山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
「Windows 10中国政府版」正式リリース ほか~2017年5月
2017年6月14日 06:00
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
「サイバーセキュリティ法」施行、在中国の日本企業は準備不足か
6月1日より「中国網絡安全法(中国サイバーセキュリティ法)」が施行された。中国が近年進めてきた「ネット主権」を強化するもので、ネットに国境を設けるように、中国国内のネットを中国が管理するための法律だ。法には曖昧な点が散見されるものの、外国企業にも影響が及ぶ可能性がある。
施行以前から中国でネットサービスを提供する場合、中国国内のサーバーでの運営が必要だった。さらに施行により、個人情報や「重要なデータ」を中国国内のサーバーに蓄積することが必要とされ、国外の持ち出しに審査を受ける必要が出てきた。また、中国の国家安全面で影響を与える場合には、安全審査を受ける必要がでてきて、利用者の個人情報に加え、曖昧な「重要なデータ」なるものについての検閲が必要となった。
デロイトトーマツリスクサービスは4月末に、同法に対する日本企業の対応状況について事前調査を行ったところ、回答した106社のうち9割強が同法の内容を知らない、半数弱が名前も知らないと回答している。また、中国で事業を行っていて、かつ同法を知っている回答者のうち、対応を実施済みの企業は1社のみ。「対策を実施すべく検討中」と「実施するかしないか判断するため情報収集中」を合わせ53.2%となった。一方、「特に対策を行う予定はない」との回答が1割程度となったという。
現在のところ施行されたばかりで、同法による影響を受けたというニュースは聞かない。ニュースがあれば引き続き紹介していく。
銀聯(ユニオンペイ)、第3のQRコードによる電子決済に
中国でのQRコードを使った電子決済では、阿里巴巴(アリババ)系のアントフィナンシャルによる「支付宝(アリペイ)」と、騰訊(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」の2強状態となっているが、ここに銀行のキャッシュカードに付帯するクレジットカード/デビッドカード「銀聯(ユニオンペイ)」が参入を発表した。
ユニオンペイの電子決済のサービス名は「銀聯雲閃付」。これまでNFCによる支払いを進めていたが、あまり普及することはなく、今後はQRコードとNFCの2つの方法に対応する。銀聯の参入により、まずは四十数行の銀行でQRコードを使った電子決済が可能となるほか、60行で対応に向けたテストを行っているという。ユーザーは銀行口座から直接紐付けて利用できるのが売りではあるが、対応店舗についてはアリペイやウィーチャットペイに比べて圧倒的に少ないのが課題となる。
そこでユニオンペイは6月2日より、中国全土40の商圏のマクドナルド、スターバックス、セブン-イレブン、ローソン、カルフールなどの10万店舗で利用すると得するキャンペーンを実施している。
「Windows 10中国政府版」正式リリース
以前、「Windows 10中国政府版」がリリース予定だと伝えたが、これが正式にリリースされたと発表された。Microsoftと国有企業の中国電子科技集団(中国電科)の合資企業である「北京神州網信科技(神州網信、C&M Information Technology)」がリリースした。Windows 10中国政府版は、中国の税関や中国のセキュリティ企業「衛士通」などで試験的に導入されたという。
OneDriveやゲーム、海外へのフィードバック機能など中国政府が不要とする機能を搭載していない一方で、中国政府が要求する「データが国外に出ず、中国に留まる」というのが特徴。このため、Windows UpdateもMicrosoftではなく、神州網信が責任をもって担当する。また、Microsoft側はタッチしないかたちで中国電子科技集団が暗号化してデータの安全を保障するといった特徴がある。
Microsoft関連リークサイトのロシア「WZor」は、Windows 10 Professional版から関連するパスワードを用いてWindows 10中国政府版にアップデートできるようになっているが、途中でフリーズしてしまう問題があるとTwitterで語っている。
ネット広告での競合蹴落とし行為に、ビッグデータでメス
