オオヤマレンゲ(大山蓮華[7]学名Magnolia sieboldii subsp. japonica)は、モクレン科モクレン属分類される落葉低木の1分類群である。本州関東以南から九州、および中国東南部に分布する。和名は、奈良県の大山(おおやま:大峰山)に群生地があり、大山にハスの花(蓮華)に似た花を咲かせるというのが名の由来する[8][9][10]。別名として「ミヤマレンゲ」(深山蓮華)ともよばれる。雄しべは淡赤色(右図)。一般的に「オオヤマレンゲ」の名で鑑賞用に栽培されるものは、基亜種のオオバオオヤマレンゲ(大葉大山蓮華、学名Magnolia sieboldii subsp. sieboldii)である[8][11]。オオバオオヤマレンゲはやや大型で雄しべが紫紅色であり、朝鮮半島から中国東北地方に分布する。学名の種小名(sieboldii)は、江戸時代に来日したシーボルトに由来する。

オオヤマレンゲ
オオヤマレンゲの花
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: モクレン科 Magnoliaceae
: モクレン属 Magnolia
: オオヤマレンゲ節[1] Magnolia sect. Oyama[2]
: M. sieboldii
亜種 : オオヤマレンゲ
M. sieboldii ssp. japonica
学名
Magnolia sieboldii K.Koch subsp. japonica K.Ueda (1980)[3][4]
シノニム
和名
オオヤマレンゲ、ミヤマレンゲ[5]
英名
Oyama magnolia[6][注 1]

特徴

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落葉性低木から小高木であり、高さ1–5メートル (m)、幹はしばしば斜上し、屈曲する[5][12][13][14]樹皮は灰白色から灰褐色[5][7]。滑らかで大きな皮目が目立つ[7]。一年枝は褐色でやや太く、短枝がよくでき、托葉痕が枝を一周する[7]

冬芽は互生し、頂芽は大きく長さ1–1.5センチメートル (cm) の長楕円形で、側芽は小さい[7]。冬芽の芽鱗は托葉と葉柄基部が合着した帽子状で、濃褐色の軟毛があり[7]、やや革質[5]。側芽は毛が少ない[7]。葉痕はV字形や三角形で、維管束痕が7 - 9個つく[7]

1a. 葉とつぼみ
1b. 葉の裏面

互生し、葉身は倒卵形から広倒卵形、6–20 × 5–12 cm、全縁、基部は鈍形から円形、先端は短く尖り、表面は緑色で平滑だがときにまばらに毛があり、裏面は白色を帯び全面に毛が生えている[5][12][15](上図1a, b)。葉脈は羽状、側脈は5–10対[15]葉柄は長さ 2–4 cm[5][12][15]

1c. 花
1d. 花の裏面

花期は5–7月、枝先に直径 5–8 cm の白いが下向きから横向きに咲く[5][12][16][17](上図1c, d)。花の寿命は4-5日程度[14]花被片は白色、9–12枚、3枚ずつ輪生する[5][12](上図1c, d)。雄しべは、多数がらせん状につき、花糸葯隔は淡赤色、は淡黄緑色から白色[5][12][11](上図1c)。基亜種のオオバオオヤマレンゲは、雄しべが赤紫色である点で異なる[5][12](下図4)。雌しべは約10個、らせん状につく[8](上図1c)。花は芳香を放ち[12]、匂いの主成分はカリオフィレンである[18]八重咲きの園芸種もある[10]

1e. 果実(未熟果)
1f. 果実

果期は9–10月[8]。個々の雌しべ袋果になり、集まって長さ 3–5 cm の楕円形の集合果を形成し、赤く熟す[12](上図1e, f)。各果実に赤い種子が2個ずつ含まれ、種子は珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる[8]染色体数は 2n = 38[12]

倒伏した枝から発根し栄養繁殖を行うことがある[19]

分布と生育環境

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2. 穂高岳のオオヤマレンゲ

オオヤマレンゲは、本州の関東北部以西(谷川岳周辺がその北東限)、四国九州屋久島、および中国南東部(安徽省広西省)に分布する[4][12][14][8]。山地の冷温帯から亜寒帯に生育し、落葉広葉樹林や針葉樹林の林縁、やせ尾根や岩場等の限られた場所でまれに見られる[5][9][12][8][16](右図2)。

基亜種であるオオバオオヤマレンゲは、朝鮮半島から中国東北地方に分布する[12]。朝鮮半島では、山地にふつうに見られる[9]

種の保全状況評価

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オオヤマレンゲに関して、環境省としてのレッドリストの指定はないが、日本の各都道府県では、以下のレッドリストの指定を受けている(2021年現在)[20]

環境省により、上信越高原国立公園中部山岳国立公園南アルプス国立公園白山国立公園などで自然公園指定植物となっている[23]

奈良県の八経ヶ岳明星ヶ岳周辺にオオヤマレンゲの自生地があり[24]1928年(昭和3年)2月7日に国の天然記念物に指定された[25]長野県上松町の町の花と奈良県天川村の村の花である。

人間との関わり

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3. ウケザキオオヤマレンゲ

日本では庭木として観賞用に植栽されているが[10]、基亜種であるオオバオオヤマレンゲと混同されていた。古くは1695年伊藤伊兵衛による園芸書『花壇地錦抄』に記載され、延宝年間に江戸に栽培用として持ち込まれたとしている[9]岩崎灌園は『草木育種』(1819) と『本草図譜』(1828) において、雄しべの色が白色のものと紅色のものがあるとしており、これがオオヤマレンゲとオオバオオヤマレンゲにあたると考えられている[9]。このことから、この頃には既に朝鮮半島から観賞用にオオバオオヤマレンゲが輸入されていたと考えられている。オオバオオヤマレンゲは伊藤圭介からシーボルトに渡され、これをもとにオオバオオヤマレンゲは記載されたため、誤って日本産であると考えられていた[9]

日本や欧米で「オオヤマレンゲ」として一般に栽培されているものは、基亜種オオバオオヤマレンゲである[8][26][27]。オオヤマレンゲにくらべて暑さに若干強い[11]。茶花として使われることもある[27]。オオバオオヤマレンゲには八重咲きのものもあり、ミチコレンゲMagnolia sieboldii 'Michiko Renge', 'Plena', '‘Semiplena’')とよばれる[5][28]。またオオバオオヤマレンゲとホオノキとの雑種であるウケザキオオヤマレンゲMagnolia × wieseneri)(右図3、下記参照)は1889年のパリ万国博覧会に日本から出品され、園芸用に利用されている[5][11][27]

オオバオオヤマレンゲは朝鮮半島には比較的多く[9]朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国花とされ、「モンラン」とよばれる[要出典]

「大山蓮華」は初夏季語である[29]

分類

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オオヤマレンゲは、Magnolia sieboldii の亜種として分類されている(Magnolia sieboldii subsp. japonica[3][4][9]。この種の基亜種であるオオバオオヤマレンゲ(大葉大山蓮華、学名:Magnolia sieboldii subsp. sieboldii)はオオヤマレンゲにくらべて葉、花、果実がやや大きく(花は直径 7–10 cm)、雄しべが赤紫色である点でも異なる[12][11](下図4b–d)。中国東北部と朝鮮半島に分布する[12]。日本や欧米では園芸用に植栽されている[12](上記参照)。また別亜種として、中国中南部から Magnolia sieboldii subsp. sinensis が記載されている[30]

オオバオオヤマレンゲ
4a. 葉と果実
4b. 花
4c. 花
4d. 花

上記のように、Magnolia sieboldii のうち、日本に分布するものはオオヤマレンゲ、朝鮮半島に分布するものはオオバオオヤマレンゲと亜種レベルで分けられている[9]。しかし葉緑体DNAの解析からは、九州四国に分布するオオヤマレンゲは韓国のオオバオオヤマレンゲに近縁であることが示されている[31]。このことから、九州・四国のオオヤマレンゲ集団は、オオヤマレンゲとオオバオオヤマレンゲの交雑によって成立したことが示唆されている。

オオバオオヤマレンゲとホオノキとの雑種も知られ、ウケザキオオヤマレンゲ(受咲大山蓮華、学名:Magnolia × wieseneri Carr1890)とよばれる[5][32][33][注 2]。オオヤマレンゲと異なり、花が上向きに咲く[5]

脚注

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注釈

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  1. ^ オオバオオヤマレンゲを含めて Magnolia sieboldii 全体の名称とされる[6]
  2. ^ よく知られたシノニムとして、Magnolia × watsonii Hook.f.1891 がある[33][11]

出典

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  1. ^ 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649577. 
  2. ^ Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi:10.1111/jse.12588. 
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “オオヤマレンゲ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2017年10月20日閲覧。
  4. ^ a b c d e Magnolia sieboldii subsp. japonica”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年2月11日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 勝山輝男 (2000). “オオヤマレンゲ”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. p. 382–383. ISBN 4-635-07003-4 
  6. ^ a b GBIF Secretariat (2022年). “Magnolia sieboldii K.Koch”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年2月11日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 242
  8. ^ a b c d e f g h オオヤマレンゲhttps://kotobank.jp/word/%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B2コトバンクより2022年2月11日閲覧 
  9. ^ a b c d e f g h i 植田邦彦「オオヤマレンゲについて」『植物分類・地理』第31巻第4号、日本植物分類学会、1980年、117-126頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078376NAID 110003760020 
  10. ^ a b c 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 64.
  11. ^ a b c d e f 植田邦彦 (1997). “ホオノキ”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. 朝日新聞社. pp. 116-118. ISBN 9784023800106 
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 大橋広好 (2015). “モクレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 71–74. ISBN 978-4582535310 
  13. ^ 林弥栄 (2011). 日本の樹木 増補改訂新版. 山と溪谷社. p. 193. ISBN 978-4635090438 
  14. ^ a b c 7月 オオヤマレンゲ”. 森林総合研究所 (2010年7月1日). 2011年9月16日閲覧。
  15. ^ a b c 馬場多久男 (1999). “オオヤマレンゲ”. 葉でわかる樹木 625種の検索. 信濃毎日新聞社. p. 167. ISBN 978-4784098507 
  16. ^ a b c オオヤマレンゲ” (PDF). 奈良県. pp. 1. 2011年9月16日閲覧。
  17. ^ オオヤマレンゲ”. 石川県. 2011年9月16日閲覧。
  18. ^ 東浩司 (2004). “モクレン科の花の匂いと系統進化”. 分類 4 (1): 49-61. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649594. 
  19. ^ オオヤマレンゲ レッドデータブックやまぐち”. 山口県. 2011年9月16日閲覧。
  20. ^ オオヤマレンゲ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年2月11日閲覧。
  21. ^ 『花の百名山地図帳』山と溪谷社、2007年5月、196頁。ISBN 9784635922463 
  22. ^ 福井県RDB:オオヤマレンゲ”. 福井県. 2011年9月16日閲覧。
  23. ^ 国立・国定公園特別地域内指定植物(オオヤマレンゲ)” (PDF). 環境省自然環境局. pp. 2. 2011年9月16日閲覧。
  24. ^ 地図閲覧サービス(オオヤマレンゲ)”. 国土地理院. 2011年9月16日閲覧。
  25. ^ 史跡名勝天然記念物(オオヤマレンゲ自生地)”. 文化庁. 2011年9月15日閲覧。
  26. ^ 伊藤健 (2015). “東京農大農学部植物園から(29)オオヤマレンゲ”. 新・実学ジャーナル 122: 8150701. 
  27. ^ a b c オオヤマレンゲ特集!天然記念物?その特徴と基本情報まとめ”. 暮らしーの (2020年8月27日). 2022年2月11日閲覧。
  28. ^ Kalleberg, O. (1989年). “Magnolia sieboldii: the multitepalled forms”. The Magnolia Society International. 2022年7月28日閲覧。
  29. ^ 大山蓮華”. きごさい歳時記. 2022年2月28日閲覧。
  30. ^ Magnolia sieboldii subsp. sinensis”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年2月13日閲覧。
  31. ^ 菊地賢. “オオヤマレンゲの系統地理”. 日本森林学会大会発表データベース 第120回日本森林学会大会: 803. doi:10.11519/jfsc.120.0.803.0. 
  32. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ウケザキオオヤマレンゲ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年2月19日閲覧。
  33. ^ a b Magnolia × wieseneri”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年7月28日閲覧。

参考文献

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  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、242頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、64頁。ISBN 4-522-21557-6 

関連項目

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外部リンク

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