期待のネット新技術

上下10Gbpsの速度と月5880円の価格がポイント、「auひかり ホーム10ギガ」で最大2.4GHzの11ax&10GBASE-T対応ホームゲートウェイも提供のKDDIに聞く

【アクセス回線10Gbpsへの道】(番外編2)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、3月より10Gbps接続サービス「auひかり ホーム10ギガ」の提供を開始したKDDI株式会社へのインタビューをお届けする。(編集部)

 2月にインタビューをお届けしたソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO 光」に続いて、KDDI株式会社でも2月に「auひかり ホーム10ギガ」を発表し、3月1日からサービスの受け付けを開始している。そこで、番外編その2として、KDDIにもお話を伺うことにした。

 お相手いただいたのは、KDDIの小松俊介氏(商品企画本部ホーム・IoTサービス企画部ブロードバンドプラットフォームグループリーダー)、北岡修氏(商品企画本部ホーム・IoTサービス企画部ブロードバンドプラットフォームグループ課長補佐)、大石将之氏(技術統括本部ネットワーク技術本部オプティカルネットワーク部アクセスシステム技術グループ課長補佐)、川島倫央氏(ネットワーク技術本部ネットワークマネジメント部ネットワーク計画1グループ課長補佐)、平間伸雄氏(商品企画本部ホームプロダクト開発部プロダクト開発1グループ課長補佐)の5氏である。

10Gbpsに一定のニーズ、ゲームのダウンロードや4Kストリーミングで

 まず、auでは10Gbpsのインターネット接続サービスをなぜ開始したのだろうか? 「高速化へのニーズは、基本的にずっとあるとは考えており、どのタイミングでやるか? つまり、いつPONを10G化していくかを、ずっと悩んでいました」(小松氏)とする。

KDDI株式会社商品企画本部ホーム・IoTサービス企画部ブロードバンドプラットフォームグループリーダーの小松俊介氏

 先行するNURO光の10Gbpsサービスのことは当然知っていたとのことだが、「それがサービスの立案に影響したわけではありません。ただ正直、そもそも10ギガのサービスに対して、『ニーズのないものを出しても仕方ないじゃないか』との声が、社内からも出ていました」という。そこで、ユーザーへの調査を実施したところ、1Gbpsを超える帯域が欲しいという声が、ある一定の割合あることが分かったという。

 「例えばeSportsでは、オンラインゲームのプレー中はもちろんなのですが、ゲーム自体のダウンロードやアップデートにも時間が掛かっていて、『そこで心が萎えちゃう』というのです。あるいは今後高精細の、それこそ4K HDRなどのストリーミングが普及するようになると、1Gbpsの帯域では足りなくなることも見込まれます。そうした声を聞いて、一定のニーズがすでにあるということから、今このタイミングでやるべきではないか、という判断をしました」(小松氏)という。

3月1日から速度変更ユーザー向けに10ギガのサービスを提供中

 auひかり ホーム10ギガのサービス受け付けは3月1日の開始だったが、「3月4月と言えば引っ越しシーズンです。新生活が始まるタイミングで、ぜひ10ギガ5ギガという超高速な回線をお使いいただきたかった」(小松氏)とのことだ。つまり、3月1日のサービス開始を前提に、すべてのスケジュールが決まったのだという。

 こちらの発表では受け付けの開始が3月1日となっているが、「受け付けの開始は確かに3月1日ですが、実はサービスそのものも同時に開始しています。新規に契約される方は工事が必要となるため、申し込み後3週間から1カ月程度で工事を実施し、それから利用可能になるのですが、すでに1Gbpsの「auひかり ホーム」を使っていて速度変更をする場合には、早ければ申し込みの翌日に機器(ONUとホームゲートウェイ)を発送しますので、機器を付け替えれば、その瞬間から10ギガ/5ギガのサービスが使えるようになります」(北岡氏)という。

 このため、インタビューを行った3月19日の時点で、すでにauひかり ホーム10ギガ/5ギガのサービス利用中のユーザーが多数いるとのことだった。提供エリアは東京・千葉・神奈川・埼玉の一部となっているが、「提供エリア内でしたら、すぐにお使い頂けます」(北岡氏)とのことだ。

