テレ朝が「ワールドプロレスリング」ゴールデン進出に踏み切る日は?…G1クライマックス全米生中継の裏側
常に客席は満員。日本最大の人気を誇るプロレス団体・新日本プロレスが、また新たな伝説を生んだ。
毎年夏のビッグイベントとして、選び抜かれたトップレスラー20人がシングル総当たりで最強の1人を決めるのが「G1クライマックス」。プロレス界最大の祭が29回目を迎えた今年、史上初めて米テキサス州ダラスのアメリカン・エアラインズ・センターで開幕戦を行った。
6日(日本時間7日)、目の肥えた現地ファン4846人を集めて展開された9試合は熱い戦いの連続。メインイベントでは、IWGPヘビー級王者の「レインメーカー」オカダ・カズチカ(31)が「100年に1人の逸材」棚橋弘至(42)を必殺のレインメーカーで下し、勝ち点2を挙げた。
前IWGPインターコンチネンタル王者・飯伏幸太(37)と2月に米トップ団体・WWEを退団したばかりのKENTA(38)の初対決はKENTAが壮絶な打撃戦の末、快勝。優勝候補の一角・SANADA(31)も難敵・ザック・セイバーJ.(31)を下し、初戦を飾った。
全米のプロレスファンを熱狂させた熱い戦いに新日の親会社・ブシロードの木谷高明代表(59)も即座にツイッターで反応。「G1開幕戦、素晴らしかった。すべてのプロレスファンに感謝する」とつぶやいた。29日に東証マザーズ上場を控えている同社だけにG1米開幕戦の成功は大きな追い風となったはずだ。
私も現地取材こそかなわなかったが、7日午前7時からのCSテレ朝チャンネル2での全試合生放送を堪能。アメリカの大舞台で東京・後楽園ホールや東京ドームで見せてきた熱過ぎる戦いをそのまま展開した28人のレスラーたちに心の底から感動させられた。
一方で疑問も湧いた。「このトップレベルの戦いを日本のファンは、いつ地上波で見られるのか?」―。
そう、このビッグマッチ直前の2日、私は東京・六本木のテレビ朝日で行われた亀山慶二社長(60)の定例会見を取材していた。5日後に迫ったG1米開幕戦について、総合ビジネス担当の武田徹副会長は「放送外収入のトピックスとして、まずプロレス関連のご報告をします」と切り出した。
「夏の一大イベントとして、G1クライマックスが始まります」と声のトーンを一段上げると、「開幕戦は今年は初めてアメリカのテキサス州ダラスで開催されます。この模様はアメリカのケーブルテレビと衛星テレビ・ネットワークのアクセスTVで全米生中継を致します。動画配信サービスの『新日本プロレスワールド』など、全世界に向けての生配信も致します」と続けた。
そう、この歴史的大会は全米のプロレスファンに向け、生中継された。一方、テレ朝の「ワールドプロレスリング」は毎週土曜深夜2時からの放送。日本のファンがオカダ―棚橋、飯伏―KENTAといった熱い戦いを地上波で視聴するのは、早くても1週間遅れの13日の放送回となる。
「ワールドプロレスリング」は毎回、録画放送で時間も30分。2日の会見で「今日7月2日は50年前、当社の『ワールドプロレスリング』がスタートした日であります。50年の節目を迎え、特製のTシャツを作成し、テレ朝ショップなど契約を開始しています。7月26日から発売します」と武田副会長は明かした。
G1開幕戦の全米中継とこの発言を速報した私の記事には
「全米進出や海外展開に力を入れるのもいいけど、国内のファンにもっと目を向けるべき」
「アメリカもいいけど、日本でゴールデンで(『ワールドプロレスリング』を)放送して」などのファンの切実な声が殺到した。
日本プロレス界にとって、エポックになりそうなG1米開幕戦の大成功。テレ朝は「新日本プロレスワールド」で4月6日、新日が米国の格闘技の殿堂・マジソンスクエアガーデンで開催した大会も世界に向け、生配信。武田副会長は当時も「同時視聴者数が5万人を数えました」と発表していた。そう、動画配信や米ケーブルテレビとの提携である程度、採算が取れてしまう。一方で「ワールドプロレスリング」の6月放送回の平均視聴率は8日1・1%、15日1・3%、22日1・6%、29日1・2%と低迷しているのが現実だ(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区)。
