筆者は米CNETの新入り記者だ。専門は(懐かしの)テレビ。先日友人たちに「テレビで重視するものは何か」と聞いてみたが、まずは「テレビを持っているか」を聞くべきだったと反省した。現在では、そもそもテレビを持っていない友人が多い。
筆者はZ世代(1997年頃〜2012年頃に生まれた世代)の一員だ。筆者も友人たちも、エンターテインメントはテレビではなく、主にスマートフォンやノートPCといったパーソナルデバイスで消費してきた。ここ数年に借りた部屋を思い返しても、テレビがあった記憶はない。ルームメイトも筆者も、何かを視聴したいときはもっぱらノートPCで観ていた。
しかし、パーソナルデバイスも万能ではない。据置型ゲーム機で遊ぶために、あるいは仕事や学校でPCの画面は見飽きたという理由で、家ではテレビを使いたいと考える人もいる。それに、友人や家族とテレビ番組や映画を観るなら、小さい画面よりも大きい画面の方が都合がいい。
最近のデータを見る限り、Z世代のテレビ使用率が過去の世代よりも低いことは間違いない。しかしテレビメーカーも、若者の興味を引くような新機能をテレビに搭載しつつある。一部の専門家が指摘しているように、スマートフォンとテレビの融合が進み、例えばドラマや映画で見た商品をテレビで直接購入できるようになれば、若者がテレビを購入し、使用する動機付けになる可能性はある。
動画配信機材の設計・製造を手がけるBroadpeakによれば、米国、フランス、ブラジルの16~23歳を対象にした調査では、回答者の50%が番組の視聴には主にスマートフォンを使っていると回答した。次点はPCで30%、タブレットとテレビはそれぞれ10%にとどまった。
筆者は最初、これは「TikTok」や「Instagram」といった爆発的な人気を誇るソーシャルメディアはテレビでは視聴できないからだと考えていた。しかし不思議なことに、Z世代は今もかなりの時間をストリーミングコンテンツの視聴に費やしている。消費者調査会社のGWIによると、多くのZ世代は1日当たり約2時間をビデオストリーミングの視聴に費やしているという。つまり、映画やテレビ番組の消費が減っているわけではなく、視聴方法が変化しただけなのだ。
エンターテインメント/テレビ業界に特化した調査会社のHubは、「ストリーミング戦争」、つまり「どのコンテンツが消費されているか」に注目していると、「どのように消費されているか」という、さらに重要な視点を見失う恐れがあると指摘する。Hubのデータも、Broadpeakの調査結果と同様に、テレビ離れが急速に進んでいることを示している。
これはテレビメーカーやコンテンツ制作者にとって何を意味するのだろうか。
一部の番組制作者や映画配給会社は、スマートフォンに移行したZ世代にリーチするために変化に適応する道を選んだ。例えばParamountは映画「ミーン・ガールズ」の全編を23本の動画に分けてTikTokにアップロードした。
Hubの創業者で現在は代表を務めるJon Giegengack氏は、1日は24時間しかないため、ソーシャルメディアとストリーミング配信会社は若者の関心を奪い合っていると述べた。TikTokのようなソーシャルメディアは、何を観るかを決めるストレスがない。何も考えずにだらだらとコンテンツを観ていられるという手軽さがある。
テレビで「Netflix」を観るときは、何を観るか決めるために多少の時間をとられるとGiegengack氏は言う。それに対して、TikTokは即座にコンテンツを表示することでコンテンツの「発見プロセス」を省きつつ、独自のアルゴリズムで次に表示するコンテンツを調整している。
「TikTokのコンテンツ発見プロセスは、まさに発見プロセスがないという点で最高だと言えるかもしれない」とGiegengack氏は言う。
こうした手軽な視聴スタイルに、テレビはまだ追いつけていない。一部のストリーミングサービスは「シャッフル」モードを導入したが、ソーシャルメディアプラットフォームが提供するフリクションレスなエンターテインメントの魅力には及ばない。この機能は、すぐに満足感を得たがると言われるZ世代の特性にぴったりだ。
