出資者「国」でもチェック機能ゼロのカバナンスで拡大する10億円の赤字:60億円利益相反官製映画会社ALL NIPPON ENERTAIMENT WORKSの3年間

本来、公的資金の運用には通常の会社以上のガバナンスがあって然るべきである。

2014年10月27日、海外展開クールジャパン事業として設立された国策映画会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSが設立から3年を迎えた。

しかし「クールジャパン」の名の下、本来ある公的資金運用ルールに違反する形で官製ファンドの産業革新機構と経済産業省が密に連携し100%子会社の映画会社を設立し、国民財産の投資に認められた公益性、成長性、革新性が何一つ達成されないにも関わらず、身内が身内をチェックするという不適切な企業ガバナンスで平然と60億円もの公的資金を運用している。

当然、国民の財産を出資する官製株式会社の経営を監視するため、法律によって行政による事業評価が定めらている。しかし事業を所管する経済産業省はこの映画会社に天下りするなど、行政までも”身内”となるまるで官民一体の公的資金ロンダリングというべき無秩序な政府ガバナンス構造となっている。

ならば政治の監視となるはずだが、何の知識を持たない担当大臣、政務官が形式的に政府戦略会議に出席するだけの監視。さらに国会答弁では経済産業省大臣がその説明に全く整合性のない官僚原稿を棒読みするだけなど、完全に国としてのガバナンスが機能不全に陥っている。

政府が謳う「クールジャパン」とは国民財産の60億円が国民に報告せずとも自由に使えてしまう魔法の言葉である。

「グローバルモデルによるイノベーションにより ニッポンのエンタテインメントが生まれ変わる(anew)」*1

では、どうして政府と官製ファンドがこんなでたらめ標語を掲げるだけで、映画、TV、アニメビジネスにおける効率性向上、日本クリエイディブ産業への新規投資獲得、利益創出のビジョンすら破綻している天下り映画会社が「日本のイノベーション」と定義され、60億円もの公的資金が運用がまかり通ってしまったのか?

 

 
ANEW_hyouka*1:「事業内容」 『株式会社All Nippon Entertainment Works』
http://www.an-ew.com/ja/aboutus/business-innovation/

経営実態の検証

昨年このブログ*2でもこの映画会社の業務実態を検証したが、事業を所管する経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長(当時)の伊吹英明氏は、内閣府の知的財産本部の政府戦略会議において1年以上にも渡り「設立から3年で利益を出す」ANEWの事業や事業経過を説明、報告していた。*3

さらには平成25年の5月の時点で経済産業大臣官房審議官(当時)の中山亨氏も国会で「第1弾企画の『ガイキング』が撮影準備中である」と経営実態を説明していた。*4

こうした経済産業省の順調で利益見込みがあるという経営実態の説明を根拠に、2013年12月にはALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSには2億5000万円の追加出資まで行われている。*5

ANEW_2015_1ANEW_2015_2

*2:株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り
https://hiromasudanet.wordpress.com/2013/06/22/article_01_all_nippon_entertainment_works/
*3:「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html*4:「第183回国会経済産業委員会第14号 平成25年5月24日(金曜日) 」 『衆議院』
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009818320130524014.htm
*5:ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS 履歴事項全部証明書 PDFファイル)
https://hiromasudanet.wordpress.com/wp-content/uploads/2014/10/anew_web.pdf

しかし今がその審判となる3年である。

どこを見渡しても公的資金で運営されているこの映画会社が約束した映画をプロデュースした事実、それを世界規模で公開し国内映画産業を再生すべく”莫大な国富”を築いた事実はない。

それどころか映画製作でプリプロダクションと呼ばれる「撮影準備中」の過程の映画などこの会社に一度も存在した事実はない。

つまり、ありもしない経営状態を偽り投資を獲得した手法は、3年で出荷できる和牛を飼っていると配当を約束し投資を募り、実際には牛すら買っていない詐欺と同じ原理である。

