清水理史の「イニシャルB」
ネットが遅い!を解決、実質2倍以上に速くなる@nifty「v6プラス」を試してみた
PINGも倍近く高速に、ただし技術的な制約も
2017年9月25日 06:00
夜間などの混雑時間帯になるとインターネット接続が遅くなる……。そんな状況の改善を見込んで、いわゆる「v6プラス」のサービスを利用するユーザーが増えてきた。制約が多いため導入を見送っていた筆者だが、ものは試しと、@niftyの「v6プラス」サービスに加入してみた。
開通まで1カ月……、申し込んだのは8月6日
1週間ほどで各種書類が郵送で届き、PPPoEでの接続サービスは使えるようになったものの、肝心のv6プラスが使えるようになったのは、9月1日。
約1カ月という期間は長いようにも思え、サポートに2度ほどメールを送ったものの、「お待ちください」という回答だったので、まあ、そんなものなのだろう。
ようやく筆者宅でも「v6プラス」のサービスが利用可能になった。
もともと利用していたのは、ぷららのインターネット接続サービスだが、いわゆる回線とプロバイダーサービスが一体化した「光コラボ」は意図的に避けてきた。このため今回、回線と既存のぷららのサービスをそのまま維持した状態で、@niftyのプロバイダーサービスである「@nifty光ライフ with フレッツ」だけを新たに契約した。
費用は余計に掛かるが、@niftyでは接続サービスに無料でv6プラスのサービスを追加できるため、月額費用1200円(2年割りなし)で利用可能となった。
「v6プラス」は、日本ネットワークイネイブラー株式会社(JPNE)が提供するIPv4/IPv6インターネット接続サービスのことだ。
IPoE方式のIPv6接続サービスをベースに、MAP-E方式のIPv4接続サービスも提供するもので、利用するには、NTT東日本・西日本のフレッツ光回線、およびフレッツ・v6オプションが必要となる。現状、@niftyのほかに、「GMOとくとくBB」「DMM光」などが、同様のサービスをユーザーに提供している。
このサービスが注目を集めている理由は、その特徴として通信速度の速さが大きく訴求されているためだ。
以前から、夜間など一部の時間帯に、混雑によってインターネット接続が極端に遅くなる状況が話題になることがあったが、v6プラス(もしくは同様のサービス)を利用すると、こうした問題を回避することが可能で、現状、時間帯を問わず快適な通信速度を実現できる。
せっかくの光回線なのに、数Mbps(もしくはそれ以下)の速度しか出ず、ゲームや動画ストリーミングがまともに使えなかった人々の避難先となっているわけだ。
PPPoEとは経路が違う、だから高速
なぜ、v6プラスが速いのかというと、簡単に言えば、空いているから。
従来のフレッツ光では、PPPoEと呼ばれる方式を利用して、家庭内に設置したホームゲートウェイ(HG)やルーターから、フレッツ網を介してプロバイダーの設備に接続していた。
夜間などに回線速度が遅くなるのは、このプロバイダー設備の容量の問題だ。多くの接続が集中することで、1契約者あたりが使える帯域が極端に低くなっていたためとなる。
そこで、v6プラスでは、従来のPPPoEによる接続先とは別の接続先を用意。言わば、渋滞を避けて、別の高速道路をバイパスすることで、高速な通信を実現できることになる(IPv6通信も分離できる)。
もちろん、v6プラスという名前の通り、もともとはIPv6の普及を狙ったサービスであり、枯渇するIPv4ネットワークからの移行を目指したものとなっている。
基本的には、IPv6のネットワークとなっており、IPoE(イーサネット上でIPv6でネイティブ通信する)方式で、特別な接続設定などをせずに(IPv6の有効化は必要)、IPv6での通信が可能となっている。
一方、従来のIPv4は、このIPv6ネットワーク内で提供されており(IPv4 over IPv6)、IPv4の通信をカプセル化してIPv6ネットワーク内でやり取りを行い、端末やJPNE側の装置でカプセル化を解除して、IPv4ネットワークへ流すという仕組みになっている。
IPoE方式のIPv6サービスは、OCNなどでも提供されているが、IPv4の通信が従来のPPPoEのままとなっている点が、v6プラスとの違いとなる。