KDDI株式会社商品企画本部ホーム・IoTサービス企画部ブロードバンドプラットフォームグループ課長補佐の北岡修氏

 やや前後するが、今回提供されるサービスが、10Gbpsの「auひかり ホーム10ギガ」と5Gbpsの「auひかり ホーム5ギガ」の2種類となっている。「1ギガの次に10ギガとしたのは、PONそのものが10ギガ化されたためで、その間を刻んでも仕方がない(笑)」(小松氏)とした上で、「回線を選ぶとき何が重視されるかと言えば、先ほどのアンケートを見ても、例えばゲーマーの方などには速度に対するニーズが確実にあります。一方、価格面を重視する場合には、5ギガのサービスであれば、現在実施している割り引きプログラムにより、少なくとも3年間は従来の1ギガと同価格で利用できます。その後にはスマートバリューなどと絡めることも検討しています」(北岡氏)とした。

 やはりサービスの選択においては、「速度」と「価格」が大きなポイントと考えているようだ。まだ定量的なデータはないとしながらも、サービス提供開始から3週間弱の間を見ると、auひかり ホーム5ギガへの申し込みが上回ったものの、10ギガへの申し込みも好調だったという。「KDDIとしては、高速な回線を使っていただくことが、満足度の向上につながると考えています」(小松氏)とした。

10G-EPON採用の理由は光回線サービスの開始当初にあり

 さて、そのauひかり ホーム10ギガのサービスでは、こちらの記事にもあるように、IEEE 802.3avこと「10G-EPON」が利用されている。そもそもの話として、「FTTHの導入では、当時日本と韓国が先頭を走っていたんですが、日本は韓国よりも導入が早かったんです。そのときに選べた機器は、GE-PONしかなかった。G-PONは標準自体はあったんですが、まだ全く製品化が進んでいなかった」(大石氏)のがその背景にあるという。

 その後、GE-PONを用いて、1Gbpsのサービス「auひかり ホーム」を提供した経緯があり、今回のauひかり ホーム10ギガについても、既存のE/GE-PONのユーザーの接続性を考えた結果、10G-EPONが選ばれたという。非常に分かりやすいロジックである。

KDDI株式会社技術統括本部ネットワーク技術本部オプティカルネットワーク部アクセスシステム技術グループ課長補佐の大石将之氏

 ちなみに今回、auひかり ホーム10ギガ/5ギガのサービスを開始した地域(東京・千葉・神奈川・埼玉の一部)に関しては、すでにOLT側は10G-EPONに対応したものへの入れ替えが済んでおり、「申し込みがあったユーザーに対しては、(加入者宅の)ONUを入れ替えれば、そのまま高速化される」(川島氏)とのことだ。auひかり ホーム5ギガに関しては、「ONUそのものは共通で、OLTの側でDBAなどを利用して、帯域を最大5Gbpsに絞っている」(川島氏)という話であった。

10G-EPON導入で機器を総入れ替え、ルーター段数減でレイテンシーも改善

 興味深いのは、OLTから先である。まず基本的に同社では管理をOLTのポート単位で行っており、特定のユーザーごとに帯域制御を行うようなことはせず、「基本的には、例えば使い過ぎているから抑えるなどといった考えはなく、より多くの帯域を効率よく使えるように、という考え方」(川島氏)だという。つまりポート単位のバルクで、どの程度のスループットが通っているかの傾向値を見ながら、必要なら増強するというかたちで設計が行われている。ちなみに10G-EPONに関しては、そのバルクの上限値をかなり大きく取っており、当面は問題ないと考えているとか。

 さらにその上位、IXにつながる部分までに関しては、「ネットワークの品質や帯域については、基本的に現在の1Gのサービスでも“詰まらせない”ように運用していて、これは10G-EPONになったからといって大きくは変わりません。ただ、上位を含めて広帯域化したり、さらにルーターの段数を減らしてシンプルな構成となるよう変更しており、結果的にはレイテンシーも若干改善しているとの実験結果があります」(川島氏)とのこと。

KDDI株式会社ネットワーク技術本部ネットワークマネジメント部ネットワーク計画1グループ課長補佐の川島倫央氏

 これまでも機器の更新は定期的に行われてきたが、ルーターの仕様や収容能力などの部分でさまざまな制約があり、結果としてルーターの段数がやや多くなっていた。今回の10G-EPON導入にあわせて、OLTから上流については総入れ替えに近いかたちで機器を更新。段数減を含む最適化を図り、結果としてレイテンシーも改善された。ちなみにこれは当然ながら、10G-EPON対応OLTの下にぶら下がる既存のauひかり ホームのユーザーにも、メリットになるとのことだ。

