「ファンマーケティング」という言葉をご存知だろうか?ーー。不特定多数の消費者を商品の購買やサービスの利用に誘導する従来の考えとは反対に、一部の熱狂的なファンに、繰り返し商品を購買したり、サービスを利用してもらったりすることを目指すマーケティング手法のことだ。
4月にヤプリが開催したイベント「Mobile Marketing Update 2019」では、ファンマーケティングが大きなキーワードになっていた。イベントを締めくくるトークセッション「ファンマーケティングの実現とテクノロジーの活用」では、ヤッホーブルーイング、プロントコーポレーション、H&M Japanのマーケティング担当者が登場し、それぞれのファンマーケティングへの取り組みと狙いを語った。
ファンマーケティングの背景には「パレートの法則」という経験則がある。「80:20の法則」とも呼ぶもので、例えばある小売店舗で「売上の8割は、商品全種類のうち2割が生み出している」というように、成果の大部分を全体の一部が生み出していることを指すものだ。
ほかにも「故障の8割は部品全体のうち2割に原因が集中する」「プログラム中のバグが潜む部分はソースコード全体の20%に集中する」など、経済や社会現象、自然現象などさまざまな事象に当てはまるものだ。「会社の売上の8割は、全従業員のうち2割があげている」と言われればピンとくる読者もいるのではないだろうか。
パレートの法則を商品の小売に当てはめると、「80%の売上は20%の熱狂的なファンがもたらしてくれる」ということになる。新規開拓よりも既存の顧客、それも熱狂的なファンに向けてさまざまな活動を進めることがファンマーケティングと言えるだろう。
トークセッションには、ヤッホーブルーイング ファンマーケターの田美智子氏、プロントコーポレーション 営業本部 営業企画部の矢野純子氏、H&M Japan メディアマネージャー 兼 H&M MEMBERマネージャーの田原美穂氏の3名が参加し、各社の状況について語った。モデレーターはヤプリ 執行役員 CCO 兼 エバンジェリストの金子洋平氏が務めた。
ヤッホーブルーイングの田氏は、同社のマーケティング活動の中心にファンマーケティングを置いていると語る。今でこそ「よなよなエール」で全国的な知名度を得ているが、1997年の創業直後は経営が安定せず、倒産してしまいそうな状態だったという。その状況でずっと支えてくれたのが熱狂的なファンだったと田氏は語る。それ以来、「大切にすべき存在はファン」という意識が会社全体に根付いているそうだ。
そのヤッホーブルーイングでは、同社の商品を指名買いするだけでなく、その商品を友人や身近な知人に推奨してくれる層を「ファン」と呼んでいるという。田氏は「ヤッホーブルーイングという会社自体を好きになってくれていて、会社が出す製品のストーリーなどに共感してくれて、それを友人や知人に語ってくれる」と付け加える。
つまり、同社ではファンマーケティングを推進し、ファンを増やすことで、そのファンが新規顧客を呼んできてくれるのだ。ちなみに同社のファンは、ファン自身の手で同社の商品に関するファンイベントを開催してしまうほど熱狂的だという。
そして田氏によると、一般的な消費者が同社のファンになる入り口は、やはり同社最大のヒット商品である「よなよなエール」だという。友人などからもらったり、たまたま店舗に置いてあったものを買うことで、よなよなエールという製品を知り、気に入って繰り返し購入するようになる。すると、同社が運営しているレストラン「よなよなビアワークス」に足を運び、オウンドメディアの記事を読み、FacebookやTwitterでフォローする層が現れる。
この段階に達すると、ヤッホーブルーイングが販売している商品は、よなよなエールだけではないということを知り、ヤッホーブルーイングという会社のファンになっていくという。
ヤッホーブルーイングは、同社の商品に興味を持ってくれた消費者を「ファン」に育て上げるために、オウンドメディアやTwitter、Facebookのほかに、醸造所の見学ツアーや、数千人のファンが集まって同社の商品を飲んで楽しむイベント「超宴」などを開催している。熱狂的なファンとともに醸造所の見学や、超宴などに参加し、一体となって楽しむことで、ヤッホーブルーイングという会社のファンになってくれることを狙っている。
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