また、IIJも同様にIPv4 over IPv6のサービスを提供しているが、カプセル化の方式が異なっており、v6プラスの「MAP-E」に対して、IIJは「DS-Lite」を採用している(違いに興味がある人はこちらを参照)。
さらに、以前はビッグローブもv6プラスサービスを提供していたが、現状はIPv6オプションという名称で別のサービスを提供している(方式としてはMAP-E)。
実にややこしいところだ・・・・・・。
ホームゲートウェイ利用ならv6プラス開通後に接続先が自動で切り替わる
v6プラスの使い方は、大きく分けて2通りある。
ひかり電話などを契約している場合で、対応HG(PR-500、RT-500、PR-400、RV-440、RT-400、RT-S300、PR-S300、RV-S340の各シリーズ)を利用している場合は、v6プラスの契約後、開通案内が届くまで、ひたすら待っていればいい。
v6プラスに対応したHGには、「フレッツジョイント」と呼ばれる機能が搭載されており、HG向けに事業者がソフトウェアをリモート配信できるようになっている。
この仕組みを利用して、v6プラス用のソフトウェアがHGに配信されれば、IPv4接続が自動的に従来のPPPoE接続からv6プラスへと切り替わる。
接続確認は、インターネット上の確認サービスなどを利用するのが手っ取り早い。http://ipv6-test.com/などにアクセスすると、IPv6でアクセスできるかどうかが表示される(Supportedと表示されアドレスなども表示される)。そして、IPv4の部分でHostnameに「xxxxxxx.v4.enabler.ne.jp」とJPNEのホスト名が表示されていれば、切り替えは完了だ。
もう1つは、市販のルーターを利用する方法だ。最新情報については、JPNEのウェブサイトを参照してほしいが、現状はバッファローの無線LANルーター「WXR-2533HP2」「WXR-2533DHP」「WXR-1900DHP3」「WXR-1901DHP3」「WXR-1900DHP2」「WXR-1900DHP」「WXR-1750DHP」「WXR-1750DHP2」「WXR-1751DHP2」と、アイ・オー・データ機器の「WN-AX1167GR」「WN-AX1167GR/V6」のそれぞれファームウェアバージョン3.20以降が対応している。
設定は、ウィザードや接続設定画面で、接続方式として「IPv6プラス」を選択するだけとカンタンだ。
ただし、手元にあったWXR-2533DHP(最新ファーム)で試したところ、HG(PR-500KI)では問題なく接続できるものの、WXR-2533DHPではIPv4通信がどうしても確立できなかった。古い機器のため個別のトラブルのようにも思えるが、今回は原因までは特定できなかった。
回線速度は倍以上、時間帯によってPINGが3倍に
実際の効果だが、非常に安定して、速度も出ている印象だ。
以下は、v6プラスが開通した後の9月2日(土曜日)に、約1時間ごとに「speedtest.net」を利用して速度を計測した結果だ。
HGからネットワークケーブルを分岐させ、スイッチ経由でHGのルーターとASUSTeKの「BRT-AC828」を接続。HGは@niftyのv6プラスサービスに接続し、BRT-AC828はPPPoEでぷららに接続した状態で、両者のスピードを計測している。
ぷらら(PPPoE) | @nifty(IPv6プラス) | |||||
計測時間 | PING | DOWN | UP | PING | DOWN | UP |
7:17 | 13 | 285.11 | 392.15 | 4 | 549.04 | 626.53 |
8:27 | 7 | 406.04 | 417.58 | 4 | 647.58 | 671.98 |
11:15 | 8 | 274.02 | 472.68 | 4 | 720.82 | 526.4 |
12:03 | 7 | 330.03 | 423.74 | 6 | 825.56 | 700.2 |
15:33 | 7 | 402.79 | 453.39 | 5 | 669.2 | 506.51 |
16:38 | 8 | 225.25 | 97.5 | 4 | 655.01 | 496.63 |
