ムックリは“弾く”のか“吹く”のか?

ムックリを演奏することを“弾く”と表現する人もいれば、“吹く”と表現する人もいる。たとえば、故安東ウメ子さんは“弾く”と言っていたようだし、札幌口琴会議のハレ・ダイスケさんは“吹く”と表現することが多い。ちなみに、私も“吹く”と言うことが多いようだ。これは、どちらが正しいということではなくて、その人の基本的な演奏スタイルの違いによって生じる表現方法の違いなのではないかと思う。
現在、白老のアイヌ民族博物館阿寒湖のアイヌコタンで聴かれるムックリの音は、主に“吹く”スタイルで演奏されている音だ。弁をはじくと同時に空気を取り込み、リズムのウラで軽く口を閉じることを基本に、常にムックリの弁部分を通る空気が移動しているようにして倍音を強調し、大きな音を出す。いわゆる名人と言われる人達は、さらに鼻腔や仮声帯などを利用してトーンや高音の倍音を自在にコントロールし、あの素晴らしい基本音を出しているようだ。感覚的には、弁部分から空気を出し入れさせながら口腔内で空気をころがすようなイメージとでも言えようか。その時に呼吸をしながら口元で空気の流れをコントロールする感覚が、本人としてみれば吹いているような感覚なのである。

一方、故安東ウメ子さんのムックリの演奏方法は、個性的でオリジナリティの高いものだと言える。私の聴いてわかる範囲では、声帯の閉鎖を多用しているようだ。つまり、気管を閉じて息を止めることの多い奏法であるため、常に空気が弁の部分を通過している音とは違ったものになる。そのためかどうかは知らないが、ウメ子さんのムックリの生音は、すごく小さな音だったと聞いている(その小さい音がまた良かったらしい……)。

結局、人に聴かせることを主として演奏している人は、大きく倍音を強調した音を出すために“吹く”スタイルになる傾向が強いのではないかと思う。それに対し、夜寝る時にお母さんが聴かせてくれたムックリの音を受け継いだと言われるウメ子さんは“吹く”スタイルではなかったため、“弾く”と表現していたのではないだろうか。いずれにしても、どちらも素晴らしいムックリの音であることに違いはない。


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Scorpionfly
Posted byScorpionfly

Comments 6

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m@  

なかなかうまく弾く事ができませんでしたけど・・・。
自分は弾くだと思ってましたけど、音の出し方とか考えると
確かに吹くの方があってる気がしますね。

2004/10/09 (Sat) 13:24

ビョン様  

「こんなこと書いても、きっと誰も読まないよな〜」などと考えつつ書いたエントリーだったのですが、さっそく読んでいただけたのですね! ありがとうございますー。
先日、「ムックリを吹く」と言ったら、「え? ムックリって吹くものなの?」と言われたので書いてみました。

2004/10/09 (Sat) 13:58

ゲスト  

今度出るハレさんのCDでは、ウメ子さんとハレさんのムックリデュオが入っているらしいです!!!!!それにウメ子さんとハレさんのベトナム口琴デュオも。コリャやばいです。ウメ子さんは、鉄口琴の音も大好きだったらしいですが自分ではできないから、ハレさんにベトナムの真鍮口琴を習ったそうです。ウメ子さんの金属口琴の音はたぶん誰もきいたことがないのでは??
(新しいCDについて以前ハレさんのメルマガに書かれていたのですが、なかなか発売されないので問い合わせてみました。遅れてるけど製作中みたい)

2004/10/19 (Tue) 12:46

ゲスト  

こんなイベントがっ! いいなぁ北海道。

2004/10/19 (Tue) 14:01

ゲスト  

http://www.hakkenzan.jp/what%27s%20new-ivent.html

2004/10/19 (Tue) 14:02

ビョン様  

CDはやく聴きたいですよね〜!!
ちなみに、ボクも歯にあてる口琴は苦手です……。
八剣山のイベントは、ボクは多分行けないような雰囲気。残念!!

2004/10/19 (Tue) 16:15

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