セイタカシギ(丈高鷸、背高鷸、学名:Himantopus himantopus)は、チドリ目セイタカシギ科分類される鳥類の一[4][5]。脚が非常に長く背が高いのが特徴[6]

セイタカシギ
泥地を歩くセイタカシギ
泥地を歩くセイタカシギ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: チドリ目 Charadriiformes
: セイタカシギ科 Recurvirostridae
: セイタカシギ属 Himantopus
: セイタカシギ H. himantopus
学名
Himantopus himantopus
(Linnaeus, 1758)[2]
和名
セイタカシギ
英名
Black-winged Stilt[3]

分布

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ヨーロッパアフリカアジア南部を中心に広く分布する[2]

日本では旅鳥または留鳥[5]。かつて迷鳥としてまれに記録される程度であった。1975年愛知県干拓地で初めて日本国内での繁殖が確認された。埋立地が増えた1978年以降に、東京湾伊勢湾三河湾周辺でも繁殖が確認され留鳥として定住するようになった[6][7]。現在は各地で生息が確認されており、東京湾付近の千葉県習志野市谷津干潟などでは周年観察されている。2007年葛西臨海公園野鳥園で3例の繁殖が確認されている[注釈 1][8]2009年6月に沖永良部島で1例の繁殖が確認されている[9]

形態

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体長(の先から尾羽までの長さ)は約37 cm[7]翼開長は約70 cm[6]の長さは付け根から指先まで約25 cm。脚は赤または桃色で、は灰色、首筋から腹部にかけては白色、爪楊枝のように真っ直ぐに細長いは黒色[注釈 2][10]虹彩は赤色で[6][7]、地味な鳥が多いシギ類の中でも目立つ体色で外観は特異[11]夏羽では頭頂部から後頭部にかけてが黒くなり、冬羽では白または灰色になる。雄は背面が光沢を帯びた黒色、雌は背面が褐色がかり、頭部は少々灰色がかる[6]。幼鳥は上面が褐色で、頭部に褐色斑があり[6]、羽縁が白い[5]。若鳥は成鳥の雌に似ているが風切羽に褐色味があり脚の色がより淡い[5]。頭部の羽色の黒模様は個体差が大きい[6]。冬には羽色が夏よりも薄くなり、脚は夏の赤色から桃色になる[7][12]は羽黒く[12]、初列風切羽が10枚、次列風切羽が15-18枚、3列風切羽が6枚、尾羽は12枚[13]。細長い脚を真っ直ぐに伸ばして飛行する[5]

名前の由来

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学名は「ひものような脚の鳥」を意味する[14]和名は脚が長くて背が高いことに由来する[11]英名のBlack-winged Stiltは、「黒い翼」と細くて長い脚であることに因んだ「竹馬」を意味する[14]

生態

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湿地干潟湖沼河口水田などに生息する[6]。繁殖期は番いで生活し、縄張りを持つ。非繁殖期は小さな群れで生活し[6]、番いを中心とした家族が集まって群れを形成する可能性がある。

食性は動物食。長い脚で水辺を歩き回り、嘴を水中に斜めに差し込み、昆虫エビカニなどの甲殻類小魚ゴカイ[7]などを捕食する[6]。脚が長いぶん、干潟などの浅瀬で競合するサギや他のシギチドリ類よりも深い場所にまで足を延ばすことができる[6]。採食中に首に振りながら歩く[7]。海水域で捕食した後には、淡水域で水浴びを行う[5]

日本での繁殖時期は4-6月で、水際の見通しのよい場所に枯れ草などを重ねて営巣し4卵を産む(地表にそのまま産むこともある)。抱卵は雌雄共同で行い、抱卵日数は26-27日。営巣地が気象の影響(水害など)をうけやすく、また外敵からの捕食も多いことから卵の孵化率は2割弱といわれている。

雛は早成性で、雛は孵化後すぐに巣の外に出て、自力で餌を探す。親鳥は雛を外敵から保護するが、給餌や餌のとり方の教授は行わない。雌の半分ほどは、育雛の途中で、雄と雛を残し繁殖地を離れてしまうが、その場合は残された雄が雛の世話を続ける。雛は孵化後26日程で飛べるようになる。

鳴き声

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鳴き声は「ビューイッ」[7]、繁殖期や警戒時には高く鋭い声で「ケレッ、ケレッ、ケレッ」[11]、飛び立つ時には澄んだ細い声で「ピピッ」[11]

