ライザの集大成をオープンフィールドで描く!『ライザのアトリエ3 〜終わりの錬金術士と秘密の鍵〜』開発者インタビュー
ライザの旅の集大成
2月2日~5日にかけて行われた台北ゲームショウ2023の会場にて『ライザのアトリエ3 〜終わりの錬金術士と秘密の鍵〜』のプロデューサー細井順三氏と、キャラクターデザインを務めたイラストレーターのトリダモノ氏にインタビューする機会に恵まれた。
キャラクターの魅力からバトルやオープンフィールドらしい遊びまで、本作の見どころを様々な観点から紹介してもらった。さらに、「アトリエ」シリーズの今後の展開についても少し聞けたので、ぜひ最後まで読んでほしい。
――『ライザのアトリエ3』の発売が3月23日(Steam版は3月24日)に延期となりましたが、具体的にどういった部分に手を加えているのでしょうか?
細井:おもにはフィールドでの操作感や各所のブラッシュアップを行っています。例えばゲームの序盤のバランス、情報に戦闘のバランスなど、複合的なところを最終調整するためにお時間をいただいています。
――これまでの映像を見させていただくと、かなりの規模のオープンフィールドになっているようですね。どれぐらいのボリュームを想像すればよろしいでしょうか?
細井:1作目の『ライザのアトリエ』のマップはほぼ入っていて、プラスアルファで新しい地方が3つ追加されています。ボリュームとしては1作目の2、3倍ぐらいのボリュームになっていると思います。
――物語のテーマは「ライザの集大成」と聞いていますが、それについてもう少し詳しく教えてください。
細井:今回の冒険で描きたかったのはライザたちの物語の終わりで、キャラクター同士の深い人間関係にフォーカスしたいと考えていました。ライザがこの冒険や人生で何を成し遂げたいのかという物語を描いていますので、そういう意味ではまさにライザの旅の集大成になっていると思います。
――キャラクターといえば、今作はシリーズのこれまでと雰囲気の異なるフェデリーカやディアンが登場します。どういうキャラクターなのでしょうか?
細井:フェデリーカは工芸が盛んな地方の出身です。元々交流していたクーケン島などとは違った文化がある街で工房の長をやっています。組合長代理のようなものをやっていて、責任感とまだ幼い部分の葛藤があるようなキャラクターです。最初はかなり厳格で堅いイメージを抱くと思いますが、打ち解けていくほど年相応の女性になっていく変化を感じていただけるのではないかと思います。ディアンに関しては、見た目通りやんちゃなタイプで、負けん気も強いですね。1作目の頃のライザと似ていて、どんどんライザたちに頼ってくるキャラクターです。ライザたちと出会う前は心から信頼できるお姉さんやお兄さんがいなかったので、彼にとってはライザやレントとの出会いは本当に大きいんです。頼れる人に出会ったことによってどんどん変化していくキャラクターですね。
――違った文化の街からやってきたキャラクターのデザインで意識しているポイントはありますか?
トリダモノ:ディアンとフェデリーカは衣装に付いている模様がライザたちと違うようにしています。そういった細かいところで工夫をしています。
――1作目のライザに似ているディアンを見て、ライザがこの3部作でいかに成長したのかを実感できるところもありそうですね。
細井:そうです。そこが一番描きたい部分ですね。ライザは1作目ではすごくやんちゃな女の子でした。同じ主人公の物語を追っているからこそ、どのように成長したのかを今までの「アトリエ」シリーズよりも深く描けたと思っています。彼女の成長を描きつつ、当時のライザのようなディアンと出会うことによって、ユーザーさんにはライザの成長を感じていただけるんじゃないかと思います。
――キャラクターの成長は本作のキャラクターデザインにどのように反映されているのでしょうか?
