彌彦神社
弥彦神社(やひこじんじゃ、旧字体:彌彥神󠄀社󠄁)は、新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦にある神社。式内社(名神大社)、越後国一宮。旧社格は国幣中社で、現在は神社本庁の別表神社。
弥彦神社 | |
---|---|
拝殿 | |
所在地 | 新潟県西蒲原郡弥彦村大字弥彦2887番地2 |
位置 | 北緯37度42分24.1秒 東経138度49分33.6秒 / 北緯37.706694度 東経138.826000度座標: 北緯37度42分24.1秒 東経138度49分33.6秒 / 北緯37.706694度 東経138.826000度 |
主祭神 | 天香山命 |
神体 | 弥彦山(神体山) |
社格等 |
式内社(名神大) 越後国一宮 旧国幣中社 別表神社 |
創建 | 不詳 |
本殿の様式 | 三間社流造 |
例祭 | 2月2日 |
地図 |
概要
編集「弥彦」は歴史的には「伊夜比古・伊夜日子・伊夜彦」などとも表記され「いやひこ」と読んでいたが、現在は「やひこ」と言い習わされている[1]。
越後平野西部の弥彦山(標高634m)山麓に鎮座し、弥彦山を神体山として祀る神社である。
『万葉集』にも歌われる古社であり、祭神の天香山命は越後国開拓の祖神として信仰されたほか、神武東征にも功績のあった神として武人からも崇敬された。宝物館には日本有数の大太刀である「志田大太刀(しだのおおたち、重要文化財)」や、源義家や源義経、上杉謙信(輝虎)などに所縁と伝えられる武具などが社宝として展示されている。
宮中同様に鎮魂祭を行うとして、石上神宮・物部神社と共に有名である。なお、当社の鎮魂祭は宮中で行われる11月22日でなく、4月1日と11月1日の年2回行われる。二年参りや初詣、秋の菊まつりは特に賑わう。
分社が北海道から山陰地方まで少なくとも47ヵ所に点在する。越後発祥の武士・山内氏が所領の会津地方(現・福島県西部)に勧請したり、移住者や新潟県で産する石油関連企業が県外で創建したりして広がった[2]。
祭神
編集歴史
編集概史
編集創建年代は不詳。祭神の天香山命は、『古事記』に「高倉下」として登場する(ただし古事記において天香山命と高倉下が同一とする記述はない)。社伝によれば、命は越後国開拓の詔により越後国の野積の浜(現・長岡市)に上陸し、地元民に漁撈や製塩、稲作、養蚕などの産業を教えたとされる。このため、越後国を造った神として弥彦山に祀られ「伊夜比古神」として崇敬された。このほか、弥彦の大神は、神武天皇即位の大典の際に自ら神歌楽(かがらく)を奉奏したとされる。ただし、尾張国造家の祖神である天香山命が越後に祀られるのは不自然なため、本来の祭神は北陸の国造家高橋氏祖神の大彦命ではないかとする説もある。
江戸時代には、高田藩藩主・松平忠輝が、500石の社領を寄進し、朱印地となった。朝廷からも篤く崇敬されたという。社家は明治時代まで高橋氏が世襲した。
この頃神主であった高橋左近光頼により、神道家・橘三喜の教えの影響下で、神社の神宮寺を廃して仏像を取り払い神葬祭を行うなど、神仏分離が行われた。しかし元禄4年(1691年)に光頼は神宮寺の僧に訴えられて敗訴している。
国学者の平田篤胤は、弥彦神社に聖徳太子が記した神代文字が存在すると主張したが、該当の文書は火事で焼失したと伝わる。
明治4年(1871年)、近代社格制度において国幣中社に列した。
神階
編集境内
編集本社(山麓)
編集社殿は明治45年(1912年)に焼失し、大正5年(1916年)に現在地に移って再建された。拝殿の背後に弥彦山を仰ぐ[3]。
- 本殿 - 三間社流造。
- 幣殿
- 拝殿
- 万葉道
弥彦山頂
編集- 御神廟
