「テレワーク」という言葉は日本の造語だが、働き方としては決して新しいものではない。米国では1970年代から実施している企業もある。最近では、ノマドワーカーなどという言葉もあるが、これも働き方のことであり、フリーランスで働いている人たちの別称でもない。
テレワークの導入は、工場のラインのように出社しないと仕事できない企業ではほぼ無理だろう。しかし、そうでない企業であれば、ほとんどで導入可能だ。しかし、いまいち普及していないのはなぜだろうか。
これからの時代、子育てだけでなく、親の介護をしなくてならない人も間違いなく増える。介護しながらという社員も、企業にとっては大事な戦力だ。テレワークを上手に利用することでその戦力を失わないことが、これからの企業の生き残り方と言っても大げさではないと感じる。
通勤時間のコスト
少し視点を変えて、テレワークを導入して社員の通勤時間を減らすことの効果を考えてみよう。通勤時間は、国内でも地域によってずいぶん違う。福岡なら15分〜30分程度で通勤している人が多いが、大阪だと30分を超えるだろう。筆者がいる東京では1時間を超える人は多い。筆者の知り合いでも、片道1時間半をかけて通勤している人はザラにいるし、新幹線通勤をしている人もいる。では、この通勤時間を「コスト」で考えるとどうなるだろうか。
通勤時間は就業時間にカウントされないため、なかなかコストで計算しづらいものだ。しかし、通勤交通費であれば算出できる。1時間ほどの通勤、新幹線通勤、そして近隣に住んでいる人の3パターンで考えてみよう。
Aさんは、神奈川県鎌倉市に住んでいる人だ。テレビドラマでもよく使われ、住みたい街として人気のある江ノ電極楽寺駅が最寄り駅の人が、東京の大手町まで通勤していたとする。鎌倉駅から大手町駅までの片道交通費は1290円。1カ月の定期代は3万7670円だ。
Bさんは、栃木県の那須塩原駅から都内の新橋駅まで通勤するケースだ。これは、過去に筆者の知り合いで実際にいた。那須塩原に一戸建てを持ち、ゴルフ場まで車で5分だと聞いたことがある。那須塩原駅から新橋駅までの片道交通費は自由席で5390円。1カ月の定期では13万770円になる。通勤交通費の非課税限度額が10万円ということもあり、ほとんどの企業で通勤交通費の支給額の上限を10万円と定めている。Bさんも同様と考えると、10万円を超えた3万770円は自腹となり、会社の負担は10万円ということになる。Aさんとの差額は7万円ほどになる。
Cさんは、都内墨田区の錦糸町に住んで、イシンのある中央区の水天宮前駅まで通っているとする。乗車時間は8分、片道交通費は170円。1カ月の定期代6810円だ。ちなみに都内の地下鉄の定期代は、月に21日以上同じ路線を往復しないと元が取れない設定になっている。
ここで分かる通り、Aさんは人気のある鎌倉に住んでおり、Bさんは環境のいい場所に住んでいるかもしれないが、会社の負担はCさんの場合よりも、Aさんで1カ月あたり3万860円、Bさんだと9万3190円も多い。つまり、Bさんには給与以外に9万円以上多く支払っていることになる。果たして、Bさんの業務内容、成果はそれに値するものだろうか。Cさんよりも多くの結果を出しているだろうか。
テレワークは自宅とは限らない
通勤時間はストレスだが、自宅より会社のほうが仕事がしやすいという人もいるだろう。人によっては自宅で仕事をするのがいいとは限らない。自宅に小さい子供がいるとか、あるいは自宅だと気が散って仕事ができないなど、さまざまなケースがある。ここでお伝えしたいのは、テレワーク=在宅勤務とは限らないということだ。
最近では、あちこちにコワーキングスペースと称して、仕事がしやすいカフェスタイルのスペースもできているので、そこを利用する方法もある。一人暮らしだとしても、終日自宅に篭っているよりは健全ではないだろうか。那須塩原駅から1時間半ほど電車に乗ることを思えば、会社に行く必要がない日には、家のもっと近くで仕事をする方が時間の有効活用になろう。自宅近くで仕事をし、必要であれば昼間の買い物や、洗濯物の取り込みに帰ることもできる。通勤時間というストレスから開放される。iPad ProやSurface、MacBook Airなどさまざななモバイルデバイスがある時代、そんなワークスタイルも不思議ではない。