法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『まほらば Heartful Days』雑多な感想

 画家志望の青年が上京し、女子高生で多重人格の大家など、多彩な住人がいるアパートで生活をはじめる。刺激的なようでおだやかな日々がつづく……


 小島あきらの少年漫画を、木村真一郎監督がJ.C.STAFFで2005年にTVアニメ化。2006年ごろに途中のDVDだけ購入して視聴したが、今さらながら全話とおして視聴した。

 2005年の2クールTVアニメでこの絵作りの水準の高さはいい。絵柄が高位安定しているだけでなく、けっこうコミカルなアニメらしい動きも定期的に楽しめる。さすがに拡大するとジャギはあるが描線が当時としては珍しいほど細く、スタンダードサイズで収録されたDVDながらハイビジョン視聴に耐えることに感心した。同時期の放送でスタッフがかぶる『ちっちゃな雪使いシュガー』も同様の良さがあったことを思い出す*1。
 ただ「サプリメント」とスタッフが自認するように、落ちついた雰囲気の作品ゆえ、いかにもアニメらしい髪色のカラフルさが合っていない感はある。主人公の画家設定の反映でもある、DVDパッケージイラストでつかわれているスケッチ調のラフなモノクロイラストこそ作品の雰囲気にあっている。


 良くも悪くも、派手な設定があまり機能していないのは大家の少女の多重人格設定もそうだ*2。念のため、導入で作品のオリジナリティとしてフックになったり、前半で何度か主人公の状況を動かしたり、終盤で物語を閉じるために活用されているので、一見すると2クールのTVアニメできっちり機能しているようには見える。しかしサブキャラクターのドラマがはじまると大家は本来の人格のまま行動し、多重人格がドラマを動かしたり止めたりすることがない。
 くらべると大家に同性愛的な感情をもっている少女こそ、その多才さで他のキャラクタードラマにかかわれている。百合っぽいふるまいをつづけた果てに、最後の最後に秘められた思慕を吐露するかたちでシリアスなドラマをささえる。けっこう先駆的な描写だと思う。その他も、個々のキャラクターはおおむねパターンではあるが嫌味が少なくていい。
 先述のように全体的にゆるやかなつくりで、毎回それなり以上に楽しいが、意識的に刺激を抑えている。女顔の主人公だが明確に女装するのは1回だけで、それ以降は男が苦手な人格のためにウィッグをかぶって女性的にふるまう描写が短くあるだけ。パンチラらしいパンチラもなく、下着描写も主人公に勝負下着をはかせようとせまる場面くらい。水着回はセクシーで見ごたえがあるが、せいぜいひとりがビキニを着ているくらいで露出度は低め。おかげで刺激を増しつづける娯楽作品の潮流のなかで、あえて刺激を抑えているとわかるので、時代をこえて楽しむことができた。

*1:『ちっちゃな雪使いシュガー』雑多な感想 - 法華狼の日記

*2:原作から存在する設定だが、原作はとおして読んでいないためどのように機能しているかはわからない。あくまでTVアニメ単独での評価。

『相棒 season23』第11話 33人の亀山薫

 パーティーで総裁と呼ばれ、乾杯の音頭をとる特命係の亀山薫。一方、いつものように紅茶を飲んでいた杉下右京のところに伊丹がかけこみ、亀山薫が死んだとつげる。しかし川で発見された死体の亀山薫は、貿易会社の営業マンだった……


 川崎龍太脚本らしく、シチュエーションの面白さを重視した、軽快でトリッキーなミステリ回。予告で明らかにされていたが、同姓同名が33人集まった会で主人公が総裁をつとめる導入からいきなり面白い。
 外部で見つかった死体が上流から流れた経緯を追うことで、殺害現場がパーティー会場と特定されていく流れもていねいだし、そこで容疑者すべてが亀山薫になる流れも意識的に文学性より虚構性を重視する本格ミステリのよう。
 シチュエーションの面白さだけにたよりきらず、同じ名前の人間があつまった状況を利用した複数の事件が次々にあばかれて飽きさせない。実際は亀山薫とは違う人間がまぎれていたり*1、同姓同名ゆえに普通よりはなりすましやすいだろうことでちんけな犯罪につながったり。容貌や年齢はちがっていても名前しか知らなければ区別できないシチュエーションゆえの奇妙な行動もあったり。そして小さな事件が連鎖したことで殺人事件が発生したことが明らかにされる。
 むしろ真面目にミステリとしてがんばりすぎてシチュエーションから生まれる笑いが弱まったり、それでいて謎解き重視なので人情劇としては表層をなぞるような描写にとどまったり、短所もないわけではない。しかし特異なシチュエーションを活用した短編ミステリとして、このドラマの良さが出ていた楽しい回ではあった。

