インタビュー

マウスコンピューター軣社長に聞く、法人向けPC「MousePro」ブランドが次に生み出す価値

“高品質”と“きめ細かな導入支援”で支持を集める、15周年に向けて取り組むのはAIと、ほかには…?

軣秀樹(とどろき ひでき)氏。1991年に飯山電機(現マウスコンピューター)に入社し、開発・生産・品質管理・サービスなどの部門で勤務。2024年6月、マウスコンピューター代表取締役社長に就任

 マウスコンピューターが2011年2月から展開している法人向けPCブランド「MousePro」が、もうすぐ15周年を迎える。Windows 10のEOS(サポート終了)という節目とも重なるこの機会に、高い品質ときめ細かなサービスでファンを増やしてきたこれまでの取り組みを振り返りながら、今後目指す方向性を、同社の軣社長に聞いた。

MouseProのウェブサイト。

「初期不良を出さない」ことを徹底工場のつくりも変えるほど“高品質”を追求し信頼を得る

 マウスコンピューターが創業したのは1993年4月。当初は低価格PCで大きな注目を集め、個人向けPCのメーカーとして成長してきた。MouseProブランドを立ち上げても、当初は個人向けの印象が強く、法人市場では苦戦したという。

 そうした中で、法人でも認知度の高かった「iiyama」ブランドが、突破口を開く。「iiyamaのモニターを手がける会社のPCなら使ってみたい」と、積極的に導入してくれる企業が徐々に増えたという。

 開発・生産畑を歩んできた軣氏は、「法人のお客様に納得していただける品質を実現するため、工場のつくりから変えました」と当時を振り返った。軣氏自身、MouseProを立ち上げた後で学んだことだというが、個人と法人では、製品の不良の捉え方が全く異なるのだという。

 「法人のお客様は、一度に数十、数百台と導入されることがありますが、その中で1台でも不良が出てしまうと、全数が疑われることになります」と、軣氏は語った。

 もちろん、個人向けPCの品質も重要だが、低確率の不良でも、法人向けの取り引きでは与える影響が大きくなるということだ。例えば、生産したPCのうち千台に1台の割合で不良(初期不良)が生じるとして、個人が1台PCを買うのなら、999人に対しての取り引きは問題なく完了する。初期不良品を売ってしまった顧客に対しても、交換・修理により納得してもらえるだろう。

 ところが、数百台まとめて導入する法人に対し、千台に1台の不良が生じる製品を納入しては、低くない確率で初期不良品が入り込んでしまう。そして、その1台を交換・修理しても、残りは大丈夫なのか? という疑念は残ってしまう。

 法人導入に耐える品質を実現する取り組みの1つとして、個人向けPCでは通常3時間実施している動作テストを、より長時間実施し、部品の不良を厳しく選別しているという。また、法人向けPCで新規に採用するパーツについては、個人向けPCで一定期間採用され、品質に問題ないと判断されたもののみ採用するようにしている。

 さらに、納入後に何らかの問題が発生した際には、問題が発生した製品を修理するだけではなく、納入した全製品の検査を行うサービスを提供している。これも、品質を第一に考え、顧客の信頼に応える取り組みの一環だ。

「数百台規模での導入も想定した初期不良のなさを実現するため、入念なテストを行っています」

顧客企業の情シス担当者に寄り添う細やかすぎて一覧に入りきれない「導入支援サービス」

 MouseProの特徴の1つに、非常に細やかな導入支援サービス(いわゆるキッティング、設定代行)がある。

 数百台単位で導入したPCを、企業のシステム部門がすべて初期設定するとしたら、大変な労力と時間が必要になる。そこで、開封・設置したらすぐに業務を開始できるようにして納品するのが、「導入支援サービス」だ。Microsoft Autopilotの登録代行、マスターイメージコピーによる多数のPCの初期設定のほか、MACアドレス提供(リスト化)、ラベルの貼付、といったサービスが、ウェブサイトの「サービスメニュー例」として掲載されている。

 ただ、ウェブサイトに掲載されているのはあくまで「例」であり、顧客企業の要望に応じて非常に柔軟な対応が行われている。料金は1台あたり500円から(Autopilot ID登録代行など)。システム部門にとっては大いに助かる、個人向けPCにも長年取り組んできた同社ならではの、ユーザーとの近さ、寄り添う姿勢が感じられるサービスだ。