17:39 | 6 | 217.01 | 341.33 | 4 | 479.02 | 438.38 |
18:35 | 7 | 366.26 | 456.97 | 4 | 763.08 | 688.27 |
19:28 | 6 | 365.4 | 410.63 | 3 | 813.7 | 694.09 |
20:51 | 7 | 348.26 | 329.09 | 4 | 681.65 | 515.78 |
21:29 | 7 | 380.28 | 262.23 | 4 | 719.83 | 640.36 |
22:04 | 12 | 300.9 | 328.8 | 4 | 643.83 | 455.21 |
22:25 | 8 | 243.66 | 443.61 | 5 | 599.63 | 427.23 |
筆者宅の場合、もともとのぷららの回線がさほど遅くなかったにもかかわらず、v6プラスの方が速度も高い上、何よりPINGの値が4~5msと常に安定している。
下のぷらら公表データを見ると、21時前後からトラフィックが高くなり、21~22時台はPINGの値、速度ともにぷららは低くなる。一方のv6プラスは若干落ち込みは見られるものの、それでもPINGは4~5ms、転送速度もダウンロードで600Mbpsほどの高い値を維持できている(アップロードが若干遅い)。
ここまで安定した速度を実現できていることを考えると、現時点ではIPv6が利用できるプロバイダーの乗り換えや追加契約を検討する価値は確かにありそうだ。
技術的な制約も一部アリ、ゲームやネットワーク機器の外部利用に制限
このように、設定がカンタンな上、移行後のパフォーマンスも良好なv6プラスだが、いいことばかりではない。
安定性と引き換えに、ユーザーは自由度を手放す必要がある。
具体的には、自宅に設置したネットワーク機器(サーバーやカメラ)の外部への公開や、ネットワークゲームのプレイなど、一部の利用に制限がある。
v6プラスでは、MAP-E方式が採用されているが、この方式では、1つの(IPv4の)グローバルIPアドレスを複数ユーザーで共有する。従来のPPPoE方式では、接続ユーザーごとに1つのグローバルIPアドレスが割り当てられていたが、そうではなく、自分に割り当てられたグローバルIPアドレスは、別のユーザーも利用しているわけだ。
もちろん、そのままでは、特定のグローバルIPアドレス宛てに送られた通信が、どのユーザー宛てのものなのかを判断できない。このため、v6プラスでは、ユーザーごとに使えるポートを制限している。
例えば、仮に「100.100.100.100」が割り当てられたAさんとBさんがいたとして、Aさんにはポート101~116、Bさんにはポート201~216が割り当てられていたとしよう。単純に「100.100.100.100」だけでは、AとBのどちら宛てかを判断できない。だが、ポートを指定することで「100.100.100.100:101」ならAさん宛て、「100.100.100.100:201」ならBさん宛てと区別できることになる。
なお、IPアドレスは、割り当てられたIPv6アドレスをベースに設定され(IPv6アドレスはプレフィックス+MACアドレスなので事実上固定IP)、同様に利用可能なポートも固定的に割り当てられる。
このため、従来のPPPoEのように、再接続やルーターの再起動でも、IPアドレスやポートが変更されることはない。
ちなみに、割り当てられるポートは1ブロックあたり16個で15ブロックとなっており、合計で240となる。
開始 | 終了 | 使用可能数 | |
Block1 | 5568 | 5583 | 16 |
Block2 | 9664 | 9679 | 16 |
Block3 | 13760 | 13775 | 16 |
Block4 | 17856 | 17871 | 16 |
Block5 | 21952 | 21967 | 16 |
Block6 | 26048 | 26063 | 16 |
Block7 | 30144 | 30159 | 16 |
Block8 | 34240 | 34255 | 16 |
Block9 | 38336 | 38351 | 16 |
Block10 | 42432 | 42447 | 16 |
