企業が生活者とコミュニケーションしていくには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
Metro Trainsの事故防止啓発キャンペーン「Dumb Ways to Die(おバカな死に方)」のストーリーには、人の心を動かすストーリーがありました。
Metro Trainsはオーストラリアのメルボルンにある鉄道会社。踏み切りを無視してわたったり、勝手に線路に降りたりするのが危ないことはわかっている筈なのに、そんなバカげたことで事故死する人間が絶えず、増加傾向にさえありました。
そこで、少しでも電車関係の事故を減らすべく実施されたのがこのキャンペーンです。中心になるのは、ユーチューブやフェイスブックなどにアップされた3分あまりの動画。軽快で耳に残る音楽にのって、ジェリービーンズ風のかわいらしいキャラクターが次々と現れます。
しかし、彼らはすべて、非常におバカな死に方をしてしまうのです。「髪の毛に火をつける」「クマを棒でつつく」「賞味期限切れの薬を飲む」「トーストをフォークで取り出す」などです。
かわいらしいキャラクターの死に方はどんどんエスカレートしていき、「ネットで自分の腎臓を両方売っちゃう」「瞬間接着剤を食べる」「狩りのシーズンにシカの格好をする」「大した理由もないのにスズメバチの巣をもて遊ぶ」などなど、どんどんブラックになっていきます。
そして曲が最後に近づくと、「駅でホームの端にたつ」「踏み切りが閉まっているのに無視して進む」「プラットホームから線路をわたろうとする」などといった、鉄道に関するよくある事故死のパターンを紹介します。
そして「結局、こういうのが一番おバカな死に方」だとまとめて終わります。
この動画がアップされると同時に大きな話題になりました。ユーチューブでの再生回数は5000万回を越え、フェイスブックでのシェアは300万回以上を数えたのです。キャンペーンソングはヒットチャートでランキング入りし、パロディソングも何百も生まれました。
ではこのキャンペーンの何が、多くの生活者を魅了したのでしょう?
何よりも、受け手に「自分と関係ある」と思ってもらうようなストーリーを組み立てたことが成功の要因でした。普通に「危険や恐怖訴求」をしても響かないところを、「おバカ」という笑える表現にしたことが効きました。自分の「死」には実感がわからなくても、人から「おバカ」と言われることには敏感な若者には、特に心に刺ったのです。
もちろん、音楽とアニメーションの魅力は言うまでもありません。一度聞いたら忘れられないメロディと、キャラクターのかわいらしさ。それに相反するようなブラックユーモアな内容はインパクトがありました。
また、シェアしやすい環境を整えたことも、口コミが広がっていった大きな要因になりました。ウェブサイトで曲がダウンロードできたり、スマホでのゲームアプリがあることはもちろん、この歌や動画のコピーやパロディなどもすべて許容しました。
また、駅構内での動画キャラを使った広告や、絵本やラジオ局への無料配信など、ネット以外のメディアにも広げていくことで幅広い年代へ訴求しました。
その結果、同鉄道内での事故は21%も減ったといいます。
さらに、2013年7月に開催されたカンヌライオンズでは「ダイレクト」「PR」「ラジオ」「フィルム」「インテグレーテッド」5部門でのグランプリを含め28もの部門で賞を取り、史上最高に成功したウェブ動画キャンペーンと呼ばれるまでになったのです。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力