*1:保険証は偽造するのではなく、実際に同姓同名の人物から借りたほうが良かったと思うが。

藤子・F・不二雄作品には『伝説巨神イデオン』に影響を受けた描写が散見されるように思える

 先日、TVアニメ『伝説巨神イデオン』の総集編と完全新作の劇場版がサンライズチャンネルで無料配信された。
伝説巨神イデオン:「接触篇」「発動篇」YouTubeで公開 サンライズチャンネル「お正月スペシャル配信」 - MANTANWEB(まんたんウェブ)
 それをきっかけとしてか、よく指摘される『ドラえもん』の作中に出てくるパロディ作品にあわせて、『大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団』に登場する巨大ロボットが連想されていた。


『ドラえもん』の「イデオン」パロディと言えば、「建設巨神イエオン」ですが、F先生はこのパロディ気に入ったんだろうと思うのは、『鉄人兵団』のザンダクロスが「工作用」という設定で、これは建設巨神を引っ張ってる気がする。

 しかし、そもそもザンダクロス自体のさまざまな描写に『伝説巨神イデオン』との共通点がある。

 最初はバラバラの部品で見つかり、それを合体させれば人型になることは後で気づくこと。隠し武器が腹部にあって主人公側が意図せず発動すること。


ドラえもんのび太の鉄人兵団でしずかちゃんがただのフレーバーな飾りだと思ってザンタクロスのスイッチを押したら必殺武器が発動して目の前の建物を粉々に粉砕してしまい慄然とする場面を思い出していた。自分たちが目覚めさせ乗り込んだロボットの力に恐怖するってちょっとイデオンっぽいよな。

 さらに1983年から連載された『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争』*1でも、破壊した敵機から飛び出た発信機が自機に付着させられて追跡されるという敵組織の作戦が似ている。

 1990年代に『伝説巨神イデオン』の劇場版をはじめて視聴した時は気づかなかったが、2000年代になってTV版を初視聴した時に上記の複数の類似に気づいた。
 当時の視聴者や読者は共通点に気づいていたのだろうか。明らかなパロディの「建設巨神イエオン」はくりかえし言及されてきたが、作品描写そのものの類似を指摘する批評のたぐいは読んだおぼえがない。それぞれのファン層が当時は断絶していたため、あまり気づかれなかったり、気づいても記録に残らなかったのかもしれない。『伝説巨神イデオン』は一部のアニメファンにこそ熱狂的に支持されたが、打ち切りになるくらいマイナーな作品だった。
 本当にそのようなマイナー作品から作品内容にまで影響を受けたのか、だとすればなぜか、それは作者が亡くなった今はわかりようもない。SF愛好者として純粋に『伝説巨神イデオン』を気にいったのかもしれないし、基本的に小学館でメディア展開されていたため目に入る機会が多かったのかもしれない。

*1:ちなみに別の邦画にも参照元と思われる描写があることを見つけた。 『宇宙からのメッセージ』 - 法華狼の日記

『妄想科学シリーズ ワンダバスタイル』雑多な感想

 大富豪の少年発明家が、環境にやさしい方法で宇宙へ飛び出そうと試行錯誤をくりかえす。その実験を担当させられるのは、少女型人工衛星としてつくられたロボットと、売れないアイドルユニットだった……


 ワンダーファームが主導するメディアミックスの一環として2003年に放送されたSFコメディTVアニメ。ごとPのキャラクター原案や声優ユニットみっくすJUICEを作中で登場させるコンセプトが話題となった。

