闇バイト
闇バイト(やみバイト、英: shady job)とは、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による強盗の実行役や支援役、その募集のこと[1][2][3][4]。警察や自治体では「犯罪実行者募集情報」と称している[5][6]。
一般のアルバイトに偽装してSNSで募集する、秘匿性の高い通信アプリで連絡する、個人情報を提出させ抜けられないようにするなどの特徴がある[1][2]。
概要
編集闇バイトを募集する匿名・流動型犯罪グループ等の犯罪グループは知人などによる勧誘、X(旧Twitter)・InstagramなどのSNS、インターネット掲示板、求人サイトなどで「高収入」「高額報酬」「高額バイト」「簡単な仕事」「ホワイト案件」といった文句で仕事が募集されている[7][8]。
募集主たちは、候補者リストに使える「お金配り垢」を作成するなどし、ニュースや行政機関から注意喚起がされている中でも引っかかるような人々を見分けて集め[9][10][11][1]、インスタントメッセンジャーのTelegram(テレグラム)やSignal(シグナル)などの匿名通信アプリで指示を出している[11][12][13]。
当初は犯罪行為という詳細な中身を伏せた上で「高額な報酬」をうたい、やり取りの過程で途中から犯罪グループは「捕まることはない」と誘う[2]。また、詳細を知らせる前に、「アルバイトの登録に必要」などとして保険証や運転免許証などの身分証明書の写真を要求することがある。こうして犯行グループは応募者の個人情報を把握した上で、仕事を拒否しようとした応募者に「自宅に押し掛ける」「家族を全員殺す」などと脅迫し犯罪行為から逃れられないようにする[14]。「甘い言葉」に騙されて実行させられる者がいる一方で、実行前に犯罪行為の委託だと知らされた上でも脅されたり軽薄無知ゆえに実行するケースも少なくない[15]。
実行犯の中には未成年や若者も多い[16]が高齢者もいる[17]。2023年には、特殊詐欺の受け子として検挙された2373人の中で、4割にあたる991人がSNSの募集から参加し、3割の763人が知人による紹介から詐欺に関わったと供述した[18]。
闇バイトの内容は以下のようなものがある[19]。
- 違法薬物(麻薬、覚醒剤、危険ドラッグ)や銃器などの密輸の荷受け役・運び屋[20]
- 強盗・窃盗などの実行犯、現場への運転手役[21]
- パチンコ・パチスロの打ち子
- 銀行口座や携帯電話、スマートフォン・タブレット・モバイルWi-Fiルーター等のモバイル端末の譲渡・売買・乗っ取り(SIMスワップ詐欺)
- 出会い系サイトなどのサクラ
- 特殊詐欺(オレオレ詐欺や架空請求詐欺など)の「受け子」「出し子」(現金やキャッシュカードの受け取り役、引き出し役)
- 公共施設への不審物設置[22]
防犯カメラやNシステムに映ることで証拠が残ってしまう「捕まりやすい下っ端」の役割をインターネット上(TwitterやInstagramなどのSNS)で募集しているが、犯罪集団は警察の捜査が及ばないように犯罪計画の詳細を実行犯に伝えなかったり実行後の報酬を渡さなかったりするため、実行犯は「使い捨て」「トカゲのしっぽ」となっているのが特徴である[23][24][19]。
2023年には、警察庁によって闇バイトの参加者を募集する広告がindeedやエンゲージといった大手求人サイトのほか、ジモティーといった大手掲示板サイトにも掲載されていることが明らかになり、警察庁や厚生労働省、サイトの運営会社が対策に乗り出している[7]。
闇バイト側へ個人情報を提出してしまった後でも、警察へ連絡すれば応募後でも、実行前ならば警察官職務執行法4条による保護[25][3][26]、実行後でも自首ならば罪が減刑される[25]。
募集例
編集基本的に闇バイトでは、特殊詐欺の受け子や出し子・掛け子、違法薬物や密輸品などの運搬や受け渡し役、犯罪に用いる携帯電話や銀行口座の契約者、出会い系サイトなどのサクラ、強盗などの実行犯役などを実態を隠す形で募集している[27]。
闇バイトの見分け方としては、次のようなものが挙げられている。
対応
編集2024年10月18日に警察庁の生活安全企画課が、「闇バイトと判明した場合は警察に相談する、警察が本人や家族を確実に保護する」旨の動画をXに投稿した[31]。
関わってしまった場合の相談先として、電話による警察相談用の短縮番号#9110、警察署へ直接相談などがある[32][33]。
弁護士ドットコムによると、警察官職務執行法4条に「対象者の生命身体に危険が生じる危険な事態が生じた場合にはこれを避けるために対象者を避難させることができる」とあることから、相談者や家族の警備強化や避難場所の提供などが考えられるとしている[25][34]。
自首によって減刑もありえるが、強盗などは重い刑罰となるため、専門家たちはできるだけ実行前に自首することを勧めている[25]。
警察の強盗の検挙率は毎年ほぼ9割であり、証拠を残しやすい素人犯行では絶対に捕まると考えてよい[35][36]。指示役なども職業安定法違反により逮捕が行われている[37]。
