インターネットが普及する前の1995年からコロナ禍の2020年までを一人の男性の目線から描いた映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』。1995年当時の交際相手との日常を中心に綴った原作をアレンジし、21歳だった主人公が46歳になるまでを描いた本作は11月5日から劇場公開と同時にNetflixで全世界配信となる。
洋菓子工場で働く佐藤(森山未來)とアジアの輸入衣料・雑貨店で働くかおり(伊藤沙莉)は雑誌の文通募集欄で知り合う。何度かの手紙のやり取りを経て、初めて原宿で会ったふたりはすぐに恋人同士になり、渋谷のホテルの一室で時を過ごすように。「普通」が嫌いなかおりから映画や音楽、文学の知識を吸収した佐藤はかおりを生まれて初めて「自分よりも好きな人」と思うようになる。そして時は流れて2020年。誰もいないコロナ禍の新宿三丁目を歩く佐藤はかつてのアルバイト仲間の七瀬(篠原篤)に出会い、ふと自然消滅してしまったかおりとの25年前の記憶が蘇る――。
今回はかおりを演じた伊藤沙莉さんに、インターネットが普及する前の恋愛のあり方やかおりが佐藤に対して抱いていた気持ち、そして今の自分を作った過去の経験などについて話を聞いた。
昔のほうが相手を思う時間が長い
――1995年当時の「雑誌の文通欄で知り合い、恋人同士になる」というインターネットが普及していない時代の恋愛についてどのように感じましたか。
伊藤:とても丁寧だなと感じました。今の時代は相手を知ろうと努力しなくても、最初からSNSである程度のことがわかってしまいます。人との距離感をはかる面白みのなさはありますよね。インターネットの存在しない時代の役柄を演じてみて、なおさらそう思いました。
そして、昔のほうが相手のことを考える時間が長かったような気がします。手紙を書いている時間はもちろん、例えば電話を掛けるにしても、携帯電話がなければ「相手のご家族が出ちゃったらどうしよう?」というところから考え始めるわけですよね。ところが、今はそんな躊躇はなしにダイレクトに本人につながれてしまう。それから、今はSNSで自分を表現する、発信するということに慣れ過ぎてしまっているというか……。
私たちの世代だと中学生の頃に「前略プロフィール」という自己紹介サイトがありました。ページに飛んでいくと、自分の好きな食べ物などが並んでいるんですね。それで気に入ったら足あとをつけて下さい、というシステムです。それで足あとを見た子から足あとを付けた子に連絡をして、友達になったりカップルになる子たちもいました。
高校生の頃はmixiやGREEが流行っていました。私たちはそんな風にSNSを介した出会いが浸透した世代です。なので、文通がきっかけで知り合い恋人同士になるという設定は新鮮でしたね。