法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『おそ松さん』4期の雑多な感想

 2025年7月から、シリーズで初めて1クールで放送。松原秀シリーズ構成こそ1期から続投しているが、監督は映画2作目*1の小高義規に交代。

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 かなりオフビートな作風になって、けだるく停滞した時間が流れる。キャラクターの魅力をひきだすハイテンションパロディの連打で一時代を築いたシリーズとは思えない。


 第6話「タイムマシンと扇風機」は面白い総集編になりそうだったが、アイデアが足りないしSFとしての厳密性も弱い。30分枠いっぱいつかわず半分の尺で同じアイデアをつめこめば楽しめたと思うのだが。
 第7話「物語」は一転して、オフビートな笑いを展開してきた4期にあって、ひさびさにバラエティあるスラップスティックなパロディギャグが楽しめた。古典ならパロディしすぎても怒られることはないおかげだろうか*2。キャラクターギャグとしても男装にゃー王子がトト雪姫にキス寸前になっていたトトにゃー百合や、カラ松ハーレムのような勘所を押さえていて良い。
 第10話「イヤミとひっこみじあん星人」は移民が増えつつある現代日本にあって、人身取引などの問題を組みこんだ、ちょっと社会派風刺なところが1期っぽさがある。異星人がイヤミにつれられてきた真相は肩透かしだが、それもこの作品のようなギャグアニメでは許されるレベル。ただ今回のようなドラマも密度が低く、もっと尖った描写をつめこんでも女性向け人気シリーズなら反発をはねのけられそうなのに、せいぜい児童向け15分枠教育番組を2倍に引きのばしたくらいの内容でしかなかった。ギャグの密度が薄いよりは許せるが。
 第12話「夏の終わり」は実質的な最終回。ギャグ作品の最終回だけ真面目になるパターンとしては悪くないのだが、もともと4期はしっとりしたドラマが多いためコントラストの効果が弱い。たとえば作中で暗示される「戦争」を、今どこでのことを指しているのか具体的に示唆すれば、その時事性がギャグアニメらしい尖った風刺になるのではないかと思った。現状でもギャグアニメであえて正面から正義を描いた物語として好印象ではあったのだが。
 第12.5話「爽・醜・変」は予定外の総集編だが、オーディオコメンタリーによると第13話の映像までは完成していたらしく、制作スケジュールとは違う問題がもちあがっていたらしいことがうかがえる。しかし1期からの映像を見返していくと、シンプルなデザインだからこそ動きやフォルムで楽しませる作画の良さが失われていき、物語の同時代性も薄まっていったことも痛感せざるをえなかった。

*1:『おそ松さん~ヒピポ族と輝く果実~』 - 法華狼の日記

*2:もっとも冒頭のパトラッシュ描写は完全に世界名作劇場がオリジナルだが。

『相棒 season24』第8話 梟は夜に飛ぶ

 5年前に取材した縁で、亀山夫妻がよく来るようになった児童館。そこで「フクちゃん」が消えた経緯を解明した杉下は、それがより大きな犯罪と関係していることを推理する。そして人気絵本作家にして児童館オーナーとして読み聞かせをおこなっている女性宅に、青年が侵入した。恋人の女性を殺害した容疑で追われている青年は、絵本作家こそが恋人を殺した犯人だと考えている。そして青年のディスレクシアという特性や、5年前にあばかれた児童館の補助金不正受給がからみあうなかで、少しずつ人々は真実にたどりついていく……


 光益義幸脚本回らしく細部まで伏線をはりつつ、時事的な題材から個人の特性まで注意深く偏見を排しようとしている物語が良かった。全体像がわからない人々が、児童館を中心に少しずつ縁をつくって助けあう群像劇が、それ自体がよくできた作中絵本の物語と重なりあう。
 冒頭の推理が消失事件の解明から一気に飛躍したり、被害関係者同士の邂逅が特異な監禁事件を生み出して最終的に特命係が状況の把握に遅れたり、ディスレクシアという特性の内実が多様である結果として全体像が隠れたり隠されたり、謎解きサスペンスとして充実していた。
 実のところ、大規模な補助金詐取を背景にしているところで稚拙な陰謀論を工夫なく展開した前回*1を思い出したが、ディスレクシアなどで社会的弱者への支援の重要性を描いて、サスペンスとしても二転三転して楽しませるので、物語としての強度と娯楽としての密度が段違い。


 最後に真犯人を推理するところも、きちんと序盤で名前を呼んでいるので謎解きとしてフェア。ただひとつ文句をつけるなら、簡単に読み返せる小説と違ってTVドラマで手がかりを印象づけるには、もう少し描写で強調する必要があるかな、とは思った。とはいえディスレクシア設定が提示された時点で想像できる真相で、特命係が情報を確認できないわけでもないので、真犯人の指摘に理不尽な印象はない。

『俺だけレベルアップな件』雑多な感想

 韓国でChugong作の人気WEB小説がウェブトゥーンになり、世界的な人気を視野に入れてソニーグループのアニプレックス製作、A-1 Pictures制作という体制で2期にわたってTVアニメ化。2024年1月から1期、2025年1月から2期が、それぞれ1クールで放送された。