トリダモノ:よく聞かれるのですが、言葉にするのが難しいんですよね。ライザは『ライザのアトリエ』のデザインと『ライザのアトリエ2』のデザインの集大成のようなデザインにしています。さらに変化をつけるために、ホットパンツの形状をハイウェストに変更したりなど、少し大人なイメージを付け加えています。
――「アトリエ」シリーズや「ライザ」は魅力的なキャラクターで知られるシリーズだと思いますが、キャラクターを描くうえでこだわっているポイントについても教えてください。
細井:まず、トリダモノさんの絵は魅力的だなと思っています。「秘密」シリーズは地に足を付けたキャラクターにしたくて、ユーザーさんが共感できるキャラクターを作りたかったんです。キャラクターは誇張して表現することもできますが、うまくバランスをとらないと現実味のないキャラクターになってしまうと思うんですよね。トリダモノさんの絵がキャッチーだからこそ、キャラクターの描き方に共感性を持たせたいと思っています。また、我々としてはキャラクターを性的に描くようなことはしたくないと思っていて、そこも非常に気をつけています。
――生身の実際にいそうなキャラクターを意識されているんですね。
細井:そうですね。先ほどもお話ししましたが、トリダモノさんの絵はとても魅力的ですので、それだけでキャラクターが担保されていると私は思っています。そのうえで、相互の関係性や「アトリエ」シリーズだから描ける日常を丁寧に描くようにしています。
――今作は焚火で料理する要素がありますが、どのようなシステムになっているのでしょうか?
細井:今回はライザが冒険の旅をする物語でもあります。旅と料理は切り離せないですし、一緒に旅している仲間たちの一息つくワンシーンが見られるといいなと思い、入れたシステムです。料理は15種類ほどあって、一定時間バフ効果がつきます。探索や戦闘が有利になるので、焚火を発見して料理すれば必ず得をするようになっています。
――前作の、断片的な情報からバックストーリーを読み解く遺跡調査が魅力的でした。今作にもそうしたシステムはありますか?
細井:今作には4つの大きな地方があり、そこには「ワールドクエスト」という各地方の歴史や文化を掘り下げるクエストがあります。住民との交流もそうしたテーマが展開されるので、遺跡の謎を解くのと近い体験ができると思います。
――多くのスタジオが既存IPのオープンワールド化をやっていくなかで、うまくいく場合もあれば、広くなっただけという結果に終わってしまうタイトルも残念ながらあると思います。「アトリエ」シリーズをオープンフィールドとして成立させる上で工夫した点について教えてください。
細井:「アトリエ」シリーズは調合が要のゲームですので、採取という行動がとても重要になってきます。採取して調合するというゲームの流れがベースにあるわけですが、今までの採取は立ち止まって行うものでした。移動して止まって採取して、移動して止まって採取して、の繰り返しですね。オープンフィールドでは移動時間が増えますので、素手による採取は走りながら行えるようにしています。また、「鍵」という新要素を使うことで、アトリエに戻ることなくカゴの素材をコンテナに送れるようにしました。フィールド探索からの戦闘もシームレスに進むようになっていますので、ロード時間を挟まず快適に「秘密」シリーズのRPGらしい体験ができるようになっています。
――「鍵」という要素は探索、調合、戦闘で役に立つと聞いていますが、これを導入したきっかけについて教えてください。
細井:「鍵」はディレクターの安彦(安彦信一氏)が必ず入れたいと言っていた要素ですね。「アトリエ」シリーズはこれまでにも広いフィールドを使ってきましたが、今回はオープンフィールドでさらに規模が大きいです。そこで、以前にも増して探索を充実させる必要が出てきました。オープンワールド のゲームであれば特定のランドマークへ行くことでフィールドが開放されるといった遊びがあると思いますが、本作にもそういった要素が入っています。ランドマークがあって、そこでは一定時間ごとに確実に鍵をひとつ作って入手できます。ランドマークにアクセスすることで鍵を入手して、得た鍵は調合・探索・バトルに役立つものとなっている。つまり各根幹システムの繋がりを強化するシステムとして鍵を導入しているわけです。探索の価値がすべての要素に作用するようなシステムをこれまでの「アトリエ」シリーズで採用したことがなかったのですが、オープンフィールドで移動時間が増えてしまうからこそ、その時間により価値をもたらしたかったのです。
――広い世界を旅する物語になっているわけですが、絵に旅らしい雰囲気をどのように取り入れていますか?
