2019.02.28
# 世界経済 # インフレ

ベネズエラを事実上のデフォルトに追い込んだ「ポピュリズム」の恐怖

日本はそこから何を学ぶ?
一説には今年のインフレ率が1000万パーセントと言われる、南米の国ベネズエラ。日本人には想像もつかないハイパーインフレで苦しむ同国は、一体どこでつまずいたのか?
米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、「中南米の優等生」の転落の軌跡を追う。

「1000万パーセント?」のハイパーインフレ

長年のデフレ体質が抜けない日本では、安倍政権が7年目に入っても、なかなか目標の2%のインフレは見えてこない。昨年12月の消費者物価指数の伸びは0.7%。四半期決算でも、ユニーを子会社化したパン・パシフィック・ホールディングズ(旧ドンキホーテ)や自社株買いを発表した牛丼「すき家」のゼンショーなどの「デフレ銘柄」は堅調だ。

そんな日本では「ハイパー・インフレ(国際会計基準で3年間で累積100%以上の物価上昇を指す)」と言われても今一つピントこないのだが、南米ベネズエラでは今年1月のインフレ率が268万パーセントに上ったと議会が発表した。また国際通貨基金(IMF)は、ベネズエラの今年のインフレ率を「1000万パーセント」と推定している。そう、見間違いではない。1年で物価が「10万倍」になると見ているのだ。

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1年で1000万%というのは、期間中の単純平均で1時間で1140%物価が上がる計算になる。喫茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっているというのが冗談ではなくなる。いや、外貨を持っていなければ、お茶などするゆとりはないだろう。

この凄まじいIMFのインフレ推定値については、そもそもインフレ予測など不可能であり数字に意味はないとする専門家の意見や、現政権を倒したい米国寄りの政治的な意図があるとして批判する向きもある。当のベネズエラ政府は、2015年から経済指標の開示をやめてしまっている。

 

しかし、IMFを批判して、バスケット方式(一定の消費財やサービスを組み合わせ、その全体的な価格変動を追う方法)を使う代わりに為替とPPP(購買力平価=同じ財は世界のどこでも同じ価格になり、為替レートは二国間のインフレ率の比で決まるという考え方)を使ってインフレ率を逆算した学者の推定でも、昨年12月のインフレは年率8万%だったとされている。注文するコーヒーが毎朝9%づつ値上がりするわけだから、これでも十分に異常なインフレだ。

ブルーンバーグは、首都カラカスのコーヒーショップの1杯のコーヒーの値段を追った「カフェ・コン・レチェ」指数というのをほんとに作ってしまった。それは今、37万%のインフレ率を示している。

国連の高等難民弁務官事務所(UNHCR)の発表では、周辺国にすでに人口の1割に相当する300万人を超すベネズエラ人が事実上の難民として流出している。国のシステムが破綻して機能不全に陥っていることは、何よりもそれが雄弁に物語っているだろう。

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