 当時にDVDは購入していたが第1巻だけ見ていたTVアニメを最終回まで鑑賞。『幽幻怪社』*1を思わせる六月十三作品の弱さが出ていて、企画は一見すると派手でわかりやすいエンタメなのに、本編は微妙に煮え切らず地味な印象が残る。
 今作の前半では、ハッタリ満載の宇宙計画から導入しては肩透かしするように大失敗して終わり、その失敗のマヌケさをギャグのオチにするばかり。ただ失敗するだけで予想外の発展をするわけでもないので、爽快感がないどころか尻すぼみな印象しか残らない。その失敗も厳密な考証や巧妙な伏線でSFとして納得させられるものではなく、基本的に登場人物の愚行や小さな失敗で台無しになるばかり。導入と展開の落差という意味で少し良かったのは中盤のワープ装置で時間移動したエピソードくらいか。
 すでに現実に人類が何度も着陸している月に行くためだけに何度も失敗しても、設定ほど少年が天才には見えない。当時の深夜アニメらしい密度といえばそれまでだが、1エピソード1アイデアくらいでキャラクター関係もほとんど固定されているので、見つづけても内容の変化にとぼしい。後半に天才少年の親が登場したり地球外生命体と遭遇したりして少し密度が濃くなるが、異変に対してキャラクターが無駄にさわいでケンカしたり行動を放棄したりするので、アクシデントがドラマを動かさない。少女型の人工衛星が大気圏再突入して服が燃えて半裸になるとか、皮膚状の太陽電池で発電するため半裸で宇宙にほうりだすとか、バカSFで萌えアニメをやろうとしているところは悪くないが、もっとプラスアルファがほしい。
 作画は映像ソフト用に修正されているとはいえ高度に安定しており、けっこう原画にも地味に良いアニメーターがあつまっていて映像面は悪くないのだが、突出したところがないので売りにするには弱い。

『わんだふるぷりきゅあ!』第48話 ガオウの友達

 ガオウが仲間をひきつれて街を急襲する。さまざまな場所で人々がガオガオーンに襲われ、プリキュアは救済に走りまわる。そしてガオウと対峙したニコは攻撃に耐えつづけるが、メエメエと猫を助けるために傷ついてしまう。そしてガオウの仮面が割れた……


 成田良美シリーズ構成の脚本に、板岡錦作画監督でクライマックスらしく絵も話も力が入っている。コンテの倉無凡は宮沢賢治作品から引用した偽名としか思えないが、この多芸ぶりはいったい誰だろうか。
 いつものように逃げまわりながらシールドを活用するアクションだが、作画枚数をぜいたくにつかって全体的によく動く。違うキラリンアニマルの力によって動きの種類が異なるプリキュアが同じフレームに入っているカットの対比表現も楽しい。街が植物に飲みこまれるさまも、手描き作画でのびる枝木にデジタル技術の拡大縮小技術もあわせて、TVアニメとしては充分に見せてくれた。


 物語については、アバンタイトルでいきなりガオウたちと対峙していることに面食らった。前回の結末で出撃するガオウがいろはたちに出会う段取りを省略したことでスペシャルな回らしい印象をつくっているが、好みとしては段取りひとつは入れてほしかったところ。
 ともかくニコとの戦いであばかれたガオウの正体は、やはり過去に日記を書いていた人間だった。それがニコの力でガオウとして暴れてきたことも明らかにされた。
『わんだふるぷりきゅあ!』第41話 ユキ・オンステージ! - 法華狼の日記

 日記を書いている人間がことさら謎めいた存在としてあつかわれていることや、狼の正体が人間だったことに過剰に落胆するザクロの姿を見ると、少し前から思っていたがガオウの正体は人間に絶望した人間ではないかという印象がいっそう濃くなる。絶滅動物の立場で人間を糾弾するというあつかいにくいテーマを、絶滅動物を代弁して糾弾する人間に置きかえることで、子供向けアニメでも消化しやすくするつもりなのかもしれない。

 ただ予想をはずされたのは、すでにザクロがガオウの正体に気づいていて、しかも受けいれていたこと。上で引用したエピソードとは印象が異なるものの、もともと狼と特別に仲がいい青年スバルを仲間としてあつかっていたワンクッションがあり、見ていて違和感はなかった。そして特別な人間であれば友となることをこばめないことが、プリキュアをこばめない結末に自然にむすびついた。
 そこでキュアニャミーが自分も同じように近づかれてこばめなかったと語ってザクロをあきらめさせたり、ザクロがスバルを愛していることに猫屋敷まゆが食いついたり、各キャラクターがこれまでの言動の延長で生き生きと動いているところも楽しかった。子供向けアニメとして正面から真面目なテーマを描こうとしているが、きちんと飲みこみやすいかたちになっている。