2023年の経済(実質GDP=国内総生産)成長率6.0%を記録したウズベキスタンの特徴の一つが、豊富な労働力だ。全人口3570万人(2024年、国連人口基金調べ)に対し、労働人口は1300万人程度とされる。ただ、失業率も8.4%(2023年、IMF=国際通貨基金調べ)を記録している。
仕事を探して国外に出かけるウズベキスタン人も多い。羽鳥氏は「出稼ぎ先の筆頭がロシアでした」と語る。かつてソ連を構成していたウズベキスタンはロシア語を理解する人が多い。就業資格に必要なライセンスも簡単に取得できる。このため、かつては20~30代を中心に約300万人がロシアで建設業や農業などの単純労働に従事していたとされる。
ロシアで出稼ぎをする場合、月給1000ドル(約15万円)程度の収入が見込めるという。ウズベキスタンの家族に月々、700~800ドルの仕送りも可能だという。タシケントに住む4人家族の場合、毎月500ドルあれば生活していけるようだ。
ところが、この状況が最近一変したという。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。ウズベキスタンに詳しい消息筋によると、ロシアは侵攻直後から、ウズベキスタンに対し、外交チャンネルなどを通じ「ロシアに対する制裁などに同調する場合、ロシアで働くウズベキスタン労働者を本国に送り返す」と伝えていた。さらに、ウクライナの頑強な抵抗から、ロシアは兵員不足に陥っている。ウズベキスタンの閣僚が過去、日本の経済視察団に語ったところによれば、ロシア議会で「ウズベキスタン労働者をウクライナの前線に送ったらどうか」という話まで出ているという。
このため、ロシアからウズベキスタンに戻る労働者が相次ぎ、現在は100万人くらいまで減ったという。単純計算で100万人から200万人の労働者が失業した計算になる。日本の経済ミッションと面会したウズベキスタンの閣僚も「我が国の若者の未来が心配だ」と嘆いたという。
困ったウズベキスタン政府が取り組んでいるのが、出稼ぎ先の多角化だ。今年9月にもドイツとウズベキスタン労働者の派遣を巡る協定を結んだ。なかでも、韓国が「ロシアに代わる出稼ぎ先」として注目を集めている。韓国法務省の統計によれば、2023年現在、韓国に在留するウズベキスタン人は約8万8000人で、中国、ベトナム、タイ、米国に次いで多い。
羽鳥氏によれば、「簡単な韓国語ができれば、面倒な手続きもなく、韓国で働ける。単純労働が多いが、ロシアで働くよりも多くの収入が期待できる」と語ったウズベキスタンの知人もいるという。「韓国に行けば良い仕事が見つかる」という噂が広がり、タシケントの韓国大使館にはビザを求めるウズベキスタン人が殺到した。音を上げた韓国大使館が、専門業者10社を選び、必要書類などをそろえてビザ申請を一括して行ってもらうシステムに変えたという。
一方、日本はこれまで外国人労働者の受け入れに慎重だった。外国人技能実習制度では、入国時の日本語能力に条件はないが、入管法で滞在は最長でも5年間だ。2019年に始まった「特定技能1号」の資格を在留中に取得しても、10年が滞在の上限になる。2027年から技能実習に代わって始まる「育成就労」制度では、滞在期限が原則3年になる。
高度人材にあたる「技術・人文知識・国際業務」や、特定技能1号の上位にあたる2号の在留資格は更新制で、帰国の必要はないが、資格取得には、大学卒業資格や専門知識を問う試験に合格することなどが求められる。前出のウズベキスタン人も「日本はルールをもっと簡単にした方が良いと思います」と訴えているという。法務省によれば、2023年12月時点での在日ウズベキスタン人は6591人に過ぎない。
ただ、独立行政法人「日本学生支援機構」の2023年度調査によれば、日本に留学しているウズベキスタン人は2315人を数える。羽鳥氏も参加し、11月5日にはタシケントで「日本留学フェア2024」が開かれた。日本から筑波大や東洋大など9大学が参加し、日本留学の資料を提供した。参加を申し込んだウズベキスタンの学生も昨年の700人から今年は900人に増えたという。
羽鳥氏によれば、行事に参加した国際協力機構(JICA)職員は「日本の場合、留学生でも週28時間働けるという魅力があります」と述べたという。羽鳥大使は「日本は、お金を稼ぐというよりも、自分の人生を変えるチャンスをくれる国だと考えるウズベキスタン人が増えているようです」と話す。羽鳥氏の知人には、日本で接客や営業の技術を身に着け、日本企業から20億円を出資してもらい、2022年3月に140部屋のホテルを開業したウズベキスタン人もいるという。
ウズベキスタンでは1945年から49年にかけ、抑留された日本軍兵士約2万5000人がビルやダム、発電所などの建設に従事した。1966年の大地震でも崩壊を免れたタシケント市のナボイ劇場もその一つだ。劇場の外壁には日本軍兵士の功績をたたえるプレートも埋め込まれている。
現在、800人以上の兵士がウズベキスタンで眠っている。他の抑留された地域に比べ、死亡率が低かったのはウズベキスタンの温暖な気候に加え、現地の人々が食料を差し入れたり、看病したりしてくれた事情があるという。羽鳥氏は「こんな歴史もあるから、ウズベキスタンの人々は日本が好きなのです。もっと日本に向かうウズベキスタンの人々が増えるよう願っています」と語った。