【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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「フリーランスは専門性が必要な時代」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは、いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つフリーランスも少なくないはず。
そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチだけどオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。
今回お話をお伺いしたのは、空想地図作家の地理人さん。「好きなことを仕事にできるとは思ってなかった」と語る地理人さんが、地図・地理を軸にさまざまなお仕事へつなげていく過程をお聞きしました。
本名:今和泉 隆行(いまいずみ たかゆき)。1985年生まれ。7歳の頃から実在しない都市の地図=空想地図を描き続けている『空想地図作家』。地図デザイン、テレビドラマの地理監修・地図制作にも携わる他、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな都市の見方、伝え方作りを実践している。(Twitter:@chi_ri_jin)
1985年生まれのフリーライター。インフラオタクで、地図を見ながら「こことここの間に道路ができたらなぁ」などと妄想を膨らませるのが趣味のひとつ。(Twitter:@raira21)
目次
少年B:
地理人さんはどんなお仕事をされてるのですか?。
地理人:
はい、わたしは地図・地理系の自営業をしております。
少年B:
……すみません。仕事内容がまったくわからないのですが、具体的に教えていただけますか?
地理人:
ここ10年の仕事はこんな感じですね。複数の仕事を組み合わせて、なんとか自分一人くらいなら食べていけるかなといった感じです。
少年B:
めちゃめちゃ手広くお仕事をされている……! 「地理情報編集」ってのはどういうお仕事ですか?
地理人:
「エリアをどのように分けるか決める」というお仕事ですね。たとえばホテル予約サイトで行き先を選ぶときに、エリアを選択しますよね。
少年B:
「上野・浅草・両国」みたいなやつだ。そんなお仕事もあるんですね! あと気になるのは「アート関連」ですが……。
地理人:
空想地図をアートとして美術館に展示していただいてます。宮崎県の都城市立美術館や、昨年は東京都現代美術館にも出展しました。
少年B:
空想地図のアート出展……!? ますます地理人さんがどういうお仕事してるかわからなくなってきました……!
少年B:
空想地図についてお聞きしたいのですが、そもそもこれはどのようなものなのでしょうか??
地理人:
戦隊ごっこや砂遊びをするような感じで、7歳のころから実際には存在しない空想上の地図を作ってるんです。自分にとってはヒーローよりも地図が身近だったんでしょうね。
少年B:
地図を見慣れていた? 家にたくさん地図があったんですか?
地理人:
私は5歳のころに引っ越しているんですが、当時は1990年、まだインターネットがない時代です。そうすると、引っ越した瞬間に地図を買うんですね。
少年B:
あ! 新居の近くに何があるかわからないから!
地理人:
とりあえず紙の地図を買って、家族みんなでスーパーの場所とか確認するわけですよ。なので、非常に手の届きやすい場所に地図があったんです。
少年B:
わたしも地理人さんと同い年ですが、そういえば家には旅行用の道路地図が何冊かありましたね……!
地理人:
インターネット時代じゃないからこそですよね。郊外に住んでいたこともあって、目で見たさまざまなものを空想地図に落とし込んでいたんです。
少年B:
そうしてできあがったのが代表作の「中村市(なごむるし)」ですか?
地理人:
そういうわけではないですね、当時は思いつくままに好き勝手に描いていて、ぜんぜん1枚の地図としては完成しなかったんです。そこで、10代後半に「何かひとつ完成させよう」と思って、「中村市(なごむるし)」に絞りました。
少年B:
いまの「中村市(なごむるし)」のかたちが決まったのはいつ頃ですか?
地理人:
かたちは今でも決まっていないんです。定期的に描き直していて、毎回「これで終わり」と思っているんですが。描くたびに変わっているので、どうなるやら……。
少年B:
それは畑だったところにビルが建ったりとか……。
地理人:
そういう経年の変化ではなく、知識量の変化ですね。「この流れだと城下町のできかたは違うはずだよな……」とか気づくんです。だから、全体の構造は変わってないんですが、知識がつくたびにけっこうガラッと変わりますね。
少年B:
ちなみに、なぜ「中村市(なごむるし)」という名前なんですか?
地理人:
小5のときに転校してきた中村くんって友達がいて、彼も地図描きに誘ったら一緒に描くようになり……。で、ふと「名前もらっていい?」って聞いたら「読み方だけ変えて」と言われたので、「中村市(なごむるし)」になりました。
いまでは「中村市」のグッズが出たり、美術館に出展するまでになりましたが……。いや、だってまさかこんな話題になるとは思ってなかったので!