 当初、この導入支援サービスは、認知が十分でなく、顧客に納入した後で「こういう支援サービスがあることを知っていたら、お願いしたのに」と言われることもあったそうだ。そうした声を受け、商談時に提案したり、ウェブサイトでアピールしたりといった取り組みに力を入れるようになり、現在はかなり広く利用されるようになったという。

 2025年10月からは、法人向けの営業支援室を設置。多くの企業の情報システム部門にヒアリングするなどの活動を行い、さらなる新サービスの開発にも努めているそうだ。

企業の情報システム部門の負担軽減を目的に、OSやソフトウェアを事前に導入する導入支援サービスを提供している

他社製品もOKの下取りサービス買取サービスも実施し、PCのライフサイクル全体を支援

 MouseProでは、ライフサイクルが終了したPCへのサービスも提供している。それが、MousePro製品に買い替える場合の下取りサービスだ。

 企業では4~5年ほどでPCを入れ替える場合が多いが、不要となったPCの廃棄に頭を悩ませることもある。MouseProの下取りサービスを利用すれば、PCの廃棄コストと導入コストの両方を抑えられるわけだ。しかも、下取り対象はマウスコンピューター製品に限らないため、非常に利用しやすい。

 また、下取りだけでなく、PC買取サービスも提供している。企業からすれば、PCのライフサイクルが終わるときの悩みに、柔軟に対応してもらえるようになっているわけだ。

PC買い替え時のPC下取りサービスだけでなく、不要なPCを買い取る「PC買取サービス」も用意

Windows 10 EOSに備えノートを中心に売上を伸ばすも直前の売れ筋は「MouseProの強み」でもあるデスクトップPC

 2025年10月14日のWindows 10 EOSは、法人向けPCにとって、大きな商機だっただろう。MouseProでは2024年後半からWindows 10 EOSを見据えて積極的に攻めの姿勢を取り、販売数を大きく伸ばしたという。

 MouseProではノートもデスクトップも多彩なラインアップを取り揃えているが、売れ筋の中心はやはりノートPCだそうだ。しかし、EOSの1年ほど前からデスクトップPCの売れ行きが伸び、2025年上半期では、個人向けも含めた全販売数においてデスクトップPCが51%、ノートPCが49%と、デスクトップがわずかに上回ったそうだ。

 この変化について、軣氏は「価格が大きな要因でしょう」と分析する。近年、AI PCの登場によってノートPCの平均価格が上昇しており、特にAI PCはその多くが20万円を超えるため、固定資産となることを敬遠する企業も少なくない。また、コロナ禍以降のオフィス回帰が進む中で、オフィス内に固定して、比較的安価で高いパフォーマンスの製品が買えるデスクトップPCを選ぶ企業も増えているという。

 EOSになってからの買い替え需要も見込まれるが、このような状況を受け、MouseProでは小型ケースを採用したデスクトップPCに、あらためて力を入れているという。もともと、コンパクトな「MousePro コンパクト」シリーズなど、デスクトップPCのラインアップは厚い。「デスクトップPCは、MouseProの強みでもある。その需要が伸びているのは嬉しいことだと感じています」と、軣氏は語る。

 また、旧世代プロセッサーを搭載した比較的安価なモデルも、MouseProのラインアップに多く存在している。これは、事務作業用などで、Windows 10 EOSにあたってPCを買い替えたいが、大幅なスペックアップは必要ない、という需要を見越したものだという。

MousePro コンパクト」(MousePro CR)シリーズは、VESAマウントが標準で付属しており、ディスプレイの裏側に設置することもできる
MousePro スリム」(MousePro LP)シリーズは、幅99mmとスリムなケースを採用しながら、高い拡張性や排熱性能を備えることが特徴

「明らかに業務改善につながる」と実感するAI PCと、顧客の声を取り入れたセキュリティサービスに今後は注力

 Windows 10 EOSを受けた買い替え需要が一巡した後の戦略として、軣氏は「AI PCを積極的に推していきたい」と語る。

 同社内でも社員にAI活用を推奨しており、軣氏自身も日常的にAI PCを利用して「明らかに業務改善につながる」と、その実力を実感している。しかし、現時点では(AI PCが搭載している)NPUを活用するソフトウェアが少ないこともあり、まだまだ高額なAI PCを納得して購入してもらえる十分なアピールができていないという。

 「現在のところは、まだAIの準備期間だと考えています。今後AIを活用するソフトウェアが充実してくるにつれ、AI PCの活用事例が増えていきますので、法人の皆様にも広く使っていただきたいですし、企業でもAIをうまく活用したいという思いが必ず高まってくると思っています」と、軣氏は今後の成長に期待を示した。

