法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『キミとアイドルプリキュア♪』第6話 心キュンキュンしてます!?

 一年生ながらキュアアイドル研究会をひきいる紫雨こころに咲良と蒼風がさそわれる。ふたりは行かなかったが、キュアアイドル研究会は立ち上げたばかりなのに盛況。
 街に出た紫雨はキュアアイドルのグッズがないことに落胆していたが、キュアアイドルがもっていた存在が見ていることに気づく。プリルンはヌイグルミのふりをしようとするが……


 加藤陽一シリーズ構成の脚本に、シリーズでSDをつとめたこともある土田豊の演出。作画監督は増田誠治で、よく修正はのっているが、デザインの癖は良くも悪くも抑え目。
 今回は実質的に紫雨のメイン回。周辺情報を調べていないこともあり、主人公たちの下級生ということに気づけなかったが、これまでのシリーズにいなかったキャラクターがなかなか良い。父を亡くしていることはキュアピースのような前例もあるが、そこから推し活動にはまるところにストレスの逃避を感じさせる。
 実際に元気いっぱいで何かを推すことのためには動けるが、自分自身が主体となることにはふんぎりがつかない。ダンスがうまいのに自分自身が踊るダンス部に入らなかったのもそうだし、キュアアイドルの仲間にさそわれて喜んでも戦いにはおびえて何もできず仲間になれないと宣言する結末もそうだ。浄化技のライブシーンで、観客席にいるまま呆然として周囲の応援に同調できない紫雨の孤立ぶりが絵としてよく表現されていた。
 それはそれとしてプリルンの間抜けで粗雑きわまりない言動はギャグアニメとして楽しいし、話が停滞しない良さがある。どこかで一線を引いてしまう紫雨というキャラクターを一話で行動させるにはここまで思いつきで引っぱらないと難しいということだろう。そうして過去作の妖精も同じように他人をふりまわしつつ善良に見せようとして無理が出がちだったところ、プリルンは突きぬけて愚かなキャラクターにしたことで逆に矛盾や嫌味を感じない。

『のび太の絵世界物語』は、シリーズ過去作品の問題点を細かくつぶして、すべて向上させていることに感心しきりだった

 昨年夏から今年始にかけて私的な不運がたてつづけにあったが*1、今年の『映画ドラえもん』は偶然がかさなって公開初日に見ることができた。
doraeiga.com
 くわしい感想はまたの機会に書くとして、あまり事前情報をもたずに鑑賞したところ、ふしぎなほどシリーズの複数作品の欠点や難点を連想させる描写が多かった。
 そしてその難点を感じて期待を弱めたところで、きちんと問題をつぶして魅力を引き出していく。独立した作品として見ればTVSPの延長くらいで映画らしさは弱いとも思うが、下げた期待からの飛躍で相対評価は高いし満足感があった。


 まず時空の穴にゲストキャラクターが吸いこまれる冒頭からして、その描写の初出の『日本誕生』でこそ怪しげな雰囲気こみで悪くなかったものの、あまりにも偶然がすぎるのでリメイク版で補完的な設定が付与された*2。後年の作品に流用するにいたっては、工夫なく物語の都合で出しているだけと感じることが多かったし、今作はシチュエーションが似すぎていて最も安易に感じた。
 また絵の世界にいつものメインキャラクターが秘密道具ではいる導入も、迷路が中編併映作『怪盗ドラパン』を思わせつつ怪物との戦いに注力して迷路のおもしろさはあまり感じなかった。実際の歴史を描いた絵をとおして過去の歴史に行く展開も、虚実あいまいな『ドラビアンナイト』と大差を感じず、整合性を投げ捨てた作品を雰囲気不足のアニメオリジナル作品でやられても困ると感じた。
 しかし秘密道具の設定と、謎めいた絵をとおりぬけて現実の歴史に接合する設定の巧妙さで、『ドラビアンナイト』を見事にアップデートして見せた。絵の世界に行った時に筆絵のタッチを感じさせる背景美術にすることで、普段と同じ背景美術になった場面から絵ではなく現実の過去にたどりついたことをビジュアルで表現したことも感心する。後半の本編の謎解きに並行して冒頭の時空の穴も説明がつけられ、偶然だよりではない伏線のしっかりした群像劇として物語がたちあがっていく。
 最後の敵はドラマを背負わず、『翼の勇者たち』と同じように倒すためだけに登場したような存在だったが、味方側のドラマが充実していたので問題を感じない。絵の具は水溶性ばかりではないという指摘もできるが、敵を倒すためには何が必要でそれはどこにあるのかという伏線は物語のなかで自然に提示できているし、ただアイテムひとつで逆転するのではなくキャラクターが全力をつくす必要があるので、戦いのかけひきが成立している。