少年B:
(笑)
地理人:
個人でひっそり作ってるものだったので……。こうなるって知ってたら、少なくとも中村にはしなかったですね。
少年B:
空想地図とともに地理人さんは大きくなるわけですが、最初からそれで稼げていたのですか?
地理人:
いえ、最初はIT系の会社員をしていました。
少年B:
IT系!? 地図やデザインに関係ある仕事ではなかったんですか?
地理人:
そもそも「好きなことを仕事にできる」と思っていなかったんです。高校のころは街づくりをしたかったので建築系を目指していたんですが、理系コースにいったところ、見事に物理の単位を落としまして。留年の危機だったんです。びっくりですよね。
少年B:
それはびっくりですね!
地理人:
理系で留年するか、文転するかと言われて、あっさり文転を選びました。で、なるべく趣味に近いところで地理を学び、大学も地理系が学べる学部に入ったんです。
でも、地理学を学んだ人間ってそのあとどうなると思います……?
少年B:
地図会社とか、地理の先生とか……?
地理人:
はい。地図会社とか国土交通省とかもゼロではないんですが、地理を生かした進路の大半は先生や研究者。それも狭き門だから、卒業生はだいたい地理の知識を生かさない就職をします。
少年B:
地理学の受け皿が少ないんですね……!
地理人:
私は学校が嫌いなので、「知識を活かしても行き先学校じゃん!」と。それで、ここから抜けなければと思い、でも今さら理系には行けないので、街づくりのゼミがある他大学に3年次編入をしました。
少年B:
文転からの編入! そうするとそこから街づくりに……!
地理人:
はい。ゼミ以外にも街づくりの勉強をしようと思ってバイトを始めたんです。当時、立川駅の改札前で、「外来者調査」ってアンケートをしてる時期があって。これは街づくりのコンサルだなと気づき、あえてそれにひっかかって調査員に話しかけ、うまいことそのバイトに潜り込んだんです。
少年B:
注意力と行動力がすごすぎる。
地理人:
単発のアンケート調査のバイトから内勤になり、行政の街づくりプロジェクトを受注する都市設計コンサルタントで働くことになりました。
ただ、その会社がなかなかブラックで。よく社員が入れ替わっていました。そして、同時に会社だけじゃない業界の厳しさも悟ったんですね。
少年B:
業界の問題と言うと……?
地理人:
行政の街づくりは入札制なんですよね。入札のために分厚い資料を作ったとしても、結果よそが受かるということがよくあるわけです。
市町村合併で自治体は減るし、税収も少なくなるので、企業はなんとしても仕事を取らなくてはいけません。そうすると入札の競争率は上がるし、提案は増やさなきゃいけない。それが続くと、家に帰れなくなるだろうな……と。
少年B:
確かに……。
地理人:
そして、私が大学を卒業する頃には市民主導のあたらしい街づくりのかたちが出てきました。そうなると街づくりを仕事にする過程はさらに謎ですよね。市民は仕事として街づくりをするわけじゃないので。
それで、街づくりをするには、何らかの分野でプロになって、有識者として関わることが必要だなと思いまして。既存の都市計画の分野ではない、何らかのプロになって街づくりをすればいいやと考えたわけです。
少年B:
それで、まったく関係ないITの分野に就職を……!
地理人:
そうですね、「おもしろそうだな」と思ってIT系の会社に入ったんですが、入ってみたらおもしろくなかった(笑)
少年B:
(笑)
地理人:
結果、2年で会社を辞めて、そこから仕事を転々とするわけですね。地図作りでイラストレーターを使っていたので、知り合いからDTPデザインの仕事をもらったり、ネットショップのサービス絵を手伝ったり、個人で名刺作りやチラシ作りの仕事も受けてました。派遣社員をやったこともあります。
少年B:
そこからどう地図と結びついていくんですか?
地理人:
これが繋がらないんですよ。
少年B:
えっ!? じゃあいまの活動のきっかけは何なんですか?
地理人:
2012年に友達に連れられて、「マッピングナイト3」という地図地形イベントに遊びに行ったんです。そこで街作り研究者の石川初さんや、デイリーポータルZの大山顕さんに「なんじゃこいつは!?」って覚えられまして。そこで次の「マッピングナイト4」ではしゃべる側になっちゃいまして。
少年B:
そんなことあります???
地理人:
天変地異みたいですよね。そしてTwitterで空想地図が話題になったのをきっかけに、編集者の人から「空想地図の本を出しませんか?」というメールをもらったのが2013年。その年の10月に本が出て、「タモリ俱楽部」等のテレビにも出演させていただいて、このあたりから露出が増えていくわけです。
2013年までは自営業の収入は2割で、アルバイトや派遣社員の給与が8割だったんですが、どんどん割合が逆転していきました。
少年B:
当時、営業はどのようにやっていたんですか?
