トランプ政権の発足を前に、関税をめぐる攻防が激しくなっている。トランプ氏はカナダに25%の関税をかけるとしているが、カナダは米国に輸出している原油に輸出税を課すことで対抗する可能性も浮上している。原油価格の低迷で米国内での増産はトランプ氏の思惑通りに進まないと見られ、関税をめぐるカナダとの対立が米国のエネルギー安全保障を揺るがすリスクもある。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=69ドルから71ドルの間で推移している。下値が切り上がりレンジ圏の幅が小さくなる一方、1日の振れ幅は大きくなっている感が強い。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
中国国有石油大手の中国石油化工集団(シノペック)は12月19日、「中国の原油需要は2027年にピークに達する」との見通しを示した。2027年のピークは日量1600万バレル以下になるとみている。
シノペックは昨年、「2026~30年にピークになる」としていたが、今年はより明確な予測を示した形だ。液化天然ガス(LNG)自動車と電気自動車(EV)の普及によりディーゼルとガソリンの需要が減退することが主な理由だ。
石油国有最大手の中国石油天然気集団(CNPC)も先週、同様の理由で「中国の原油需要は来年ピークを迎える」と従来の予測を5年前倒しした。
海外で積極的に事業を展開してきた国有石油大手の中国海洋石油集団(CNOOC)も14日、米メキシコ湾の権益を欧州石化大手のイネオスに売却することを決定した。国内の原油需要のピークが近いと判断したからだと推察される。
中国の11月の原油輸入量は前年比14.3%増の日量1181万バレルと7カ月ぶりに好調だったが、備蓄の積み増しが主な要因だった(12月16日付、OILPRICE)。
中国は過去20年にわたって世界の原油需要を牽引してきたが、今は昔だ。世界の原油市場の構図が今後大きく変わるのは間違いないだろう。
供給サイドに目を転じると、欧州連合(EU)は16日、ロシアが石油取引において西側諸国の制裁回避に利用している「影の船団」への追加措置を決定した。これにより制裁対象となる船舶は27隻から79隻となる。英国も17日、ロシアの「影の船団」を構成する20隻に対して制裁を科した。