秘密情報部

イギリスの情報機関

秘密情報部(ひみつじょうほうぶ、英語:Secret Intelligence Service、SIS)は、イギリス情報機関の1つ。MI6の通称が広く知られている[3]。国外の政治経済及びその他秘密情報の収集・情報工作を任務としている[4][5]

秘密情報部
Secret Intelligence Service
SIS
ロンドンにあるSISビル(2015年9月12日)
組織の概要
設立年月日1909年10月1日(シークレット・サービス・ビューローとして)
種類諜報諜報活動
管轄イギリス政府
本部所在地イギリスの旗 イギリス ロンドンランベス区ヴォクソールアルバート堤防85番 SIS本部ビル
北緯51度29分14秒 西経0度7分28秒 / 北緯51.48722度 西経0.12444度 / 51.48722; -0.12444座標: 北緯51度29分14秒 西経0度7分28秒 / 北緯51.48722度 西経0.12444度 / 51.48722; -0.12444
標語Semper OccultusAlways Secret
人員3,200fy 2012–13)[1]
年間予算Single Intelligence Account(23億£ 2010–2011年度)[2]
監督大臣
行政官
上位組織外務・英連邦・開発省
ウェブサイトwww.sis.gov.uk

名称

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第一次世界大戦以前にはイギリスの諜報活動は、複数官庁が個別に組織を設け活動していた。第一次世界大戦が勃発すると全情報を一元的に管理することになり、戦争省情報部(Directorate of Military Intelligence, DMI。直訳では「軍情報総局」)の元で各組織との連絡を担当する課の名称としてそれぞれのミリタリー・インテリジェンスの種類に応じて組織名に番号が割り振られた。第一次世界大戦中のSISはMI(c)と呼称されていたが、1930年代後半にMI6の名称が割り当てられた。他の組織には、MI1(暗号暗号解読。後に海軍の「ルーム40」と統合され政府暗号学校を経て政府通信本部)、MI2(極東アメリカ州ソ連中東スカンディナヴィア)、MI3(東欧バルト海沿岸諸国即ちリトアニアラトビアエストニア)、MI4(地図作成)、MI5(防諜)などがある。第二次世界大戦中にMI5との連携が強化される過程でMI6の名称は広く用いられるようになった[4]。SISでは既にMI6の名称を公的文書等では使用していないが、一般に認知されていることから、ロゴなど対外的広報では用いられている。

SISとMI6の名は報道・ノンフィクション書籍・「007シリーズ」のようなスパイ小説・映画で古くから知られていたが、イギリス政府はその存在を公式には認めておらず[3]、最終的に1994年にようやく関連法が整備され、政府はMI6の存在を認めるに至った[6]日本政府日本語の名称として秘密情報部を用いている[7]

組織と活動

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国家の情報機関であるため詳細は不明な点が多いが、本部の下に「地域課」と「連絡課」が存在し、地域課で現地情報に通じた人材を育成保有して情報収集等を行い、連絡課が本部との連絡役となる。人員は2,500名で約3億ポンドの予算だとされる。

組織としては外務・英連邦・開発省の管轄であるが[注 1]、外務大臣だけでなく首相内閣府内の合同情報委員会(JIC)へも報告が行なわれ、これらの指揮を受ける関係にある[5]

第15代長官を務めたジョン・サワーズは公式見解として「任務は指導者に情報を提供することで、軍事工作はしない」「(007のような)殺しのライセンスは無いし、欲しくもない」と語っている[3]

英国政府やMI6は存在を公式には認めていないが、米CIASAC(特別行動センター)に相当する準軍事組織として、「E Squadron(旧 Increment)」と呼ばれる特殊部隊UKSFと秘密裏に共同運用している事が報道や2021年6月の英国防省特殊部隊個人データ漏洩事件[1][2][3]、元MI6局員リチャード・トムリンソン、元SAS隊員でクリス・ライアンのペンネームで作家をしているコリン・アームストロングなどにより明らかとなる。データ漏洩事件で記載されていた名目上は"22 SAS E SQN (第22SAS連隊E中隊)"だが、隊員はUKSFのTier1部隊であるSASSBSSRR[4]から経験豊富なベテランが引き抜かれ、英国で最高機密のエリート部隊といわれる[5][6][7][8][9][10][11]

