(写真:Day Donaldson/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般)
私たちが行った最新の研究によると、女性医師の方が男性医師よりも患者の死亡率や再入院率が低いことが明らかになりました。この研究は2016年12月19日のJAMA Internal Medicine誌(オンライン版)に掲載されました。この研究はワシントンポスト紙、ウォールストリートジャーナル、CNN、Fox News、ハーバードビジネスレビューにも取り上げられました。
今回は私の研究を紹介させて頂きます。私たちのチームは、2011~2014年にアメリカの急性期病院に入院した65歳以上の高齢者、およそ130万入院分のデータを解析しました。患者のデータはメディケア(高齢者向けの公的保険)のレセプトデータを、医師の情報に関してはDoximityと呼ばれる医師向けのソーシャルネットワーキングサービスを提供している会社が複数の情報源から集めているデータ(アメリカの全医師の90%以上のデータを含む)を用いました。担当医が男性医師の場合と女性医師の場合で、内科的疾患で入院した患者の30日死亡率(入院日から30日以内に死亡する確率)と30日再入院率(退院後30日以内に再入院になる確率)を比較しました。
男性医師と女性医師の診療している患者の重症度を同レベルにし、男性医師と女性医師を比較できる状態にするため、下記のような因子で補正しました。
- 患者要因・・・年齢、性別、人種、主病名、27つの併存疾患(Elixhauser comorbidity index)、収入、メディケイド(貧困層向けの公的保険)加入の有無、入院した年
- 医師要因・・・年齢、出身大学、医学部の種類(Doctor of Medicine [MD] vs Doctor of Osteopathic Medicine [DO])
また、男性医師と女性医師で働いている病院が違う可能性を考慮するため、同じ病院で働いている男性医師と女性医師を比較しました。
解析の結果、女性医師の方が患者の30日死亡率および30日再入院率が統計学的に有意に低い(p<0.001)ことが明らかになりました(表1)。
表1.患者の30日死亡率と30日再入院率、男性医師 vs 女性医師
サンプルサイズ(入院患者数) |
リスク補正後の患者の予後
(95%信頼区間) |
P値 | ||
女性医師 |
男性医師 |
|||
30日死亡率 |
1,283,621 |
11.1%
(11.0%~11.2%) |
11.5%
(11.4%~11.6%) |
<0.001 |
30日再入院率 |
1,249,210 |
15.0%
(14.9%~15.2%) |
15.6%
(15.5%~15.6%) |
<0.001 |
(Tsugawa 2017を一部改変)
上記のような様々なデータで患者の重症度を補正したものの、まだ女性医師の方が軽症患者を診ていた可能性は否定できません。この問題を解決するため、感度分析として、入院患者の診療しかしない内科医であるホスピタリストのデータを用いた研究も行いました。ホスピタリストは1990年代に生まれた新しい診療科で、入院患者の診療しかしない内科医のことです。ホスピタリストは一般的にシフト勤務をしているため、患者が具合が悪くなり病院に運ばれたときに、たまたまシフト勤務中である医師がその患者の担当医となります。つまり、ホスピタリストは自分の患者を選ぶことができず、患者も自分の担当医(ホスピタリスト)を選ぶことができません。よってホスピタリストが担当医であった患者に限定することで、男性医師の患者と女性医師の患者の重症度は同じレベルであると考えることができます(このようにランダム化比較試験に近い状態を利用して研究を行うことを準実験[疑似実験]と呼びます)。
ホスピタリストが担当医であった患者に限定して解析した場合でも、女性医師の方が男性医師よりも30日死亡率(女性医師10.8% vs 男性医師11.2%)、30日再入院率(女性医師14.6% vs 男性医師15.1%)ともに統計学的に有意に低い(p<0.001)という結果が得られました。
なぜ女性医師の方が患者の予後が良いのかについて本研究では明らかにすることができなかったものの、過去の研究において、女性医師の方がガイドライン遵守率が高く、患者とより良好なコミュニケーションを取り、より専門家にコンサルテーションすることなどが報告されています。このように男性医師と女性医師の間での診療パターンの違いが、患者の予後の差につながった可能性があるのではないかと考えられます。
死亡率の0.4%の違い(一見すると小さく見えるので)が意味があるものなのかという質問をたくさん受けているのですが、死亡率0.4%とは過去10年間の死亡率の改善とほぼ同じレベルです。過去10年間に開発された薬や医療機器、ガイドラインなどを全部合わせてものと同じだけの効果ですので、「臨床的に意味がある差」であると考えられます。さらには0.4%の差は、もし男性医師が女性医師と同程度の医療の質であったとしたら全米で32,000人の死亡を減らせる計算になります。
本論文には興味深いグラフなども複数掲載されています。下記のリンクから無料で全文ダウンロードできますので、ぜひダウンロードして、ご一読下さい。
論文のリンク→http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2593255
関連記事:
毎日新聞:http://mainichi.jp/articles/20170208/ddm/005/070/025000c
毎日新聞(2017年12月25日)
面白いですが、Nが大きいので差がついたのでしょうか 臨床的な差ではないと思いますので安心しました
実際に医者が一人で見ているのでしょうか 上級医を含めてチームで見ている、などはないのでしょうか
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コメントありがとうございます。統計学的に有意な差であるだけでなく、臨床的にも有意な差であると私たちは考えています。ここ10年の患者さんの死亡率改善とほぼ同じレベルです。これが臨床的に有意でないとしたら、過去10年に開発されて導入された医療技術、薬、ガイドラインなどがほとんど患者さんの予後改善に寄与していないと主張しているのとほぼ同じことになってしまいます。
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お返事ありがとうございます
いつも勉強させていただいております
なるほど ここ10年の死亡率改善と同じレベルと聞いて納得しました
しかし、10年でそれぐらいしか改善していない、というのに驚きました
そんなものかもしれない、と思いつつあまり実感がわきませんが
出典と計算方法が気になります
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出典は我々の論文(http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2593255)の参考文献42、Krumholz et al.のJAMAの論文になります。そちらをご覧頂けると幸いです。特定の死亡率の高い疾患の推移を見ればこれよりも改善しているかもしれませんが、all-cause mortality(あらゆる原因による死亡率)を見るとこれくらいの改善率であると考えられています。
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