テンセント、AdMaster、秒針系統(Miaozhen Systems)は4月末、「広告反詐欺ビッグデータ実験室」を共同で設立すると発表した。広告での詐欺行為の浄化によるネット広告の健全化が狙い。広告の詐欺行為とは具体的には、ライバル会社が広告を何度もクリックし、広告主に経済的打撃を与える行為などを挙げている。
テンセントは、同社製アプリ「QQ(チャット)」「QQブラウザー」「騰訊遊戯」「応用宝(アプリストア)」や、同社投資先の「大衆点評(口コミ)」の月間9億のアクティブユーザーのデータをもとに、広告での詐欺行為がないかを分析。
調査会社のiResearchによれば、ネット広告は2014年、それまで市場規模が最大の広告媒体だったテレビを超え、その後もネット広告市場だけが拡大し、2016年には2900億元規模となる模様。また、そのネット広告においても変動が起き、2015年までは検索広告が最大シェアだったが、2016年よりECサイトの商品広告が最大となり逆転した。実際、中国のウェブサイトを見ていると、近年では阿里巴巴(アリババ)の「淘宝網(タオバオ)」や「天猫(Tmall)」、それにアリババに続く「京東(JD)」の商品広告がよく目につくようになった。
見方によっては、テンセントがネットの健全化にかこつけてアリババの広告を抑える動きに出たとも解釈できる。
有料知識サービスが普及へ
昨年5月に登場した“有料知識サービス”が1周年を迎え、人気となっていることがネットメディア各誌で紹介された。有料知識サービスとは、有識者とのチャットで話を聞き、相談することができるプラットフォーム。5月の「知乎Live」を皮切りに、「分答」「得到」「喜馬拉雅FM」が後追いで登場し、4社が競い合う状況となっている。
1回の利用料は内容や対有識者で異なるが、数百元程度から(1元=16円強)。テンセント傘下のリサーチ会社である企鵝智酷(ペンギンインテリジェンス)の「有料知識経済レポート」によると、有料サービスの利用者は5000万人近くとなり、今年3月までの有料知識サービスの支払い総額は100~150億元程度とのこと。年内には最大500億元程度になると予想している。
大手サイトの人気人力翻訳サービス、ニューラルネットワーク採用で低価格化
有料でも知識にお金を払うという動きは今に始まった話ではない。中国メディアが報じたところによると、ポータルサイト大手の「網易(ネットイース)」は翻訳サービス「有道」を提供し、機械翻訳は無料、人力翻訳は当初は1000字あたり150~300元の料金設定で人気となっている。人力翻訳サービスは2011年にスタートして以降、これまで100万件以上の依頼を受け、翻訳業務の売上だけで年間数千万元を売り上げていた。
最近ではニューラルネットワークにより機械翻訳の精度が高まったことから、人力翻訳にかかる時間が半減した。人力翻訳料金も1000字あたり70~150元と半額に設定し、より多くの利用者を呼び込む。
ネット企業によるスマートテレビが人気
スマートテレビビッグデータ聯盟は、大画面スマートテレビに関するレポートを発表した。これによると、中国全土35都市のスマートテレビテレビ利用者数1億8900万人のうち、77.15%が「創維(スカイワース)」や「海信(ハイセンス)」などの昔からのテレビメーカーのテレビを利用し、22.85%が「楽視」や「小米」などの非テレビメーカーがリリースするスマートテレビを利用しているという。
ネット企業がリリースするスマートテレビはコンテンツが充実していることが知られており、オンデマンドでさまざまなコンテンツが見られることから、2016年よりこれの所有者の平均視聴時間が大幅に伸び、テレビメーカーのスマートテレビの平均視聴時間に差をつけた。また、テレビメーカーのスマートテレビから非テレビメーカーのそれに移行することで所有者の視聴時間が大幅に伸びているという傾向も分かった。既存のテレビ番組は見ず、オンデマンドで映画やドラマを見る動きが加速しそうだ。
起動したときに表示される広告も、既存のテレビ番組向けの広告よりもより刺激的な内容であることから、関心を持って広告を見る動きがあるという。
アリババとチャイナテレコムが提携へ
アリババと中国電信(チャイナテレコム)が5月13日、全面的な戦略提携関係を結んだと発表した。チャイナテレコムは中国3大キャリアの1つで、固定回線に強い。中国ネット大手2社の提携により、研究開発力の強化を狙う。
提携によれば、両社の提携分野は基幹ネットワークとセキュリティ、EC、クラウド、電子決済、IoT、農村販売チャネルなど。加えてアリババが研究開発を進める販売・製造・金融・エネルギー・技術の刷新と、チャイナテレコムが研究を進めるスマートリンク、スマートホーム、ネット金融、新型IoT応用でも提携を行う。