 韓国のウェブトゥーンのハイクオリティなTVアニメ化という売りで宣伝していたが、実際に見ると現代ダンジョン物とデスゲームを組みあわせて、良好な作画で堅実にアニメ化した作品といったところ。
 思えば、『ダーウィンズゲーム』や『グレイプニル』や『グランベルム』のように、デスゲームに異能バトルなど別ジャンルを加えてアクション作品としての魅力を前面に出す作品を良作画でTVアニメ化した時期があった。


 堅実ぶりで面白いのが、いわゆるなろう系と呼ばれるジャンルでありながら、主人公がチートを獲得していく過程に話数をかけていること。主人公が特異な立場に追いこまれるまでの苦難に3話もつかっている。このジャンルは序盤で主人公の活躍できるようになる設定を出オチ的に見せて、後は仲間を集めていくパターンがつづくだけになりがち。そこで発端の出オチ部分を省略してTVアニメ化する『くまクマ熊ベアー』のような試みもあったが、逆に出オチ部分をじっくり描くことで差別化できるとは思わなかった。
 原作は未読だが、短い更新をくりかえして読者を離さないWEB小説やウェブトゥーンの傾向として、短い話でこきざみに物語を進めて展開が遅々としがちな問題がある。その進行の遅さがメディアミックスの再構成で結果的に良い方向に向かったのかもしれない。
 デスゲームとしては、かなりの流血や人体損壊をぎりぎりまで見せる自主規制回避ぶりが良かった。おそらくプロデューサーなどが奮闘したのだろうが、切断面だけは見せないようにしたり鏡面の反射で描写したりといったコンテ段階のていねいな工夫が効果をあげているように見える。


 現在のアニメシーンではトップクラスではないものの、映像は高位安定。たとえば作画@wikiでは第11話が作画回*1に入っているが、第9話の徳田大貴コンテ回も悪くない。敵のキャラクターは「深淵」にまつわる最期の台詞もふくめて安易なパターンだが、初期回で脇キャラのように登場させていることや、依頼シーンでは姿を描写しないことで復讐に手を貸す展開がサプライズなのだと視聴者を誘導することで、そのパターンであることを予想させないシリーズ構成がうまい。
 そして1期目最終回で主人公が「ソロ」でいて「ソロ」ではなくなった状態からむかえた2期目だが、ちゃんと主人公が策略でぎりぎり上回るくらい能力だけなら主人公より強い敵を用意している立ちあげは良い。
 そこから第14話で彼我の戦力差を逆転する手法の倫理観ぶっちぎりぶりは凄かった。映画『きさらぎ駅』*2で見たギミックだが、あれよりも持続性があって後をひく。
 また制作会社生え抜きの菊池貴行*3コンテ演出回で比べると、総合的な映像作品としては先述の第11話より第18話のほうが見ごたえがあったと思う。乱戦で一瞬止め絵はあったが、3DCGも活用してTVサイズで集団戦をやりきった。主人公がもぐりこんだチームが立派で有能な人物がそろっていて、それでいて強さの格差や微妙な個性が描かれていて、相対的に主人公の強さを表現しているところも良い。3DCGを活用したカメラワークなどで戦闘が理解できなくなりそうなところ、人間チーム、主人公が召喚した者たち、ハイオークの軍勢、さらにハイオークの死者が主人公に召喚された状態まで、チームごとに色彩を変えて状況が理解できなくなるカットがない。
 あまり話題になっていなかったが19話は堀光明の一人一原。ただ近年の一人原画でよくある、他の作画監督や第二原画も多数入っているパターンで、コンテ演出も別人。あくまでラフ原やレイアウトのコントロールを一人でやりきったという感じだろうか。
 そして物語の発端となるダンジョンで一大決戦がおこなわれ、ひとまず物語が終わる。鳴り物入りで登場した外国のS級ハンターが踏み台で終わったのはどうかと思ったし、結局は主人公がチートで敵を圧倒して倒しただけではある。ただ、第14話でつかったブラックなギミックを第24話から第25話にかけてウェットなドラマに活用したのは良かった。強弱だけではない世界の広がりがある。

『バービー』

 世界中の女子たちに、母になることの他に選択肢があることを教えたマテル社の人形玩具、バービー。そのバービーたちと友人がくらすバービーランドは、さまざまな輝かしいバービーの人生に満ちていた。
 しかしその人生を謳歌するバービーのひとりに、ある時から異変が起きる。少しずつ苦痛を感じていくバービーは何が起きているのかを知るため、友人のケンとともに現実世界へ行くが……


 有名な人形玩具をモチーフにした2023年の米国映画。女優と脚本でキャリアをつんだグレタ・ガーウィグが監督し、主演のマーゴット・ロビーは製作にも入っている。

 女性の社会進出を描いたフェミニズムを導入として、それでもまだ観念が固定されているという限界や、資本主義に組みこまれたフェミニズムは男性上位の枠内でしか許されないことを見つめる。
『オッペンハイマー』とからめるネットミームの悪ふざけに公式の広報が乗ったことが特に日本で問題視されたが*1、作品自体は評価が高い。日本での興収はのびなやんだが*2、世界的には2023年を代表するヒット作となった。


