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活性酸素

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活性酸素種から転送)

活性酸素(かっせいさんそ、: Reactive Oxygen Species, ROS)とは、大気中に含まれる酸素分子が、より反応性の高い化合物に変化したものの総称である[1]。一般的にスーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシドイオン)、ヒドロキシルラジカル過酸化水素(ペルオキシドイオン)、一重項酸素の4種類とされる[1]

活性酸素は、酸素分子が不対電子を捕獲することによって、スーパーオキシド過酸化水素ヒドロキシルラジカル、という順に生成する[2]。スーパーオキシドは酸素分子から生成される最初の還元体であり、他の活性酸素の前駆体であり、生体にとって重要な役割を持つ一酸化窒素と反応してその作用を消滅させる[3]。活性酸素の中でもヒドロキシルラジカルは、極めて反応性が高いラジカルであり、活性酸素による多くの生体損傷は、ヒドロキシルラジカルによるものとされている[4]

過酸化水素の反応性はそれほど高くなく、生体温度では安定しているが、金属イオンや光により容易に分解して、ヒドロキシルラジカルを生成する[5]。活性酸素は1 日に細胞あたり約10 億個発生し、これに対して生体の活性酸素消去能力(抗酸化機能)が働くものの活性酸素は細胞内のDNAを損傷し、平常の生活でもDNA 損傷の数は細胞あたり一日数万から数10 万個になるが、DNA 損傷はすぐに修復される(DNA修復[6]

活性酸素の種類

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活性酸素には、フリーラジカルとそうでないものがある。スーパーオキシドアニオンラジカルやヒドロキシルラジカルはフリーラジカルである。過酸化水素一重項酸素はフリーラジカルではない。広義の活性酸素には一酸化窒素二酸化窒素オゾン過酸化脂質を含む。

ラジカル (+)[7]
スーパーオキシド
ヒドロキシルラジカル
ヒドロペルオキシラジカル
ペルオキシラジカル
アルコキシラジカル
二酸化窒素
一酸化窒素
チイル/ペルチイルラジカル
1重項酸素
ラジカル (-)[7]
過酸化水素
1重項酸素
膜質ヒドロペルオキシド
次亜塩素酸
オゾン
ペルオキシ亜硝酸

活性酸素と人体の関係

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多くの好気性生物は、生命維持に必要なエネルギーを得るため、ミトコンドリアで絶えず酸素を消費している[8]。これらの酸素の一部は、代謝過程において活性酸素と呼ばれる反応性が高い状態に変換されることがある[9][10][信頼性要検証]。 呼吸鎖で活性酸素を生成するのは、主にミトコンドリア中の電子伝達系の複合体Ⅲにおける反応である。

  • ユビキノール+2シトクロムc3++2H+in → ユビキノン+2シトクロムc2++4H+out

ユビキノン(Q)は複合体Ⅰ(NADH-CoQレダクターゼ)または複合体Ⅱ(コハク酸-CoQレダクターゼ)によって還元されてユビキノール(QH2)となる。QH2は引き続いて1電子酸化を行ってユビセミキノン(・Q-)へ、さらにもう1電子酸化を行って元の酸化状態のユビキノン(Q)に戻るが、このときの不安定な中間体であるユビセミキノン(・Q-)は酸素と直接に反応してスーパーオキサイドアニオン(O2-)を生成しやすい。この活性酸素発生率は摂取する酸素量の1-3%であると言われている[2][11]。このため人体では1日100リットル以上の活性酸素が発生していると言われている[11]。しかし、実際の発生率は0.1-0.2%であるとも言われている[10][信頼性要検証]

発生した活性酸素・フリーラジカルは、様々な物質に対して非特異的な化学反応をもたらし、細胞に損傷を与え得るために、その有害性が指摘されている。それを防ぐために各組織には抗酸化酵素と呼ばれる、活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素が存在する。その抗酸化酵素として、カタラーゼスーパーオキシドディスムターゼペルオキシダーゼなど、活性酸素を無害化する酵素がある。

細胞内の酵素で分解しきれない余分な活性酸素は、癌や生活習慣病、老化など、さまざまな病気の原因であるといわれており、遺伝子操作によって、活性酸素を生じやすくした筋萎縮性側索硬化症のモデル動物も存在するが、因果関係がはっきりとしていないものも多い。なお、喫煙による活性酸素の増加が、細胞を傷つけ癌を増加させるのみでなく、ビタミンCの破壊を促進し、シミ(肝斑)、くすみなどの原因となるメラニンを増加させてしまうことが知られている[12][信頼性要検証]

活性酸素は高い反応活性を持つため、外部から入り込んできた異物(微生物)を排除することが出来るのがわかってきた。これらを応用して病気の治療薬や新薬の開発が期待される。

白血球などの好中球マクロファージが、体内の異物や毒物を認識し取り込み分解することは知られているが、この時に細菌などを分解するのに活性酸素が働いている。白血球好中球)は、体内に細菌が侵入してくると捕獲(貪食)し、白血球はNAD(P)Hオキシダーゼを使ってNADHNADPH)とH+と酸素を反応させて、過酸化水素を生成し、貪食されてもまだ増殖しようとする細菌を殺菌し、感染症から守る生体防御メカニズムを有する[13][信頼性要検証]

体内で取り込まれた酸素から発生する活性酸素以外に、外的な要因で発生する活性酸素もある。紫外線放射線が細胞に照射されると、細胞内に活性酸素が発生するのが知られている。これを利用したものに、治療として放射線治療が有名である。

また活性酸素の呼ばれている物質の一部は、内因性に増殖の細胞内シグナルとして働く事が明らかになってきた[14][15][16]

