、ドル/円は7円跳ね上がったが、2009年4月以来の100円回復は果たせないままだ。「異次元緩和」の実施後、G20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議通過時、4月米雇用統計後と100円トライの場面は合計3度訪れたが、いずれも「壁」にはばまれた。
緩和決定直後に一部の市場参加者が描いた、マネタリーベースの拡大に合わせた緩やかな円安進展というシナリオは現時点では見込み違いとなっている。
国債を7割購入し、マネタリーベースを2倍にするという日銀の「異次元緩和」と、高金利通貨国の利下げでは、緩和の「踏み込み度合い」が異なるため、通貨安競争の様相が強まっても、円高傾向に逆戻りすると警戒する声はまだ乏しい。しかし、日銀要因が薄らいだ今、100円回復は容易ではなくなったとみられている。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの村田雅志シニア通貨ストラテジストは、黒田日銀は4月にマーケットの「常識」をぶち破ることに成功したものの、再び「日銀が何をし始めるかわからないという期待」を高めるような策を打ち出すことは難しいと指摘する。ドル/円の100円突破があるとすれば米国要因で、QE(量的緩和)の縮小/休止がキーワードになるが、4―6月、7―9月の時点では出てこないとみているという。むしろドル/円は下値を模索するリスクがあり、6月までに95円台まで下落してもおかしくないとの見方を示している。
(ロイターニュース 和田崇彦 編集:伊賀大記)

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