 そのようにかなり脚本段階で構成を決めている作品なのに、絵がテーマの映画らしくビジュアルの魅力で物語を動かしているところもいい。
 特に序盤、日本語をしゃべれないゲストキャラクターの少女*3が街に迷いこんで驚きさわぐ芝居をたっぷり見せられたことが良かった。前年公開の『地球交響楽』*4は、よく似た立場のゲストキャラクターを出しながら、同時に饒舌なゲストキャラクターも出して黙劇を徹底できていなかった。見たかったものが一年ごしに見られた気分。
 そのゲストキャラクターの少女を救うのがしずちゃんで、大人の男性がとなりにいる対比もあってか女性的な記号を強調した芝居作画が多いことは気になったが、後半の本編で過去にないほどアクションで活躍。総体的には性役割を強調しすぎてはいないと感じられた。
 先述のように、さまざまな絵画やその世界をデジタル技術によるテクスチャで表現しているわけだが、そこからクライマックスでたどりついた光景は本作でしか表現できないものだ*5。しいていえば『緑の巨人伝』のクライマックスで登場したビジュアルに近いが、この映画でそこまでに登場した出来事で何が起きたかを説明できて、それでいて説明できない感動にあふれていた。寺本監督の初オリジナルストーリー映画『ひみつ道具博物館』も似たドラマを配置していたが、評価の高い作品にしては唐突な挿入で残念だった*6。一方で今作のドラマは原作の定番をふまえた描写でありつつ、映画を見ているだけでも理解できるよう配置されて、なおかつ絵画というモチーフと描くことというテーマに密接にむすびついている。
 前後して、中盤の謎解きサスペンス展開はシンプルな娯楽活劇として終わる。だが、ただのクライマックスの設定的な準備に終わらず、絵を描くことの意味というテーマにも関係している。モデルにビジュアルを似せることがたいせつなのか、それとも他にたいせつなことがあるのか。クライマックスの光景とあわせて見れば、何のために中盤の光景があるのかが浮かびあがってくる。


 さすがに十数世紀のヨーロッパで歴史から消えるのは無理があるので紀元前のギリシャの都市国家くらいの設定にするべきではないかと思ったり、結末で絵画の意味を台詞で説明しなくてもいいと思ったりもしたが、やはり全体的には悪くない作品だと思った。
 細かい映像表現としては、小悪魔なマスコット的ゲストキャラクターがオズワルドとミッキーマウスとビリーバット*7をあわせたようなデザインだったことや、見ることを重視する物語なためか寺本コンテでは珍しく主観カットが多かったことが興味深かった。

*1:致命的な不幸ではなかったが。

*2:『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』 - 法華狼の日記

*3:終盤で明かされる設定は序盤の段階で認識したとおりだったので意外性こそなかったが、子供向けアニメできちんとやりきった製作者の真摯さに感心した。救済的な描写も用意されているが、あくまで「夢」であることも示されている。

*4:『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は、悪い意味で退化したマクロスだった - 法華狼の日記

*5:シリーズを見て感動や感心することは近年は何度もあったが、本当に涙が出たのはひさしぶりだった。

*6:『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』消費税が上がるゾ/アイドル先輩が来たゾ/チョコビアイスが食べたいゾ/2013年春公開「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」 - 法華狼の日記

*7:『BILLY BAT』 - 法華狼の日記

『劇場版 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』

 事故死した少女が、乙女ゲームで破滅が決まっているはずの悪役キャラクターに転生した。しかしその奔放な性格で主人公キャラクターや攻略キャラクターに好意をいだかれる。
 そして少女は運命に導かれるように謎の小鳥と出会ったり、異国から来た商隊のサーカスを楽しむ。しかし商隊が少女の国に来た理由には、陰謀が隠されていた……


 TVアニメ1期2期からつづく2023年のアニメ映画。TVアニメの監督をつとめた井上圭介がつづけて担当し、映画初監督作品となった。

 1時間半の短めの尺ながら映像は安定。監督が絵コンテをひとりで切り、あくまでTVアニメの延長と感じさせつつも全体が向上して、最低限の見ごたえがある。
 キャラクターデザインの大島美和もひとりで総作画監督をつとめ*1、キャラクター作画もTVアニメ以上に安定。
 現代の水準では突出した作品とまではいえないし、カット構成などはシネマスコープサイズをあまり活用できていないと思ったが、ファンの期待にはこたえられるだろう隙のない絵作りはできていた。
 いくつかある興行ダンスシーンと、クライマックスの馬車で主人公が『映画クレヨンしんちゃん』のようなナンセンスアクションを展開するシーンなどは作画枚数を潤沢につかっていて、演出も作画も目を引いた。