歴史

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1909年3月に首相ハーバート・ヘンリー・アスキスは国家特務機関を再編することを帝国防衛委員会英語版(現在の合同情報委員会)に勧告した。アスキスの勧告に基づいて10月1日に委員会に秘密業務局外国課Foreign Section of the Secret Service Bureau)が創設された。設立時の責任者にはバーノン・ケル大佐とマンスフィールド・スミス=カミング海軍大佐が任命された。後に秘密業務局外国課長も務めたスミス=カミングはサインとしてイニシャルのCのみを用いたため、これ以後のSISの長官は皆同じようにCのサインを利用するようになった。

第二次世界大戦中の1940年にMI6によって設立されたイギリス安全保障調整局は、対ドイツ諜報活動、イギリス連邦諸国におけるイギリス支援のための世論形成など、様々な工作を行ったとされる。長官はウィリアム・スティーヴンスンで、イアン・フレミングはその部下であった[8]

1942年11月19日に時の部長スチュワート・メンジーズの主導でドイツの原子爆弾開発を阻止すべくフレッシュマン作戦を敢行し、失敗に終わった[9]

1995年に本部がランベスから現在のヴォクソールに移動した。新庁舎は警備体制が強化されており、盗聴爆発物に対する防御が施されている。テリー・ファレル設計による、古代メソポタミアジッグラトを想起させる外観は「テムズ川のバビロン」「レゴランド」「チャウシェスク・タワー」とも呼ばれている。2000年9月20日に真のIRA[10]対戦車ロケット弾をビルの8階に撃ち込んだが、損害は軽微であった。

2006年4月27日に国際テロの高まりを受けた人員増強の必要性から多様な人材を確保するため、1909年の創設以来初めて新聞広告で工作員の募集を開始し、また独自のウェブサイトを立ち上げた。近年ではMI6・MI5などの機関が公式ウェブサイトで新人採用まで行っている。2005年の応募資格は以下の通りである。

  • 父母どちらかがイギリス人である。
  • 21歳以上で過去10年間に5年以上イギリスに住んでいたイギリス国民である。

2013年にフランスマリ共和国内で実施した軍事作戦(セルヴァル作戦)を支援した[11]

関係機関

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SISに協力する機関には国防省に属する国防情報参謀部(DIS)・内務省の下に置かれる保安局(SS、MI5)がある。SISは国内組織としては、軍事情報を主に扱うDISや国内防諜情報を主に扱うSS(MI5)と協力し[5]、国外でも西側各国の情報機関と協力して任務を実行している。

またこれら2組織や、同じ外務省に属する政府通信本部(GCHQ)・内務省の下に置かれる国家犯罪対策庁(National Criminal Agency、NCA)と共にJICを構成している。職員の出向などの人事交流も行われている[12]。秘密情報部が運営すると考えられる乱数放送にはリンカーンシャー・ポーチャーチェリー・ライプがある。

歴代長官

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全員がナイトに叙され、サーの称号を受けている。また、#歴史にある通り、初代のスミス=カミングに倣い、決裁文書には本名と関係なく「C」の一文字だけを署名に使う(第10代長官カーウェンが偶然に一致していた)。

