Flashがウェブの世界をリッチにし、没入感のある体験をもたらし、10年以上にわたってウェブの可能性を広げてきてくれたのはまぎれもない事実です。まずこの点に関して、ぼくたちウェブ・デベロッパーは、Flashの功績に感謝すべきです。
一方で、Flash固有の制約、それはAdobeのコントロールが強すぎて云々という青臭い議論よりも(結果として生み出されるもののクオリティさえ高ければいい)むしろ実際的な問題がたくさんあり、いよいよ問題の大きさがメリットを上回るようになったということでしょう。
たとえばプラットフォームのネイティブなルック&フィールを損なうことによるユーザ体験の一貫性の消失。これはもちろんクロス開発において本質的なトレードオフ要素なのだけど、過去にはJava Appletの失敗も含め、「Write once, run anywhereという標語はバックエンド開発では通用するが、UI開発ではうまくいかない」ということを、我々はそろそろ学ぶべきだとおもいます。
Flashは、最小限のUIしかともなわない、感性重視の、ベクターベースのアニメーションやビデオプレイヤーのようなアプリには良かったけれども、画面上にボタンやコントロールなどの要素をたくさん配置するプロダクティビティ系のアプリには、もうどうしようもないぐらい向いてませんでした。
さらに悪いことに、富豪的なCPUやメモリ利用がブラックボックスの内部で行われているために、その外側からは根本的な改善の余地がありません。たとえば、DalvikのGCで画面がフリーズするのが、ユーザ体験としてどのぐらい残念なものか、Androidの開発をしているUIデザイナーならご存知でしょう。GCはデスクトップでは通用したけれど、基本スペックが低く待ち時間への許容度も低いモバイル環境ではまだ時期尚早でした。
また、スマートフォン時代になるとプラットフォームが増えすぎて、端末ごとの性能差もどんどん開いていき、ランタイムであるFlash Playerのプロファイルを適切に管理することができず、どの端末でも中途半端にしか動作しないフルバージョンをなんとなく提供する状況が続きました。FlashプラグインをバンドルしてOEMするには、採用プロセッサに合わせてコンパイルして完全な動作確認をする必要があり、A5のような独自SoCを秘密裏に開発しているAppleには、その点ひとつとってもFlashの互換性保証がイノベーションを律速するという状況は受け入れられるものではなかった。
こうしたもろもろの状況が、つまりFlashのようなものへのニーズとストレスとのギャップがどんどん広がってきたことが、むしろHTML5を加速する燃料になった、ともいえるでしょう。
Mobile Flashというレガシーな選択肢が公式に消えたことで、ウェブの世界はさらなるHTML5へのフォーカスを強め、前進を加速するでしょう。そのことは、長い目でみればApp Storeというプロプライエタリなアプリ配布手段を回避する、という方向に働くことでしょう。Appleのような事業者にとっては「ただの土管屋」になってしまう明白なリスクがあり(この言葉、どこかで聞き覚えがありますね?)、経済的に痛し痒しの部分もあるでしょうが、デベロッパーと消費者にとっては望ましい未来に一歩近づいた、といえるでしょう。
2011-11-11 02:52:09