ジョー・サトリアーニ(Joe Satriani)

[記事公開日]2024/11/5 [最終更新日]2024/12/11
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ジョー・サトリアーニ
「Crystal Planet (1998)」
グラサン&スキンヘッドという現在のスタイルは1998年から。頭を丸めてから初めてリリースするアルバムタイトルが「クリスタル・プラネット」とは、ジョークやウィットを大切にするアメリカ人らしい、秀逸なネーミングと言えるだろう。

ジョー・サトリアーニ(Joe Satriani)はアメリカのロックギタリスト、作詞家、作曲家です。若かりし頃にはギターインストラクターとして稼働し、一番弟子として名高いスティーヴ・ヴァイ氏をはじめとする多くの達人プレイヤーを育てました。現在では世界で最も多忙なギタリストの一人であり、2~3年おきにソロアルバムを発表するかたわら毎年のようにG3ツアーを敢行、このほかスーパーバンド「Chickenfoot」を初めとする数々のプロジェクトに参加、1000万枚以上のアルバムを売り上げ、グラミー賞のノミネートは15回を数えます。今回はこのジョー・サトリアーニ氏に注目していきましょう。

小林健悟
ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

エレキギター博士
ガイド
エレキギター博士
コンテンツ制作チーム

webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。


Joe Satriani “Sahara” (Official Music Video)
どんなにウマいベーシストだろうと淡々とした8分音符を弾かせる、サトリアーニはそんなギタリストでもある。

ジョー・サトリアーニの半生

巨星墜つ時、少年は決意した。

ジョー・サトリアーニ氏は1956年、イタリア出身の両親のもと、ニューヨーク州ウェストベリーに生まれました。14歳の頃、フットボールの練習中にジミ・ヘンドリックス氏の訃報を訊いてギタリストになることを決意、その場でフットボールを辞めるとコーチに告げています。

高校を卒業したサトリアーニ氏はジャズギタリストのビリー・バウアー、ジャズピアニストのレニー・トリスターノ両氏に師事。この頃、同じ高校の後輩であるスティーヴ・ヴァイ少年にイチからギターを叩きこんでいます。

インストラクターとして多くのギタリストを育てる

1978年にカリフォルニア州バークレーに移住したサトリアーニ氏は、音楽活動を展開しながらインストラクターとしても活躍します。厳しい指導者だったようで、教え子には絶え間ない練習を要求したと伝えられます。この頃の弟子にはカーク・ハメット氏(メタリカ)、ラリー・ラロンド氏(プライマス)、アレックス・スコルニック氏(テスタメント)、リック・ハノルト氏(エクソダス)ら、多くのビッグネームが名を連ねます。

ソロプレイヤーとしてキャリアを積み上げる

バンドでの活動に限界を感じていたサトリアーニ氏は、ソロ活動に専念すべくバンドを脱退します。ギリギリの予算でどうにか仕上げた2nd「Surfing with the Alien(1987)」が空前のヒットを記録、ニッチなジャンルとみなされていたギターインストという分野において、ジェフ・ベック氏の名盤「Blow by Blow(1975)」以来のプラチナディスク(米国売り上げ100万枚)を達成し、運命が大きく動きます。

以来、2~3年おきにソロアルバムをリリースし続けるほか、達人ギタリストの共演「G3ツアー」(1996~)をはじめとするさまざまなプロジェクトに参加、今なお精力的な活動を続けています。

幅広い活動

「G3」ツアー(1996~)


G3: Joe Satriani, Eric Johnson, Steve Vai – Crossroads (Official Video)

「G3」はサトリアーニ氏の主催する、達人ギタリスト3人の競演です。ツアーは1996年以来ほぼ毎年行われており、参加したギタリストは一番弟子のスティーヴ・ヴァイ氏をはじめ、エリック・ジョンソン氏、王者イングヴェイ・マルムスティーン氏、ジョン・ペトルーシ(Dream Theater所属)氏、ロバート・フリップ(King Crimson所属)氏、ポール・ギルバート氏、スティーヴ・モーズ(Deep Purple所属)氏、スティーヴ・ルカサー(TOTO所属)氏、ウリ・ジョン・ロート氏、マイケル・シェンカー氏、フィル・コリン(Def Leppard所属)氏ら、単独でもワールドツアーできる猛者が名を連ねます。

ロック系のほかに、ブルース界の注目株ケニー・ウェイン・シェパード氏、フィンガー・ピッキングの巨人エイドリアン・レッグ氏らも参加しています。

Chickenfoot(2008~)


Chickenfoot “Divine Termination” from “BEST + LIVE” (Official Music Video HD)