トリダモノ:パッケージイラストには、『ライザのアトリエ』と『ライザのアトリエ2』と異なり、背景を広々と描いています。「これだけ広大なフィールドを歩き回れるよ」というのをまず伝えています。キャラクターデザインに関しても、1作目2作目と同様に長旅で険しい道を進めるようブーツを多めに履かせて旅らしさを表現しています。
――戦闘周りでユーザーに楽しんでほしい部分についても教えてください。
細井:今作ではよりスピーディーでわかりやすい戦闘システムにしています。2作目『ライザのアトリエ2』は戦術性が少し物足りない部分があったというご意見もいただいていましたので、今回は鍵をはじめとするさまざまなバフ・デバフを通すことでより戦略性も出せていると感じていますし、さらにアクション性の高い「アトリエ」を楽しんでいただけるのではないかと思っています。
――やはり「鍵」のシステムがゲーム全体に大きな影響を及ぼしているのですね。
細井:そうですね。物語も「鍵」という存在からスタートしていくので、ストーリーにおいてもシステムにおいても非常に重要なものになっています。
――今作はライザの最後の旅になるそうですが、今後についても可能な範囲で聞かせてください。
細井:おかげさまで「アトリエ」シリーズは25周年を迎えることができました。これまで応援していただいたことに感謝するとともに次の30周年を目指して、みなさんに楽しんでいただける作品を作り続けていきたいです。「アトリエ」シリーズはコンシューマ向けで始まって,近年はスマートフォンやPCにも広がっていきましたが、多くの方に楽しんでいただけるよう多様なメディアで取り組んでいきたいと思っています。私自身は最近クラフトゲームにハマっているのですが、クラフト要素も取り入れてみたいという気持ちがありますね。
――プレイされているのは、どのクラフトゲームでしょうか?
細井:『Valheim』や『Subnautica』などですね。『Subnautica』はストーリー性とのバランスが絶妙だと思います。『Valheim』はロールプレイ体験としても非常に面白いゲームでした。
――「アトリエ」シリーズにクラフト要素を取り入れるとした場合、どのようにしたいと考えていますか?
細井:「アトリエ」シリーズでは、調合した結果は戦闘や納品で表現してきていることがほとんどです。調合からクラフトに繋げることができれば、ゲーム体験として新たな別の充実度があるんじゃないかと思っています。本当に取り入れるかどうかはまだわかりませんが、検討していきたいですね。
――プレイしたゲームから影響を受けて、「アトリエ」シリーズに取り入れた要素はこれまでにもあったのでしょうか?
細井:あります。私は海外のゲームも好きで、いかに「アトリエ」シリーズを近代的にしていくかということは常に考えています。アクションゲーム寄りの戦闘にしているのも、今のゲームの流れを汲んでいるところがありますね。RPGでもリアルタイムアクションゲームが当たり前のようになってきているなと。とはいえもちろん、「アトリエ」のファンの方が求めているゲーム性を無視するつもりはありません。世界的なトレンドと「アトリエ」シリーズの「らしさ」でバランスをとったり、試行錯誤しながら作っています。
――今回は台北ゲームショウ2023にも出展されていますが、最近の海外での反響はいかがですか?
細井:おかげさまで海外でも徐々に評価いただけるようになってきていると感じています。まだまだグローバルなタイトルとは言えないと思っているので、ワールドワイドでより多くの人に遊んでいただけるように、グラフィック表現の向上など、今後も全力で開発に臨みたいと思っています。
――最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
トリダモノ:ずっとライザを描き続けて、大変でしたが、本当に楽しかったです。今作で旅が終わってしまうので、個人的にも寂しい気持ちがあります。でも、ライザたちの最後の物語がどのように幕を閉じるか楽しみでもあります。ユーザーのみなさんにもぜひ楽しみにしていただければと思います。
細井:「アトリエ」シリーズ25周年記念作品として『ライザのアトリエ3』を作ることができました。ここまで続けてこられているのはひとえにユーザーのみなさんからの応援のお力があってこそですし、トリダモノさんをはじめ、スタッフのみんなの頑張りでもあります。その結果をしっかりとユーザーのみなさんにお届けしたいという思いで、この『ライザのアトリエ3』を開発してきました。発売を延期することとなってしまって申し訳ございませんが、本当にいいゲームになっていると思いますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
――ありがとうございました!
『ライザのアトリエ3 〜終わりの錬金術士と秘密の鍵〜』はPS5版/PS4版/Nintendo Switch版は3月23日、Steam版は3月24日発売予定だ。