5.1さらうどん

@giginetの技術ブログ。ゲーム開発、iOS開発、その他いろいろ

実録・モバイルアプリ領域の技術顧問は何をやっているか

これまで僕は何社かのiOS領域での技術顧問を引き受けてきた。技術顧問というと、Xで怪しいアカウントが「50社歴任!週末副業で楽に稼げる!」などと喧伝していることがあったり、いかがわしいイメージを持たれている方もいるかもしれない。

過去4年以上に渡って技術顧問を務めてきて「一旦何をやっているんだ」と聞かれることは多かったが、ちゃんとまとめていなかったので、この機会に記録しておく。

これまでの技術顧問

これまで僕は3社で技術顧問をしてきた。ちなみに本記事では各社名の敬称は省略している。

  • taskey株式会社(2020/3~2023/7)

  • 株式会社マネーフォワード(2021/3~)

  • 株式会社ユビレジ(2022/8~)

それぞれ、中の人の推薦をいただき声をかけていただいた。ありがたい限り。

各社での動き方と役割

これまでご縁があった組織は、規模もフェーズも三社三様だ。最初に顧問を引き受けたtaskeyは社内の開発者も少人数の組織だったが、マネーフォワードは誰もが知るようなメガベンチャーだ。そうなると、顧問先により、当然求められている動きは変わってくる。

基本仕様として、質問応答、個別の技術相談や、SwiftやiOSの最新情報共有は変わらず行っているが、あとは求められていることや、組織のキャラクター性によって細かくカスタムしている。ちなみに、時間も限られているため、直接のプロダクト開発はお断りしている。概ね、以下のような役割を心がけて動いていた。

taskey株式会社

taskeyはWebtoonやチャット小説アプリpeepを展開するスタートアップだ。僕が顧問を引き受けた2020年当時、事業の拡大に対してエンジニアリソースが足りず、外部の開発力に頼る必要があった。その一方で、コード品質の低下やレビューが間に合わないといった成長痛ともいえる状況になっていた。また、フルタイムで働くメンバーとしてもシニアなエンジニアが少なく、適切な仕様の議論や、壁打ち相手がいないという問題もあった。

そこで、技術顧問として入り、レビュープロセスや自動化フローを整備したりメンバーのメンタリングなどの支援も行った。

一番最初に顧問を務めた組織で、手探りなことも多かったが、結果としてわりと長く続けることができた。CTOやメンバーとも信頼関係を築けていたと思う。典型的なスタートアップの課題を体感でき、大きな組織でしか働いたことがない僕には刺激的だった。

  • コーディングガイドラインの整備や委託先へのレビュー品質の向上
  • 自動化やCI、開発環境整備の支援
  • プロパーのメンバーのメンタリング、ペアプロ

株式会社マネーフォワード

対して、マネーフォワードは既に成熟した組織であり、プロダクトの開発や組織作りに直接僕が関わることはない。そのため、社内メンバーの支援を強く意識して動いており、いわゆるDeveloper Success的な活動も重視した。

転機となったのは、メンバー向けに行ったオープンソースSwiftのワークショップだ。

当時はコロナ禍で、社内メンバーが顔を合わせる機会も少なかったが、ワークショップのおかげでチームビルディングにも貢献できた。この機会が好評だったので、後にシリーズ化され、今でも半年に1度ほどのペースでオフラインワークショップを開催している。特にWWDCのrecapは、ただこちらから話すだけではなく、メンバーにまとめてきてもらう形式にした。

また、毎年入ってくる新卒やジュニアなメンバーにコミュニティとの関わりを持ってもらったり、登壇支援もしている。彼らをタレントとして輩出していくことで、本人のキャリアアップや、組織のプレゼンス向上に一役買えたと思う。

  • 個別の質問応答や設計レビュー、相談
  • 社内勉強会・ワークショップの開催による社内コミュニティ強化の支援
  • メンバーの登壇やキャリアアップの支援

株式会社ユビレジ

ユビレジはiPadのtoB利用をかなり初期から行っている老舗のレジアプリだ。一方で、老舗ゆえに、古いコードベースや技術的負債を抱えてしまっている側面もある。僕は前職でObjective-Cの破壊や、リアーキテクチャに取り組んでおり、その分野に一家言あるため、顧問を務めることになった。

かなり古くからあるアプリゆえ、最新の開発トレンドから少し取り残されてしまっていた部分があった。また、最近は古代言語ObjCに精通しているエンジニアも減っており、採用の問題もあった。

そのため、ユビレジでは古いコードベースの書き換えの促進や、リアーキテクチャの支援を中心に行っている。また、マネーフォワードほどの規模ではないが、ある程度の開発組織があるため、最新情報の知見共有会などもこちらから持ちかけている。

  • 採用やスクリーニングの監修
  • 技術的負債の解消の支援
  • リアーキテクチャや仕様策定のための壁打ち、技術相談

技術顧問としてパフォーマンスを出すために

こうしてまとめてみると、我ながら単なる業務委託に収まらず、わりと顧問っぽいことができていると思っている。ここからは、顧問を続けてく上で心がけていることを紹介する。

話しかけやすい環境を作る

まず、技術顧問のアンチパターンとしてありがちなのが「何かあったら聞いてください」と質問を受け付けるが、誰からもアクションがないケースだろう。結果的に「お願いすることがありませんでした」と言われ、うまく貢献できないことを心配している。