「チキンフット(Chickenfoot)」は、VAN HALENに在籍したこともあるボーカリストのサミー・ヘイガー氏、VAN HALEN所属ベーシストのマイケル・アンソニー氏、Red Hot Chili Peppers所属ドラマーのチャド・スミス氏の3人にジョー・サトリアーニ氏を迎えた、ハードロック・スーパーバンドです。

チキンフットは2枚のスタジオアルバムをリリースするほかツアーも行ないましたが、メンバーそれぞれのスケジュール調整が難しすぎるようで、いまのところ個人的に集まってセッションする以上の活動は休止中です。

数多くのプロジェクトに参加


Alice Cooper – Hey Stoopid
流石に動画撮影までは叶わなかったが、サトリアーニのほかヴァイ、スラッシュが客演し、オジー・オズボーンがバックボーカルで参加する豪華っぷり。

いろいろなコラボレーションにも積極的で、若かりし頃にはバッキングボーカルとしてのみ録音に参加したこともあります。ミック・ジャガー(ローリング・ストーンズ)氏のソロツアーに参加(1988)、アリス・クーパー氏のアルバムに客演(1991)、ディープ・パープルの来日公演に参加(1993)など大きなプロジェクトのほかさまざまなプロジェクトに参加し、腕前を披露しています。

ジョー・サトリアーニのプレイスタイル

「心から尊敬しているから、ジミ(・ヘンドリクス)をただ真似るゆなことはしなかった」というだけに、その演奏スタイルはオリジナリティにあふれています。いろいろな動画から、サトリアーニ氏の演奏をチェックしていきましょう。

レガートとブルース系フレーズの対比


Joe Satriani – Made of Tears (from Satriani LIVE!)
切なさと緊張感を同時に表現する、小編成でのライブ演奏。小手先の技術よりも奥深い「表現」というところに、サトリアーニ氏の本質がある。

サトリアーニ氏の演奏では、ハンマリングやプリング、スライドといった指技で滑らかに音をつないでいく「レガート」と、ここぞというところで吠えるブルース系の歌い回しの対比がよく見られます。動画2:20あたりではチョーキングで歌うブルース系のフレーズからレガートでポジションをジワジワと移動、また4:40あたりからは、ブルース系フレーズから猛烈なレガート、さらには苛烈なマシンガンピッキングへ以降していますが、そこまで盛り上げた締めくくりはしっかりとチョーキングで啼くわけです。

スクリーミング・ハーモニクス


Joe Satriani – Flying In a Blue Dream (from Satriani LIVE!)
いったいどれだけ技を持っているのかと突っ込みたくなるライブ演奏。

ピッキングハーモニクスとアーミングでギターを絶叫させる「スクリーミング・ハーモニクス」を得意とするギタリストは多くいますが、左手でアームを操作するスタイルはサトリアーニ氏のオリジナルです。この動画では5:30以降何発も放っていますが、左手であらかじめアームダウンさせた状態でピッキングハーモニクスを鳴らすことで、通常のアームアップとは比べ物に有らない大胆な表現に到達しています。

タッピング


Joe Satriani – Always with Me, Always with You (from Satriani LIVE!)
イントロのアルペジオにおける、恐ろしいコードフォームも大きな特徴。

当然のようにタッピング系のテクニックも神がかっています。動画2:00あたりからの2弦で引っ張るタッピング、一見すると左右それぞれ1本ずつしか指を使わないカンタンなフレーズですが、「6/8拍子の16分音符を3連符に見立てて、4拍子のように聴かせる」という、鬼のような計算高い演奏です。

ピック・タッピング


Joe Satriani – Surfing with the Alien (from Satriani LIVE!)
ワウペダルでの歌い方も超一流。

ピックを使った高速トリル「ピック・タッピング」は、サトリアーニ氏を象徴する必殺技です。動画1:03では、この演目でお約束の派手なピック・タッピングからのレガートが炸裂します。ピック・タッピングにおいては、フレットのすぐ近くにピックを垂直に打ち込むのがコツです。

音階を駆使した表現


Joe Satriani – Satch Boogie (from Satriani LIVE!)
古き良きアメリカ音楽へのリスペクトを覚える、強力なスウィング。

音階に関する研究にも余念はなく、さまざまなスケールを駆使していろいろな世界観を表現します。動画1:50あたりからの5弦で引っ張るタッピングでは、次々に音階を切り替えていくことで圧迫感のあるマイナー調から空が晴れ上がるかのような開放的なメジャー調へと変化させています。

ジョー・サトリアーニの使用機材

Ibanez JS3CR
Ibanez「JS3CR」
「クローム・ボーイ」の異名をとる、ギンギラギンのシグネイチャーモデル。古くからのファンにとってサッチのギターといえば、HH配列&22フレット仕様のこのスタイル。