- 奥の宮。弥彦山頂に鎮座する(北緯37度42分17.08秒 東経138度48分32.17秒 / 北緯37.7047444度 東経138.8089361度)。天香山命と妃神熟穂屋姫命の神廟とされる。
その他
編集- 大鳥居
- 弥彦神社上陸地
- 弥彦の神が上陸した地とされ、石碑が建てられている。
-
旧本殿跡
宝物館前に位置した旧本殿の跡地。 -
大鳥居(背後に弥彦山)
-
弥彦神社上陸地碑
摂末社
編集摂社・神廟
編集- 妻戸神社 (つまどじんじゃ)
- 祭神:熟穂屋姫命 (うましほやひめのみこと) - 天香山命の妃神。
- 鎮座地:長岡市寺泊野積(境外社、北緯37度41分31.28秒 東経138度47分41.13秒)
- 神廟:御神廟(弥彦山頂)
- 武呉神社 (たけくれじんじゃ)
- 祭神:天五田根命 (あめのいつたねのみこと) - 第1嗣(天香山命の後継第1代)。
- 鎮座地:本社境内(北緯37度42分23.57秒 東経138度49分38.39秒 / 北緯37.7065472度 東経138.8273306度)
- 神廟:本社境内
- 船山神社
- 祭神:天忍人命 (あめのおしひとのみこと) - 第2嗣(後継第2代)。
- 鎮座地:新潟市西蒲区福井(境外社、北緯37度45分28.33秒 東経138度50分13.82秒)
- 神廟:鎮座地に同じ
- 草薙神社
- 祭神:天戸国命 (あめのとくにのみこと) - 第3嗣(後継第3代)。
- 鎮座地:本社境内
- 神廟:弥彦公園内の御殿山(北緯37度41分55.70秒 東経138度49分44.37秒 / 北緯37.6988056度 東経138.8289917度)
- 今山神社
- 祭神:建筒草命 (たけつつくさじんじゃ) - 第4嗣(後継第4代)。
- 鎮座地:本社境内
- 神廟:新潟市西蒲区樋曽(北緯37度44分43.29秒 東経138度50分00.62秒 / 北緯37.7453583度 東経138.8335056度)
- 勝神社 (すぐるじんじゃ)
- 祭神:建田背命 (たけたせのみこと) - 第5嗣(後継第5代)。
- 鎮座地:本社境内
- 神廟:弥彦公園内の御殿山
- 乙子神社 (おとごじんじゃ)
- 祭神:建諸隅命 (たけもろずみのみこと) - 第6嗣(後継第6代)。
- 鎮座地:本社境内
- 神廟:本社境内 - 旧本殿近くの椎の神木西脇に鎮座。
- 桜井神社
- 祭神:天香山命
- 鎮座地:弥彦村麓字小桜(境外社、北緯37度41分5.18秒 東経138度49分36.44秒) - 弥彦神社の旧跡と伝える。
-
妻戸神社
-
武呉神社
-
船山神社
-
草薙神社
-
今山神社
-
勝神社
-
乙子神社
-
桜井神社
-
御神廟
(天香山命・熟穂屋姫命墓) -
船山神廟
(天忍人命墓) -
草薙神廟
(天戸国命墓) -
今山神廟
(建筒草命墓) -
勝神廟
(建田背命墓) -
乙子神廟
(建諸隅命墓)
末社
編集境内社
境外社
- 湯神社
- 祓戸神社 (はらえどじんじゃ) - 弥彦への本街道入口に鎮座し、穢れを除いていると伝えられる。
- 火宮神社 (ひのみやじんじゃ) - 祭神:迦具都知大神
- 住吉神社 - 祭神:住吉三神。境内には蛸ケヤキが立つ
- 上諏訪神社 - 祭神:建御名方命
- 下諏訪神社 - 祭神:建御名方命
-
二十二所社
-
八所神社
-
十柱神社(重要文化財)
-
湯神社
-
祓戸神社
祭事・行事
編集1月
- 歳旦祭 (1月1日)
- 皇室の弥栄、国の安泰・繁栄とともに国民の幸福を祈念する。
- 夜宴神事 (1月1日-3日)
- 弓始神事 (1月7日)
- 日神祭 (1月11日)
- 古くは「御日待(おひまち)」と称し、日(太陽)の神である天照大御神に感謝する。
- 供粥祭 (1月15日)
- 粥占炭置神事 (1月5日-16日)
2月
- 神幸神事 (2月1日-4日)
- 例祭 (2月2日)
