ラジオ広告ビジネスを率いていた2人の人物が先ごろGoogleを去った。業界では今、旧態依然とした市場規模200億ドルのラジオ業界をGoogleが手中に収めることができるのか、疑問視する声が上がっている。
ラジオ放送局は、実入りの良い放送時間枠を明け渡そうとは考えないだろう。そのため、Googleの自動広告入札システム(広告主がウェブを利用してラジオ局の広告枠を入札するシステム)は、タイムリミット寸前の安価な広告枠を販売するのに向いていると専門家らは述べる。しかし、その一方でGoogleはより多くのラジオ局と契約する必要があるとも言われている。
これまで人脈や地域情報に依存するビジネス文化を作り上げてきた業界に、自動化されたアプローチを全国的な規模で適用することがいかに難しいかを、Googleは痛感してきた。このビジネスでターゲットとなる広告主はIBMのような多国籍企業ではなく、地域のカーディーラーなどだ。
匿名希望のある業界インサイダーは「これはまさにハイテク文化とローテク文化の衝突だ」と表現する。
Googleがこれまで取引してきたインターネット広告の顧客が、ラジオ広告に手をつけるようになるのだろうかと、疑問視する声もある。ラジオ業界は地域のマーケティングに依存しているのに対し、Googleのインターネット広告を利用する顧客は、世界を股にかけた商売をしている。
Greater Media DetroitのシニアバイスプレジデントTom Bender氏は「サイバースペースより地域の中で需要を呼び起こすことの方が簡単だ」と述べる。Greater Media DetroitはGoogleが販売した広告を取り扱うラジオ放送局を複数運営する。「ラジオはローカルビジネスだ。(Googleの)話の中で忘れられていることの1つは、ラジオ業界の売り上げの大部分、つまりラジオ業界に流れ込むお金の80%ほどは、地域を対象に使われているということだろう」(Bender氏)
Googleはラジオ向けの自動広告システム「Google Audio Ads」のテストを2006年12月に開始している。テストに参加できる企業は、Googleから招待されたAdWordsの利用顧客に限定されている。このシステムにはGoogleが2006年1月に取得した企業で、ラジオ広告のスケジューリングシステムを提供していたdMarc Broadcastingの技術が利用されている。Googleは現在、全米200の市場に存在する700のラジオ局と取り引きしているが、米国では1万局以上のラジオ局が認可されている。
報道によると、GoogleはCBSと、CBSの所有する150のラジオ局向けに広告を販売する交渉を進めているという。交渉が実れば、Googleのラジオ業界での取り組みは大きく前進する。なお、GoogleとCBSの関係者はコメントを控えている。
多くのラジオ局は、Googleの入札システムによってラジオ広告が手ごろになってしまうことを恐れている。そんなラジオ局の心配をよそに、dMarcを創業したChad Steelberg氏とRyan Steelberg氏が先ごろGoogleを去るまでは、Googleの事業は順調に推移しているようにも思われていた。Steelberg兄弟がGoogleに会社を売却してからちょうど1年が経つ。両氏およびGoogleから、Steelberg兄弟の退職に関するコメントは得られなかった。
広告会社Publicis Groupeでラジオ広告の購入を手がけるMedia VestのシニアバイスプレジデントMaribeth Papuga氏は、Googleがラジオで成功するか否かについて「疑問が残る。ラジオ局との関係作りを進めるうえで、何らかの価値の提供が求められるからだ。ラジオを対象とした人脈がなければ・・・低い位置に成った果物を手に入れられるかもしれないが、それを成長させることは難しいだろう」と言う。「全米で生き残るプレーヤーになるには、十分な数の市場やラジオ局との提携を幅広く獲得する必要がある」
Googleのテストに参加する複数のラジオ局の幹部らは、dMarcの創業者らが退職したことに特に関心はないという。さらに、Googleを長期的に利用することに決めたわけでもないと述べる。
セントルイスの2局、ロサンゼルスの2局、テキサス州オースチンの6局でGoogleの広告を利用するEmmis RadioのプレジデントRick Cummings氏はAdSense for Audioのテストは「順調に進んでいる。もっとも、われわれはこれに多額の資金をつぎ込んでいるわけでもない。比率は非常に小さなものだ」と述べる。
ラジオ局は売れ残った在庫の広告枠を、タイムリミット寸前に割引価格で販売するが、Googleに提供されているのはこうした広告枠だとCummings氏は述べる。実入りの良い在庫は、従来の広告チャネルを利用して、たとえばパッケージ販売したりプロモーション契約を結んだりする方が、高い価格で取引できるので、Googleには提供しないと、Cumming氏やそのほかの業界関係者らは付け加える。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」