Block11 | 46528 | 46543 | 16 |
Block12 | 50624 | 50639 | 16 |
Block13 | 54720 | 54735 | 16 |
Block14 | 58816 | 58831 | 16 |
Block15 | 62912 | 62927 | 16 |
合計 | 240 |
このような制約は、普通にウェブページを見たり、ファイルをダウンロードする分には、ほとんど問題にならない。
しかし、以下のようなケースでは、“場合によっては”機器やソフトウェアの利用をあきらめざるを得ない。
- 自宅やオフィスに設置したNASに外出先からアクセスする
- 自宅でウェブサーバーやFTPサーバーを公開する
- 自宅にVPNで接続する
- 自宅の監視カメラの映像を見る
- 自宅の家電を外出先から制御する
- ネットワークゲームのホストになる
ポイントは、上記のような利用が全くできないわけではなく、場合によってできたり、できなかったりする点だ。
具体的には、ポートが変更できるかどうかが大きな焦点になる。
例えば、ウェブサーバーを公開する場合、一般的にはポート80でアクセスすることになるが、v6プラスで80が割り当てられなければ(実際に割り当てられることはない)、ウェブサーバーに別のポートを割り当てて起動すればいい。
前述した方法でルーターの設定画面で、自分に割り当てられたポートを確認し、そこから任意のものを選んでウェブサーバーに設定しておけば、外出先から「http://○×△.com:[選択したポート]」でアクセスできることになる。
やっかいなのは、ポートが固定されていて変更できないサービスだ。例えば、VPNのPPTPやL2TP/IPsecなどは変更できない。可能であれば、OpenVPNなどポートを変更できるものを利用しよう。また、ネットワークゲームなどでポートが固定されていて変更できない場合も、利用を諦めざるを得ない。
ただし、最近のネットワークカメラやNASは、中間サーバーを経由するなど、NAT越えで培った技術が搭載されているため、v6プラス環境でも外部からの接続に支障がないものも少なくない。
例えば、SynologyのNASは、「QuickConnect」と呼ばれる独自の接続技術が搭載されている。これを利用すれば、v6プラス環境でも中間サーバー経由でアクセスできる(ポートを変更すれば直接接続も可能)。
また、以前、本コラムで取り上げたSafieのウェブカメラも試してみたが、こちらもv6プラス環境で問題なく外部から映像を確認できた。
古いところでは、nasneのリモート視聴サービスも試してみたが、こちらも問題なく外出先から録画番組を視聴できた。
実際に、どのような機器やサービスがNGで、何が大丈夫かは、やってみないと分からないが、実際に試してみると、意外に苦労しないという印象だ。
とは言え、IPアドレスをほかのユーザーと共有していることに変わりはないため、ダイナミックDNSサービスなどで特定のホスト名を割り当てるのは、できれば避けたいところだ。特定のポートしか使わないとしても、そのホスト名に対して第三者がアクセスすれば、意図せず、ほかのユーザーが利用しているポートに接続される可能性もある。
モラルの問題もありそうで、このあたりは、なかなか判断が難しいところだ。
現状で速度にさほど不満がないなら、しばらく様子見で
以上、@niftyのv6プラスサービスを実際に利用してみたが、確かにパフォーマンスは良好だ。日時を問わず、安定した通信ができるのは、大きな魅力と言える。
しかしながら、仕組みが特殊で制約も少なくない。多機能なルーターを利用したり、NASを利用するといったケースでは、いくつかの機能が制限される場合も考えられるので、無条件にお勧めできるものでもない。
現状、インターネット接続速度がどうしようもなく遅く、とてつもないストレスとなっているのであれば、移行を検討する価値はあるが、その場合、フレッツ以外の回線を選ぶという選択肢もあるので、難しい判断となりそうだ。
今後、ネットワーク機器やサービスがIPv6を前提とした対策を進めれば、上記のような制約に悩まされることもなくなるため、個人的には、もう少し様子見でもいいのかなとも思える。ほかのプロバイダーの動向なども見つつ、ゆっくりと検討すべきだろう。