このように3年で利益を出すという国民の財産の投資を決める重要な根拠となったであろう経営目標は今や完全に破綻している。また、ANEWと経済産業省は国民に対し現状の経営説明を一切行っていない。

さらに経済産業省の伊吹氏は「日本のコンテンツをここに預けないとそもそもここは仕事をできないところ」*6と 海外展開の業務はこの国が作った映画会社でしか達成できない事業であると説明している。

*6:「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年5月15日 『首相官邸』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html

しかし、今年「ゴジラ」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」が公開になった他、次の日本IPの企画がハリウッド、および日本の企業によって開発されることがアナウンスされている。

●「宇宙戦艦ヤマト」ハリウッドで実写映画化!『スター・トレック』並みの超大作に!(2014年9月8日 シネマトゥデイ)

http://www.cinematoday.jp/page/N0066168

●ソニック・ザ・ヘッジホッグ、ハリウッド主導で実写×アニメのハイブリッド映画化が決定(GQ JAPAN 2014年6月11日)

http://gqjapan.jp/entertainment/news/20140611/sonic-the-hedgehog-movie

●ハリウッド実写版『AKIRA』が製作再開へ!(2014年2月10日 シネマトゥデイ)

 http://www.cinematoday.jp/page/N0060428

●『攻殻機動隊』のハリウッド実写化が本格始動! (2014年1月25日 シネマトゥデイ)

●浦沢直樹「MONSTER」が米ドラマ化へ!(2013年4月25日 シネマトゥデイ)

セガ関係会社STORIES「獣王記」「ベア・ナックル」などのゲームをハリウッドで映像化(2014年12月26日 シネマトゥデイ)

http://www.cinematoday.jp/page/N0069063

豪州アニマルロジックと手塚プロが「鉄腕アトム」実写映画化へ(2015年2月4日ハリウッドレポーター

http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/astro-boy-heading-big-screen-770119

つまり「ここを通さないと日本は仕事ができない」とそのを説明したANEWが仕事ができていなく、ここを通さないでも仕事ができている実情をみれば、経済産業省が説明したANEWの日本IPの海外展開海外展開における独占的優位性に何ら整合性がないのは明白である。これは国民に虚偽の事業実態を説明し、国民の投資を欺いた行為と同じである。

チェック機能の実態

設立から3年の間、所管の経済産業省の天下りや産業革新機構役員の渡りの受け皿が存在し、反対に投資を認めたはず事業成果が未達成という杜撰な経営がどうして放置され続けているのか?

形式的には、ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSにも何重のチェック機能が備わったコーポレートガバナンス、政府チェック機能が存在していることになっている。

官製ファンドの産業革新機構においては取締役会だけでなく、産業革新委員会という独立性、中立性をもった機会が公的資金の投資を決定しているのだという。*5*6

もちろん会社法に定められた通常の株式会社であるはずのALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSにも取締役会、株主総会が存在している。*7

さらに、経済産業省が毎年産業革新機構の事業評価することが官製ファンド運用の法律によって定められている。*8

それだけでなく大臣や大臣政務官が出席する政府コンテンツ戦略委員会1年以上にも長期に開かれANEWを推進し、昨年末には知的財産本部が戦略評価、検証、企画委員会を開き総括している。*8 *9 *10 *11

