チドリ科
チドリ科(チドリか、学名 Charadriidae)は、鳥類チドリ目の科である。チドリ(千鳥・鵆・鴴)と総称される[1]。 また、旅鳥でもある。
チドリ科 | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||
Charadriidae Leach, 1820 | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
チドリ(千鳥・鵆) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Plovers | ||||||||||||||||||||||||
属 | ||||||||||||||||||||||||
特徴
編集分布
編集全世界(極地を除く)。
形態
編集メスよりもオスの方がやや大型である。上面と下面の羽毛の色彩が非連続的に分断された色彩の種が多く、これにより輪郭をとらえにくくなり保護色になると考えられている。
頭部は丸みを帯び、眼は大型。嘴は短い。後肢が発達し、多くの種は第1趾が退化している。
生態
編集海岸、干潟、河川、湿原、草原などの様々な環境に生息する。飛翔力は強く、渡りを行う種が多い。発達した後肢により地表を素早く走行することもできる。
動物食で、昆虫、甲殻類、貝類、ゴカイなどを食べる。地表で獲物をついばんだ後に少し徘徊し、また獲物をついばむといった行動を取ることが多い。
地表に窪みを掘っただけの巣を作り、1回に2–6個(主に4個)の卵を産む。主に雌雄交代で抱卵する。
系統と分類
編集系統樹は Baker et al. (2007)[2]より。
チドリ目 |
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
伝統的なチドリ科は単系統ではなく、ムナグロ属のみが離れた系統的位置にある。そのため、ムナグロ属を単型のムナグロ科 Pluvialidae として分離する説が出ている[3]。ムナグロ科はチドリ科(ムナグロ科を除く)の姉妹群の基底に位置する。
かつてはマゼランチドリ Pluvianellus がチドリ科に含まれていたが、系統的に離れており、単型のマゼランチドリ科に分離された。
マダラゲリ(マダラチドリ)は単型のマダラゲリ属に分類されていたが、Bock (1958) によりタゲリ属に統合された後、Strauch (1978) などにより再分離された。系統位置は不確定で、タゲリ属の姉妹群だとする説や、タゲリ属よりもチドリ属に近縁だとする説がある[4]。
コバシチドリ属にはかつて2種が属していたが、ノドアカコバシチドリが分離されてコバシチドリの単型属となった。チドリ属に含める説もあるが[5][6]、チドリ属とはやや離れている。
歴史
編集かつては現在のチドリ科より広い範囲をチドリ科とすることもあった。Mitchell (1905) はシギ科(おそらくヒレアシシギ属を含まない)を、Lowe (1922) はミヤコドリ科(おそらくトキハシゲリ科を含む)・タマシギ科・レンカク科を、Mayr & Amadon (1951) はセイタカシギ科・タマシギ科・シギ科・ヒレアシシギ科(現在はシギ科の一部)を、チドリ科に含めた[7]。これらのうちタマシギ科・レンカク科・シギ科は現在は別亜目のシギ亜目に分類されている。
Wetmore (1960) では現在とほぼ同じ範囲となった。ただしまだマゼランチドリ(ムナグロ属も)を含んでいる。また彼らは、ミヤコドリ科(トキハシゲリ科を含む)・セイタカシギ科・タマシギ科・シギ科・ヒレアシシギ科を加えチドリ上科 Charadrioidea とした。
Sibley & Ahlquist (1990) も、広い範囲をチドリ科とした。彼らのチドリ科はチドリ亜科(現在のチドリ科)とセイタカシギ亜科(現在のミヤコドリ科・セイタカシギ科・トキハシゲリ科)に分かれていた。マゼランチドリは外された。
属と種
編集国際鳥類学会議 (IOC) の分類[5]より。ただし狭義のチドリ科とムナグロ科を分け、コバシチドリをチドリ属から(再)分離した。和名は厚生労働省[8]などより。
11属(IOCでは10属)67種。日本では12種 (○/●) が見られ、うち5種 (●) が繁殖する[1]。
狭義のチドリ科
編集- Vanellus タゲリ属(ケリ属)(ケリ属 Microsarcops を含む)
- Vanellus vanellus, Northern Lapwing, タゲリ ●
- Vanellus crassirostris, Long-toed Lapwing, レンカクゲリ
- Vanellus armatus, Blacksmith Lapwing, シロクロゲリ
- Vanellus spinosus, Spur-winged Lapwing, ツメバゲリ
- Vanellus duvaucelii, River Lapwing, カタグロツメバゲリ
- Vanellus tectus, Black-headed Lapwing, ズグロタゲリ
- Vanellus malabaricus, Yellow-wattled Lapwing, キトサカゲリ
- Vanellus albiceps, White-crowned Lapwing, シロガシラトサカゲリ
- Vanellus lugubris, Senegal Lapwing, シロビタイゲリ
- Vanellus melanopterus, Black-winged Lapwing, ハグロゲリ
- Vanellus coronatus, Crowned Lapwing, オウカンゲリ
- Vanellus senegallus, African Wattled Lapwing, トサカゲリ
- Vanellus melanocephalus, Spot-breasted Lapwing, ムナフタゲリ
- Vanellus superciliosus, Brown-chested Lapwing, チャムネトサカゲリ
- Vanellus cinereus, Grey-headed Lapwing, ケリ ●
- Vanellus indicus, Red-wattled Lapwing, インドトサカゲリ (↑から分離)
- Vanellus macropterus, Javan Lapwing, ジャワトサカゲリ
- Vanellus tricolor, Banded Lapwing, ムナオビトサカゲリ
- Vanellus miles, Masked Lapwing, ズグロトサカゲリ
- Vanellus gregarius, Sociable Lapwing, マミジロゲリ