 物語にしても、適度にアニメオリジナルストーリーの劇場版らしい。本編と同じ世界設定の別ゲームからキャラクターを引っぱってきた設定で、すべてが終わるとゲストキャラクターを守るため超常の存在に記憶を消され、本編に悪影響をおよぼさずに物語を閉じる。
 しかし別ゲームを本編のゲームより陰惨で刺激的にすることで、ちょっと背伸びした劇場版らしさがちゃんとある。ゲストキャラクターの出自をアラビアンな雰囲気にして、これまで本編にいなかったが乙女ゲームでは定番の女装青年や戦闘力の高い寡黙女性といった設定で物語になじんでいる。
 主人公の脳内会議も「劇場版」とわざわざ追加して、あくまでファンサービス作品という立場をはっきりさせて、力を入れすぎないライトな娯楽作品として楽しめた。
 描写の何もかもが既視感あるし、序盤に主人公が遭遇した小鳥が伝説の鳥と関係していることなど展開も見えすいているが、それもまた理解に労力をつかわなくてもすむ手軽さがある。こういうアニメもあって良い。

*1:作画監督は下請け会社名義もふくめて多数クレジット。

『15時17分、パリ行き』

 キリスト教系の学校に通っていたが、校長から評価が低かった白人男子ふたり。そこに狡猾でいて、ふたり以上に何度も校長に呼びだされている黒人男子があらわれる。三人はともに成長しながらそれぞれの道を歩んでいくが、大人になって欧州を列車で横断しようとした時、運命の事件に出会う……


 2015年の実話にもとづく2018年の米国映画。当事者の手記を原作として、クリント・イーストウッドが製作と監督をつとめた。

 列車で発生した銃撃事件を防いだ3人を本人役で起用した実録映画とは知っていたし、良くも悪くも事件の描写そのものは予想した範囲ではある。
 早撮りで知られるイーストウッドらしく、嗜虐的な描写はあってもフェチズムを感じる前にカットを切りかえていく。しかし列車内というカメラ位置などの制限がきびしい舞台で、必要以上に混乱させることなく状況説明をすませて、緊迫感をたもちつつ状況がよどみなく進む。半分が軍関係者とはいえ、たまたま居あわせた人種や国籍の異なる客が協力して暴力にたちむかい、死者が出ることをふせぎきった結末には普遍的な感動があった。
 いや、米国大統領が他者や弱者への支援に見返りを要求するようになった現在を思うと、仏米が勇気ある市民をたたえる光景のかけがえのなさがいっそう強く感じられた。イーストウッドが共和党支持者であることを考えると皮肉ではあるが。


 ただ導入から前半にかけては、子供から大人へ成長するまでを事件をフラッシュバックさせながら漫然と見せるだけで、中盤の欧州を横断する旅行もたいして意味のない会話をとりとめなく流していくだけ。肩ひじはらない演出が特色のイーストウッド作品で、物語まで肩ひじをはらないと刺激が足りない。軍隊で目指した立場になれなかった挫折やアフガニスタン派兵時のトラブルなどの中盤は、状況の特異さを自然に描いていてさすがに良かったが。
 良くも悪くも序盤の時系列いじりやドライブシーンからタランティーノ作品を連想したが、あまり好きではないそれよりもつまらなく感じた。意味のない描写をたれながして面白味を感じさせるには描写ひとつひとつを作りこむ必要があるのかもしれない。BGMを抑制しているところも日常を冷え冷えと感じさせ、ねらっているほど楽しげに見えない。だとすると、この作品のオフビートさはイーストウッドの作風と相性が悪かったのかもしれない。

『キミとアイドルプリキュア♪』第5話 マネージャーさん、ついちゃった!

 喫茶店までやってきた自称マネージャーの田中は、実はキラキランドでプリルンの近くに住んでいた妖精タナカーンが地上で活動するための姿だった。マネージャーも管理者としてアイドルプリキュアをマネージメントする仕事をするつもりだという。しかしアイドルプリキュアにCM出演してほしいという依頼がきて、実際に芸能活動をすることに……


 山田由香脚本、佐々木憲世コンテ。首のかしげた角度や煽った構図の顔の輪郭などで青山充一人原画回とわかりやすい。キラキラしたメイクを見せる回でラフで古臭い青山作画は微妙にあっていないとは思ったが。
 また田中の正体が妖精で、一部の一般人に正体が知られたままプリキュア活動する初作品にならなかったのは残念だったが、そう思わせてプリキュアに変身した状態でCMのモデルになる展開で期待に近いものが見られた。過去作に芸能と連携したエピソードは何度かあったが、このような序盤に挿入されるなら今後も似たようなエピソードが描かれそうだし、ここまで商業主義にくみこまれたプリキュアは過去にない。
 また田中の市井にとけこむ変身能力を妖精がもつ設定や、敵幹部を田中が見た時の微妙な芝居から、敵組織の幹部も妖精などが変身した可能性を感じさせた。だとするとサブレギュラーをとおして自然に敵につながる設定をうまく説明したことになる。