加えて、国会質疑においてもANEW社に関する質問がなされ、経済産業大臣が答弁している。*12

しかし個々のチェックを検証すると、この国の政府がどのようにして公的資金60億円を杜撰なチェック機能で運用しているかが見えてくる。

*5:産業革新機構 経営体制

http://www.incj.co.jp/about/profile02.html

*6:『産業革新機構、中小機構の役割とは?』東洋経済 2014年9月30日

http://toyokeizai.net/articles/-/49125

*7:ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS 会社概要
http://www.an-ew.com/ja/aboutus/overview/
*8:「コンテンツ強化専門調査会(第2回) 議事録」 2011年12月05日 『首相官邸』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai2/gijiroku.html
*9:「コンテンツ強化専門調査会(第10回)議事録」 2012年05月15日 『首相官邸』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2012/dai10/gijiroku.html
*10:「コンテンツ強化専門調査会(第4回)議事録」 2013年04月17日 『首相官邸』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents_kyouka/2013/dai4/gijiroku.html
*11:株式会社海外需要開拓支援機構法案(183国会閣32)2013年05月17日『衆議院』http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=42760&media_type=
1:ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSのガバナンス

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSを設計したのは産業革新機構の執行役員であった高橋真一氏と、その部下である長田志織氏である。*12

*12:「月刊『文化通信ジャーナル』2013年4月号」(PDFデータ)

https://hiromasudanet.wordpress.com/wp-content/uploads/2013/06/anew_interview1.pdf

しかもANEWの株主は100%高橋、長田両氏の出身会社の産業革新機構である。すなわち取締役会から株主総会まで産業革新機構が自らが実質単独でANEWの経営し、それを自らが自らをチェックとする構造となっていた。

またANEW設立後、この両氏は代表取締役と社外取締役に就任している。上司が代表取締役で部下が社外取締役で経営チェックするいうモラルのないガバナンスが公的資金で運営される映画会社にまかり通っている。

これは、実際に会社を設立、運営している当事者であっても、公的資金投資を監視する目的で派遣された取締役という論理で、産業革新機構役員が外部監督を装い”渡り”歩く構図である。

なおこの両氏の名前がANEWのHPに記載されたことは一度もない。

平成25年の10月15日、長田志織氏は社外取締役を辞任している。同時に、同じく産業革新機構が出資をするエコエネルギー開発会社のゼファー株式会社の取締役副社長に就任している。*13

つまり日本のエンタテイメント再生すると謳うANEWとは、所詮との程度のビジョンと責任の人間によって設計、経営された会社である。

全く映画の専門知識のない産業革新機構が役員ポストの渡り歩く受け皿となり、全く経営監視の役割が果たされていない構造がANEWには設計されていた。

なお、ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSに初めて第三者のチェックがついたのは、会計監査人に新日本有限責任監査法人が就任した2014年の4月1日の事である。

*13:プレスリリース 2013年4月1日『ゼファー株式会社』

https://www.zephyreco.co.jp/jp/pressrelease/release_4835.jsp

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2:産業革新機構のガバナンス

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの親会社である産業革新機構のガバナンスであるが、これも杜撰なものである。

2014年の6月16日に財務省が産業革新機構の監査を実施し、同機構の投資先の監査未実施に対して改善要求を出した。*12*13

*12: 産業革新機構、投資先の監査未実施も 改善求める 2014年06月16日   『日本経済新聞』

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF1600G_W4A610C1EE8000/

*13:財政融資資金等の実地監査について 2014年6月16日 『財務省』PDFファイル

http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_filp/proceedings/material/zaitoa260616/2.pdf

私は同機構に監査を行った財務省担当者と話をした。すると本来公的資金を扱う官製ファンド自らが単独で事業を設立し、それを自らが経営するANEWのような投資は官製ファンド運用の規定に反し「やってはいけないはず」と説明した。

やってはいけない運用のはずが、政府が堂々と推進する日本のエンタテイメント再生のイノベーション、クールジャパン事業に変換され、官僚の天下りのための60億円公的資金運用の口実となっている。

3:経済産業省のガバナンス

産業競争力強化法第109条により、毎年、経済産業省は産業革新機構の業務の実績に評価を下すことが定められている。

つまり経済産業省はALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSを所管、監督する立場にある。

長田志織取締役がインタビューで語っている通り、経済産業省はANEW設立前から産業革新機構と密にこの会社の設計に関わり、時に人材を紹介するなどのアドバイザー的役割として参加した当事者でもある。