組織の内部に潜入するため、捜査員が偽造した身分証を行使する「仮装身分捜査(身分秘匿捜査)の導入も検討されている[38][39]。
2024年12月、政府では闇バイトの求人を防止するため、職業安定法に基づき求人側の名称・連絡先・業務内容・就業場所を明示しない募集を違法とし、事業者に事前審査の厳格化を要請する方針とした[39]。また連絡に使われる匿名の通信アプリは海外の事業者が運営し情報照会に時間がかかっているため、日本の窓口の設置を働きかける予定[39]。
闇バイトの一覧
編集脚注
編集- ^ a b c “若者の加担が増える「闇バイト」、無知が命取りになる「SNSや知人の紹介」の罠”. 東洋経済education×ICT (2024年4月4日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ a b c “SNSの違法・有害情報に注意|その仕事「闇バイト」かもしれません!|滋賀県警”. 滋賀県警. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2024年11月8日). ““犯罪に加担しないで”闇バイト応募 警察 保護の取り組み強化 | NHK”. NHKニュース. 2024年11月12日閲覧。
- ^ “闇バイト強盗、実行役は「使い捨て」…報酬得たものほとんどおらず”. 読売新聞オンライン (2024年11月5日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ “犯罪の実行者の募集と疑われる情報への対策の推進について(通達)”. 福島県警察本部 (2023年3月14日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ “犯罪実行者募集情報(通称“闇バイト”)に応募しないようにしましょう!”. 小野市 (2024年11月27日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ a b c “闇バイト、インディード・エンゲージ・ジモティーなど大手サイトに求人広告”. 読売新聞オンライン (2023年3月16日). 2023年3月22日閲覧。
- ^ “高校生も手を染める「日給10万円」闇バイトの実態”. 東洋経済オンライン (2021年7月26日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ 日本放送協会. ““闇バイト“募集の投稿に「返信」で警告・注意喚起 警察|NHK 首都圏のニュース”. NHK NEWS WEB. 2024年11月12日閲覧。
- ^ “闇バイトは犯罪です - 広島県警察”. 広島県警察公式. 2024年11月12日閲覧。
- ^ a b “あまりにもバカが多いことに絶望。闇バイトについて潜入調査中の「ベテラン迷惑メール評論家」が感じた知の格差”. ロケットニュース24 (2024年11月11日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ “「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体”. 東洋経済オンライン (2024年11月6日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ “誰がいったい何のために開発?「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体、意外と古いその“歴史”(東洋経済オンライン)”. Yahoo!ニュース. 2024年11月12日閲覧。
- ^ “SNSで募集、個人情報を送らせて脅迫→捨て駒に 「闇バイト」勧誘の手口、警察庁が公開”. IT media NEWS (2023年8月23日). 2024年11月1日閲覧。
- ^ 中井 芳野, 小川 恵理子 (2023年4月15日). “「実刑3年ぐらいはいくんでしょ」…闇バイトで浮き彫りになった軽薄無知な20代の実像”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年11月12日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “「闇バイト」加担防止へ 大学新入生に注意呼びかけ 警視庁 | NHK”. NHKニュース. 2023年5月12日閲覧。
- ^ “60代、70代のシニア層も闇バイトに応募している実態 あなたの親は大丈夫?”. YAHOO!ニュース. 2024年11月27日閲覧。
- ^ “令和6年版警察白書 第一部 特集・トピック 匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組”. 警察庁. 2024年11月2日閲覧。
- ^ a b “高額な報酬で誘う闇バイトにご注意!うっかり応募してしまうと……?【サイバー護身術】”. PreBell. 2023年5月12日閲覧。