プロレス・ファンなら金曜夜8時のあの興奮を覚えているはずだ。テレ朝は前身のNET時代の1969年、プロレス中継を開始。2013年4月には放送40周年を祝った老舗中の老舗だ。70年代にはアントニオ猪木、80年代には初代タイガーマスク(佐山聡)というドル箱を擁し、視聴率20%超えが当たり前。実況アナウンサーから古舘伊知郎氏(64)というスターまで生み出した。
しかし、87年3月に生中継を終了。93年4月からは毎週土曜の午前2時からの30分間、それも録画放送という形に落ち着いてしまった。それでも「ゴールデン帯(午後7時から10時)での生中継が見たい」―。そんな一ファンとしての思いから、昨年3月のテレ朝社長の定例会見で、私は半年に1回出席の同局の“ドン”早河洋会長兼CEO(最高経営責任者、75)に思い切って聞いたことがある。
「『新日本プロレスワールド』の会員数激増が証明するように新日人気は本物です。土曜深夜の『ワールドプロレスリング』の放送時間繰り上げの考えはありませんか?」―
その時、どんな質問にも言葉を濁すことなく、まっすぐ答えてくれるテレ朝最大の実力者は「伸びている理由の一つはアメリカでの展開です。アメリカ進出が奏功しているとは思う」。そう冷静に分析した上で「新日の(東京ドームでの)正月興行は3万人以上集めるほど、コアなファンがいる。そういう人たちが確認視聴したりするし、今、(オカダら)それなりのスターも生まれている。そういう人への関心もあると思う。力道山、ルー・テーズの頃(の人気)までは行っていないが、コアなファンに支えられているだけに今後、新たな展開も考えられると思います」と、ほほ笑みながら答えてくれた。
その時の早河会長の「新たな展開」という言葉は今も心に残っている。当時も「おっ、これはさらなる人気上昇さえあれば、ゴールデン復活もあるかも」―。そんな思いがこみ上げたから、すぐに速報記事を書いて、報知WEBにアップした。すると、多くのプロレスファンからの熱いコメントが殺到した。
「放送時間の早急な繰り上げは臨めないだろうけど、まずは(現在の)30分間の放送枠を1時間にして欲しい。そうしたら、1試合堪能できる」
「つまらないバラエティー番組を放送するより、今の新日の方が視聴率が取れると思う」
「今の放送を録画して見ているけど、生放送でハラハラしながら見られたら最高」
「生中継の放送終了ぎりぎりにオカダの(必殺技)レインメーカーが決まったりしたら、胸が熱くなり過ぎる」
届いたのはファンのゴールデン復活待望論の数々。深夜2時とは言え、1%台で推移する平均視聴率の現状からは地上波で即ゴールデンというのは夢物語かも知れない。しかし、今の新日には“奇跡”を起こしかねない勢いがある。
最高峰のベルトを巻くオカダにTシャツ始めグッズがバカ売れの超人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」率いる「制御不能のカリスマ」内藤哲也(37)、3月に新日再入団を果たした飯伏、スポーツ誌「Number」の実施した「プロレス総選挙」で1位になるなど、まだまだ人気NO1の棚橋だっている。
紙面ではプロレスの記事を掲載していない「スポーツ報知」だが、自社WEBでは新日中心にビッグマッチを取り上げている。90年代、WAR時代の天龍源一郎の新日殴り込み、高田延彦のUインター、前田日明のリングスなど中心に取材していた私も“昔取った杵柄(きねづか)”と言ったらいいのか、今、新日の試合中心に取材している。
今の新日リングは本当に熱い。日本の団体で唯一、東京・後楽園ホールに両国国技館、そして東京ドームと常に満員札止めが続く人気ぶりだけに、テレビの地上波でこの熱狂をファンと分け合いたいのが本音だ。
テレ朝にお願いしたいのは、ただ一つ。いきなりゴールデン放送とは言わない。せめて「ワールドプロレスリング」を深夜0時放送開始の1時間枠にしてみて欲しい。今、リバイバル人気が高まっている昭和のプロレスに決して負けていない魅力的なレスラーがそろった今、そこに踏み切らないのは、本当にもったいないと思うから―。(記者コラム・中村 健吾)