判明している事実として、ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSにはCEO、COO補佐という役職で経済産業省の職員が出向していた。これは所管事業に官僚が出向する、正に絵に描いたような天下りが存在していた。

すなわち毎年行われている経済産業省の業務評価とは自分で自分たちを評価し「いいね!」している構造である。

もちろん自らの天下り先創出につながる事業であれば、それが全くの整合性、採算性のない事業であっても、60億円の運用が明らかな官製ファンド運用のルール違反であっても、その投資が日本再生のための社会ニーズに対応している、民間からの投資獲得、配当による資金回収と成長性ある、新しいビジネスモデルを築く革新性があるなどの評価を下し、国会や政府会議で事実に反する整合性のない答弁を並べてでも政府として推進したことももうなずける。*15

尚、産業革新機構の監査を実施した財務省の監査担当職員に経済産業省職員出向の整合性を尋ねたところ、後日追加調査の連絡を受けた。

産業革新機構の説明によるとこの経済産業省は既に経済産業省に戻っていて、ANEWへの出向は「一時的なお手伝い」であり天下りではないという説明だという。

もちろん盗んだものが見つかったから「一時的に借用しただけ」と言い訳する論理が通用しないと同じように、明るみに出てから経済産業省の職員が戻ったということをもって天下りが存在していない根拠とならないのは明らかである。

果たして日本の映画産業の未来に新しいビジネスモデル築くイノベーションに全く専門知識のない経済産業省の「一時的なお手伝い」が必要だったのだろうか?

そしてその採算をこの映画会社は映画の利益で賄うことができるというのか?

以前、経済産業省にALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの財務諸表など経営に関する書類の情報公開を行った。しかし、答えは「書類は存在していない」との理由で不開示決定であった。

この件に関しても財務省に質問したところ「経済産業省は書類がないと言っているのですか?私は経済産業省の担当官でないので何ともいえないが、通常、官公庁が所管の事業を評価するとき財務諸表を見ないで評価するということは考えられない」との回答であった。

経済産業省情報公開決定

では毎年行われていたANEWへの事業評価は一体何を根拠に行っていたのだろうか?ましてや経済産業省が説明していた事業目標が何一つ達成できていない事業実態において、財務諸表などの報告を一切受けずこの映画会社の業務を評価していたことになる。となると法律で定められた業務の評価のチェック構造そのものすら全く疑わしいものである。

*14:産業革新機構の実績評価について『経済産業省』

http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/sankatsuhou/kakushinkikou/

*15:平成23年度産業革新機構の業務の実績評価について

http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/sankatsuhou/kakushinkikou/pdf/hyouka_fy23.pdf

4:政治のチェック機能 茂木敏充経済産業省大臣の国会答弁

日本には過去にも同様の「官」主導の事業が莫大な損失を出しているにも関わらず、クールジャパンという新しい分野を作ることで同じことを繰り返す。産業革新機構の経営モラルハザードともいえる公的資金運用、そこに加担する所管の経済産業省の天下る腐敗構造、こうしたことがどうして見過ごされたのか?

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは経済産業省のクールジャパン大会議*16 だけでなく、ついては長期に渡って「クールジャパン事業の切り札」として政府会議、国会で審議され、そこに大臣や大臣政務官などが出席していた。

*16:クール・ジャパン戦略の 今後の進め方 平成24年3月『経済産業省』PDFファイル

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seisan/cool_japan/010_04_00.pdf

残念ながら出席している政治家はチェック機能を果たしておらず、形式的に会議に出席、また官僚のいいなりの原稿を読むだけの役割となっている。

その典型的な例の一つが、通称クールジャパン機構設立時の海外受託支援機構法案における茂木敏充経済産業省大臣の答弁である。

この時の国会中継の映像は今も配信されている。

*17:2013年5月17日の衆議院で株式会社海外需要開拓支援機構法案(183国会閣32)

