freeeとマネーフォワードによる、クラウド会計ソフト企業同士の特許訴訟は、第一審判決ではマネーフォワード側の勝訴が確定した。
争点になったのは、勘定科目の自動仕訳機能。例えば、「JR」と入力すれば勘定科目に「旅費交通費」と表示され、「三越伊勢丹」と入力すれば「消耗品」など、自動で勘定科目を提案してくれる。裁判では、freeeが主張した「対応テーブル」「優先ルール」と、マネーフォワード側の機械学習による自動仕訳機能による技術的差異から、freeeの請求を棄却している。ただし、freeeによると、争点はそこではないという。
今回の特許訴訟について、なぜ提訴に踏み切ったのか、判決結果についてどう考えているのかを、freee代表取締役の佐々木大輔氏と、同社法務本部長の桑名直樹氏に聞いた。
――今回の裁判ですが、ベンチャー同士の訴訟というのは前例も少なく注目度も高かったと思います。判決結果に対してどのように感じていますか。
佐々木氏 請求が棄却されたことは残念でした。我々は、独自技術に投資し、ユーザーに価値を届けることに非常にこだわっています。ですので、今回は認められませんでしたが、合理的に認めらた権利は、合理的な範囲内で主張していこうと考えています。もう一つは、日本のスタートアップでは、知的財産や企業の創意工夫への関心が薄いことです。ここへの問題提起という側面もあります。
全体的なソフトウェア産業が成熟していない中で、スタートアップは手も投資も回っていない状況です。そうすると、結局損するのはスタートアップです。自分たちのコアになっているところは、知財戦略を考えても良いと思います。
今回の提訴により、「もっと独自技術に投資して、守れるものは守ることでスタートアップのビジネスを強くしていこう」という機運は高まってきています。そこは一つ意義があったと思います。
――今回争点になっている自動仕訳機能ですが、対応テーブルという考え方は以前から存在していてもおかしくない発想かと思いますが、特許の有効性はどの程度あると考えますか。
佐々木氏 後から思えば当たり前のイノベーションはたくさんあると思います。例えば、iPhoneのバウンススクロール特許もそうです。これ以上ページがない場合に、跳ね返ってくる画面の挙動を指しますが、当たり前と思われているこの挙動も特許なんです。その時点で、会計ソフトで実現しようとしていた技術は、皆さんが本当に思いつくものだったのか、そういったことは、特許を考えるときには常に付きまといます。後から考えたら当たり前のことは色々とイノベーションにつながっています。
今回の裁判は、“機械学習 VS 対応テーブル”と主張されていますが、そこには語弊があります。freeeは機械学習も活用していますし、会計ソフトで機械学習を使った自動仕訳機能の特許を持っています。今回、それは争点にはなっておらず、もう一つ手前にある「自動仕訳をするかしないか」というコアの部分、自動仕訳そのものの考え方に関する特許です。機械学習をするかどうかで争っていないのです。
桑名氏 我々は、自動仕訳そのものと機械学習を使った自動仕訳に関する2つの特許を持っています。ここで我々の主張として言いやすかったのが、機械学習ではなく自動仕訳の方でしたので、初めからそれを主張していました。
――機械学習に関する特許を主張しなかったのはなぜでしょうか。
桑名氏 マネーフォワードの動作を調査し、2つのうちどちらのパターンに近いかを分析したところ、機械学習よりは自動仕訳が近いと判断したこと、またそちらのほうが裁判所にも理解してもらいやすいだろうということで、自動仕訳に関する特許を主張しました。
すると、マネーフォワード側は対応テーブルではなく機械学習だと主張してきましたので、機械学習に関する特許を主張しようとしました。ところが、マネーフォワード側が裁判を急いでいる事情があり、ある程度時間が経った後で反論してきたことから、我々の再反論が遅くなってしまいました。そのため、もう一つの特許に関しては、裁判の手続きに乗りませんでした。裁判は、いつでも主張できるものではないのです。
――もう一つの特許提出が遅くなったのはなぜでしょうか。
桑名氏 当初は主張として不要だと考えていました。しかし、訴訟の進行上に対応して主張するに至りました。
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