(放送コラムニスト:高堀冬彦)
故郷・端島の知り合いはみな亡くなっていたが……
TBS『海に眠るダイヤモンド』は純文学さながらのドラマだった。観る人それぞれの人生経験や人生哲学などによって、同じ物語なのに受け止め方が異なった。涙するシーンも違ったようだ。それでも最も胸打たれたシーンは一緒ではないか。最終回の終盤である。
最終回は2018年という設定だった。80代半ばの実業家・いづみ(宮本信子、若き日は朝子で杉咲花)が、出身地の長崎県端島を訪れる。通称・軍艦島だ。本土の人たちからは石炭を掘るためだけに存在する島と思われていたが、それは違う。
いづみにとっては生き別れになった恋人・荒木鉄平(神木隆之介)との思い出が詰まった愛しい故郷だ。鉄平は元炭鉱会社の外勤職員。端島には朝子の実家の食堂もあった。
幼なじみで大の仲良しだった古賀賢将(清水尋也)とその妻・百合子(土屋太鳳)も住んでいた。鉄平の兄・進平(斉藤工)の妻で親友の元歌手・リナ(池田エライザ)もいた。
しかし、行方の分からない鉄平を除くと、みんな他界してしまった。いづみは端島行に付き合ってくれたホスト・玲央(神木隆之介、2役)に対し「すべて虚しく見えるのはきっと年を取り過ぎたせい」とつぶやく。高齢者は同時代を生きた仲間を失い、懐かしい故郷が色褪せると、気落ちしがちだ。
唯一、いづみを行動的にさせたのは鉄平への思い。鉄平は1965年、小船に乗って端島を出た。リナと、炭鉱事故で亡くなった兄・進平とリナとの子・誠を連れていた。その後の行方は分からない。