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=42760&media_type=

岸本議員:あわせて、他の官民ファンドとの関係についておたずねします。政府では、2009年から産業投資特別会計出資2660億円と民間からの出資も受け、官民ファンドとして産業革新機構を設立しております。同機構は、国内の企業及び個人が保有するコンテンツの海外展開を支援する「株式会社All Nippon Entertainment Works」へ、既に約60億円の出資を行っております。同社は、本法案による機構とも同様の目的を担っておりますが、産業革新機構との役割分担をどのようにお考えでしょうか、屋上屋を重ねているのではありませんか。経済産業大臣のご見解をおうかがいします。

茂木大臣:産業革新機構との役割分担についてありますが、委員ご指摘の産業革新機構についてはオープンイノベーションを通じた生産性向上等を目指す事業活動の支援を目的としており、成長性、革新性等の支援基準を満たす事業の支援を行うこととしております。他方クールジャパン推進機構ついては、革新性というより、日本の魅力の発信や生活文化の特色を生かした需要獲得の見込まれる事業で、収益性が一定程度見込まれるとともに、単なる海外展開に留まらず、他企業や他産業の波及効果が見込まれる事業に支出することを想定しており、両機構の果たす役割は異なるものと考えております。

茂木経産大臣の説明は日本語として質問の答えの意味をなしていない。

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは設立からこれまで一貫してクールジャパン事業とし審議、推進されているにも関わらず、数百億円の新規官製ファンド設立になると突如「オープンイノベーションを等した生産性向上」とわけのわからない理由で「役割が異なる」別ものだとの説明している。

この映像からも、一国の大臣が当該事業の内容をまったく把握しておらず、ただ所管する事業に天下りしている経済産業省官僚の都合でかかれた原稿を棒読みしているだけなのは、答弁の姿勢を見ても一目瞭然である。

またこれは国会の大臣答弁であり、この質問者の議員を含むこの答弁を聞いた何百人の政治家がこのまったく整合性のない説明を聞き、同じくチェックを怠り「クールジャパン万歳」と法案を可決し今に至っている。このような政治のありかたでは当然政治のチェックなど機能するはずがない。

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(2012年知的財産推進計画)
5:コンテンツ強化専門調査会と知的財産本部評価、検証、企画委員会の実態

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは2011年から知的財産本部のコンテンツ強化専門調査会*14 なる政府戦略会議において1年以上も審議、推進されていた。*15 *16 *17

この時の調査会の会長を務めたのが中村伊知哉氏で、ANEWについての答弁を行ったのが経済産業省課長の伊吹英明氏である。

2013年11月から2014年の5月にかけて同じく知的財産本部で評価、検証、企画委員会が開かれた。この政府会議の座長を務めたのも中村伊知哉氏であった。さらに経済産業省の答弁を担当したの一人が伊吹英明氏である。

すなわちANEWを推進していた政府会議の会長が、その事業を評価、検証するという構造がこの国の戦略会議であった。

私は実際にこの評価、検証、企画委員会を傍聴したが、コンテンツ戦略会議とはただ官僚が「私たちはこれにお金を使いました」と発表し、半分寝むそうに時間がすぎるを待つ大臣や政務官がそれを聞くだけの場のような印象を受けた。

実際にANEWについても次のような質問を耳にしたが、ANEWの審議に深く関わってきた中村伊知哉氏、伊吹英明氏とも、ANEWに対する評価、検証を一切行わなかった。

野口委員:こういうふうにお金を使ったらいいのではないかと思って実施してみたら、思ったほど効果が出ませんでしたというのも、私は初回であれば良いと思うのです。ただし、なぜ効果が出なかったのかという点について分析し、ここが問題だったので次回やるときはこう改善しますとか、 そういう議論が全く出てこないのは問題だと思います。こういうことをやりました、お金を使いました、頑張りましたというのも良いのですが、全体の報告内容をもう一歩突っ込んだものにして、(そんな効果の小さいものにお金を使ったことについて批判が出たりすることに対しての御懸念があるのも大変よくわかるので、難しい面もあるのかもしれないのですけれども)前回得られた課題がこれで、それを改善したらこんなによくなりました、というお話を本来は聞くべき場ではないのかなと思います。

