小池:インターネットが出てきた時、さまざまなビジネスモデルが多数出てきたよね。結局、過去に誰もやったことがなかったから、あるいは存在しなかったマーケットだったから、さまざまなアサンプション(仮説)を立てて、そのアセンプションに対する検証作業が行われてきたのが90年代からバブル崩壊までだと思う。
そこでそのアサンプションがある程度検証されたものの中で、一番ビジネスになっているのが広告モデル。だからビジネスプランに広告モデルを主体に書いておけば、それは唯一検証されているビジネスモデルだから、確かにベンチャーキャピタルに持ってくるビジネスプランには広告モデルは多いですよ。
ただ、「ああ、こういうモデルもあったのか」というような面白いモデルもあることは確かで、今僕はどちらかというとイノベーティブな面白いものに投資していますし。
前刀:そこが出てくるともっと面白くなると思うよ。
それと例えば、最近「これからはCGMを中心にビジネスを展開していきますよ」って社長さんがよく語ったりするけど、「それはビジョンじゃないでしょう」と突っ込みを入れたくなる。その時の流行り言葉みたいなものを持ってして、それを事業と捉えている。
こういう発想は確かにお金も付きやすいけれど、とにかく「Web 2.0」だなんだと言えば誰でも飛び付いてくるみたいな、短絡的な状態にあると思うんですよ。なんかそういうことに対して、どちらかというと投げかけをしたい。「本質的にそこにどういう価値の創造があるのか」「どういうベネフィットが得られるようになるのか」「どういう進歩があるのか」――ってね。
小池:確かに、ある意味でWeb 2.0という言葉は今、シリコンバレー、サンドヒルロードあたりでは絶対使わないパスワードになっているし、いまさらという感じだし。遅れてきているから日本は今騒いでいるけれどもね。
技術の進歩とかそういうのもあるんだろうけれども、僕がアメリカにいた時にAT&Tが「YouWill」っていうテレビコマーシャルをやっていたんです。80年代の終わりか90年代の初めぐらいかな。「YouWill」っていうのは、AT&Tが未来をつくりますよ、みたいなコマーシャルで、要は携帯テレビ電話みたいなサービス。今普通にできていることがほんの15年ぐらい前はそれこそフューチャーだった。
例えば、MITのメディアラボでニコラス・ネグロポンテ所長が言っていたようなテレビの未来みたいなものって、もう今、現実にあるわけですよね。そういった意味では、やっぱり時代は進んでいるんだろうなと思うし、それが進んでいると思わずに、当然のごとくそこにあると思っている人たちが、今ユーザーのマジョリティーになっている。
だからそういった意味では、この10年、20年の進歩というか、それをリアルタイムで見てきた我々にとっては、「まだ広告かよ」っていうのはあるかもしれない(笑)。
ただ、いろんな意味で例えば同じ広告とかマーケティングとかいっても、かなり昔の教科書には書かれていないパターンというのが数多く生まれてきていることは確かだよね。 例えば、僕が支援した会社で、アイスタイルという会社があって、「@cosme」という化粧品の商品比較サービスをやっている。あそこは化粧品のくちコミポータルから始まって、ECとかさまざまなことをやっているんだけれども、ある意味で、化粧品メーカーが@cosmeを無視しては新商品を出せないぐらい影響力を持つようなサイトになった。でも、実は化粧品を買っている人たちっていうのは、インターネットにアクセスするような若い人だけじゃない。
実は、慶應義塾大学の國領二郎教授が@cosmeと一緒に、くちコミのマーケティング効果について、結局最終的に化粧品を買っている人たちがその@cosmeにどういうふうに影響を受けたかを全部調査したわけです。大体@cosmeの掲示板でアクティブにいろいろ書いたりしている人たちっていうのは、そんなパーセンテージはいないんです。ほとんどがROM(Read Only Member)という掲示板を見るだけの人ですよね。
その人たちが実はネットの世界で、例えば「今度のこの何とかっていう化粧品がちょっとしみ取りにいいのよ」とか、「アンチエイジングでいいのよ」とネットを触ったこともないお母さんに言って、それがまた近所のおばさんに言ってみたいな広がりを見せている。
ですから、実際に購買している人たちは実はネットで@cosmeにアクセスしていつも見ている人よりも、全然関係ない人がその影響を受けて買っている率が多いとか、そういういろいろな調査結果とかもあるんですよ。
ネットそのものじゃなくて、要はリアルとバーチャルの融合とかいろいろなことを言われるけれども、なんか今の購買活動、マーケティング活動、プロモーションその他含めて、生活の1つひとつにおいてもそういう影響というのはすごくある。なおかつそれをうまく使うことによって、新しいマーケティングスキームができるんです。
前刀:そうそう。だから、マーケティングをやってきた人間としてそれを言いたいわけよ。例えば@cosmeみたいなのはすごくありなわけ。なぜなら、そこに深く突き刺さっているから。ところが、Yahoo!やmixiはこんなにユーザーがたくさんいます、こんなにページビューがあります――とやるのは、マスメディアだろうと。もはやテレビと変わらないわけ。だから、実際にそういうところに広告を出したこともあったけれども、効果なし。ほとんど駄目。だから、今まさに小池さんが言ったみたいに、リアルのところまで含めたそういう全体のことですよね、重要なことは。
だから、ネットであってオールドメディアを否定するとか、「いや、これからはテレビじゃなくてネットですよ」とか、そういう発想が僕は違うと思うわけです。
実際の生活、ユーザーに対してどのタイミングで何をするのか。本当の意味では、ライフスタイルの中におけるコンテクストマーケティングがきちっとできると面白いと思うわけです。だからそういうことを考えたいと思う。
そういう意味で今のネットベンチャーをやっている人たちは、もっと深く実際に実効性のあるマーケティングアプローチはどんなものか、それによって得られるバリューを上げていってクライアントを取っていくみたいなところ、それをどこかとコラボしてやっていくとか、そういうところまで視野を広く持ってやっていくべきではないのかなというのがあります。
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