 また、FTTHサービスにおいて一般的な傾向である“契約直後は高速だが、加入者数の増加に伴ってだんだん遅くなる”“ある時間帯だけ異様に遅くなる”といった問題についても尋ねてみたところ、「基本的にはOLT配下に関してはベストエフォートなのですが、ネットワーク全体で見たとき、多くの場合でボトルネックはOLTより上位にあります。そちらを増強することで、品質を保っています」(川島氏)という話だった。

11ax&10GBASE-Tのホームゲートウェイには「3月に間に合う」Qualcomm製チップを採用

 今回、auひかり ホーム10ギガ/5ギガの加入者向けに提供されるホームゲートウェイは、IEEE 802.11acではなくDraft IEEE 802.11axに対応する点が目を引くところである。この理由としては「現在、ルーターの主流である11acは規格も固まり、対応したモバイル機器なども増えつつあるわけですが、このタイミングで新しいものを出そうと思ったとき、11acを積んでも、すぐに陳腐化するのは目に見えていました。せっかくやるのであれば、新しい規格を入れていこうというのが主な理由」(平間氏)と語ってくれた。

「auひかり ホーム10ギガ」用のホームゲートウェイ「BL1000HW」(白)とONU「10G-ONU」(黒)

 「これからは、例えばスマートフォンやタブレットでのeSportsなども増えていく中で、無線LANでも、より高速な通信が求められていきます。PCやスマートフォンのメーカーからも、今後、11ax対応機器が確実に出てくると見込んでいます。『キャリアはいつも後からやる』などと言われることもよくありますが、ここで先手を打って準備しておき、来るべきときが来ればすぐ利用できる、という環境を作りたかったという思いがあります」(平間氏)という熱の入りようだった。

KDDI株式会社商品企画本部ホームプロダクト開発部プロダクト開発1グループ課長補佐の平間伸雄氏

 チップセットにQualcommのものを採用したことについては、「開発の段階ではさまざまなチップベンダーさんとお話はさせて頂いたのですが、サービス開始の目標である『3月』に対する実現性という観点から、ベンダーさんの持つ知見を含めて考えた上で、このタイミングでも何とか行ける、という判断ができたことが一番大きい理由」(平間氏)とのことだ。

 ちなみにこのホームゲートウェイ、有線LANに関しては10GBASE-Tが1ポート、1000BASE-Tが3ポートの構成となっている。残念ながら1000BASE-Tポートにはポートトランキングの機能はないそうで、必要なら外付けで10GBASE-Tのスイッチを用意することになる。

今後の展開地域や100G化は「現時点では未定」

 なお、今後のauひかり ホーム10ギガの展開に関しては「まずはユーザー数が一番多い関東でサービス提供を開始していますが、10ギガや5ギガのサービスが、実際にはどういうことに使われているのかなどを分析し、さらにほかの地域のユーザーの声を聞きながら、ほかの地域への展開に生かすことを検討したいと考えています。ですので、次の展開地域についても『検討中です』としかお答えできないのが現状です」(小松氏)とのこと。

 また10G-EPONの次については、「既存のお客様のサポートを考えると、やはりEPONベースが優先度は高いと思いますが、現時点ではまだ決まっていません。特に100Gに関しては、学会レベルではさまざまな議論が始まってはいるものの、使われ方や製品の仕様なども、まだ分かっていない状態なので」(大石氏)とし、今は動向を注視している段階とした。

 最後に1つ。固定IPサービスはないのかを確認したところ、「法人系サービスなら(笑)。現時点ではコンシューマー向けのそうしたサービスはありません」(北岡氏)とのことだ。「技術的にはそれほど難しいわけではないが、今のところそうしたことを管理するシステムそのものがないので、そこを作るところから始めねばならない」(川島氏)ということであった。個人的には残念である。

 今回は、10Gbps接続サービス「auひかり ホーム10ギガ」を提供しているKDDI株式会社へのインタビューをお届けしました。次回からは、IEEE 802.11の無線LAN規格に関する新シリーズが始まる予定です。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/