例えば昨年も話題になったのですけれども、『ANEW』というプロジェクトは、たくさんお金を出して、先ほど山本大臣がおっしゃっていたみたいに、日本のコンテンツをハリウッドにリメイクして売り込むという、ど真ん中を狙うためのプロジェクトとしてお金をつけたりしたのだと思うのですけれども、それが結果的にどうだったのか。どういう教訓が得られたのか、どう次に活かしたのか、ということもプラスに評価して、どんどん改善していく、という 全体の文化にもっと注力してもいいのではないかなと思いました。

ちなみに中村氏は2013年12月7日に角川出版から発売された『コンテンツと国家戦略』という著書の中でANEWについて書いている。

まとめ

ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは、産業革新機構と経済産業省によって映画製作のビジネス定義において何ら根拠のない経営ビジョンのもとに設立された映画会社である。

公的ファンド運用ルールに反し、採算性、成長性においてもでたらめな経営をしても、身内が身内をチェックするという産業革新機構の実質単独の経営ガバナンスのはモラルハザードともいえる状態で3年間運営されてきた。

経済産業省も自らの天下りのためにルール違反に事業評価を下し、またそれを正当化させるために政府会議、国会で「3年で利益を出す」「すでに撮影準備の映画がある」と虚偽の説明をし、それを根拠に追加出資まで認められた。

挙げ句の果てには、なんら知識をもたない政治家が形式的に政府会議に出し、ただ眠そうに時間が過ぎるのを待っていたり、大臣が無知になんら整合性のない官僚原稿を国会で棒読みするだけの民主主義がこの国の構造として存在している。

日本の天下り映画会社が激しい国際競争の中映画を作り続け、ヒットし続け、海外市場で莫大な利益を稼ぎ、日本エンタテイメント産業を再生する、成果がない今の結果は3年の年月と既に投資された数億円の公的資金を損失する前から容易に判断できることである。

ちなみにこの映画会社で国民の財産を使うことに携わってきた人間はすでにその場所にはいない。

ANEWを設計した取締役は既に別の官製ファンド出資の会社の副社長に就任、天下っていた職員は経産省に戻り、答弁した経産省官僚もすでにそのポストにいない。

すなわち誰も日本映画産業の未来にいない人間である。そんな人間たちが「日本のイノベーション」と国民に嘘をつき、60億円もの公的資金を不適切に運用している。

産業革新機構を監査した財務省職員に最後このような質問をした。

「このままこの国はこのような会社に60億円を運用し続けるのか?」

財務省職員は個人的意見と前置きした上で「財務省は民間事業に直接アクションできる立場にない。しかしおそらくこのような会社には追加投資は認められないでしょう」

すなわち、この映画会社の採算性を市場の原理にあてはめれあば、これまで出資した公的資金の原資が枯渇し、淘汰されるのを今はただ指をくわえて見るしかできないのかもしれない。

ALL NIPPON ENTERTAINMETN WORKSの3年間で失った日本の損失は、単に数億円の借金を国民に負わせただけでなく、国際競争における日本のエンタテイメント産業の将来にも及ぶ。

今の我々世代の行いは、未来の日本のエンタテイメント産業で働く次世代の人たちへの責任でもある。そして今も続けられている無責任な国策映画会社への公的資金運用は日本の未来の機会にも危機的な損失を生む。

世界の映画製作において、国がこんな馬鹿げた映画会社を100%出資している国はない。これは日本の戦略ビジョンが他の国の先に行っているのではなく、エンタテイメント産業振興に必要な常識に全く向いていないためである。