 まず映画が公開されるずっと以前に、宣伝として公開された冒頭の『2001年宇宙の旅』パロディに大笑いした時点で、たとえ本編がどうであれ嫌いになれない作品になった。

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 本編に入っても、プラスチックのような美術セットと造形物のような背景が楽しい。メイキングを見ると大半は3DCGを合成したVFXのようだが、作り物らしい質感が人形アニメや特撮映画のようだ。
 さまざまな空間を超えて現実社会に行く展開は、それもまた構造として『2001年宇宙の旅』のよう。最後に創造主と出会ったバービーが生命として一段階上に行くところも似ているだろうか*3。
 中盤のケンの反乱は、野性味を出そうとするケン自身もあまり幸福そうに見えない痛々しさが良かった。その時のケンをあらわすような「有害な男らしさ」という言葉があるが、その有害さは男自身を傷つけ、むしばんでいく。
 バービーが象徴してきた女性像のせまさもつきつけられる。枠組みから外れた人形もあるといった反論はあるが、それもあっさり切りすてられる。例外的な立場を作ればアクセントやエクスキューズにはなるが、全体として枠組みがあることを否定できない。これは現実の差別も同じだ。

 
 しかし終盤の創造主とのやりとりは冒頭からのしかけがあるので普通の会話でも良いものの、せっかくミュージカル形式なのだから長台詞は歌にすれば真面目な会話つづきで物語が固くなることを避けられたかもしれない。マテル社の大騒動まではカートゥーンを実写化したような楽しさを維持していたのに、終盤はドラマとして必要とされている以上に軽さが失われたと感じた。
 また、結末の解説を記憶していたので誤解はしなかったし、産婦人科ではなく婦人科と吹替翻訳されていたが、事前情報をもっていなければ妊娠していると誤認した可能性が皆無とはいえないと思った。少しでも誤解をさけるなら、たとえば病院に行くのではなくドラッグストアに行ってナプキンを購入する描写のほうが良かったかもしれない。

*1:『オッペンハイマー』との悪趣味クロスオーバー「#Barbenheimer」へ『バービー』公式広報がのっかったとして、実際の作品を見ずに批判していいのだろうか? - 法華狼の日記

*2:競合玩具のリカちゃん人形が強いため、子供が愛着をもって鑑賞するきっかけが弱いかったり、高年齢の観客のノスタルジーを刺激しない問題はある気がする。

*3:いったんバービーランドに戻ったり、被造物者であるバービーが「進化」した結末からすると、『2010年』の要素も入っているかもしれない。

かつてColabo記者会見を非難しながら小杉沙織氏にカンパしたbbrinri氏が、他人事のようにコメントしていた

 id:kotobuki_84氏による私への「反論」に対して、はてなブックマークでbbrinri氏がコメントしていた。
[B! 増田] 法華狼さんへの反論①

bbrinri 「正しい党派にいるから正しい」でしかなく、自身が所属する党派の正当性をひたすら訴える宗教論争。まともな人は党派で考えないから、読解に苦労するくせに読むだけ無駄。ネトウヨの「親日/反日」と同じ。

 しかし2023年1月に下記エントリで引用したように、他の支援団体を批判する小杉氏の一方的な主張を信じたひとりがbbrinri氏であり、カンパの表明までしていた。
NPO代表の一方的な主張を信じられるのなら、本来それで終わっている話ではないか - 法華狼の日記

一方の要約で議論における正当性をうったえられても、全面的に信じることは本来ならば難しい。
しかしはてなブックマークを見ると、陰謀論的なコメントもふくめて頭から疑わないコメントが多くの人気を集めている*1。
[B! 福祉] カンパのお願いを申し上げます|小杉沙織【生きづらさを抱える若者へ贈るブログ】|note

id:bbrinri 一万円カンパした/共産党は統一教会で得た期待を完全に失ったよね。あの記者会見が失敗のお手本レベルでミスだった。監査請求の回答が出たときの反応や支える会の自演もだけど。

 なお先日のエントリで引用したように、Colaboの記者会見に対する反発に不当なものがあったという指摘や、小杉氏に会計問題があったという指摘までは、kotobuki_84氏も「反論」のなかで認めている。
「別に支持はしてないけどこの部分に関しては同意するなんて暇空に限らず多々あるだろ」とmarilyn-yasu氏はコメントしたが、部分ごとに違う判断ができることを「最悪の表明」と呼んだのはkotobuki_84氏であって私ではない - 法華狼の日記
 ちなみにbbrinri氏がカンパした半年後には、支援事業を批判する小杉氏の書籍が出版されないことになったようで、その批判が訴えられることを恐れて集めていたカンパの意味は根本から消え去った。
カンパの使途をめぐって暇な空白氏が小杉沙織氏を批判しているが、余剰金の流用を最初から明らかにしていたことをどう評価するべきか - 法華狼の日記