- 伊夜日子大神は第六代孝安天皇元年(西暦紀元前392年)2月2日に越の国開拓の神業を終え神去り坐したと伝えられることにより、2月2日の例祭を中心に四日間、斎行される神幸神事。2日の例祭は、特殊神饌の大御膳(おおごぜん)を献じて伊夜日子大神に感謝し、皇室の弥栄、越後をはじめ日本の安泰・繁栄、国民の幸福を祈念する。1日から4日にかけて斎行される神幸神事は、古くは御神輿渡御が行われたとの社伝により、祝詞舎を御旅所になぞらえて伊夜日子大神と妻戸大神の二基の御神輿を奉安し、御太刀など様々な威儀物を装飾する。祭典では御神輿渡御と同様に道楽(みちがく)と神歌(かみうた)を奏し、舞女によって小神楽が奏される。
- 建国記念祭 (2月11日)
- 神武天皇による建国と、伊夜日子大神様が挙げられた神武天皇御東征の際の大功を偲び奉り、皇室・国家の安泰と繁栄・世界の平和を祈念する。
3月
- 春季皇霊祭遥拝式 (春分の日)
- 日本で古代から春秋に行われていた祖先祭祀に則して、皇居内の皇霊殿(こうれいでん・御歴代の天皇・皇妃・皇親を奉祀)にて春季皇霊祭が斎行されることにより、皇居に向い遙拝する。
- 祈年祭 (3月28日)
- 「としごいのまつり」とも称され、その年の五穀豊穣を祈る祭典で、宮中・伊勢の神宮を始め全国の神社で行われる大祭。本来は2月17日の祭典であるが、越後は雪国であることにより、ようやく春めいてくる3月末に斎行される。
- 初穂講春季大祭 (3月28日)
- 大正5年(1916年)現在の社殿再建を記念し、社殿の将来にわたる保全と稲作をはじめとする農業振興を目的に創設された。県下一万余の農家が講員として加入し、講員は毎年伊夜日子大神様に初穂(その年に収穫されたお米)を献納する。祈年祭にあわせて講員の家内安全・五穀豊穣を祈念する。
4月
- 祓戸神社祭 (4月1日 午前4時)
- 午前5時からの鎮魂祭に先立ち、宮司以下神職一同が末社祓戸神社(はらえどじんじゃ)に参向し、祓を行う。
- 鎮魂祭 (4月1日 午前5時)
- 人々の魂が身体から遊離して彷徨(さまよ)い荒ぶることなく、身体の中に安らかに鎮まるよう祈る祭典で、4月1日・11月1日の年二回斎行される。特殊神饌「大御膳(おおごぜん)」を献じ、灯火を滅した拝殿内にて神歌(かみうた)『いやひこの 春の祭りに逢う人は 千歳の秋を延ぶとこそ聞け』が披講される中、宮司以下神職一同が拝礼する。前月3月27日には「御浜行(おはまゆき)」と称して、神職が野積浜で禊を行い、海藻を刈り取り神社に持ち帰る。この海藻を4月6日まで潔斎の湯船に浸し、湯を海水に見立てて神職一同が沐浴し、祭典奉仕に備えて厳重に禊を重ねる。
- 入学祭 (4月1日)
- 新年度に際し就学・進学する児童生徒の学業成就と身体健全を祈念する。
- 妻戸大神例祭 (4月18日)
- 伊夜日子大神の妃神(ひめかみ) 妻戸大神(熟穂屋姫命・うましほやひめのみこと)の神去り坐した日(命日)にあたり、特殊神饌の大御膳(おおごぜん)を献じて事績を讃え奉る祭典。祭典に引き続き、境内の舞殿にて彌彦神社伝来の大々神楽(だいだいかぐら)全十三曲が奉奏される。
5月
- 児童福祉祭 (5月5日)
- 春季神廟祭 (5月10日)
- 伊夜日子大神と妃神妻戸大神を奉祀する神廟の春の祭典。弥彦山頂各施設の代表者をはじめ、崇敬者・弥彦山登山愛好者などが参列する。
- 春季大祭 (5月14日)
- 産業振興大祭 (5月14日)
6月
- 茅の輪まつり (6月25日~6月30日)
- 水無月大祓式 (6月30日)
- 6月・12月の晦日、半年間で知らず知らずの内に犯した罪穢を祓い浄めることによって、災厄を除く古代から続く神事。6月の大祓式は特に「夏越(なごし)の祓」とも呼ばれ、茅でつくった茅の輪をくぐり抜け、穢れや災厄を祓う。
7月
8月
- 相撲節会 (8月27日)