公的資金運用において独立した第三者は存在しないガバナンスの崩壊、それに携わる政府が天下りと引き換えに自国の国民への責任を放棄したかのような行政監督のモラル崩壊、それに加え政府会議に形式的に出席するだけ、官僚が書いた作文を読み上げるだけの無能な政治が監視が加われば、日本の民主主義の構造すら崩壊している例とも言える。

本当に日本の産業に海外から投資を獲得し、雇用を生み、豊かな産業にするのであれば、その答えは間違いなく天下り映画会社の運営ではない。

平成27年1月16日追記

3年間全く成果もなく、また監督官庁の天下りを含む中立、独立性をもった業務検証もされていない株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSには平成26年11月28日に5億6000万円の追加出資がされている。これまでこの会社に費やされている公的資金は11億1000万円に上る。「どうやらこんなものがいいらしい」と無責任に産業革新機構と経済産業省が始めた会社はその誤りを正さないだけでなく、まるで公的資金の責任、日本のクリエイティブ産業振興の責任を放棄し、このまま上限の60億円を使い続ける気である。この間も日本の産業振興は妨げられ、この無秩序な官製会社のツケは全て国民負担に回されている。

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また経済産業省が平成25年度の産業革新機構の業務評価を発表している*18。ANEWに関する記述は次の通りである。

社外取締役を 2 名、社外監査役を 1 名派遣した。コラボレーションパートナーとして本邦コンテンツ関連企 業14社が参画した。CEO(最高経営責任者)として、グローバルのエンターテイメント業界との強固なネットワークを有 する人材を招聘し、2011 年に会社を設立。東京及びロサンゼ ルスにおける本格的活動を開始した。米国の著名プロデューサーをパートナーとして、東映アニメーション及びフィールズが所有するコンテンツの企画開発を決定した。

前年から経営の進捗は全くないに等しい。つまり当初の目的を達成せずとも3年間の経営、11億1000万円に及ぶ国の出資に対する事業評価とは天下りする監督官庁である経済産業省が問題ない評価しているのである。

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*18:平成 25 年度産業革新機構の業務の実績評価について(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/sankatsuhou/kakushinkikou/pdf/hyouka_fy25.pdf

またこの業務報告には『監督官庁及び出資者たる国と各ファンドとの関係』という記述まである。

①監督官庁及び出資者としての国と、投資方針の政策目的との合致、政策目的の達成状況、競争に与える影響の最小限化等について、必要に応じ国からの役職員の出向を可能とする措置を講じるなど、密接に意見交換を常時行うための態勢を構築しているか。

②投資決定時における適切な開示に加え、投資実行後においても、当該投資について適切な評価、情報開示を継続的に行い、国民に対しての説明責任を果たしているか。

つまりANEWにある経済産業省職員の出向は天下りではなく、政策目的、政策達成状況について密接に意見交換をするため構造であり、また情報開示を行い国民に対し説明責任を果たすためのものだという。

しかし上記に書いた通りいざ国民が情報公開請求を行うと、職員を出向させていた経済産業省はANEWについて報告を受ける立場にないため書類は一切存在しておらず、故に不開示決定となっている。ここで書かれている建前の監督官庁の役割とはあたかも官製ファンドが健全に機能しているかを装うための言葉であり、それには全く整合性がない。経済産業省は監督官庁としての責任は何一つ果たしていないばかりか、政府の関与によって官製ファンドを経由させれば全く整合性のないクールジャパン事業に流れた国民の財産の情報を国民は知ることはできない構造になっている。

出資者たる国との関係2

“出資者「国」でもチェック機能ゼロのカバナンスで拡大する10億円の赤字:60億円利益相反官製映画会社ALL NIPPON ENERTAIMENT WORKSの3年間” への 2 件のフィードバック

  1. しかし長田志織氏のインタビューを読むにコンサル能力も低そうですな。有能な(wコンサルはもっと人をちゃんと納得させるものです。少なくとも言葉の上では

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