ゲームシナリオの解剖学from各務都心:第44回『Birth』
骨を積み、肉を塗り、筋を編め 「友達」を作る静かなパズルゲーム
こんにちは、シナリオライターの各務都心(@toshinthepump)です。古今東西の傑作と呼ばれるゲームを、シナリオの面から掘り下げてみようという企画――「ゲームシナリオの解剖学」第44回は、『Birth』を取り上げる。今回もネタバレが出てくる可能性があるので、先の展開を全く知らないで遊びたい方は注意していただきたい。
『Birth』は、Madison Karrh氏がひとりで作り上げたとても短いパズルゲームだ。ほんの3時間もかからずにすべての実績を解除できるくらいの長さである。その割には、確実にプレイヤーの記憶に残るであろうアートとゲーム体験が待っているので、是非とも触ってみてほしい。
ストーリーは至ってシンプルである。下記のスクリーンショットにある通り、主人公は都会でありがちな孤独に苛まれており、自分の友達ないしパートナーを作り上げることにする。作るというのは、SNSやマッチングアプリを使ってフレンド欄を充実させていくわけではなく、文字通り骨と肉を集め、器に臓器を詰め込むことで魂を生み出そうというのだ。
そうは言うものの、このゲームにショッキングなホラー描写は入っていない。ちょっと生々しい臓器の画像や、虫のイラストがあるくらいのもので、心臓の弱い人でも安心して遊べるゲームだ。
プレイヤーは早速街に繰り出し、ホテルや美術館や他人のアパートなどを覗き込み、そこに仕掛けられたパズルを解いていく。パズルの種類は様々で、絵合わせや点繋ぎ、魔方陣にジグソーパズルなど多岐に渡る。特に作者はドミノが好きなようで、同じようなギミックが3回ほど出てきた。そのパズルはどれも基本的には簡単で、ちょっと考えればわかるようなものになっている。
このゲームの真髄は何と言ってもアートだ。テキストがほとんど存在しない以上、パズルやポイントクリックといったゲーム部分以外の要素はすべてアートに任せきりとなっている。(音楽も心地良いのだが、こちらはどれもクラシックのアレンジなので、邪魔しない良さがある)
街の人々や動物はすべて骨が剥き出しになったビジュアルになっており、初見では誰しもドキッとするだろう。特に人間は何故か鳥のような頭をしており、大きく穿たれた双眸の穴からは空虚が覗く。その眼球の中を回転させて奥に挟まった羽虫を取り出すパズルすらあり、なんだか不穏な気分になることすらある。
場合によってはそんな彼らのお店を手伝ってあげるような(そう受け取ることもできそうな)パズルもあるのだが、クエストはおろか会話すらも発生しない。とはいえ、彼らが開いているノートPCには思い出の写真が入っていたり、街の端のベンチではカップルが見つめ合っていたりする。恐らく彼らは社会生活を営んでおり、決してこの街に死が覆っているわけではないのだ。アートとして身体の内面が前に出ているだけで、彼らの息遣いはちゃんと感じられる。
筆者にとって衝撃だったのは、このゲームの目的である「友達を生成すること」というのが「何らかの代償を払うこと」の裏返しではなかったという点だ。本当に骨と肉を一定数集めたらパートナーが生まれ、自分のアパートで一緒に楽しく過ごしてくれるのだ。コワい顔の魔人が現れて「使った分の臓器は貴様からいただこう!」なんて言ってきたりはしない。
これが作者であるMadison Karrh氏の信条なのかどうかまで断言していいかは難しいが、筆者が遊んだ限り、彼女はペアかそれ以上のキャラクターを配置したがる傾向があると思った。「ひとりよりふたりのほうがいい」と信じている感じがするのだ。街角で、お店で、アパートの中で。僕らは思い出を共有するものなのだと。
この主張自体は別に何ら珍しいものではなく、ひとりで遊ぶのが主流のビデオゲーム界においても幾度となく中心に添えられてきたテーマである。色々な手法やメカニクスが考えられてきたが、『Birth』は手書きの絵とパズルだけで表現してみせた。
街を眺め、皆が楽しそうにしていて、僕にもそんな相手がいたらと思った……そしてそれを作った。そんな思いが、そんな行為が、絶対に不穏なオチにならなくてもいいじゃないか、だって皆そう思ってるでしょ? という静かな主張が感じられる作品であった。