- Vanellus leucurus, White-tailed Lapwing, オジロゲリ
- Vanellus chilensis, Southern Lapwing, ナンベイタゲリ (Belonopterus chilensis, V. cayennensis)
- Vanellus resplendens, Andean Lapwing, アンデスツメバゲリ
- Erythrogonys (Charadrius から分離)
- Erythrogonys cinctus, Red-kneed Dotterel, ワキアカチドリ
- Peltohyas
- Peltohyas australis, Inland Dotterel, マキエチドリ
- Anarhynchus
- Anarhynchus frontalis, Wrybill, ハシマガリチドリ
- Charadrius チドリ属
- Charadrius obscurus, New Zealand Plover, ニュージーランドチドリ (Pluvialis obscura)
- Charadrius hiaticula, Common Ringed Plover, ハジロコチドリ ○
- Charadrius semipalmatus, Semipalmated Plover, ミズカキチドリ
- Charadrius placidus, Long-billed Plover, イカルチドリ ●
- Charadrius dubius, Little Ringed Plover, コチドリ ●
- Charadrius wilsonia, Wilson's Plover, ウイルソンチドリ
- Charadrius vociferus, Killdeer, フタオビチドリ
- Charadrius melodus, Piping Plover, フエコチドリ
- Charadrius thoracicus, Madagascar Plover, マダガスカルチドリ
- Charadrius pecuarius, Kittlitz's Plover, ヒメチドリ
- Charadrius sanctaehelenae, St. Helena Plover, セントヘレナチドリ
- Charadrius tricollaris, Three-banded Plover, ミスジチドリ
- Charadrius forbesi, Forbes's Plover, ニシミスジチドリ
- Charadrius marginatus, White-fronted Plover, シロビタイチドリ
- Charadrius alexandrinus, Kentish Plover, シロチドリ ●
- Charadrius nivosus, Snowy Plover, ユキチドリ (↑から分離; C. occidentalis を含む)
- Charadrius javanicus, Javan Plover, ジャワクロエリシロチドリ
- Charadrius ruficapillus, Red-capped Plover, アカエリシロチドリ
- Charadrius peronii, Malaysian Plover, クロエリシロチドリ
- Charadrius pallidus, Chestnut-banded Plover, クリオビチドリ
- Charadrius collaris, Collared Plover, クロオビチドリ
- Charadrius alticola, Puna Plover, プナフタオビチドリ
- Charadrius falklandicus, Two-banded Plover, コフタオビチドリ
- Charadrius bicinctus, Double-banded Plover, チャオビチドリ
- Charadrius mongolus, Lesser Sand Plover, メダイチドリ ○
- Charadrius leschenaultii, Greater Sand Plover, オオメダイチドリ ○
- Charadrius asiaticus, Caspian Plover, ニシオオチドリ
- Charadrius veredus, Oriental Plover, オオチドリ ○
- Charadrius modestus, Rufous-chested Plover, ムネアカチドリ
- Charadrius montanus, Mountain Plover, ミヤマチドリ
- Eudromias (Charadrius から分離)
- Eudromias morinellus, Eurasian Dotterel, コバシチドリ ○
- Thinornis ノドグロチドリ属 (Charadrius から分離)
- Thinornis rubricollis, Hooded Dotterel, ズグロチドリ
- Thinornis novaeseelandiae, Shore Dotterel, ノドグロチドリ
- Elseyornis (Charadrius から分離)
- Elseyornis melanops, Black-fronted Dotterel, カタアカチドリ
- Oreopholus (Eudromias から分離)
- Oreopholus ruficollis, Tawny-throated Dotterel, ノドアカコバシチドリ
- Phegornis
- Phegornis mitchellii, Diademed Plover, ハシナガチドリ
- Hoploxypterus (Vanellus から分離)
- Hoploxypterus cayanus, Pied Plover, マダラゲリ
ムナグロ科
編集- Pluvialis ムナグロ属
- Pluvialis apricaria, European Golden Plover, ヨーロッパムナグロ
- Pluvialis fulva, Pacific Golden Plover, ムナグロ ○ (↓から分離)
- Pluvialis dominica, American Golden Plover, アメリカムナグロ
- Pluvialis squatarola, Grey Plover, ダイゼン ○
人間との関係
編集利用
編集危機状態
編集開発による生息地の破壊、食用や娯楽としての乱獲、人為的に移入された動物による捕食、植物による植生の変化などにより生息数が減少している種もいる。
日本文化と“千鳥”
編集古来日本では、野山や水辺に群れる小鳥たち、とりわけチドリなどの仲間を千鳥と呼び、親しんできた。また多くの鳥のことも千鳥あるいは百千鳥(ももちどり)と呼んだ。
