はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

私的ドボク大賞2024

この年末は香港とマカオに逃避行している。日本に比べるとずいぶん暖かく、気分も軽くなっている。どちらも個人的には未踏の地ながら、充実した良い休暇を過ごしている。想像通りに、円安のダメージはずいぶん大きいんだけどね。

今年の初夏までは出張や旅行のペースがあまり上がらなかった。しかし、暑さが厳しくなるにつれてあちこちに出かけることが増えてきた。気がつくと、とても充実したドボク鑑賞体験を重ねることができた一年になったと言える。コロナ禍の時期にはインプットとアウトプットのバランスが崩壊してすこぶる体調が悪くなっていたのだが、ようやくそれが過去のものになったような気分である。

そんなわけで、歳末恒例行事『私的ドボク大賞』を実施しよう。この賞は僕がその年に体験したドボク的ネタを振り返り、僕が感激したものを自薦して、僕が選考・表彰するという、誰の共感も求めない自作自演のアワードだ。今回は第16回大会。

選定の手順は、コロナ禍前の方法を採用することにした。つまり、写真データやブログなどを振り返り、気になったものをTwitterに投稿し、その中からノミネート作品をピックアップし、ようやく最終選考を行うというプロセス。こうすることで、より俯瞰的に自分自身の振り返りが強化されると考えているためだ。ちなみに、ツイートした候補作品は以下のリンクにまとめている。気になる方はご覧下さい。

というわけで、まずは6つに絞られたノミネート作品の紹介だ。

1 アプトの道
関東と日本海を結ぶ鉄道を活用している遊歩道。近代の日本をつくる上で、鉄道によって碓氷峠を越えることが、いかに重要かつ難しいことだったかを教えてくれる。地域に根ざした鉄道文化そのものが現れている。

2 瀬戸大橋(児島・坂出ルート)
瀬戸内の島々を経由しながら四国と本州を結びつけるという、とんでもないスケールの道路。吊橋や斜張橋などの長大橋梁群によって成り立ち、当時の最新技術をこれでもかと投入してつくられた、まさに国家の威信をかけた巨大プロジェクト。

3 安積疏水の施設群
不毛の大地だった郡山の安積原野に猪苗代湖からの水を引き、やがて巨大な都市圏を生み出すことにつながった巨大国家プロジェクト。明治期における社会構造の大転換に伴い、士族授産と殖産興業を実現すべく、幾多の苦難を乗り越えて実現した。

4 明石海峡大橋
言わずと知れた、超長大吊橋。2022年までの約26年間、世界一の中央支間長を誇っていた。何もかもが異様に大きなスケールなので、非現実感が尋常ではない。「明石海峡大橋ブリッジワールド」によって、塔頂におけるパノラマビュー体験や管理用通路体験ができる。

5 胆沢扇状地の利水施設
江戸時代につくられた茂井羅堰と寿庵堰という水路を中心に発展した胆沢扇状地には、水にまつわる稲作文化が根付いている。ひとたび渇水になると水争いが絶えなかったこの地域では、その問題を乗り越えて食糧増産を図るために、巨大な円筒分水工やダムの整備が行われてきた。

6 モンスターマンション
数日前に訪問したこれをノミネートしないわけにはいかない。香港のなんたるかを象徴するような、カオスなエネルギーを高密度に凝縮している高層集合住宅。鬼気迫る迫力がそこかしこから漏れ出している。中庭の様子は特に有名で、映えスポットになっている。

さて、この6作品の中から大賞を決定すべく、厳正に最終審査を行おう。

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じゃじゃーん、今年の私的ドボク大賞は『瀬戸大橋(児島・坂出ルート)』に決定だっ!!

今年は学生時代や前の職場時代にも見に来た思い入れのある長大橋梁群を、あらためて体験することができた。僕自身のものの見方もそれなりに成長したのか、さまざまな角度から解像感高く理解することができた。明石海峡大橋と最後まで争ったが、他の追随を許さないコンテンツの多さが決め手となった。

上の写真は南北備讃瀬戸大橋共用アンカレイジのスプレー室の様子。もちろんめったなことでは立ち入ることができない場所であり、僕に与えられた仕事に関連して特別に見学させていただいた。スプレー室というのは、長大な橋桁を吊っているメインケーブルを巨大コンクリート塊に結びつけるために、メインケーブルを構成するストランドをスプレーのように分散させてがっちり定着させるという、長大吊橋に生じる莫大な張力が凝縮された場所。これまでにも単体の吊橋のスプレー室をいくつか見たことがあったが、双方向にある吊橋からケーブルストランドがクロスする様子を拝んだのはははじめて。その神々しさにしびれまくった。

これまでの私的ドボク大賞は一般の方も訪問可能な施設を想定しており、スプレー室こそ入れないものの、ときどき用意されるツアーに参加すれば見学可能な箇所が飛躍的に増えることから大賞の対象となった。まあ、特別体験の自慢をしたいという気持ちが根底にはあるのだけどね。

そんなわけで、徐々に更新ペースが戻ってきた本ブログも、まだまだ続けていく気満々なので、来年もよろしくお願いします。どうぞよいお年を。