長年に渡り、携帯電話研究家、移動体通信ジャーナリストとしてケータイ業界をウォッチしてきました。最近では大学教育に関わる立場となったことから、少し視野を広げてモバイル動向に注目してきました。そんな筆者が気になった10のキーワードをお送りします。
2010年1月から施行された、全国でも初めてとなる子どもたちのケータイ所持を禁止する条例です。小中学生に防災や犯罪防止以外の目的でケータイを持たせないようにする保護者への努力義務を盛り込んだもの(「第三十三条の二」参照)で、罰則こそありませんが、子どもがケータイを所持すること自体が「悪いこと」というレッテルを貼られてしまったようなものです。子どものケータイ所持の賛否は各所で議論が繰り広げられていますが、では何歳になったら所持すればよいのかという結論もありません。いずれにしても大人になったらケータイはなくてはならないもの。どこかのタイミングでケータイデビューは必要です。それを条例で規制するのはいかがなものでしょうか。
実際に石川県で聞いた話ですが、かつては「e-ネットキャラバン」などが「ケータイ教室」などの講習会を展開していたものの、この条例が施行されてからはその実施件数が激減しているとのこと。つまり、小中学生がケータイを持たないことが基本となったのだから「教育も必要ない」ととらえられているわけです。子どもたちのメディアリテラシ教育を怠り、危険を先送りしているだけ。これでよいのでしょうか。
この端末の登場も衝撃的でした。私は以前から「ケータイ形状のバリエーションは今後格段に増えていく」ということを各所で論じてきたものの、少なくとも2009年までは大半が折りたたみ型の似通ったケータイばかり。そんな中、ようやく一般の消費者にも受け入れられる「これまでになかったケータイの形状」が出てきたわけです。このタブレット型は、その後各社が競うように商品化し、今後続々とラインアップが増えていくと思われます。要するに、わが国のケータイは、あの折りたたみ形状の中に「いかに機能を詰め込むか」で勝負していたのですが、ようやくその考え方が時代にそぐわなくなってきたことを気づかせてくれた端末といえます。今後は利用目的別に使いやすい、機能の絞られた端末を組み合わせて使うという流れに変わっていくでしょう。
わが国のケータイは、いつのまにかがんじがらめにSIMロックがかけられ、他の通信事業者で端末を使うこと自体「悪しきこと」のようなレッテルを貼られるようになってしまいました。少なくとも1990年代のケータイ黎明期は、メーカーブランド端末も存在していましたし、一度解約した端末を他の通信事業者に持ち込んでも、快く回線契約させてもらえました。やはりSIMロックにここまでこだわるのは、端末と回線契約を抱き合わせにしたインセンティブ販売にあるわけで、オープン化を目指したい総務省と通信業界との攻防がこの数年繰り広げられてきました。この議論に一定の結論を下したのが、このSIMロックの原則解除に向けた動きです。いよいよ2011年春からSIMロックに悩まされなくなるわけです。
1年に1機種ずつ新機種を投入してくるアップル。そして2010年のモデルは4世代目となるiPhone 4でした。その人気は一段と加速するばかりで、販売台数を確実に伸ばしているようです。IDC Japanによれば、2010年第3四半期における国内ケータイ端末シェアで、アップルがなんと5位まで追い上げてきました。でもよく考えてみてください。上位のシャープ、パナソニック、富士通、京セラは1年間でいったい何機種を市場に送り出しての結果なのでしょうか。対するアップルはiPhone 4のみ。機能や数字的なスペックがヒットの要因にはなっていないということに、早くに日本のメーカーは気づくべきです。
MVNOの老舗であった日本通信が、本気を出してきた1年でした。かつてはビジネス向けのデータカードなどが主体でしたが、グローバル化、オープン化という時代の流れに敏感に対応した商材を展開。つまりわが国でおそらく初めて、SIMカード単体を堂々と販売開始したのです(各キャリアでも、決して不可能ではなかったですがイレギュラー扱いです)。SIMフリーiPhoneの並行輸入や、併売店とのタッグなど、これまでの日本のケータイ業界の商習慣に習わないやり方で、地道にユーザーの支持を得ているようです。
ついに続々と、国内メーカーからスマートフォンが登場してきました。その大半がAndroidを搭載しています。ケータイの形状、操作インターフェースが、今後大きく変わっていくことでしょう。iPhoneのヒットがきっかけとなり、日本のケータイ業界の流れが大きく変わりだしたことを象徴するようなことでした。
こんなキーワードも、かつての日本ではまったく知られていなかったのですが、「Pocket WiFi」に代表されるモバイルWi-Fiルータの登場によって、Wi-Fi環境を持ち歩くという使い方が広く認知されるようになりました。さらにスマートフォンにはテザリングという機能があり、3Gデータ通信の定額料金の中でWi-Fi等を通じてPCなどからデータ通信が可能であることも認知されるようになりました。一方、米国の一部通信キャリアなどでは、こうしたテザリングがパケット定額の維持を揺るがし始めているようです。
ケータイのGPS機能を活用したゲームや、コミュニティが話題になった年でもありました。古くから位置ゲーとして知られてきた「コロプラ」がさまざまなイベント展開で大きく脚光を集めたほか、海外からは「Foursquare」に代表される位置情報を使ったSNSがブームとなり、日本でもユーザーが加速的に増えていきました。こうした流れに乗ろうと、NTTコミュニケーションズも「ロケティ」という類似サービスを展開しました。位置情報のエンタメ活用は2011年以降も話題が多そうです。
Android搭載のスマートフォンで、世界的ヒットを飛ばしたのがサムスン電子製の「Galaxy S」。日本でもNTTドコモが発売開始するやいなや、ずっと品薄で入荷未定の状態が続いています。日本では、「外国メーカー製端末は売れない」というジンクスがありましたが、これを見事に覆してくれました。やはり「使いやすい端末」はちゃんとユーザーに受け入れられるのですね。
日本でもようやく、電子書籍や電子教科書をどのように展開すべきかという議論が始まりました。電子書籍に関しては、すでにさまざまな販売プラットフォームが名乗りを挙げていますが、いわば書店にあたるこうした販売プラットフォームがたくさんありすぎるのも疑問ですね。また電子教科書に関しては、議論は始まったものの、具体的なものが見えてくるのはいつのことやら。一方、こうしたプラットフォームは韓国が2歩も3歩も先を進んでいます。今年は2度、韓国の電子書籍・電子教科書事情を取材する機会を得ました。現地に行って一番驚いたのは、学校における情報活用の考え方の違い。電子教科書は2011年から全学導入、さらに2013年目標に1人1台のタブレットPC配備だそうです。ケータイを子どもたちから取り上げようとする日本とは対照的に、韓国ではデジタルツールを教育に有効活用していこうという真剣な取り組みをしているのです。
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、2000年には(株)アスキーの携帯電話情報サイト『携帯24』を立ち上げ同ウェブ編集長に。 2002年5月にアスキーを退職し、コンテンツ開発会社広報担当マネージャーを経て、2004年11月に携帯電話研究家として独立。ユーザー視点からのケータイ関連記事の執筆、著作、番組企画、出演などをこなす。近著に『最新携帯電話業界の動向とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)など。1000台を超えるケータイのコレクションも保有している。木暮祐一オフィシャルサイト
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