名前 綴り 就任 退任
01 マンスフィールド・スミス=カミング Mansfield Smith-Cumming 1909年 1923年
02 ヒュー・シンクレア Hugh Sinclair 1923年 1939年
03 スチュワート・メンジーズ Stewart Menzies 1939年 1952年
04 ジョン・シンクレア John Sinclair 1953年 1956年
05 ディック・ホワイト Dick White 1956年 1968年
06 ジョン・オグリビー・レニー John Rennie (MI6 officer) 1968年 1973年
07 モーリス・オールドフィールド Maurice Oldfield 1973年 1978年
08 ディック・フランクス Dick Franks 1979年 1982年
09 コリン・フィギュアス Colin Figures 1982年 1985年
10 クリストファー・カーウェン Christopher Curwen 1985年 1989年
11 コリン・マコール Colin McColl 1989年 1994年
12 デービッド・スペディング David Spedding 1994年 1999年
13 リチャード・ディアラブ Richard Dearlove 1999年 2004年
14 ジョン・スカーレット John Scarlett 2004年 2009年
15 ジョン・サワーズ John Sawers 2009年 2014年
16 アレックス・ヤンガー  Alex Younger 2014年  2020年
17 リチャード・ムーア  Richard Moore 2020年  現職

著名な職員

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古くからイギリスはMI6などの諜報機関の存在を否定していたが、007の原作者であるイアン・フレミングは元MI6の諜報員であることを公表しており、現役時代の経験を生かした物語としてジェームズ・ボンドを産み出している。MI6での経験にもとづいてスパイ小説を書いた作家としては、他に「アシェンデン」シリーズを著したサマセット・モーム、「ハバナの男」のグレアム・グリーン、ジョージ・スマイリーを考え出したジョン・ル・カレMI5から移籍)などが知られている[13]

2010年9月21日にはクイーンズ大学(アイルランド・ベルファスト)教授で歴史学者のキース・ジェフリー英語版による、初めてMI6の歴史をまとめた『MI6秘録』(The Secret History of MI6[14])が公式に発売され、モームやグリーンの他にアーサー・ランサムなどが所属していたことなどが公式に明らかにされた[15]

関連機関

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ポップカルチャーのMI6

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映画

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007シリーズ
主人公のジェームズ・ボンドはこの機関に所属する諜報部員という設定。

テレビドラマ

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24 -TWENTY FOUR-
シーズン3およびリブ・アナザー・デイの作中に登場。
PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット
シーズン1、7話にて登場するジュリアン・サンズ演じる悪役アリステア・ウェズリーは元MI6の諜報部員という設定。

小説

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野獣死すべし
大藪春彦著のハードボイルド小説の主人公である伊達邦彦は、一時期、過去の犯罪をネタに半強制的にこの機関の諜報部員となる設定。

アニメ・漫画

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ルパン三世
ルパン三世 (2015年TVシリーズ)に登場のニクスが所属している。
ゴルゴ13
ベスト4のヒュームが所属している。
名探偵コナン
FBI捜査官として登場する赤井秀一の両親、赤井務武メアリー・世良が所属する。劇場版名探偵コナン 純黒の悪夢では、犯罪組織「黒ずくめの組織」に潜入する諜報員のスタウトが登場する[16]
DARKER THAN BLACK -黒の契約者-
第5話より登場する最高のエージェント、ノーベンバー11およびその仲間、エイプリル、ジュライが所属する。
エロイカより愛をこめて
No.10「グラスターゲット」より登場した脇役、チャールズ・ロレンス、ミスター・Lが所属する。
パタリロ!
第1話からの主要キャラクタージャック・バンコランが所属する。
RAISE
第二次世界大戦の世界でアメリカ軍と協力する英国情報部として登場。単行本あとがきで大戦後に再編されるが、構成員をコードネームで呼ぶことに関しては001号ことグラハム・バーンズに「人間を番号で呼ぶようになっちゃ世も末ですよ」と言われている。新入りとして「007号(ジェームズ・ボンド)」が登場。
憂国のモリアーティ
主人公のウィリアム・ジェームズ・モリアーティの義兄、アルバート・ジェームズ・モリアーティが所属。指揮官"M"として活躍。

ゲーム

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コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3
コール オブ デューティ モダン・ウォーフェアIII

脚注

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注釈

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  1. ^ 従来の軍情報部の活動・業務は国防省国防情報局が行っている。