- 伊夜日子大神が武勇に優れた神であることにちなむ祭典で、境内の相撲場と隔年で末社上諏訪神社(かみすわじんじゃ)・同下諏訪神社(しもすわじんじゃ)にて力士の手数入りが行われる。
9月
- 風神祭 (9月1日)
- 立春から210日が過ぎ、古くから風雨の災いが起こりやすい時期であることにより、風雨の順調と農作物の豊饒を祈念する。
- 秋季皇霊祭遥拝式 (秋分の日)
- 日本で古代より春秋に行われていた祖先祭祀に則し、皇居内の皇霊殿にて秋季皇霊祭が斎行されることにより、皇居に向い遙拝する。
10月
- 秋季神廟祭 (10月10日)
- 伊夜日子大神と妻戸大神を奉祀する御神廟の秋の祭典。
11月
- 祓戸神社祭 (11月1日 午前5時)
- 鎮魂祭に先立ち、宮司以下神職一同が末社祓戸神社に参向し、祓を行う。
- 鎮魂祭 (11月1日 午前6時)
- 新嘗祭 (11月23日)
- その年の新穀を献じて豊穣を感謝する祭典。
- 初穂講秋季大祭 (11月23日~11月24日)
- 新嘗祭にあわせて、2日間にわたり斎行される、県下一万余りの農家で組織する初穂講の秋季大祭。
12月
行事
編集- 4月
- 5月
- 8月
- 県下高校相撲大会 (8月27日)
- 9月
- 新潟県下高等学校奉納弓道大会 (9月第3土曜日)
- 10月
- 新潟県奉納弓道大会 (10月第1日曜日)
- 11月
- 菊まつり(新潟県菊花展覧会、11月1日~11月24日)
文化財
編集重要文化財(国指定)
編集- 境内末社 十柱神社社殿(建造物) - 大正6年指定。
- 大太刀(銘 南無正八幡大菩薩右恵門烝家盛 南無唵摩利支天源定重応永廿二年十二月日)(工芸品)
- 鉄仏餉鉢(工芸品)
- 嘉暦2年(1326年)銘。昭和34年指定。
重要無形民俗文化財(国指定)
編集燈篭おし(燈籠神事)
- 日本三大燈籠祭りのひとつ。京都祇園社の祇園会が伝わり発展したもので、その伝来は寛徳年間。疫病退散、五穀豊穣を願う祭りで、7月25日の21時、弥彦神社の拝殿から2基の御神輿を中心に、10数台の花燈籠、田楽燈籠、神職、氏子、舞童ほかの1キロメートル近い行列が、村内を練りながら巡行し拝殿へ戻る。花燈籠は横2.5m、縦1.25m、高さ0.8mほどの台座に雪洞を立て、さまざまな造花で飾ったものである。
舞楽
- 神歌楽の舞と天犬の舞 - 燈篭が社に還った後、神前の仮舞台で舞われる一社秘伝の稚児舞で、9歳前後の男児が勤める。
- 小神楽 - 正月の夜宴神事と2月の神幸神事に拝殿で奉奏されるほか、崇敬者らの祈願の際にも奉奏される巫女舞
- 大々神楽 - 妻戸大神例祭(妃神例祭)に舞殿で奏される、四天王寺系の舞
-
地久楽
-
戟舞
-
弓の舞
-
陵王
-
轔河
-
安摩
-
神面
-
二の舞
-
児納蘇利
-
泔珠
-
抜頭
-
大納蘇利
-
泰平楽
国の登録有形文化財
編集いずれも大正5年建造で、平成10年に登録。
新潟県指定文化財
編集現地情報
編集所在地
交通アクセス
- 本社まで
- 本社から御神廟(弥彦山頂)まで
- 徒歩:約90分(山道)
- 弥彦山ロープウェイ:山麓駅(本社から徒歩約10分、送迎バスあり)から山頂駅へ、下車後徒歩約10分。
- 車
周辺
脚注
編集- ^ “御由緒”. 越後一宮 弥彦神社. 2022年5月21日閲覧。
- ^ 山崎幸和「弥彦神社、分社の歴史◇全国47社の背景探る 石油産業との意外なつながりも◇」『日本経済新聞』朝刊2019年6月5日(文化面)2019年6月11日閲覧。
- ^ 境内地図は 彌彦神社境内めぐりマップ(弥彦観光協会(外部リンク))参照。
- ^ 2012年現在の日本一は、和歌山県田辺市の大斎原(熊野本宮大社旧社地)のもので、高さ33.9m。
- ^ “新潟にしかん観光周遊ぐる~んバス”. Niigata West Coast. 2020年9月11日閲覧。