6月にセルビアの女子バレーボールの選手、そして7月にサッカーのフランス代表の選手と、世界で活躍するスポーツ選手らによるアジア人差別ととれる言動が立て続けに報じられた。いずれのケースでも、本人たちは「差別のつもりはなかった」と釈明している。なぜ彼らに差別の認識がないのか、疑問に思った人は少なくないだろう。

フランス在住で、現地で長年翻訳業に携わっている田中晴子さんに、アジア人に対する「無自覚な差別」が生まれる背景について綴ってもらった。
 

「アジア人は差別の対象ではない」という思い込み

先日、ホテルの部屋にゲームの言語設定にきてくれている日本人スタッフたちを、サッカーフランス代表でFCバルセロナに所属する選手ウスマン・デンべレが撮影しながらコメントする数年前の動画が流出し、差別的だとしてSNSで炎上したことがフランスメディアでも取り上げられました。

このビデオはフランス人でも一字一句全部は聞き取れない「ノリ」で発された口語表現が多いため、日本のツイッターではその意味をめぐって喧々囂々でしたが、ノリと意味の両方を踏まえて訳すと、以下のような感じかと思います。

「Toutes ces sales gueules pour jouer à PES..T'as pas honte ?/たかがゲームでしけたツラのやつらこんなに呼びつけて恥ずかしいな (笑)」(「しけたツラ」は日本人スタッフのこと、「恥ずかしい」というのは自分たちのことを言っています)

「Putain! La langue!/うわなんちゅう言語!」(ホテルスタッフが話している日本語のこと)

「Alors vous êtes en avance ou pas en avance dans votre pays, là ?/あんたらそれで先進国なの?」(ホテルスタッフがゲームの言語設定変更にてこずっていることについて)

※発言の「ノリ」を表現するために当初、関西弁で訳しましたが、「悪ノリ」を関西弁に訳すのは関西弁のネガティブなステレオタイプ化ではないか、といった主旨の指摘を受け、その通りだと思いましたので標準語に訳し直しました。ステレオタイプ化による無意識の差別を批判する記事でそのような表現を行うのは自家撞着でした。ご指摘ありがとうございました。

映像に映っている、同じくフランス代表でFCバルセロナ所属の選手アントワーヌ・グリーズマンは、このビデオの中ではにやにやしているだけですが、この人はこの人で、バルセロナチームの公式ビデオで「チンチャンチョン!」(※)とふざけている映像がネットに出回っており、それも今回一緒に炎上。

※欧米人にとって、中国語の響きが「チンチャンチョン」と言っているように聞こえる、という理由から生まれた「からかい」の表現。中国人だけでなく東アジア人全般に対して用いられる。

グリーズマンはフランスでは有名なスター選手です。ご当人は公式アカウントのツイートで、「僕は差別には常に反対してきた。今回自分とは違う人物像がでっちあげられて(=レイシスト扱いされて)心外ですぷんぷん断固抗議する!」と表明しています。

おそらく本人は本気で「チンチャンチョンいうのは差別ではない」と思っているのではないかと私は思うのです。そして一番の問題はそこにあります