風雨来記4 - レビュー
すべてを自分で決める「旅」を楽しめるかどうかでこの作品に対する評価は大きく変わる
あなたは「旅行」と「旅」、どちらが好きだろうか。他人に用意されたルートを辿って楽しむのが「旅行」であるとしたら、自分で行動を判断し責任も自分で負って楽しむのが「旅」。『風雨来記4』の主人公は作中でこのように両者の違いを語る。本作はそんな「旅」の方を追求しきった作品だ。もしあなたが「旅行」の方が好きならば本作は手に取るべきとは言えないが、「旅」を好きならばきっと本作は深く心に刻み込まれる作品になるだろう。
なお、本レビューの執筆にはPS4版を使用している。
コンペ上位を目指すもよし、ヒロインを追いかけるもよし、気ままにツーリングもよし、必ずしも達成しなければいけない目標は無い
本作は『風雨来記』シリーズ4作目にあたる作品。プレイヤーはルポライター・榊千尋(デフォルトネーム)として約1ヶ月の期間中、Webサイト上で開かれる岐阜の魅力を伝える雑誌社対抗コンペ「のひコン」に参加。岐阜県内を巡り、取材や記事作成をして上位を目指す、という目標が「一応」として定められている。
本作は1日ごとに区切られている。県内をバイクでツーリングし、点在する取材スポットに入るとテキストを読み進めるアドベンチャーパートが始まる。取材スポットから出ると再びツーリング。1日ごとに定められたスタミナ値が切れる、もしくはプレイヤーがメニューから選択するとキャンプに移り、そこで「のひコン」Webサイトに記事をアップする、というのが1日の基本的なサイクルだ。どの道に進むか、どの取材スポットを訪れるか、どの写真を選んで記事に使うかなどはプレイヤーが判断して決定する。
しかし、本作では「のひコン」に上位入賞する必要はまったく無く、低い順位だとしても問題なくクリアが可能。旅の中で出会うヒロインを追いかけてもよし、岐阜県内を走り回って風景を楽しむだけでもよし、もちろん1位を目指して奮闘するのもよしという自由なプレイスタイルが用意されている。本作で徹底して描かれるテーマは「旅行」ではなくすべてを自分で決定する「旅」であるため、すべてを自由に決められる懐の深さはテーマを表現する上で非常にうまく作用している。
ヒロインたちとの出会いは偶然。ほぼ出会いがなく終わる可能性だってある
本作は「旅」ゲームでありながらも、美少女ゲームとしての側面も備えている。旅の途中で3人のメインヒロインたちと出会って、場合によっては恋愛関係にまで発展する。ヒロインたちとの出会いは偶然。県内を適当に駆け回り、訪れたスポットでバッタリ……というのが基本的な出会い方だ。話している内容から行きそうな場所は大まかに予想できる場合もあるとはいえ、ほぼノーヒントと言っていい。
筆者がプレイした柚原 日陽(ゆはら ひよ)ルートでは彼女が写真のモデルになるという条件付きで一緒に取材を行い、その後は特にヒントが与えられずに別れてしまう。出会う回数を重ねると彼女の攻略ルートに固定され、連絡先を交換しヒントが与えられるようになる。次に会う約束をせず別れるのは「旅」ゲームとしては説得力のある描き方だが、美少女ゲームとして楽しむには少し窮屈で、根気が必要だ。この他のヒロインも基本的にこのような出会い方で、筆者は運が悪かったのか母里 ちあり(もり ちあり)には一度も出会わなかった。
わかりやすい観光地ではなく、マイナーなスポットがメイン。「岐阜県」というロケーションに魅力を感じられるか?
