先日、「タピオカ・ブーム」は終わるのか? 第3次ブームの第4形態にきた今、その大前提にある違和感という記事を書きました。その違和感のひとつは、2013年に台湾ティーのカフェとして上陸した「春水堂(チュンスイタン)」が、ここ2~3年のタピオカというパワートレンドのなかでタピオカ“専門店”だと認知されているのではないかということです。
一方で、ブームはピークを過ぎたともいわれるいま、この流れはどうなるのか。そして、一連の流れについて“中の人”はどう思っているのか。そもそも、どうやって黒い粒のタピオカをティーに入れるという発明が生まれたのか――そこで、くだんの「春水堂」に取材を申し込みました。すると、社長が応えてくれることに。数々のナゾを解き明かしたいと思います。
春水堂は、本来はお茶の店
まずは改めて「春水堂」の成り立ちから。誕生は1983年。台湾の台中四維街に1号店がオープンし、いまでは台湾で52店舗を展開しています。そして1987年にタピオカミルクティーを開発。国民的な人気を博すとともに海外へも広まり、“タピオカミルクティー発祥の店”として知られることに。では、どんなきっかけでタピオカミルクティーが生まれたのでしょうか。
「大前提として『春水堂』のコンセプトは、お茶の文化継承と味への追求。お茶の魅力とおいしさを、体験とともに伝えていきたいと思っています。そのために、様々なお茶のメニューや楽しみ方を考案してきました。そのひとつが、ミルクティーにタピオカを入れるアレンジです」(木川さん)
「春水堂」の発明はタピオカミルクティーだけにあらず。たとえばアイスティー。かつての台湾では、お茶は温かい飲み物というのが常識で、お茶業界では冷やして飲むことはご法度だったそう。とはいえ暑い台湾ではアイスティーが画期的としてヒット。その後、アイスティーをより楽しむ方法として、甘くしたりレモンを入れたりという飲み方も定着しました。その流れで生まれたのが、スイーツ感覚でお茶を楽しむタピオカだったというわけです。
「粒の色や大きさにも理由があります。ミルクティーに映えるとしてブラックに、そしてお茶と一緒に飲んだときのおいしい弾力を追求したらあのサイズになりました。『春水堂』の粒は比較的に小さいほうですが、それはこれ以上大きくするとお茶のおいしさがタピオカのインパクトに負けてしまうからなんです。また当店にはコーヒーやジュースなど、お茶ではないドリンクはありません。ベースがお茶なので味わいにブレがないことも、タピオカの粒が大きくない理由です」(木川さん)
木川さんが、お茶のおいしさと同様に大切にしていることが体験です。そのために欠かせないのが心地よい空間。「春水堂」がイートインスペースを併設している理由はここにあり、これも新進気鋭のスタンド型タピオカ専門店との違いです。
「おいしいドリンクを届けるだけなら、テイクアウト専門でもいいんです。経営的に考えれば、本当はそのほうが家賃も人件費もコストカットできるでしょう。ただ私たちは心地よい空間もお届けすることで、喫茶店のように生活に根付く存在になりたいんです。また、台湾のローカルフードを提供することで、豊かな食文化そのものをプロモートしたいとも考えています」(木川さん)
一方で、「春水堂」は2005年に現地でスタンド型のティーブランド「TP TEA(ティーピーティー)」をプロデュースしており、2018年からは日本でも展開しています。この出店理由は?
「大きなところでは、より間口を広げるために『TP TEA』を出店しています。たとえば、仕事の途中などで気軽に利用したい方、また男性のお客様などもターゲットですね。デザインがシンプルなのは、そういった理由もあります。イートインスペースやフードを用意している店舗もありますが、コンセプトは『春水堂』とは若干違いますね。ハイクオリティなお茶を提供する点は共通ですが、『春水堂』を利用するタイミングが少ない方にもお茶の文化を届けるのが『TP TEA』、という考えです」(木川さん)