米朝首脳、非核化と北朝鮮の体制保障で合意:識者はこうみる

[シンガポール 12日 ロイター] - トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮半島の「完全な非核化」を目指すことで合意、米政府は北朝鮮に安全保障を提供することを確約した。
ただ、具体的にどう非核化を実現するのか、詳細は明らかにしなかった。
専門家の見方は以下の通り。
<三菱UFJ国際投信 チーフストラテジスト 石金淳氏>会談が無事に終了したということが、今回は一番大きな意義を持つ。そこは素直に日本株にプラスだろう。合意文書は朝鮮半島の完全な非核化と、北朝鮮の体制保証が盛り込まれた。非核化への具体的な道筋についてはこれからであり、紆余曲折があるとみているが、米韓軍事演習も中止する方向にあり、地政学リスクは低下することになるだろう。
もっとも38度線をすぐに無くすのは無理だ。38度線を無くすことは、北朝鮮の体制を保証することと矛盾する。急になくなれば、韓国経済は大打撃を被る。ここは現状維持になるはずだ。
中国側にとっては、今回の米朝首脳会談はぎりぎりの妥協線だったのではないか。北朝鮮は国土の復興を早く進めなければ今の体制はもたない。北朝鮮に米国資本が流入し、親米化が促されれば、中国側は立場がなくなる。だが中国は債務削減を進めており、これを急にやれば景気を悪くする。経済面で追い詰められている節もあり、今の北朝鮮を大々的に援助するほどの余力がなかったとみている。
日朝関係については、米国主導のもとで今後は北朝鮮に対する援助を日本側が求められるシナリオが想定される。ひとまず、ミサイルが上空を通過するという事態は当面は避けられそうだ。もっとも、すぐに何かが変わるという話でもない。北朝鮮情勢については小康状態に入るとみている。
<SMBC日興証券 金融財政アナリスト 末澤豪謙氏>
一定の信頼醸成が今回の成果で、実効性の評価は今後の課題ということだ。初回の顔見せ的な対談だったとの印象を持った。共同声明も基本的には板門店宣言の焼き直しで、あまり踏み込んだ表明がなかった。
トランプ米大統領は中間選挙に向けて、北朝鮮問題を支持率浮揚に活用したい。一方で、北朝鮮にすれば、段階的な非核化を求めている。この意味では、双方が折り合った内容になった。
また、トランプ米大統領は「非核化には長い時間がかかる」と発言しており、今後どうなるかということに関しては、次の大統領選まで見る必要がありそうだ。
<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>
トランプ米大統領の会見を聞いても、具体策は何もなかったとの印象だ。
今後数カ月、市場で地政学/ミリタリーリスクに対する警戒度はやや低下するだろう。それは円を買いたかった人が手掛かりを失うことにはなるが、ドル/円を押し上げる話ではない。この問題が日米欧中銀動向やイタリア問題などグローバルな市場環境を覆して、ドル/円に影響を与えることはないだろう。
とはいえ、会談が実現したこと自体は米国の圧力が効いたということ。大きな意味では融和方向が目指されていくのだろう。潜在的には今後、北朝鮮の開発などが話題となっていく可能性があり、リスク資産にはポジティブ。資源相場や中国の過剰在庫問題なども含めて好影響があり得る。
<大和キャピタル・マーケッツ(香港)のアジア地域(日本除く)担当チーフエコノミスト、ケビン・ライ氏>
米朝首脳会談はうまくいったようだ。少なくともトランプ米大統領は全体的な結果に非常に満足していた。検証可能な非核化達成に向けて詳細を詰めるために、あと数回は米朝間の会合が開催されるだろう。
今回の会談により、米朝関係の完全なる正常化に向けた道が開くとみている。状態は良好であり、北朝鮮の経済発展を口にすることさえ可能だ。
もはや軍事衝突の可能性について強く懸念する段階ではない。軍事衝突の可能性は大きく低下する一方、北朝鮮の経済発展の可能性だけではなく、南北統一の可能性も話題に上ることがあるかもしれない。
南北統一となれば、将来的に重要な経済勢力となるだろう。
市場の反応という点では大して期待していない。市場は昨年の地政学リスクの高まりに実際には反応しなかった。足元でも様々な可能性が引き続き存在するため、対応の仕方がわからないのだろう。何か具体的なものが見えるまでは市場が確信をもって反応することはないとみている。
<シドニー大学政治学講師、スチュワート・ジャクソン氏>
具体的な動きが出ないことには、あまり意味がない。とは言っても、次の点を忘れてはならない。1970年代のニクソンの訪中は、その直後に大きな成果があったようには見えなかったが、実際には、はるかに大きな意義があった。
トランプ氏がそのようなことを成し遂げたと考えたくない人もいるだろうが、朝鮮半島の緊張を緩和できるなら、誰がやろうと関係ない。
<RBCキャピタル・マーケッツ(香港)のアジア為替戦略担当ヘッド、SUE TRINH氏>
米朝の非核化の定義には大きな隔たりがある。米国にとっては、完全で検証可能かつ不可逆的な非核化を意味する。金委員長にとっては、経済支援やアジアでの米国のプレゼンス低下と引き換えに核・ミサイル実験を停止することを意味する。
金委員長は、既存の核兵器を廃棄する意思を全く示していない。
実行のペースが大きな課題になる。韓国の文在寅大統領は2年以上かかる可能性があるとの考えを示唆している。
次の市場の注目材料は、米消費者物価指数(CPI)、欧州連合(EU)離脱法案の採決、米連邦公開市場委員会(FOMC)、欧州中央銀行(ECB)理事会だ。
<中国人民大学・重陽金融研究院のアソシエート・リサーチフェロー、WANG PENG氏>
北朝鮮は今後、中国と米国の微妙なバランスを慎重に維持していくが、主要問題では引き続き中国を頼っていく。同時に、米国の力を利用して北朝鮮に対する中国の影響を相殺するだろう。現在の中米朝関係から判断して、当面は中国の存在は無視できない。中国は朝鮮半島情勢でより積極的でポジティブな役割を果たしていくだろう。
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