 企業を狙うサイバー攻撃が激化し続ける昨今の状況から、セキュリティも今後さらに重要になっていくと、軣氏は指摘する。今後はAI PCとともに、セキュリティを強化したプロダクトを積極的に押し出していくつもりだという。

 独自のセキュリティアプリの導入や、プロセッサーやOSが持つセキュリティ機能をフルに活用できる環境の支援などのプランを検討しているとのことで、「(セキュリティサービスに関しては)利用している皆様の課題感をしっかりヒアリングしながら、一方的な押し付けにならない、必要な機能をお届けしたいと考えています」と方針を示した。顧客企業に寄り添った細やかなサービスを、セキュリティ面でも期待できそうだ。

1kgを切る軽さと長時間駆動が特徴の「MousePro G」シリーズのAI PC(Copilot+ PC)「MousePro G4-I7U01BK-E
セキュリティに関して、これまでもアプリのプリインストールなどは行っているが、「プロセッサーやOSが持つセキュリティ機能をフルに活用できる環境の支援」など、さまざまな切り口からのサービスを検討しているという

 MouseProブランドの成長により、同社の売り上げ全体のうち約4割を対法人が占めるようになっているという。「現在の割合を維持しながら、個人向けも法人向けも成長させていきたい」と、軣氏は意気込みを語った。

キッザニアのほか、地域への機材協賛やPC組み立て教室などにも積極的「工場や事業所を構えている地域が活性化しないと」

 マウスコンピューターは現在、地域貢献や協賛活動にも力を入れている。最近の取り組みの1つに、大阪府が設立した官民連携プラットフォーム「大阪eスポーツラウンドテーブル(OeGG)」への加盟・参画がある。

 同社は以前からeスポーツに力を入れているが、「子どもから大人、高齢者まで、PCを使うことでできることが増えるので、PCをもっと普及させることで生活環境をより良くしたい」という軣氏の考えもあって、参画を決めたそうだ。

 また、もともと長野県飯山市に工場を構えていることもあり、地方に工場や事業所を構えて維持するためには、その地域全体の活性化も不可欠だとの考えがあるという。飯山市とは包括連携協定を締結し、市民サービスの向上や地域活性化を目的に、さまざまな地域貢献活動を行っているほか、飯山市のふるさと納税の返礼品として、マウスコンピューターの製品を提供している。

 また、注文したPCを自分で組み立てられる「組立ワークショップ」も実施している。軣氏いわく「地方では都市部に比べてPCを使う人が限られ、学校教育においても、地方は都市部よりPCが有効活用されていない傾向があると認識しています」とのことで、PCを使うことのメリットを感じてもらう取り組みも重要だと捉えている。

 子ども世代に向けた活動にも力を入れており、キッザニア東京およびキッザニア甲子園に「パソコン工場」のアクティビティを出展しているほか、夏休みに飯山工場で親子でPCを組み立てる「親子パソコン組み立て教室」も実施している。「子どもの頃に体験したことは、将来の選択肢の1つになりますから、小さい頃から物作りを体験してもらいたい」と、軣氏は語る。

 「地方に工場や事業所を構えている以上、地域が活性化しないと、そこで働く従業員の雇用や人の確保が難しくなるという、単純な発想です」と軣氏は謙遜するが、このような地域貢献活動や子どもの育成活動は、なかなかできることではない。このような取り組みは、大いに賞賛すべきと感じる。

飯山工場で行われた親子パソコン組み立て教室の様子。2025年は飯山市の花火大会に合わせて8月14日、15日に実施され、参加者の花火大会への招待も行われた

「MousePro」ブランド創設15周年にあたってイベントの実施や新たなPCのリリースを予定

 冒頭でも紹介したように、2026年2月にMouseProブランド創設15周年を迎える。それに合わせ、周年イベントの実施を考えているという。

 過去にはG TUNEブランドの創設20周年やマウスコンピューター創立30周年といった節目で、あまり大々的なイベントができなかったこともあったので、MouseProブランド創設15周年では、法人向けのPC事業への取り組みをしっかりアピールできるような記念イベントを実施したいと、軣氏は考えているそうだ。

 さらに、法人向けの営業活動の中で蓄積してきた情報をもとに「本当に法人のお客様が必要としているPC」をリリースすべく準備を進めているとのことで、こちらにも期待したい。