OpenStackのディストリービューターである米Mirantisは7月5日に、日本法人ミランティス・ジャパンを設立した。システムインテグレーターのエーピーコミュニケーションズ(APC)の出資も受け、株式会社として新たなスタートを切った。大企業によるOpenStack導入は日本よりも欧米の方が進んでいると言われる中で、クラウド構築のデファクトスタンダードになりつつあるOpenStackをどのように展開していくのか。
来日したMirantisの共同設立者で最高マーケティング責任者(CMO)のBoris Renski氏と、日本法人社長に就任した磯逸夫氏に話を聞いた。
来日したRenski氏。APCオフィスドアに書かれた「Engenieer Driven」の文字を見て「この会社と組もうと思った」と笑う
Renski氏はOpenStackの導入状況について、AT&TやVolkswagenをはじめとした大企業が採用するデファクトになりつつある一方、「今後、より小さな規模の企業への導入が求められる」と指摘。
その際「ソフトウェアや技術といったものの先にあるビジネスの世界を見据えないといけない」とする。システムインテグレーターとして、NTTなど通信企業向けにOpenStackを導入してきたAPCと、そのあたりの考え方が一致したという。
OpenStackの導入を難しくしている要因として、テクノロジは6%ほどでしかなく、実際には業務プロセスや人員などの課題が大きいとする。その意味でも、ソフトウェアライセンスの販売で終わらせず、そこからサービスで収益を上げていくような企業を、パートナーとして探していた。
SI大手と比較して組織が小さく、小回りが利くことも重視した。APCからミランティス・ジャパンに取締役 技術本部長として移った嘉門延親氏も「なぜプライベートクラウドを構築するのか、ゴールを示せなければ(OpenStackは)エンジニアのおもちゃになるだけ」と話す。
簡単な設定でシステムを構築
APCからミランティス・ジャパンに取締役 技術本部長として移った嘉門延親氏
その嘉門氏が実際にMirantisのソフトウェアの優位性を感じたのは、コンポーネントの1つである「Fuel」だという。OpenStackのシステムをコマンドラインを使わずに設定できるというソフトウェアだ。
これは、ネットワークの設定、vSphereやKVMなど利用するハイパーバイザーの選択、プラグインの導入、ネットワークやコネクションのテストまで、「ポチポチ押す」イメージで設定できると表現する。
「OpenStackは、さまざまなパーツを集めてなんとなく1つのソフトウェアになっているようなところがあり、手を入れるのが難しい。Fuelはそれを単純化する」(嘉門氏)
嘉門氏は、日系通信企業のインドネシアの拠点を、Fuelのような仕組みを使わずに、地道にOpenStackのシステムを組んだ経験を振り返る。
この通信企業は、vSphereの仮想環境を制御するシステムをOpenStackで構築。マルチテナント構成で、テナントセグメント内に物理ファイアウォールと仮想インスタンスが混在する環境を構築した。vSphere上では業務サーバ、監視システム、統合監視、契約管理システムといった仮想マシンが動く。
OpenStackのコンポーネントとしては、ウェブフロントエンドの「Horizon」、仮想ネットワーク「Nova」、イメージの保管と管理の「Glance」、vSphereとの連携に必要となるブロックストレージボリュームを管理する「Cinder」などを採用した。
この時と比較すると、Fuelの存在価値を特に感じるという。Fuelをはじめ、アプリケーションライフサイクル管理の「Murano」などは、Mirantisが中心となって開発している。コミュニティーに貢献するソフトウェア開発者は1000人を超えており、OpenStackのソフトウェア開発において、Mirantisは中心的な1社だ。
エンジニアに求められる英語力
日本でも今後、OpenStackのスキルを持つエンジニアへの需要が高まると考えられるが、具体的にはどんなスキルが求められるのか。Renski氏はキーワードとして、英語力を挙げた。
「OpenStackはトリッキーな部分もあり、バグもあるためソースコードを読み込まないといけない。重要な情報のほとんどは英語で書かれている」(Renski氏)
また、コミュニティー内でのコミュニケーションやトレーニングも含めて、英語力が不可欠になっていることや、エンジニアが技術力とセットで英語力を持つ必要性について説明した。
一方、日本法人社長に就任した磯逸夫氏は「慎重に採用していきたい。OpenStackと言えばMirantisというイメージが付けば、適切な候補者が来てくれる」と話す。
磯逸夫氏はベライゾン・ジャパン社長をはじめ、シスコシステムズなどハードウェアを中心に渡り歩き、Mirantisの日本法人社長に就任した
技術力はもちろん、OpenStackや業界の将来に熱意や関心を持っている人が向いているとする。会社設立時は、APCからの4人ほどを含め、10人程度で事業を開始した。
年に2回のメジャーアップデートを実施するOpenStack周辺は動きも早い。8月初旬には、GoogleとIntel、MirantisがFuelをリライトし、コンテナオーケストレーションエンジンとして「Kubernetes」を組み込むと報じられた。
Kubernetesはコンテナなどを管理するツールだ。OpenStack上では、Kubernetesによるこうした配備においてDockerコンテナを使用することになる。今回書き換えるKubernetesをベースにしたFuelによって、仮想マシンやコンテナ、ベアメタルシステム向けの単一のプラットフォームを提供し、OpenStackシステムの運用やライフサイクルの管理を動的に制御できるようになるという。
Renski氏は「コンテナフォーマットの標準としてのDocker、コンテナオーケストレーションの標準としてのKubernetesが登場したことで、分散アプリケーションの運用に向けた一貫した取り組み手法が見えてきた。KubernetesとFuelを結びつけることで、アップデートをより迅速に適用する新たな配備モデルという道がOpenStackの目の前に広がり、顧客は今までよりも迅速に成果を手にできるようになる」と述べている。
さらに、ミランティスジャパンは8月10日、ドイツのSUSEと協業。Mirantis OpenStackユーザーに対してSUSE Linux Enterprise Linuxをサポートすると発表した。今後、SUSE Linux Enterprise ServerをMirantis OpenStackに最適化し、関連する各オープンソースプロジェクトにコントリビュートする。
より複雑な仕様に対応できるようになってきているOpenStackと、それをベースにビジネス展開するMirantisの動きには、注視する必要がありそうだ。