取材スポットに入るとイベントが始まり、その地についての知識や、通行止めなどの現地の状況がテキストで解説される。本作は岐阜新聞社より取材協力を得ており、単なる観光地よりも、ちょっとマイナーなスポットが多く用意されている。
アフロヘアーの農家が県民におなじみのお米「ハツシモ」について教えてくれるといったものや温泉が安価で手に入る「温泉スタンド」などのちょっと面白いイベントから、ずさんな工事によって土砂災害の被害を被った場所や年々増加する粗雑に設置されたソーラーパネルといったセンシティブな話題まで、「旅行」ではまず見ることが無いようなマイナーなスポットが多数用意。語られる内容はあくまでも主人公の主観で語られるためセンシティブな話題に関してはフラットな見方で描かれているわけではないが、岐阜県民の生活や文化についてかなり深く知ることができる。
その他には滝や川、神社や山といった似た印象を受けるスポットが多いのでわかりやすく楽しめるところは少なく、ある意味では地味に感じてしまうだろう。主人公が語るスポットにまつわる知識やエピソードで地味さをカバーしているが、それでも楽しめる人が限られるのは間違いない。
そういったスポットで写真を十分に撮影したら、今度はキャンプに帰ってWebサイトにアップしよう。本作の「一応」の目標として定められた「のひコン」は訪れたスポットにまつわる見出しを選択し、画像を2枚選べば記事が完成する。どんなものでも記事にすることができるが、現地に行かないと知ることのできないエピソードやヒロインたちとのイベントを撮影して記事にすると評価が高くなるようだ。
本作の「旅」を彩る、脇見し放題なツーリング。しかし、360°カメラの画質は低い
本作の大きな特徴として、ツーリング中や取材スポットなど360°カメラで撮影されたシーンは右スティックでカメラを動かせる点が挙げられる。運転中でも脇見をして山々や街の様子などの景色を眺めることや、取材スポットの周囲の雰囲気を自由に見回すことが可能だ。しかし残念ながら、360°カメラの性能による限界のためか全体的にもやのかかったかのようにぼやけた画質になっており、ツーリングシーンでは高速でカメラが移動するためさらに画質の悪さが顕著となり、魅力が半減してしまっている。
とはいえ、取材スポットごとの見どころは高画質の静止画が多数用意されており、特になにもない道なども静止画が表示されるため、360°カメラの画質の欠点を極力補っている。こういったシーンでは先述したように主人公が語る知識やエピソードを楽しめる。
人を選ぶ作品であることは否定できないが、好きな人には深く突き刺さる作品だ
本作は「岐阜」という地味とも言えるロケーションや、美少女ゲームとしてプレイするには根気が必要だ。しかし、「旅行」であれば訪れる機会が無いであろうマイナーなスポットを訪れ、現在の岐阜県を取り巻くセンシティブな話題にも言及することで、自分の意のままに行動できる「旅」というスタイルを追求した本作だからこそ味わえる特別な体験が用意されている。決してプレイしやすいとはいえず、楽しいと思えるプレイヤーは限られるだろうが、好みが合致するプレイヤーには心に深く刻み込まれる特別な作品になり得ると感じた。
長所
- 「旅」の魅力を追求した他に類を見ない独特さ
- 岐阜という地をディープに知ることができる
- コンペ上位を目指してもよし、ヒロインを追いかけてもよしというプレイスタイルの懐の深さ
短所
- 岐阜県というある意味で地味なロケーションに魅力を感じなければ退屈になる
- 美少女ゲームとして楽しむには根気が必要
- 360°カメラの画質が悪く「旅」の体験の質が落ちてしまっている
総評
『風雨来記4』は必ずしもヒロインたちと恋愛したり上位入賞を目指したりする必要はなく、気ままに過ごすだけでも問題無い懐の深さは本作のテーマを表現するのにうまく作用しており、「旅」というスタイルを追求した独特の魅力を放っている。本作の特徴であるツーリングパートおよび取材パートはぼやけた画質の360°カメラが足を引っ張っているものの、「旅行」では行くことがないようなマイナースポットに訪れることができ岐阜県の生活や文化について深く知ることができる。しかし、意図して設定されたヒロインたちとの出会いにくさは美少女ゲームとしてプレイするには根気が必要だし、舞台の岐阜県は似た印象を受けるロケーションが多く地味であるためとっつきづらくなっている。