分類

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セイタカシギ属

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セイタカシギ属(セイタカシギぞく、学名:Himantopus Brisson, 1760 )はチドリ目セイタクシギ科の一[2][3]。以下の種に分類されている[2][3]。セイタカシギの亜種として分類されていたものが、独立種に分離されている[2]。クロセイタカシギを除いた種は腹部の白と背面の黒ないし灰色は共通するが、頭部などに外見上の違いがある。クロセイタカシギは全体に黒く他の種と色柄が大きく異なる。

セイタカシギ
学名:H. himantopus (Linnaeus, 1758)、英名:Black-winged Stilt
ヨーロッパ、アフリカ、アジア南部を中心に広く分布する。日本で見られるものは多くが本種またはオーストラリアセイタカシギである。
オーストラリアセイタカシギ
学名:H. leucocephalus Gould, 1837、英名:White-headed Stilt
オーストラリアに広く分布する。頭部の白色部分が広いのが特徴。
クロエリセイタカシギ
学名:H. mexicanus (Statius Müller, 1776)、英名:Black-necked Stilt
アメリカ南部と西部からペルーブラジル東部にかけて分布する。頭部が黒く、眼の周りが白いのが特徴。ハワイ諸島には亜種H. mexicanus knudseni Stejneger, 1887 )が分布し[2]、希少種で絶滅が危惧されている。亜種(H. mexicanus. mexicanus (Statius Müller, 1776) )と比較して、より黒い部分が広いのが特徴。2001年に故意に放鳥された個体が京都府大阪府奈良県で確認され、日本で外来種とされている[15]
ナンベイセイタカシギ
学名:H. melanurus Vieillot, 1817、英名:White-backed Stilt
クロエリセイタカシギより大きく、頭頂が白い。ペルーとブラジル北部からアルゼンチン中南部にかけて分布する。
クロセイタカシギ
学名:H. novaezelandiae Gould, 1841、英名:Black Stilt
ニュージーランドに分布する。全体が黒い。

種の保全状況評価

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国際自然保護連合(IUCN)により、2004年からレッドリスト軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]。総個体数は450,000-780,000と推定されていて、個体数は増加傾向にある[1]。日中渡り鳥保護協定指定種[16]

日本では環境省によりレッドリストの絶滅危惧II類(VU)の指定を受けている[17][注釈 3]

絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト[17]

また以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている[18]。奈良県などで定着が確認されている外来種のクロエリセイタカシギとの交雑が危惧されている[19]

脚注

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注釈

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  1. ^ 2007年以後も毎年葛西臨海公園野鳥園で繁殖が確認されているが、アオダイショウにより卵が食べられることなどが原因で雛は育っていない。
  2. ^ 嘴の先端が上に沿った同科の別種のソリハシセイタカシギがあり、稀に旅鳥または冬鳥として日本に飛来する
  3. ^ 1998年版の第2次レッドリストでは絶滅危惧IB(EN)類の指定を受けていて、2006年版の第3次レッドリストで絶滅危惧II類(VU)にカテゴリー変更された。
  4. ^ 千葉県のカテゴリー最重要保護生物(A)は環境省の絶滅危惧IA類(CR)相当
  5. ^ 青森県のカテゴリー重要希少野生生物(Bランク)は環境省の絶滅危惧II類(VU)相当。
  6. ^ 兵庫県のカテゴリーBランクは環境省の絶滅危惧II類(VU)相当。
  7. ^ 北海道のカテゴリー希少種(R)は環境省の準絶滅危惧(NT)相当。
  8. ^ 茨城県のカテゴリー希少種(R)は環境省の準絶滅危惧(NT)相当。