多数が群れる「千の鳥」の意ともいい、また「チ」は鳴き声に由来するともいう。
古くは万葉集でも、千鳥を詠み込んだ歌が多数知られている。また箏曲・胡弓曲「千鳥の曲」は広く知られている。
俳句では、「千鳥」は冬の季語である。ただし実際の生態とは必ずしも一致しない。
和歌
編集淡海の海(み) 夕波千鳥 汝(な)が鳴けば心もしのに古(いにしへ)思ほゆ
思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の川 風寒み千鳥鳴くなり
音楽
編集意匠
編集- 通称「波に千鳥」は、古くから広く親しまれてきた和柄である。着物やさまざまな日用品のデザインとして広く使われてきた。さまざまなバリエーションがある。
- 家紋の中には千鳥をモチーフにした「丸に千鳥」や「波輪に陰千鳥」などがある。家紋の一覧を参照。
- 英語でHoundstooth(犬の歯)と呼ばれる格子柄は日本語で「千鳥格子」と呼ぶ。
- あるものが規則正しくジグザグの頂点に並んだ様子を「千鳥」または「千鳥配置」と言う。これは酔っ払いなどが足を左右に踏み違えて歩くのを「千鳥足」と言うのに由来すると考えられる[9][10]。特に建築業界では釘などの留め場所または継ぎ跡が縦と横にそろえず、上下左右へ交互にずらしながら配置するのを「千鳥」と言う[9][11]。
菓子
編集市町村の鳥
編集いずれも淡路島の市町村で、選定理由は上述の短歌から。古くは淡路高等女学校(現在の兵庫県立洲本高等学校)の校章にも浜千鳥が採用されていたほかこの地になじんだ鳥である。
画像
編集出典
編集- ^ a b 柳澤紀夫, “チドリ”, 日本大百科全書, Yahoo!百科事典, 小学館
- ^ Baker, Allan J.; Pereira, Sérgio L.; Paton, Tara A. (2007), “Phylogenetic relationships and divergence times of Charadriiformes genera: multigene evidence for the Cretaceous origin of at least 14 clades of shorebirds”, Biol. Lett. 3 (2): 205–209
- ^ Baker, A.J.; Pereira, S.L. (2009), “Shorebirds (Charadiiformes)”, in Hedges, S.B.; Kumar, S., The Timetree of Life, Oxford University Press, p. 432–435, ISBN 978-0199535033
- ^ Remsen, J.V.; Cadena, C.D.; Jaramillo, A.; Nores, M.; Pacheco, J.F.; Robbins, M.B.; Schulenberg, T.S.; Stiles, F.G. et al., “Part 2. Accipitriformes to Charadriiformes”, in AOU, A classification of the bird species of South America, 7 Oct. 2010, オリジナルの2008年4月12日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b Gill, F.; Donsker, D., eds. (2010), “Shorebirds & allies”, IOC World Bird Names, version 2.6
- ^ AOU, ed., Check-list of North American Birds, 7th
- ^ Sibley, Charles L.; Ahlquist, Jon E. (1972), A comparative study of the egg-white proteins of non-passerine birds, Peabody Museum of Natural History Bulletin 39, New Heaven, CT: Yale University, オリジナルの2010年6月27日時点におけるアーカイブ。
- ^ 厚生労働省 動物の輸入届出制度 届出対象動物の種類名リスト 鳥類一覧
- ^ a b “【東建コーポ】千鳥|建築用語”. www.token.co.jp. 2023年1月12日閲覧。
- ^ “千鳥足とは”. コトバンク. 2023年1月12日閲覧。
- ^ “千鳥(施工における〜)とは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産:三井住友信託銀行グループ”. smtrc.jp. 2023年1月12日閲覧。
参考文献
編集- 桐原政志 『日本の鳥550 水辺の鳥』、文一総合出版、2000年、181–193頁。
- 黒田長久 監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科8 鳥類II』、平凡社、1986年、6–9, 156頁。
- 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文 編著 『レッド・データ・アニマルズ6 アフリカ』、講談社、2000年、185頁。
- 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社、2000年、96, 194頁。
- 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ7 オーストラリア、ニューギニア』、講談社、2000年、82, 176頁。
- 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』、講談社、2001年、71–72, 193–195頁。
- 高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会、2007年、130–135頁。
- 中村登流 監修 『原色ワイド図鑑4 鳥』、学習研究社、1984年、50, 190頁。
- 真木広造、大西敏一 『日本の野鳥590』、平凡社、2000年、212–224頁。
- 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館、2002年、52頁。
外部リンク
編集- 万葉集:千鳥を詠んだ歌 (たのしい万葉集)
- 千鳥文様について (ちどり本舗 - ウェイバックマシン(2001年4月17日アーカイブ分))