地理人:
自分から営業はしてないです。今もそうですが、問い合わせや友人知人からの紹介でほぼ100%ですね。
少年B:
すごい……! 地理人さんは文章やデザイン、社員研修などさまざまな仕事をしていますよね。たとえば研修とかのスキルってどうやって身につけているんですか?
地理人:
とくに研修専門のスキルがあるわけでも、必要ってわけでもないんです。地図地理が本業じゃない方に向けて「地理地図関係のこと」を喋ったりフィールドワークをしたりしているだけなので。私は地図地理にこれまで関係なかった方と地理を結びつける「プラグイン」みたいなもんです。
少年B:
プラグイン!
地理人:
なので、他にやってる人がいないところじゃないと仕事にならないんですよね。私の強みと思えるのは「自分の得意分野を、一般の人にわかりやすく説明すること」くらいなので。
少年B:
手広くお仕事をされている地理人さんですが、その楽しさを教えてください。
地理人:
地図をベースに、新しい仕事が見つけられたら楽しいですね。「東京の地理の歴史を書いてください」って依頼がきても、ありがたいけどそんなにおもしろくはない。私より書ける人がいるでしょうし。でも、「地理を活かした研修」とかがきたら、おっ!てなりますよね。「そんな仕事あるんかい!」って(笑)
少年B:
それは確かにおもしろポイントですよね。「これで食べていけるぞ!」と思ったきっかけのお仕事はありますか?
地理人:
「これ!」という仕事はないんですが、2014年からいろんな仕事が蓄積されて、一定数貯まったタイミングですかね。取材、トークイベント、執筆、DTPデザイン、複数の仕事が重なって一気に来たタイミングがあって、その時に「もしかして仕事として食べていけるか……?」と思いましたね。
少年B:
仕事が複数くると「自分に需要があるんだな」って思えますね。
地理人:
あと、「複数ないと私の収入は成り立たない」って感じですかね(笑)
少年B:
地理人さんが今後、挑戦したい仕事や夢があれば教えてください。
地理人:
夢ではないんですが……。2018年くらいに企業の大きな仕事が途切れて、劇的に収入が下がったんですよ。そのあと持ち直した理由は企業案件の復活じゃなくて、書籍とグッズと展示なんです。
少年B:
違う仕事が入ってきたんですね! そして書籍にグッズに展示……クリエイターなら諸手を挙げて喜びそうな話です。
地理人:
それまでは「企業向けのお仕事がんばるぞ!」と思ってたんですが、それが途切れて、なんとなく作家っぽい仕事になってきてるんですよ。企業に呼ばれたワークショップでも「クレイジーな地理人の話」をしてくれと言われることが増えてきて。
そうすると、「食っていくために仕事のクオリティを上げる」よりも「食っていくことを考えない、私の衝動」の方が価値になり始めているんですよね。
少年B:
食べていくために、「食べていくことを考えない」という……。
地理人:
倒錯してますよね。
もっと空想地図を作る、展示を増やす。実績を積み重ねるよりも、そうやって「地理人」個人のインパクトを出していくほうがいいのかな、と思っています。
少年B:
最後に、「自分だけのスキル」を見つけたいフリーランスに一言お願いします。
地理人:
すでに自分の武器がある人は、それを突き詰めていくのがいいとは思います。
一方で「何もないなあ」と思ってる人は、ひたすら「他者との比較」をすることが大切だと思っています。自分の能力って、ほんと何気ないところにあるんです。自分が何気なくやってることが、周りの人にとってはすごいことだったりする。
少年B:
なるほど……。
地理人:
たとえば器用貧乏だったら、「他の人が手を出さない領域まで広げる」とか。そうすると「あんなことまでできるの!?」になるじゃないですか。
少年B:
確かに……。想像を超える幅広さは武器になる気がします。
地理人:
その強み1本で行けるかはわからないけど、何個か発見して、組み合わせてみれば食べていけるかもしれない。特技と掛け合わせることもできるかもしれません。
【記事のまとめ】
- 突き詰めるのではなく、さまざまな仕事に手を出すのもひとつの手
- 趣味でやっていたことをアウトプットすることで仕事になった
- 専門性は「プラグイン」としても活用できる
- 自分が何気なくやっていることが人にとっては「すごいこと」かも
(執筆:少年B 編集:イズミカズキ 撮影:じきるう)
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