出典

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  1. ^ Intelligence and Security Committee of Parliament Annual Report 2012–2013. (2013). p. 40. ISBN 978-0-10-298652-5. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/211553/31176_HC_547_ISC.PDF 29 December 2013閲覧。 
  2. ^ Funding and Financial Controls”. SIS – MI6. 10 November 2014閲覧。
  3. ^ a b c “英スパイ機関元首脳 世界の行方読む”. 日本経済新聞. (2017年1月8日). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO11393980W7A100C1TZA000/ 
  4. ^ a b SIS or MI6?”. Secret Intelligence Service. 2013年12月27日閲覧。
  5. ^ a b c 小谷賢編『世界のインテリジェンス』 PHP研究所 2007年12月10日第1版第1刷発行 ISBN 9784569696379
  6. ^ 映画『007』とは違う!英国「MI6」の世界”. Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (2021年6月16日). 2023年8月15日閲覧。
  7. ^ (参考)外国の主な情報・団体規制機関の所属組織等 - 首相官邸
  8. ^ 関連文献 スティーヴンスン、ウエスト、ハイド、Mahl
  9. ^ 白石光『ミリタリー選書 29 第二次大戦の特殊作戦』イカロス出版 (2008/12/5)pp.59–65
  10. ^ https://www.britannica.com/topic/Real-Irish-Republican-Army
  11. ^ “英特殊部隊、マリ入りか”. 時事ドットコム (時事通信社). (2013年1月23日). https://www.jiji.com/jc/zc?k=201301/2013012301014 2013年2月2日閲覧。 
  12. ^ “MI6職員のカバン詰め変死事件、「事故死」と英警察”. AFP (フランス通信社). (2013年11月14日). https://www.afpbb.com/articles/-/3003288?ctm_campaign=txt_topics 2013年11月15日閲覧。 
  13. ^ アンソニー・マスターズ 著、永井淳 訳『スパイだったスパイ小説家たち』新潮社〈新潮選書〉、1990年3月25日。ISBN 4-10-600377-5 原著1987年。
  14. ^ 日本語訳は高山祥子訳『MI6秘録――イギリス秘密情報部1909-1949』上・下、筑摩書房、2013年。
  15. ^ “MI6が正史出版、モームら有名作家もスパイの一員” (日本語). AFPBB News (フランス通信社). (2010年9月22日). https://www.afpbb.com/articles/-/2758737?pid=6220305 2010年9月22日閲覧。 もっともグリーンやモームのスパイ小説が本人の体験に基づくものである事は、同書出版以前から知られていた。
  16. ^ 名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)”. 東宝. 2022年6月10日閲覧。

参考文献

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寺村誠一・赤羽龍夫 訳(早川書房、1978年、ハヤカワ文庫 全2巻、1985年)
  • 『スパイ伝説―出来すぎた証言』 ナイジェル・ウエスト(篠原成子 訳、原書房 1986年)
  • 『3603号室―連合国秘密情報機関の中枢』 モンゴメリー・ハイド(赤羽龍夫 訳、早川書房:ハヤカワ文庫NF、1979年)
  • Thomas E. Mahl, Desperate Deception: British Covert Operations in the United States, 1939-44 (Brassey's Inc, 1999)
  • 『暗号名 グリフィン 第二次大戦の最も偉大なスパイ』、アーノルド・クラミッシュ英語版新庄哲夫 訳、新潮社、1992年
  • 『プロフェッショナル・スパイ 英国諜報部員の手記』、キム・フィルビー、笠原佳雄 訳、徳間書店、1969年
  • Keith Jeffery, Desperate The Secret History of MI6 (Penguin Press, 2010)
    • キース・ジェフリー 著、高山祥子 訳『MI6秘録(上)――イギリス秘密情報部1909-1949』筑摩書房、2013年3月25日。ISBN 978-4-480-85801-6 
    • キース・ジェフリー 著、高山祥子 訳『MI6秘録(下)――イギリス秘密情報部1909-1949』筑摩書房、2013年3月25日。ISBN 978-4-480-85802-3 
  • 川成洋『紳士の国のインテリジェンス』集英社新書、2007年

関連項目

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外部リンク

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