米国のコンシューマーテクノロジー業界団体Consumer Technology Association(CTA)のデータによると、18~26歳の若者は、上の世代よりもテレビの購入台数が大幅に少ない。米国におけるテクノロジー製品の所有状況に関する最新の調査(2023年)でも、成人全体のテレビ所有率は87%に上ったのに対し、この年齢層の若者のテレビ所有率は68%にとどまった。
こうした調査結果が示唆しているように、若い世代は総じて上の世代よりもテレビの前で過ごす時間が短い。しかし長編映画やスポーツの試合のように、テレビでの視聴が好まれるコンテンツもある。特に、複数人でコンテンツを楽しみたい場合はテレビを選ぶ人も多い。
今後1年間にテレビを購入する予定があるかという質問に対しては、18歳から26歳の若者の約3分の1が肯定的に回答した。この割合は他の世代と変わらない。この世代は今後、初めて家を買い、そこにテレビを置くことを検討する可能性が高いため、この結果は信憑性がある。
では、こうした若者がテレビに求めるものは何か。
CTAの調査を率いたJessica Boothe氏は、デバイス間の相互接続がさらに進むとみている。例えば1人のときはスマートフォンでコンテンツを見たい人も、友人と一緒のときはスマートフォンからテレビにキャストしたいと考えるだろう。
Appleの「AirPlay」のような画面共有・ミラーリング技術は、デバイス間の相互接続の1つの形であり、すでに広く使われている。スマートフォンやノートPCの画面をテレビにキャストするメリットは、追加のデバイスを用意する必要なく、すぐ簡単に設定できることだ。
Boothe氏はさらに、テレビのインタラクティブ機能も充実していくと見る。Eコマースやテレビから直接買い物ができるサービスの拡大はその一例だ。昔からあるインフォマーシャルを想像するかもしれないが、Boothe氏が言っているのはテレビ番組や映画に登場した商品を直接購入できる機能だ。例えば、ドラマ「エミリー、パリに行く」に登場したブーツが気に入ったら、それを直接テレビから購入できる。実際、TikTokには最近、同じような機能を持つ「Shop」タブが追加された。
「『エミリー、パリに行く』を見ていて、主人公のファッションが気に入ったら、同じ財布、同じ靴をその場で購入できるようになる」とBoothe氏は言う。
テクノロジー企業Brightlineの調査では、回答者の75%が通常のコマーシャルよりもインタラクティブなテレビ広告の方が好ましいと回答した。視聴者が求めているのは、単にパーソナライズされた広告ではない。一方的に見せられる広告ではなく、自分が能動的に関与できる広告だ。例えばスポーツの試合結果をテレビで予想するといった機能が一般的になる可能性もある。
「テレビを使って自分好みの冒険を作り上げるようなものだ」とBoothe氏は言う。
Boothe氏は、Hubの創業者と同じように、テレビが家庭の「ハブ」、つまり中心的な司令塔となって、洗濯機やRingのドアベルシステムなどを制御できるようになれば、Z世代のテレビ依存度は高まる可能性があると述べる。こうした機能を持つテレビはすでに存在する。
テレビ自体にモバイルコンテンツに適した要素を取り入れるという手もある。サムスンは数年前に、回転させると縦長の動画も表示できる薄型テレビ「Sero」を発表した。この43インチのテレビは、いわば大きなスマートフォンであり、TikTokのような縦型のソーシャルメディアコンテンツを視聴できる。サムスンによれば、Seroは「モバイル世代向けに設計」されたテレビだった。
Seroはヒットこそしなかったが、その設計はデバイス間の相互接続というアイデアの核心を突くものだった。そしてデバイス間の相互接続は、今後数年間に若者が最も重視するようになると業界の専門家が予測しているものにほかならない。
現在、筆者の自宅にはテレビがある。これは前のルームメイトが引っ越したときに残していったもので、まったくの偶然だ。このテレビを観ることはめったにない。筆者はエンタメコンテンツを観るときも、実用的な作業をするときもスマートフォンを使う。もっと言えば、スマートフォンしか使わない。しかしテレビの技術や機能は進歩しつつあるため、生活の中でテレビが果たし得る役割や機能を見直しているところだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス