いびき
概要
編集医学的には「軟口蓋、舌、咽頭壁などの上気道の軟部組織が振動することで発生する音響現象」と定義される[1]。ヒトの上気道は発声に有利な構造に進化したが、軟部組織のみの部位が長くなったためイビキを起こしやすくなった[1]。仰臥位での睡眠中に筋肉が弛緩して舌や軟口蓋が沈下すると上気道が狭くなることがある[2]。このときの吸気努力により軟口蓋や舌根部に振動音や狭窄音が生じて音が出る[2]。
健康な成人でも飲酒や肉体疲労などで口呼吸となり上気道が狭窄していびきを生じることがある[2]。このような一時的ないびき(病的ではない単純性いびき症)に対して、習慣性のいびきがあり、この場合は睡眠呼吸障害を呈している可能性がある[2]。いびきは閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea; OSA)の主症状でもありその指標にもなっている[1]。
いびきの振動による影響として、上気道粘膜に傷害を起こし、炎症化して咽頭粘膜や隣接する血管に永続的な障害を引き起こす可能性がある[1]。また、上気道抵抗に抗するための呼吸努力が増大し、心筋経壁圧の増加による左室肥大や心不全の悪化を引き起こす可能性も指摘されている[1]。また、無呼吸のないイビキ症患者も含め、圧受容体感受性が低下することによって、夜間の血圧上昇だけでなく日中の血圧上昇につながる可能性も指摘されている[1]。
このほか睡眠中の呼吸努力の増大による疲労感や、上気道抵抗の上昇や騒音によって、睡眠に障害を来たすこともある[1]。
原因
編集影響
編集検査
編集対策と治療
編集対策
編集- いびきをかきにくくすると称する健康用品や健康器具がいくつか市販されている。鼻の両側の穴に差し込み、鼻中隔をクリップして止める一部がとぎれたリング状のものや、音響センサーなどによっていびきを感知し振動などの刺激を与えるものや、空気袋等により睡眠姿勢を若干変えるようなものなど、方法も価格も千差万別である。しかしながら、その効果・実績は、それぞれ明確に示しているものと明らかでないものがある。
- グリセリンを保湿剤とする鼻スプレーもいびき対策として販売されている。
- 枕の高さなどを見直してみることが有効である場合もある。
- 仰向けに寝るとあごが後退し、舌根がのどの方に沈下していびきをかきやすい。横向きで寝ると有効な場合がある。
- 肥満が原因と考えられる場合は、その解消が有効な対策となる。アルコールも避けた方がよい。
治療
編集語源
編集「いびき」の語源については、いびき(息引・息吹)説、いひびき(息響・気響・唾響)説、いきびき(息響)説、いきひびき(息響)説、ねいきひびき(寝息響)説など諸説ある[4]。平安時代の漢和字書『新撰字鏡(しんせんじきょう)』にもいびきの語がみられるという。
成句
編集- 白河を夜舟で渡る高いびき
- いびきをかくほどにぐっすりと寝ていたために、記憶が全くないこと。その昔、京を見物した振りをした人が白河のことを尋ねられ、うっかり川のことだと思い込んで「夜に船で渡ったので見ていない」と答えた故事に由来。略して「白河夜舟/船」とも言う。
- いびきをかく者は夜聡し
- いびきをかいて寝ている人は、なんらかの物音や気配などで敏感に目を覚ますという意味。
脚注
編集- ^ a b c d e f g h i j k l 古川智一、須藤信行「イビキ・閉塞性睡眠時無呼吸による健康障害について」『福岡醫學雜誌』第103巻第1号、福岡医学会、2012年1月25日、1-11頁。
- ^ a b c d 原浩貴「いびきと睡眠時無呼吸症候群 : いびきの周波数解析の臨床的意義(今日の医学)」『山口医学』第53巻第6号、山口大学医学会、2004年12月31日、265-267頁。
- ^ a b c d e “睡眠時無呼吸症候群(いびき外来)のご案内”. 神戸百年記念病院. 2022年12月8日閲覧。
- ^ フリーランス雑学ライダーズ編『あて字のおもしろ雑学』 p.20 1988年 永岡書店