真実とは奇妙な言葉である。この言葉からは、経験的事実や正しさというものが想起される。
しかし、真実とはそういったものではない。真実とは主観的なもの、すなわち知識や経験、コンテキスト、偏見の混じり合ったものなのである。このため、ITのように幅広く、かつ複雑なトピックについての「真実」を概括しようとする試みは、思い上がった、あるいはそれ以上にひどい行為として捉えられるおそれがあるということは承知している。
とは言うものの、目を凝らして見てみると、複雑さの中からいくつかのパターンが浮き上がってくる。筆者にとって、こういったパターンは(核心を突いたものとは言えないまでも)真実に限りなく近いストーリーを語りかけてくる存在と言える。
では、こういったエンタープライズITの真実とはどのようなものなのだろうか?
筆者の観点から見た真実は、以下の8つとなる。
複雑なソフトウェアシステムがずっと変更されない、あるいは当初考えられていた姿からまったく形を変えないということはまずあり得ないはずだ。パッチの適用や、更新、IT要員によるチューニングや手直し、ちょっとした変更によって、システムは時とともに変化し、別な形に姿を変えていくことになる。そして、こういった変化が管理されることは滅多にないため、稼働しているシステムの正確な仕様が把握されることもほとんどないというわけだ。つまり、システムは配備された段階ですでに不透明なものとなっており、時とともに不可解な存在になっていくのである。
ITの世界で変更が恐れられ、そして避けられている理由は、「意図せざる結果の法則」がデータセンターを脅かしているためである。この法則が成立する背景には、配備されたシステムやその依存関係が明確に文書化されていないという現実がある。つまり、変更を行うと何かが壊れるというわけである。こういった現状があるため、ITの世界では変更が忌み嫌われ、「壊れていないものを直そうとするな」というRoss Perot氏(訳注:米国の実業家、EDSの起業やNeXTへの出資などIT分野で活躍)の路線を実践するようになるわけだ。
コンピューティング機材のコストが低下するとともに、人的資源に対する要求が増大していく。仮想化環境の普及に伴い、その管理コストが増大しているのは、こういった力が働いているためである。ITも自然と同様に真空を嫌うのだ。このため何らかの利用可能な空間が生み出されると、それはあっという間に埋め尽くされることになる(Perot氏であれば、「巨大な吸引音」がすると表現するかもしれない(訳注:同氏は北米自由貿易協定の締結反対を主張した際、メキシコが米国の雇用を飲み込もうとする「巨大な吸引音」に耳を傾けるべきだと発言した))。
エンタープライズITは、否が応でも市場で他社製品と競うことになる。他社製品が価格や性能、可用性に優れている場合、顧客は最小抵抗経路の法則に従い、その製品に向かって流れていく(訳注:最小抵抗経路の法則とは、水や電流が流れる際に、最も抵抗の少ない経路が選択されるという性質を述べた法則である)。パブリッククラウドは、この法則の端的な発現例と言えるだろう。つまり、自らを変革できないIT企業は、最小抵抗経路を通じてクラウドに向かう顧客を、為す術もなく見ているしかないというわけである。
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