- ^ 危険ドラッグ密輸容疑、リーダー格逮捕 「闇バイト」で荷受け役募る 毎日新聞 2023年2月27日 2020年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。
- ^ “「闇バイト」でポケモンカード1500枚窃盗か、35歳男を逮捕…報酬は受け取れず”. 読売新聞オンライン (2023年6月13日). 2023年6月16日閲覧。
- ^ “「闇バイトに応募」 21歳女をJR岡山駅に不審物置いた疑いで逮捕:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2023年6月22日). 2023年6月22日閲覧。
- ^ “銀座強盗「指示役」関与か…若者はSNSでの仕事探しに薄い抵抗感・決行しても使い捨ての現実”. 読売新聞オンライン (2023年5月10日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2023年4月7日). “「受け子や出し子は使い捨て」 帝京科学大学で闇バイトの危険性訴え 警視庁千住署”. 産経ニュース. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c d “闇バイト、自首で刑は軽くなるのか? 「あなたや家族を保護する」 警察庁幹部の異例メッセージが話題”. 弁護士ドットコム (2024年10月23日). 2024年10月26日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “闇バイトに応募 保護したケース全国で46件|NHK 首都圏のニュース”. NHK NEWS WEB. 2024年11月12日閲覧。
- ^ a b “闇バイトの誘いに要注意!(受け子、サクラ、強盗など)”. 弁護士法人ONE (2022年11月18日). 2023年4月21日閲覧。
- ^ “学生を狙う闇バイトとは?見分け方や学校側ができることを解説”. ウイナレッジ (2023年3月17日). 2023年4月21日閲覧。
- ^ “「闇バイト」の実態を徹底解説|闇バイトの特徴や種類一覧・正しいバイトの探し方も”. バイトルマガジン BOMS (2024年10月25日). 2024年10月26日閲覧。
- ^ “京都府警察/「闇バイト」は絶対にダメ!”. www.pref.kyoto.jp. 2024年11月6日閲覧。
- ^ @NPA_KOHO (2024年10月18日). "2024年10月18日 16:15のツイート". X(旧Twitter)より2024年10月26日閲覧。
- ^ “闇バイトに関わってしまった場合は相談ダイヤル『#9110』か警察署へ「闇バイトに申し込むまでの流れとは」警察は本人・家族を保護する準備できている”. TBS NEWS DIG (2024年11月18日). 2024年11月18日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年11月14日). “警察庁幹部に聞く 闇バイト“勇気持って引き返し#9110警察に相談を””. NHK首都圏ナビ. 2024年11月18日閲覧。
- ^ “警察官職務執行法e-Gov 法令検索”. laws.e-gov.go.jp. 2024年11月6日閲覧。
- ^ “令和2年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/3”. 法務省(hakusyo1.moj.go.jp). 2024年11月18日閲覧。
- ^ 赤塚辰浩. “岩田明子氏「実行犯切り捨てられる」古市憲寿氏「ほぼ捕まる」 関東で相次ぐトクリュウ強盗事件 - 社会 : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2024年11月18日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “闇バイト募集取りまとめ役か 暴力団幹部職安法違反容疑で逮捕|NHK 熊本県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2024年11月6日閲覧。
- ^ “捜査員が闇バイト募集に応じ架空の人物になりすまして接触、「仮装身分捜査」導入を警察庁検討”. 読売新聞オンライン (2024年12月5日). 2024年12月5日閲覧。
- ^ a b c “政府が闇バイト緊急対策、匿名や内容明示しない募集は違法に…アカウントの本人確認も厳格化”. 読売新聞オンライン (2024年12月17日). 2024年12月17日閲覧。
関連項目
編集- インターネットリテラシー / 情報弱者
- 資金洗浄(マネー・ロンダリング)
- 組織犯罪
- Telegram#詐欺
- 闇サイト、ダークウェブ
外部リンク
編集- 「闇バイト」は犯罪実行者の募集です - 警察庁
- #BAN 闇バイト - 警視庁
- 特殊詐欺加害防止 特設サイト - 東京都