これは当然、いきなり入ってきた顧問に対してどんどん質問ができる人はそう多くない。少なからず遠慮もされていると思う。そのため、まずはメンバーとの関係構築をとても重視している。マネージャーやテックリード級の人と握るだけではなく、各メンバーにも話しかけてもらいやすいようなウェットなコミュニケーションを心がけている。1度話しておくと質問をしてもらいやすいなと感じるので、単純接触効果みたいなものは間違いなくあると思う。

これに近い話は、過去にマネーフォワードのインタビューでも述べている。

こちらからネタを提供し続ける

上記に加え、先方からアクションがない場合も、定期的にこちらから活動の提案をしている。iOS分野では、毎年WWDCや新しいOSが必ず出るため「recapをさせてくれ」というのはとてもやりやすい。自身のキャッチアップにもなり、かつ他の顧問先や外部登壇でも使い回しやすいので都合が良いという事情もある。

また「何か課題ありませんかね?」という雑なオープンクエスチョンも重要ではあるのだが、都度、トレンドに沿った質問もしている。「新しいXcode出たけど対応大丈夫ですか?」とか。

これはある種の「仕事してますアピール」でもあるのだが、何も仕事がないと不安になってしまうので、こちらからグイグイ行ってしまう。

顧問を専業にしない。本業との相乗効果を意識する

顧問は副業としてやることを心がけていて、顧問を専業にするつもりはない。一番の理由はメインの業務に責務を持っていないと、顧問として提供できるネタがなくなってしまうため。本業ではかなり特殊なことをやっているので、そこから得られる知見はとても大きい。

これは、穿った見方をすると、本業の切り売りと思われてしまうかもしれないが、決してそうではない。逆に顧問業から得ることも本業に生かし、シナジーを意識すべきだ。

本業の組織がデカすぎ、かつ業務が専門的すぎるので、どうしても普段やっていないことは一切触れずに手薄になりがちだ。顧問先で必要になり調査することで、それが本業に生きることも多い。

モバイル分野の顧問業をスケールしていくために

技術顧問としての経験は、キャリアの幅を広げる上でとても役に立っているし、何よりいろいろな人に感謝してもらえて嬉しい。できれば少しでもいろんな組織に役立ちたい。

そこで、依頼を増やすためにモバイル分野の技術顧問が必要な顧客のペルソナについて考えている。以下のようなパターンが多いだろう。

  • iOS/Androidのモバイルアプリをリリース・維持していく必要があるが、社内リソースがない
  • 人を増やそうにも、モバイル固有の技術やトレンドに知見がある人がいないので採用やスクリーニング、育成ができない

こうして考えていくと、基本的にiOSのみを主戦場としている僕ができることは結構限られている。

世の中の多くの組織が頭を悩ませる問題は、モバイルエンジニアの採用の難しさと、iOS/Androidへの二重投資だろう。1枠で兼ねられた方が都合が良いので、ネイティブアプリではなくFlutterを採用するのも頷ける。そのため、片方のプラットフォームに偏重したスキルセットは、顧問をやる上で広がりを持ちづらいように感じる。ほとんどの事業はクロスプラットフォームが前提になるので、それぞれに技術顧問を置くのは大変贅沢なことだ。

これまでの僕の顧問先は、分野毎に潤沢に技術顧問を置けるメガベンチャーのマネーフォワードや、主力製品をiOS/iPadOSのみに展開しているユビレジなど、実はかなり珍しい。今後もこういったご縁に恵まれるのが理想だが、スケールしづらいので、今後の展開のために何ができるかは少し考えている。

「二刀流」になるため、限られたリソースをAndroidネイティブやFlutter、Kotlin Multiplatformにステ振りしていくこともできるが、それが正解とも言えない。果たして浅く広い習熟で、実態を伴った顧問業ができるのだろうかという懸念はある。当たり前だが、なんでもは熟達できない。今ぐらい一芸に秀でている方が独自性もあるし。

ぶっちゃけ、顧問業を増やすことは主目的ではないので、そこまで環境適合していく必然性があるかは疑問がある。さしあたり、今後の戦略として、専門家にはなれずとも、AndroidやFlutterのコミュニティにも足を運ぶことはしてもいいのではないかと思っている。

技術顧問のお仕事募集中です!

この記事で「なんか技術顧問って怪しそう」というイメージが払拭できていたら幸い。そしてこの記事を書いたのは振り返りの意味もあるが、当然、僕の技術顧問業の宣伝という側面もある。

技術顧問はどんなにちゃんとやっていても、いずれは終わりが来てしまう。幸い、各社共にある程度長期に良好な関係が築けているが、それであっても顧問先の組織や事業の変化などにより、未来永劫つづけられるものではない。それゆえ、継続性を持たせるために常に新たなポジションを探し続ける必要がある。

顧問の需要自体はあるけれど「仕事を募集中かわからない」「実際ちゃんと働いているのか不明」という点でマッチングに繋がっていなかったこともあるかもしれない。大丈夫です、募集してます。

この記事を読んで「怪しくなさそうだから任せても良いな〜」という方がいたら、ぜひ連絡をいただけると嬉しい。

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