サトリアーニ氏は機材の研究にも余念がなく、ギターをはじめピックアップ、アンプ、エフェクターなどさまざまなシグネイチャーモデルをリリースしています。このうちピックアップについては、歴代のシグネイチャーモデルが全て現行で手に入れられます。

Ibanez「JS」Series

Ibanez JSシリーズ
Ibanez「JS2480」
2010年ころから24フレット化&カッタウェイ拡大、フロントピックアップ仕様変更を経た現在のスタイルに。

サトリアーニ氏のギターIbanez「JS」シリーズは、同社の旧モデル「RS」をアレンジしたスリムなバスウッドボディが目印で、新しいものを取り入れながら古いものも大切にする、サトリアーニ氏のアイデンティティが反映されたギターに仕上がっています。

ディマジオ社製シグネイチャー・ピックアップは時代ごとに更新を続けており、最新モデルでは繊細なアーム操作を可能にするカーボングラファイト製アームグリップ、またサスティナーが追加されるなど、時代ごとのアップデートを重ねています。その一方で、「チョーキングを感じやすい」ということで設定された250Rのローズ指板、ヒールカット非採用の4点留めプレートジョイント、長らくご愛用のEdgeトレモロといった、旧式の設計がしっかり残されています。

アンプ&エフェクター

サトリアーニ氏の使用機材
VOX「Big Bad Wah」&「Satchurator」(いずれも生産終了)

常にご自身のシグネイチャー・トーンを放つサトリアーニ氏ですが、使用アンプはマーシャルやフェンダー、メサ・ブギーなど多様で、Peaveyからシグネイチャー・アンプをリリースしたこともあります。レコーディングではヴィンテージアンプを使うことも多く、使っているエフェクターも多岐に及びます。ご自身仕様のオーバードライブやワウペダルをVOXからリリースしたこともあります。

IK Multimedia「TONEX Joe Satriani Amp Vault」


Hear the TONEX Joe Satriani Amp Vault Signature Collection in action

「TONEX Joe Satriani Amp Vault」は、サトリアーニ氏が所有する27台のアンプをご自身でセッティングし、Chickenfootのボーカリスト、サミー・ヘイガー氏のスタジオでキャプチャーした59 種類の音色が収録されています。無償のTONEX CS(Mac/PC)、TONEX アプリ(iPhone/iPad)を含む全TONEXエコシステムで利用でき、TONEX Pedal やTONEX ONEに転送して使用できます。

IK Multimedia TONEX Pedal – Supernice!エフェクター

ジョー・サトリアーニのディスコグラフィ

Surfing with the Alien(1987)

Surfing with the Alien

サトリアーニ氏のソロアルバム第2弾にして、氏をスターダムに押し上げた大出世作。低予算に苦しみながら制作したアルバムであり、ドラムはリズムマシンを多用し、ギターの音質についてはご本人も後になって「骨のようなサウンドだ」と評するほどです。しかしながら収録されている演奏にはその逆境を跳ね返すかのようなエネルギーがあり、プラチナディスク獲得も納得です。

The Extremist(1992)

The Extremist

Surfing with the Alienで大成功を収め、アルバムにしっかり予算をかけられるようになってからの2枚目。レコーディングにおいて予算がどれだけ重要かが分かる、全編全パートでみずみずしいサウンドが味わえます。今のところ最高のチャートインを果たしており、USAビルボード200で22位を記録しつつ28週間にわたって200位以内を維持するほか、6か国でトップ50にランクインしています。

G3: Live in Concert(1997)

G3: Live in Concert

スケジュール調整に2年を要したという、ビッグネーム3人の共演。それぞれの演目と3人勢ぞろいの演奏で構成されており、ギターの巨人たちの個性が調和しながらぶつかり合う贅沢なライブサウンドが味わえます。特に3人の共演はセッションにおいてギタリストがどうふるまうかの、世界最高レベルのお手本です。G3はこの3人から始まり、毎年のようにさまざまなトリオを展開しています。

Chickenfoot(2009)

Chickenfoot

誰もが妄想したであろう、達人サトリアーニ氏がロックバンドを組んだらどうなるのかが実現された、スーパースター4人によるハードロック・スーパーバンドのデビューアルバム。サトリアーニ氏はバッキングも超一流だ、ということがよーく分かります。CDのアートワークは特殊な感熱インキで印刷されており、29℃以上の熱にさらすとメンバーの写真が現れます。


以上、ジョー・サトリアーニ師匠についてチェックしていきました。卓越した演奏技術や高く積み上げられたキャリアだけでなく派手な得意技もあり、初めて聴く曲でもサトリアーニ氏だと分かる音を持っている、数少ないギタリストの一人です。ぜひいろいろな曲をチェックしてみてください。

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