このように、生体と活性酸素の関係の有害・有用の両側面においての研究が行われている。

抗酸化物質と酵素

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活性酸素種と除去する抗酸化物質[17]
抗酸化物質 活性酸素種
O2- H2O2 OH 1O2
スーパーオキシドジスムターゼ Yes No No No
グルタチオンペルオキシダーゼ No Yes No No
ペルオキシダーゼ No Yes No No
カタラーゼ No Yes No No
アスコルビン酸 (V.C) Yes Yes No Yes
システイン No No Yes No
グルタチオン No No Yes No
リノール酸=>過酸化脂質) No No Yes No
α-トコフェロール (V.E) No No Yes Yes
α-カロテン No No Yes No
β-カロテン No No Yes Yes
フラボノイド No No Yes No
リボフラビン (B2) No No No Yes
ビリルビン Yes No No No
尿酸 No No Yes Yes

抗酸化物質にはビタミンCビタミンEベータ・カロチンビタミンAグルタチオンなどがある。活性酸素を除去する酵素には上述のスーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼなどがある。

2010年、米国食品医薬品局(USDA)がかつて食材や健康食品の抗酸化能力の指標としてORACを含む数値を公開していたが[18][19]、USDAは、食物に含まれる抗酸化物質の強さが体内の抗酸化作用に関連しているという証拠がないため、Selected Foods Release 2(2010)表の酸素ラジカル吸収能(ORAC)を示す表を2012年に削除した[20]

ビタミンEは、フリーラジカルを消失させることにより自らがビタミンEラジカルとなり、フリーラジカルによる脂質の連鎖的酸化を阻止する。発生したビタミンEラジカルは、ビタミンCなどの抗酸化物質によりビタミンEに再生される[21]キサンチンオキシダーゼは、キサンチン1分子から、尿酸スーパーオキシド(O2-)をそれぞれ1分子生成する[22]。キサンチンオキシダーゼ阻害剤(フェブキソスタット,トピロキソスタット)は、活性酸素種の生成を減少させる。

脚注

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  1. ^ a b 吉川敏一,河野雅弘,野原一子『活性酸素・フリーラジカルのすべて』(丸善 2000年)p.13
  2. ^ a b 老化のメカニズム
  3. ^ 吉川 1997 pp.7-8
  4. ^ 吉川 1997 p.10
  5. ^ 吉川 1997 p.9
  6. ^ 中村仁信「放射線と発がん : 福島原発放射能漏れを考える」『癌と人.別冊』第38号、大阪癌研究会、2011年6月、NAID 120004850281 
  7. ^ a b 國友勝、「酸化ストレスと動脈硬化」『YAKUGAKU ZASSHI』 2007年 127巻 12号 p.1997-2014, doi:10.1248/yakushi.127.1997
  8. ^ 高倉久志、「運動時における筋細胞内の酸素運搬」『日本体育学会大会予稿集』 日本体育学会第68回大会 (2017) , doi:10.20693/jspehss.68.36_2
  9. ^ 疲労のメカニズム解明:疲労の原因は活性酸素だった 最新トピックス 疲労と活性酸素 大阪市立大学大学院 医学研究
  10. ^ a b 老化のメカニズム (Dr.Gotoの老化研究所)
  11. ^ a b 柴田均「活性酸素はすべて悪玉か?」『日本農芸化学会誌』第77巻第6号、日本農芸化学会、2003年6月、573-575頁、doi:10.1271/nogeikagaku1924.77.573ISSN 00021407NAID 130001225676 
  12. ^ 毎日新聞 2005/9/24
  13. ^ :活性酸素 -解説 役立つ情報をあなたのポケットに! 理大の栞16
  14. ^ Sawa T (2007). “Protein S-guanylation by the biological signal 8-nitroguanosine 3',5'-cyclic monophosphate.”. Nat Chem Biol. 3 (11): 727-35. PMID 17906641. 
  15. ^ Feelisch M (2007). “Nitrated cyclic GMP as a new cellular signal.”. Nat Chem Biol. 3 (11): 687-8. PMID 17948012. 
  16. ^ D'Autréaux B; Toledano MB. (2007). Nat Rev Mol Cell Biol. 8 (10): 813-24. PMID 17848967. 
  17. ^ 大阪武雄、日本化学会『活性酸素』丸善、1999年、27頁。ISBN 4-621-04634-9 
  18. ^ EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (2010). "Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to various food(s)/food constituent(s) and protection of cells from premature aging, antioxidant activity, antioxidant content and antioxidant properties, and protection of DNA, proteins and lipids from oxidative damage pursuant to Article 13(1) of Regulation (EC) No 1924/20061". EFSA Journal (英語). 8 (2): 1489. doi:10.2903/j.efsa.2010.1489 (inactive 14 January 2015)。
  19. ^ Withdrawn: Oxygen Radical Absorbance Capacity (ORAC) of Selected Foods, Release 2 (2010)”. United States Department of Agriculture, Agricultural Research Service (16 May 2012). 13 June 2012閲覧。
  20. ^ USDA. “Oxygen Radical Absorbance Capacity (ORAC) of Selected Foods, Release 2 (2010)”. 2016年12月31日閲覧。
  21. ^ 平原文子、ビタミンEと抗酸化性 栄養学雑誌 1994年 52巻 4号 205-206頁, doi:10.5264/eiyogakuzashi.52.205
  22. ^ 藤田直、「活性酸素,過酸化脂質,フリーラジカルの生成と消去機構並びにそれらの生物学的作用」『YAKUGAKU ZASSHI』 2002年 122巻 3号 203-218頁, doi:10.1248/yakushi.122.203

参考文献

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外部リンク

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