出典

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  1. ^ a b c Himantopus himantopus (Black-winged Stilt) in IUCN Red List of Threatened Species. Version 2013.1.” (英語). 国際自然保護連合(IUCN). 2013年10月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e f IOC World Bird List 3.5 (Shorebirds & allies)” (英語). 国際鳥類学会議(IOC). 2013年10月27日閲覧。
  3. ^ a b c Himantopus Brisson, 1760” (英語). ITIS. 2012年10月27日閲覧。
  4. ^ 日本鳥類目録 改訂第7版”. 日本鳥学会 (2012年9月15日). 2013年10月27日閲覧。
  5. ^ a b c d e f 叶内 (2006)、304頁
  6. ^ a b c d e f g h i j k 中川 (2010)、67頁
  7. ^ a b c d e f g 真木 (2012)、101頁
  8. ^ 中村忠昌 (2012年3月). “広報誌「緑と水のひろば」” (PDF). 東京都公園協会. pp. 17. 2013年10月27日閲覧。
  9. ^ 中村 (2009)、12頁
  10. ^ 叶内 (2006)、303頁
  11. ^ a b c d 高木 (2002)、142-143頁
  12. ^ a b 叶内 (2006)、305頁
  13. ^ 笹川 (2011)、382頁
  14. ^ a b 国松 (1995)、104頁
  15. ^ 侵入生物データベース・クロエリセイタカシギ”. 国立環境研究所. 2013年10月28日閲覧。
  16. ^ a b 青森県レッドデータブック(2010年改訂版)” (PDF). 青森県. pp. 196 (2010年). 2013年10月27日閲覧。
  17. ^ a b 【鳥類】環境省第4次レッドリスト(2012)<分類群順>” (PDF). 環境省 (2012年8月28日). 2013年10月27日閲覧。
  18. ^ 日本のレッドデータ検索システム「セイタカシギ」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2012年10月24日閲覧。 - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
  19. ^ 要注意外来生物に係る情報及び注意事項” (PDF). 環境省. pp. 13-14. 2013年10月28日閲覧。
  20. ^ 千葉県レッドデータブック動物編(2011年改訂版)” (PDF). 千葉県. pp. 65 (2011年). 2013年10月27日閲覧。
  21. ^ 福井県レッドデータブック(動物編)・セイタカシギ”. 福井県 (2004年). 2013年10月27日閲覧。
  22. ^ 香川県レッドデータブック・セイタカシギ”. 香川県 (2004年3月). 2013年10月27日閲覧。
  23. ^ レッドデータブックやまぐち・セイタカシギ”. 山口県 (2002年). 2013年10月27日閲覧。
  24. ^ 愛媛県レッドデータブック・セイタカシギ”. 愛媛県 (2003年). 2013年10月27日閲覧。
  25. ^ レッドデータブックおおいた2011” (PDF). 大分県. pp. 46 (2011年). 2013年1月22日閲覧。
  26. ^ レッドデータブックあいち2009・セイタカシギ” (PDF). 愛知県. pp. 133 (2009年). 2013年10月27日閲覧。
  27. ^ 徳島県版レッドデータブック” (PDF). 徳島県. pp. 57 (2001年). 2013年10月27日閲覧。
  28. ^ 徳島県版レッドリスト(改訂版)鳥類” (PDF). 徳島県 (2011年8月). 2013年10月27日閲覧。
  29. ^ レッドデータブックにいがた” (PDF). 新潟県. pp. 60 (2001年3月). 2013年10月27日閲覧。
  30. ^ 京都府レッドデータブック・セイタカシギ”. 京都府 (2002年). 2013年10月27日閲覧。
  31. ^ しまねレッドデータブック・セイタカシギ”. 島根県 (2004年). 2013年10月27日閲覧。
  32. ^ 岡山県版レッドデータブック2009” (PDF). 岡山県. pp. 73 (2009年). 2013年10月27日閲覧。
  33. ^ 北海道レッドデータブック・セイタカシギ”. 北海道 (2001年). 2013年10月27日閲覧。
  34. ^ 三重県レッドデータブック2005・セイタカシギ”. 三重県 (2005年). 2013年10月27日閲覧。

参考文献

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  • 叶内拓哉、安部直哉『山溪ハンディ図鑑7 日本の野鳥』(第2版)山と溪谷社、2006年10月1日。ISBN 4635070077 
  • 国松俊英『名前といわれ 日本の野鳥図鑑2 水辺の鳥』偕成社、1995年4月。ISBN 4035293709 
  • 笹川昭雄『決定版 日本の野鳥羽根図鑑』世界文化社、2011年9月20日。ISBN 978-4418119011 
  • 高木清和『フィールドのための野鳥図鑑-水辺の鳥』山と溪谷社、2002年2月1日。ISBN 4635063321 
  • 『動物たちの地球 19』、朝日新聞社1991年、196-199頁。
  • 中村麻理子、鮫島正道 (2010-03-31). “沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態--九州での初記録” (PDF). カゴシマネイチャー (鹿児島県自然愛護協会) 36. NAID 120005232220. http://ir.kagoshima-u.ac.jp/bitstream/10232/18078/1/AA12599025_v36_p11-18.pdf. 
  • 中川雄三(監修) 編『ひと目でわかる野鳥』成美堂出版、2010年1月。ISBN 978-4415305325 
  • 真木広造『名前がわかる野鳥大図鑑』永岡書店、2012年4月10日。ISBN 978-4522430866 
  • 真木広造他 『日本の野鳥590』 平凡社

関連項目

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外部リンク

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